はじめに
誰もがやったことのないビジネスモデルを構想し、新規事業として立ち上げる際に、「この新規事業、法的にやっても大丈夫?」と不安に思っている事業者の方は少なくないのではないでしょうか。
新規事業についてしっかりと「リーガルチェック」をしないと、後に違法なものだと判明した場合には事業を続けられなくなってしまうなど大きなリスクを負うことになりかねません。
もっとも、新規事業は全く同じものがないからこそ、どのような法的問題があるか?検討はどうやって進めるべきか?などよくわかりませんよね。
そこで今回は、新規事業におけるリーガルチェックの進め方を弁護士がわかりやすく解説していきます。
目次
1 新規事業に対するリーガルチェックの必要性
(1)リーガルチェックとは?
「リーガルチェック」とは、弁護士などの法律の専門家に、ビジネスモデルや契約書が法的に問題ないかを審査してもらうことをいいます。
なぜ、このようなリーガルチェックを行うのかというと、想定される問題を洗い出して、あらかじめ対応策を用意することで、余計なトラブルを予防・回避するためです。このようにしておくことで、事業者は、安心して事業に集中できるようになります。
もっとも、仮に、リーガルチェックを怠って、後から新規事業が違法なものであったと判明すると、事業者は、取り返しのつかないリスクを負う可能性があります。
(2)リーガルチェックをしないことのリスク
事業者がリーガルチェックを怠り違法な事業を行った場合に負うリスクは、以下のとおりです。
- 一時的にでも違法な事業を行っていたことから会社の信用がダウンしてしまう
- 違法な事業を行っていたことに対してペナルティ(罰則)が科される可能性がある
- サービス自体継続できなくなるおそれがある
- 違法な点が判明した場合、対策を考えるために専門家に依頼するなどして多大な費用がかかる
たとえば、事業開始直後に事業が違法である可能性が発覚し、サービス停止という事態に陥ってしまったものとして、「Osushi」という投げ銭サービスが挙げられます。
「Osushi」は以下の図のような流れでサービスが提供されていました。
このように、「Osushi」は、
- Osushiの取引
- Osushiを送る
- 換金
↓
↓
といった流れでサービス提供が行われていました。
①Osushiの取引
ユーザーはウォンタから、Osushiというアイテムを購入します
②Osushiを送る
ユーザーがブロガーやイベントの司会者など、応援したいと思ったクリエーターにOsushiというアイテムを送ります。
③換金
クリエーターは、ユーザーから受け取ったOsushiというアイテムを、お金にかえます。
この「Osushi」というサービスでは、Osushiというアイテムを換金できるという点が問題となりました。Osushiというアイテムが換金できることで、実質、ウォンタはユーザーとクリエーターの間で送金を行っていることになり、金融庁への登録が必要となる「資金移動業」にあたる可能性があったところ、ウォンタは、登録を受けずに「Osushi」のサービスを提供してしまいました。
そのため、ウォンタは、サービス開始直後、この点につき、多数のユーザーからの指摘を受け、「Osushi」を停止せざるを得なくなり、サービスの大きな特徴である換金できるというポイントを修正しなければいけなくなりました。
このように、せっかく新規性のあるビジネスを構想し、実行したとしても、事業を開始した後に違法性が発覚すると、修正に費用もかかるうえ、サービス内容の修正によって、当初に予定していたものとは別物になってしまう可能性があります。
また、なによりもユーザーからの信頼がなくなり、修正してもサービスを続けることができなくなってしまうおそれもあります。
以上のように、リスクを避けて新規事業を問題なく行うためにも、リーガルチェックをしっかりと行う必要性が高いといえます。
では、事業者は実際にリーガルチェックを行うために、新規事業に関する法的問題をどのように検討していけばいいのでしょうか。
2 法的問題点の検討フロー
新規事業における法的問題点を検討する場合、以下の図の流れで行います。
このように、新規事業の法的問題点は、
- 新規事業の全体像の把握
- 規制・問題点の抽出
- 規制・問題点の解決方法の検討
↓
↓
といった順で検討していきます。
3 新規事業の全体像の把握
まず、事業者は、自社が行う予定の新規事業について、全体像を把握するようにしましょう。事業の全体像が分かると、法的問題点を洗い出す際に手掛かりになります。
事業の全体像を把握するためには、自分で図を作成してみることが有効です。
図を作る際には、
- 誰が(who)
- 誰に(whom)
- いつ(when)
- なにを(what)
- どのように(how)
といった5つの要素を意識して作ることが重要です。
具体的には、事業者は、図の中で、その事業における
- 登場人物
- 行われる取引
- お金、モノ、情報の流れ
- 順序、タイミング
を整理します。
これらの情報の整理を行うことで、事業者は、適用される可能性のある法律や生じる可能性のある法的問題を検討しやすくなります。
では、このように、新規事業の全体像を把握した後は、事業者はどのようにして規制や法的問題点について抽出していけばいいのでしょうか。
法律の悩みを迅速に解決します。
スタートアップ、IT、先端技術の法律相談なら私たちにお任せください!
