そのまま使える契約書シリーズ【インフルエンサー起用契約書】解説

はじめに

インフルエンサーの起用は、商品・サービスの販売促進(SNS広告/UGC活用/PRイベント)から、自社アカウント運用の共同制作(撮影・編集・台本)まで、幅広い場面で発生します。
現場では「投稿一本いくら」「月○本+ストーリーズ」など成果物×納期×媒体が高速で決まりがちですが、契約締結時には、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)や、いわゆるステマ規制に抵触しないかなど、契約に落としておかないと詰む領域が明確にあります。

法務担当者は、これらの規制(景表法 5条 3号、内閣府告示19号など)の概要を踏まえ、契約が意図した取引内容に沿っているか、適法かつ有効であるか、そして自社にとって不利な内容になっていないか を全体として確認・検証することが重要です。

本記事では、まず“ここだけは外せない”気にすべきポイント3つを押さえ、その後にそのままコピペで使える契約書を掲出します。

※本記載例は一般情報の提供を目的としたもので、法的助言ではありません。個別案件には適合しない場合があります。ご利用は自己責任で、最終版は必ず専門家の確認を受けてください。

契約前に“ここだけ”気にするポイント3つ

1) 表示義務・表現規制(#PR/景表法・薬機・NG表現)

#広告/#PR等の明示は“見えやすく・分かりやすく・紛らわしくない”位置で。
効能効果の断定/優良・有利誤認/比較の絶対化/体験談の一般化はNG。
事前にNGワード・必須注記を共有し、投稿前の承認フローを契約で固定。

2) ライツ設計(権利の帰属 or 包括許諾・人格権不行使・肖像/アカウント名の利用)

広告転用(SNS広告・LP・店頭・PR資料)を前提に、二次利用の範囲/媒体/期間を明確に。
著作者人格権不行使、氏名・肖像・アカウント名の利用許諾を一体でおさえる。
生成AI/素材の権利非侵害保証を相手(制作側)にもたせる。

3) 運用の詰みどころ(承認・修正・削除/証跡保存・監査/再委託・競合)

承認期限(例:投稿3–5営業日前)、無償修正、緊急時の差替え/削除を明文化。
URL・スクショ・タグ・指標の保存と監査権限で、後日の説明責任に備える。
再委託禁止、競合回避(カテゴリ+別紙競合リスト)は期間と範囲を限定して明確化。

契約書作成例

ここからが契約書の作成例となります。
※【●】部分は案件に合わせて入力してください。

    業務委託契約書(インフルエンサー起用)

    甲株式会社(以下「甲」という。)と乙【インフルエンサー名/会社名】(以下「乙」という。)とは、甲が乙に対し、本契約に基づき別紙に定める業務(以下「本業務」という。)を委託することに関し、次のとおり契約(以下「本契約」という。)を締結する。

    第1章 総則

    第1条(目的)
    本契約は、甲が乙に対し、本業務を委託し、乙がこれを受託することを内容とする取引に適用される事項を定めることを目的とする。

    第2条(契約の性質)
    甲及び乙は、本業務の遂行が、特定の成果物の完成を目的としない準委任契約の性質を有することを認識する。

    第3条(本業務の委託・遂行)
    1 甲は、乙に対し、本業務を委託し、乙はこれを受託する。
    2 乙は、関係諸法令、監督官庁のガイドライン及び業界の自主基準を遵守のうえ、善良な管理者の注意をもって本業務を遂行しなければならない。

    第2章 業務の履行・検収・遵法

    第4条(業務委託料及び支払)
    1 本業務の業務委託料は、月額金【●●円】(税別)とする。
    2 本業務の遂行のために必要となる費用は、別途甲乙間で合意した場合を除き、乙の負担とする。
    3 甲は、乙に対し、前各項の金員に消費税及び地方消費税を加えた金額を、第6条に定める完了確認が完了した日の属する月の末日限り、乙が指定する銀行口座に振り込む方法によって支払う。ただし、振込手数料は甲の負担とする。
    4 乙が本業務の遂行を遅滞した場合、又は第6条の完了確認を行わない場合、甲は、乙に対する業務委託料の支払を拒絶することができる。

    第5条(遅延損害金)
    甲が前条の支払を遅滞した場合、甲は、支払期日の翌日から支払済みに至るまで年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。