豊富な契約書雛形もご用意していますので、IT企業に関わらずお気軽にお問い合わせください。
4 規制・問題点の抽出
新規事業の全体像を把握した後、事業者には3つのフェーズに分けて新規事業にかかわる規制や問題点を抽出するという方法があります。
この方法では、事業者は、
- 情報収集
- 情報の精査
- 専門家に相談
↓
↓
といった流れで新規事業の規制や問題点を抽出していくことになります。
(1)情報収集
事業者は、新規事業に適用される規制や問題点に関する情報を収集していきます。
①情報収集の方法
情報収集の方法には、以下の方法があります。
(ⅰ)他社のホームページ検索
(ⅱ)キーワード検索
(ⅲ)省庁作成のガイドライン検索
(ⅳ)協会作成の自主規制検索
(ⅰ)他社のホームページ検索
実施しようとしている新規事業と同様のサービスがある場合、関連しそうな他社のホームページを検索します。
「資金決済法に基づく表示」や「旅行業登録票」などのように、法律や規制によっては、ホームページなどで、一定の事項の表示を事業者に義務付けていることがあります。
そのため、ホームページの記載内容から、適用される可能性のある法律や登録が必要なのかといったことがわかる場合があります。
(ⅱ)キーワード検索
「〇〇 法律」や「〇〇 規制」などのキーワードでネット検索します。〇〇には、業種やサービスの種類、関連ワードなどを入れることになります。
業種ごとに適用される法律や問題点などを解説した専門家の記事やブログがあれば、適用可能性のある法律や問題となるポイントがわかる場合があります。
(ⅲ)省庁作成のガイドライン検索
「〇〇 ガイドライン」とネット検索します。〇〇には、適用される法律の名前や関連ワードなどを入れることになります。
ガイドラインは、小難しい法律の条文や法的に問題となりうるポイントをわかりやすく解説しているため、適用されうる法律についての理解を深めることができます。
(ⅳ)協会作成の自主規制検索
「〇〇 自主規制」とネット検索します。〇〇には、適用される法律の名前や関連ワードなどを入れることになります。
「自主規制」とは、協会や業界団体などが独自に作成している規制やルールのことをいいます。
自主規制は法律のルールとは違って必ず守らなければならないというわけではありませんが、今後、自身が協会や業界団体に所属することを目指している場合には、自主規制も守る必要があるため、情報収集段階で把握しておくべきだといえます。
②情報収集の具体例
情報収集の具体例として、電子マネーを使ったモバイル決済事業(フィンテック事業)を新規事業として実施するケースを考えてみましょう。以下の図をご覧ください。
このように、モバイル決済を新規事業として実施しようとする場合、
(ⅰ)モバイル決済とは?
(ⅱ)ホームページの確認
(ⅲ)資金決済法で問題となる点
(ⅳ)ガイドラインを検索
(ⅴ)自主規制を検索
といった流れで情報収集することが考えられます。
(ⅰ)モバイル決済とは?
「モバイル決済 とは」や「モバイル決済 具体例」などキーワードで検索することが考えられます。そのような検索で、
- モバイル決済とはそもそもどういったものをいうか
- どのようなモバイル決済事業があるのか
といったことがわかります。
特に自分が実施しようとしている事業と似た事業が実施されている場合、その事業を参考にすることができます。モバイル決済を行う事業者を検索をすると、PayPayや楽天ペイなど様々なモバイル決済があることがわかります。今回はこの中でもLINE Payを参考にしてみましょう。
(ⅱ)ホームページを確認
では、LINE Payのホームページを検索し、実際にどのようなサービスを行っているかを確認してみましょう。
ホームページを確認すると、
- 電子マネーの決済だけでなく、送金などのサービスも行っている
といったことがわかります。このことから、モバイル決済には、電子マネーでの支払い以外のサービスがつく場合もあるということがわかります。
ホームページの情報だけで具体的なサービス名などがわかりにくい場合は、「LINE Pay サービス」などとキーワード検索をしてサービス内容を確認してみましょう。
また、ホームページの下のほう(フッター)をチェックすると、
- 「資金決済法に基づく表示」という表記がある
といったことがわかります。
実際に、「資金決済法に基づく表示」を確認してみると、LINE Payのようなモバイル決済には資金決済法という法律が関係しそうだということがわかるだけでなく、LINE Payには、以下の2つのタイプのサービスがあることがわかります。
- LINE Cash
- LINE Money
これらのサービス内容がわからない場合、ホームページ内でその内容を説明している箇所を確認したり、さらにキーワード検索したりしてリサーチします。
このようなリサーチを通して、LINE CashとLINE Moneyは、コンビニなどでチャージしたお金を電子マネーとして決済に使うことができる点は共通していますが、LINE Moneyは、追加機能として友人間での送金機能もあることがわかります。
ここで、「友人 送金 法律」とキーワード検索を行うと、友人間での送金は「個人間送金」と呼ばれており、個人間送金を事業として行う場合、資金移動業にあたり、電子マネーの決済を事業として行うよりも重い義務が課されることがわかります。
そこで、今回は、電子マネーでの支払いができるモバイル決済を新規事業として実施する予定であることからも、重い義務が課されるであろうLINE Moneyではなく、送金機能がついていないLINE Cashのほうを参考に見ていきましょう。
(ⅲ)資金決済法で問題となる点
ここまでの検討で、LINE Cashのようなモバイル決済には資金決済法が関係しそうだということが分かったかと思います。
モバイル決済において、資金決済法のどのような点が問題になるのかを「資金決済法 法律」「資金決済法 問題」「LINE Cash 法律」などのキーワード検索によってリサーチします。その結果、専門家の解説記事などから、LINE Cashには資金決済法のなかでも、
- 前払式支払手段
と呼ばれるものが関係してくることがわかります。前払式支払手段がどのようなものであるか、わからない場合には「前払式支払手段 とは」「前払式支払手段 問題」といったように、キーワード検索をします。
(ⅳ)ガイドラインを検索
「前払式手段 ガイドライン」といったように検索し、省庁のだしているガイドラインの検索を行います。
検索の結果、金融庁のだしている「事務ガイドライン(第三分冊:金融関係会社 5.
前払式支払手段発行者関係)」というガイドラインを確認できます。
このガイドラインを見てみると、
- どのような条件があると前払式手段となるか?
- 届出などは必要か?
- 何をしたら違反となってしまうのか?
- 違反とならない対処法は?
といった、新規事業のモデルを検討するのに参考になる情報が確認できます。
(ⅴ)自主規制を検索
「資金決済法 自主規制」、「前払式支払手段 自主規制」といったように自主規制があるかを検索します。
このように自主規制を確認することで、新規事業に関係する業界団体があるかどうかや、業界団体が設けている自主的なルールがあるかどうかがわかります。また、団体によっては、参入にあたってサポートをしてくれることもあります。
今回の場合、前払式支払手段には「日本資金決済業協会」という協会があり、同協会のだしている「前払式支払手段自主規制規則」を確認することができます。
たとえば、この自主規制と資金決済法を確認することで、モバイル決済事業者は、利用者に情報提供しなければいけない情報の一部を協会のホームページに掲載することで、掲載した情報について利用者に別途情報提供する必要がなくなることなどが定められています。