    第6条(報告及び完了確認)
    1 乙は、本業務の遂行状況その他甲が要求した事項につき、甲に報告する。
    2 乙は、本成果物(投稿原稿・クリエイティブデータ・投稿URL等を含む。以下同じ。)の納品をもって完了確認を甲に求める。甲は、納品から【●】営業日以内に、本成果物が本契約及び個別指示書等の内容に適合するかを検討し、完了確認を通知する。
    3 甲が不適合を認めた場合、甲は乙に対して修正を要求でき、乙は甲の定める期間内に無償で修正する。
    4 甲は、前各項の報告・検討の結果、必要があると認める場合には、合理的範囲で本業務の遂行方法等につき改善を求めることができる。

    第7条(広告表示・遵法・表現基準)
    1 乙は、景品表示法、薬機法、特定商取引法その他関連法令・ガイドライン及び業界の自主基準に適合する表現を用いるものとし、広告である旨の明確な表示(例:「#広告」「#PR」等、甲が指定する表記)を、視認性の高い方法で行う。
    2 乙は、事実に反する表示、優良誤認・有利誤認に該当する表示、医薬的効能効果を標榜する表示、比較表示の不当表示、体験談等の不適切な取り扱いその他不適切な表示を行ってはならない。
    3 乙は、甲が別途指定するNGワード・NG表現・必須注記等の表現基準に従う。

    第8条(事前承認・修正・差替え)
    1 乙は、投稿予定日の【●】営業日前までに、原稿・サムネイル・画像・動画・使用BGM・ハッシュタグ・リンク等を甲に提出し、甲の事前承認を得る。
    2 甲は合理的範囲で修正を求めることができ、乙は無償で対応する。
    3 行政指導・権利侵害主張・誤認防止等の必要が生じた場合、乙は甲の指示に従い、速やかに差替え又は削除を行う。

    第9条(測定・証跡保存・監査)
    1 乙は、各投稿につき、投稿URL、投稿日時、表示タグ、掲載スクリーンショット、主要指標(閲覧・到達・エンゲージメント等)及び承認記録を【●】年間保存し、甲の求めに応じて遅滞なく提出する。
    2 甲は、合理的範囲で、乙の本業務に関する記録・体制につき監査(オンライン含む)を行い、必要に応じて改善を求めることができる。

    第10条(再委託及び生成AIの利用制限)
    1 乙は、甲の書面による事前承諾なく、本業務の全部又は一部を第三者に再委託してはならない。
    2 乙が生成AIを利用する場合、当該サービスの利用規約に適合し、学習・出力に係る権利関係に抵触しないよう適切に管理し、出力物の第三者権利非侵害を保証する。

    第11条(競合回避)
    1 乙は、本契約期間中及び契約終了後【●】か月間、【製品・サービスのカテゴリを特定】に属する甲の主要競合(別紙記載)に関し、甲と同種の広告投稿を行わない。
    2 前項は、甲の書面承諾がある場合又は乙の既存スポンサーシップ等の合理的事情がある場合には、この限りでない。

    第3章 知的財産

    第12条(知的財産権の帰属等)
    1 本業務の過程で生じる発明、考案、創作、著作物その他の本成果物に関する一切の知的財産権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)は、すべて甲に帰属する。
    2 乙は、甲による本成果物の利用に関し、著作者人格権を行使しない。
    3 乙は、本業務及び本成果物が第三者の権利を侵害しないことを保証し、甲による利用に起因して第三者との間で紛争が発生した場合、自己の費用と責任でこれを解決し、甲の損害(弁護士費用を含む)を補償する。
    4 乙は、乙の氏名・肖像・アカウント名等のパブリシティ権・肖像権について、甲又は甲の指定する媒体・広告(ウェブ、SNS広告、店頭、PR資料等)における期間・地域・回数の制限のない利用を許諾し、必要な権利処理を完了したものとして保証する(対価は委託料に含む)。

    第4章 秘密情報・個人情報

    第13条(秘密保持)
    1 甲乙は、本契約に関連して相手方から開示を受けた技術上又は営業上その他一切の情報(以下「秘密情報」という。)を、事前の書面承諾なく第三者に開示又は漏洩せず、本契約の遂行以外の目的に使用しない。
    2 秘密情報は、本契約の終了後3年間秘密として保護される。
    3 公知・独自開発・正当取得等の例外は、一般に認められる範囲で適用する。