このように、自主規制は新規事業の詳細で具体的なスキーム構築にも影響を与えることについて記載があることがあるため、忘れずに確認するようにしましょう。
(2)情報の精査
まず、事業者は、収集した情報が正しいかを確認します。なぜそのような確認が必要になるのかというと、とくに、ネット上の記事やブログは、
- 誤った情報が載せられている
- 独自の解釈によって偏った情報が載せられている
- 情報が古く法改正に対応していない
といった可能性があるためです。
そのため、省庁のガイドラインや、法律の条文と照らし合わせて、収集した情報が正しいものであるかを細かく確認していく必要があります。
もっとも、法律の条文や省庁が出しているガイドラインなども、新しいものがでている可能性があるため、今見ているものが最新のものであるかを確認する必要がある点には留意してください。
この情報の精査において最も重要なのは、新規事業に、どの法律が適用されるかを正確に把握するということです。
事業を行うには、以下のように様々な法律が関わってきます。
- 消費者相手のビジネス→消費者契約法
- 個人情報のやり取り→個人情報保護法
- 労働者と会社のマッチング→職業安定法
- モバイル決済サービスの提供→資金決済法、割賦販売法
- 民間業者による債権回収→債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)
- 料理の提供→食品衛生法
もっとも、これらの法律は、1つの事業に対して1つの法律のみが関わるというわけではありません。
たとえば、労働者と会社のマッチングサービスを行うとき、労働者の名前や住所や職歴といった個人情報を取得して会社に伝える必要があります。
この場合、職業安定法だけでなく、個人情報保護法も関係してきます。
このように、事業を行うには、複数の法律が関わってくることが大半です。
事業者は新規事業に適用されるすべての法律を正確に把握していないと、新規事業の法的検討が不十分になり、事業そのものが破綻してしまう可能性もあります。
そのため、この段階で、新規事業に適用されうる法律の情報を全て収集しきれたか?をしっかりと確認する必要があります。情報収集が不十分であれば、また収集し直すことが必要になります。
情報を精査した後は、精査した情報と新規事業の全体像の図と照らし合わせながら、どの部分にどのような法律が適用されるか?どのような問題点があるといえるか?を検討していきます。
この段階においても、まだ調べたりていない部分があれば、情報収集の段階からやり直してください。
(3)専門家に相談
上で説明したように、情報を収集、精査していくことで、事業者は新規事業に適用される法律・規制や問題点を抽出することになります。
もっとも、事業者の中には、
- 様々な媒体から情報を収集したが漏れがないか不安が残る
- 情報を精査したが、法律の規制が本当に自社の新規事業にあてはまるものなのかわからない
といった方もいるでしょう。
この場合、最終チェックとして弁護士などの専門家に相談することが考えられます。
なお、自社で新規事業に適用されうる法律や問題点について抽出することは難しいという場合には、自社で情報収集は一切せず、一から弁護士などの専門家に任せるという手もあります。
以上のような方法で、事業者は、新規事業に適用される規制や問題点を抽出していきます。
5 規制・問題点の解決方法の検討
抽出した法的問題点の解決方法の検討を、専門家ではない経営者のみで行うことは難しいといえます。
そのため、事業者としては、以下のやり方を選択することが考えられます。
- 自社や外部の専門家の活用
- 行政庁に対する照会
(1)自社や外部の専門家の活用
専門家を活用するというやり方です。この場合、
- 自社にいる法務部員や弁護士
- 外部の弁護士などの専門家
↓
といった順で検討してもらうことが考えられます。
①自社にいる法務部員や弁護士
まずは、自社にいる法務部員や弁護士に新規事業の法的問題点について検討してもらいます。
自社の抱えている法務部員や弁護士は、社内の事情に詳しく、各部署との連携もとりやすいため、スピーディーに問題の解決を図ることができると考えられます。
もっとも、
- 自社で法務部員や弁護士を抱えていない
- 自社の法務部員に検討してもらったが、弁護士のお墨付きが欲しい
といった場合には、以下のように、外部の弁護士を頼るということが考えられます。
②外部の弁護士などの専門家
外部の弁護士に新規事業に適用される規制や問題点についての解決方法の検討を依頼することができます。
また、やりたい新規事業に強い外部の弁護士に相談することで、独自のアドバイスが得られる可能性があります。
このように、経営者は、自社や外部の専門家を頼って新規事業に関する法的問題点を解決することが考えられます。
(2)行政庁に対する照会