    第14条(個人情報の取扱い)
    1 乙は、個人情報保護法その他関連法令に従い、取得した個人情報を本業務目的の達成に必要な範囲でのみ取扱う。
    2 乙は、適切な安全管理措置を講じ、再委託・共同利用等を行う場合には甲の事前承諾を要する。
    3 甲が求める場合、乙は個人情報に関する取扱規程・体制を開示し、必要な改善に応じる。

    第5章 契約終了・措置・責任

    第15条(炎上・苦情・行政対応)
    投稿に関し、行政指導、権利侵害主張、苦情、SNS上の炎上その他問題が生じ又は生じ得る相当の理由がある場合、乙は直ちに甲へ通知し、甲の指示に従って削除・訂正・説明・再発防止等の措置を講ずる。

    第16条(契約終了後の措置)
    1 事由の如何を問わず本契約が終了したときは、乙は直ちに、(i)甲から貸与・提供を受けた資料・データ等の返却又は復元不可能な方法による破棄、(ii)本業務に係る表示・固定・ハイライトの中止、(iii)甲の指示に従う投稿の削除・訂正を行う。
    2 乙は、本契約終了後に、甲の取り扱う商品等について、甲の誤認混同を生じ得る表示・活動を行ってはならない。

    第17条(損害賠償・責任制限)
    1 甲又は乙が本契約に違反し相手方に損害を与えた場合、違反当事者は当該損害を賠償する。
    2 乙の故意又は重大な過失に基づく場合を除き、各当事者の賠償責任の上限は、甲が乙に支払った本契約に基づく業務委託料の合計額とする。
    3 いかなる場合も、特別の事情による損害、逸失利益、第三者からの請求に基づく損害については、故意又は重大な過失の場合を除き、責任を負わない。

    第18条(反社会的勢力の排除)
    1 甲及び乙は、反社会的勢力に該当しないこと等を表明保証する。
    2 前項に違反した場合、相手方は通知催告なく直ちに解除できる。

    第19条(解除)
    甲又は乙は、相手方が本契約のいずれかの条項に違反し、相当期間を定めて是正を求めたにもかかわらず是正がなされないときは、相手方に通知することにより本契約を解除することができる。

    第20条(中途解約)
    甲及び乙は、相手方に通知することにより、本契約を中途解約できる。この場合、本契約は、相手方が通知を受領した日の属する月の末日をもって終了する。

    第21条(権利義務の譲渡禁止)
    甲及び乙は、相手方の書面承諾なく、本契約上の地位を承継させ、又は権利義務を第三者に譲渡・引受・担保提供してはならない。

    第22条(存続条項)
    第7条、第9条、第10条、第11条、第12条、第13条、第14条、第15条、第16条、第17条、第21条、本条及び第24条は、本契約終了後も有効に存続する。

    第23条(準拠法・協議)
    1 本契約の準拠法は日本法とする。
    2 本契約に定めのない事項又は疑義が生じた事項は、誠意をもって協議し解決する。

    第24条(合意管轄)
    本契約に関する一切の紛争については、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

    本契約締結の証として、本契約書を2通作成し、甲乙それぞれ記名押印の上、各1通を保有する。
    【●●●●年●月●日】

    甲【住所】
    甲株式会社 代表取締役【氏名】 印

    乙【住所】
    乙【インフルエンサー名/会社名】 代表者名【氏名】 印

    別紙(本業務の内容)

    委託業務名: 【●●(製品/サービス名)】のプロモーション

    業務内容:

    指定コンテンツの制作:甲指定テーマに基づき、動画/静止画コンテンツを【●点】制作

    指定プラットフォームへの投稿:【プラットフォーム名】へ【●年●月●日】までに投稿・配信

    事前承認期日:投稿予定日の【●】営業日前に原稿・素材一式を提出

    必須表記・ハッシュタグ:#広告/#PR、その他甲指定の注記

    NG表現(例):効能効果の断定、比較の絶対化、根拠なきランキング、体験談の一般化 等

    KPI(努力目標):到達数、再生数、エンゲージメント率 等(保証義務を負うものではない)

    成果物(本成果物):投稿コンテンツ一式(動画/画像/テキスト/サムネイル/プロジェクトファイル/投稿URL)

    納期: 【●年●月●日】

    その他特記事項:使用素材(BGM・画像等)は乙が適法に権利処理済のものに限る

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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