事業者は、新規事業の法的問題点を解決しようとする際に、法律の解釈がわからないといった場合、行政庁に対する照会を行うという方法があります。
行政庁に照会する具体的な方法としては、たとえば、以下のような方法があります。
- 直接の電話・訪問(直接照会)
- ノーアクションレター制度の活用
- グレーゾーン解消制度の活用
- その他新制度
①直接の電話・訪問(直接照会)
事業者は、照会対象の法律を管轄している行政庁に直接電話を掛けたり、訪問して質問したりなどして、疑問点を解消することができます。
直接照会を行うと、対象となる法律の解釈だけでなく、たとえば、
- 新しく法規制が検討されていること
- 通達などによって行政庁独自の運用が予定されていること
など、今後、新規事業を行うに際して必要な情報を得られる可能性もあります。
直接照会の例として、上の説明ででてきた資金決済法について照会するケースを考えてみましょう。
まず、事業者は、資金決済法を管轄している金融庁のホームページを確認します。そして、「各種窓口のご案内」から「FinTechサポートデスク」というページにいくと、
- 照会の方法
- 照会できる時間帯
といったことを知ることができます。
事業者はこれらの案内に従って、資金決済法の解釈について照会することができます。
②ノーアクションレター制度の活用
「ノーアクションレター制度」とは、事業者が、事業活動に関係する行為について、特定の法律の条項が適用されるかを確認してもらえる制度のことをいい、以下のような特徴を備えています。
- 照会対象:特定の法律の条項(許認可や、業務停止といった事業者に不利な処分などに限定)
- 行政機関の回答の公表:あり
- 照会先:照会したい法律を管轄している行政機関の窓口
ノーアクションレター制度を活用することで、新規事業について、許認可の有無などが明らかとなるうえ、公表されることで、回答について行政機関から一応のお墨付きを得られるため、安心して新規事業を実施することができるようになります。
もっとも、同制度を利用する場合、紹介先は、照会したい法律を管轄している行政機関にになりますが、場合によっては、照会する条項ごとに窓口がかわることがあります。そのため、複数の窓口にわたって照会を行わなければいけない場合もあり、手続きが煩雑になる可能性があります。
③グレーゾーン解消制度の活用
「グレーゾーン解消制度」とは、事業者が、事業活動に関係する行為について、自社の事業計画をもとに、特定の法律の条項の適用があるかどうかを確認してもらえる制度のことをいい、以下のような特徴を備えています。
- 照会対象:特定の法律の条項(限定なし)
- 行政機関の回答の公表:基本的になし
- 照会先:事業を所管する省庁の窓口だけでOK
グレーゾーン解消制度を活用することで、ノーアクションレター制度が対象外としている条項についても新規事業に適用されるか否かを確認できます。また、照会内容については事業者の同意がある場合を除いて、基本的に公表されません。
さらに、同制度を利用すると、照会先の省庁が、適法な事業計画にするにはどうしたらいいかなどのアドバイスをしてくれることもあり、今後、どのように新規事業を行えばいいか参考になる情報を得ることができると考えられます。
なお、照会する窓口はひとつであるため、手続きはノーアクションレター制度を活用するよりも簡単といえます。
グレーゾーン解消制度は、ノーアクションレター制度と、事業活動について法律の条項の適用を確認してもらえる点が、似ていますが、以下のような大きな違いがあります。
- ノーアクションレター制度:特定の条項が適用されるかということについて、一般的な回答をされる
- グレーゾーン解消制度:事業者ごとの事業計画に即して判断される
⇔
このように、グレーゾーン解消制度を活用すると、法律の適用の有無を判断されるにあたり、省庁と、自社の事業計画のどの部分があやしいのか、といったより具体的な話ができるといえます。
そのため、事業者は、法令の適用について、許認可などについて一般的な回答をもらうだけで十分な場合には、ノーアクションレター制度の活用が考えられます。対して、法令の適用について、自社の事業計画に即して詳しい回答が欲しいという場合には、グレーゾーン解消制度を活用することが考えられます。
※グレーゾーン解消制度について詳しく知りたい方は、「グレーゾーン解消制度とは?5つの活用事例と利用方法を弁護士が解説」をご覧ください。
④その他新制度
事業者は、その他にも
- サンドボックス制度
- 新事業特例制度
といった照会方法を活用することも考えられます。
「サンドボックス制度」とは、新たな技術やビジネスモデルの実証を行い、その実証から得られたデータや情報を基に現行の規制の見直しや変更につなげていくといった制度のことをいいます。
「新事業特例制度」とは、安全性の確保などの条件のもと、事業者単位で、新規ビジネスに対する規制の緩和や撤廃といった特例措置を認めてもらう制度のことをいいます。
※サンドボックス制度について詳しく知りたい方は、「規制のサンドボックス制度とは?2つの認定事例と申請について解説!」をご覧ください。
事業者は、このように、自ら行政庁に対して照会することができます。もっとも、行政庁に照会するのに、申請書を用意したりなど手間がかかりますし、自分が質問した意図とズレた回答をされないためにどのように尋ねればいいかよくわからないこともあるかと思います。そのため、弁護士などの専門家に依頼して、行政庁に照会する必要があるかどうかといった判断も含めてすべておまかせすることも考えられます。
専門家にお任せすると、たとえば、直接照会の面では以下のような2つのメリットがあると考えられます。
- 企業の匿名性を確保しながら直接照会できるため、照会先の行政庁に企業名を把握され目をつけられないで済む場合がある
- 知見のある専門家が質問するから、事業者では気づかないポイントなども聞いてくれて、より詳細な回答を得られる可能性がある
なお、弁護士などの専門家に依頼する場合には費用がかかることに留意してください。
このように、事業者は、新規事業をはじめるにあたっては、様々な専門家や制度を活用するなどしてリーガルチェックをしっかりと行っていく必要があります。
もっとも、リーガルチェックは、新規事業をはじめるときだけに行うものではありません。
6 事業を継続するうえでのリーガルチェックの必要性
新規事業を始めるときに、リーガルチェックを万全に行っていたとしても、後に法律改正があったり、新しい法律や通達などがでてきて新規事業を見直さなければならないといったことがあるかと思います。
そのため、リーガルチェックは、新規事業を始めるときだけでなく、新規事業を始めた後も継続して行う必要があるといえます。
法律の改正や新しい法律がでてきた段階で弁護士などの専門家に依頼することも考えられますが、事業者自身で法改正などの変更すべてを把握するのは難しいため、顧問契約を依頼して継続的にチェックしてもらうといった方法を選択することが有効です。
弁護士と顧問契約をすると、たとえば、以下のような対応をしてもらえます。
-
【事業開始前】
- 新規事業の適法性をチェックしてくれる
- 必要な許認可や新規事業を適法に行うためのスキームについてアドバイスをしてくれる
-
【事業開始後】
- 法律改正や新しい法律が出た場合に、どのように新規事業を変更すべきか、といった判断も含め対応をしてくれる
このように、顧問契約をしておくことで、事業者は、新規事業を安心して継続することができます。
7 小括
事業者は、新規事業を安心して行うには、どのような法律が関係するか、どのような点が問題になるか、解決策はどうすればいいのかといったことを「リーガルチェック」を通して確認しておくことが重要です。
法的問題の抽出や解決策の提案は、事業者自身や自社で抱える専門家で行うことも考えられますが、初期段階から、関連事業に精通した外部の弁護士と顧問契約をして対応してもらうことも有効であると考えられます。
どのようにリーガルチェックを行うべきかは、会社の状況によって異なるため、事業者は、自社の行う新規事業について全体像を把握したら、どの点は自身や自社で確認できるのか、外部の専門家に頼るべきかといったことを慎重に検討して対策する必要があります。
8 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下のとおりです。
- 「リーガルチェック」とは、弁護士などの法律の専門家に、ビジネスモデルや契約書が法的に妥当であるかどうかを審査してもらうことをいう
- リーガルチェックを怠ると、事業自体を続けられなくなるといったリスクを負う可能性がある
- 新規事業の法的問題点は、①新規事業の全体像の把握、②規制・問題点の抽出、③規制・問題点の解決方法の検討、といった順で検討する
- 新規事業の全体像を把握するには、自分で図を作成してみることが有効である
- 法律の規制や問題点を抽出は、①情報収集、②情報の精査、③専門家に相談といった流れで行うことが考えられる
- 情報収集では、①他社のホームページ検索、②キーワード検索、③省庁作成のガイドライン検索、④協会作成のガイドライン検索、という4つの方法が考えられる
- 法的問題点を抽出する段階で、外部の専門家である弁護士に相談することも有効である
- 法的問題点の解決方法の検討において、①自社や外部の専門家の活用、②行政庁に対する照会、といった2つの方法が考えられる
- 行政庁に対する照会は、①直接の電話・訪問(直接照会)、②ノーアクションレター制度の活用、③グレーゾーン解消制度の活用、④その他新制度、といった4つの方法がある
- リーガルチェックは新規事業開始のときだけでなく継続して行う必要がある