はじめに

スタートアップ企業などにとって、資本政策を考えることは、株式に関する戦略を練ることでもあり、極めて重要なことです。とはいえ、資本政策をどのような手順で策定するのか、どのタイミングで策定すべきなのか、どのようなことを策定する必要があるのか、などといったことをきちんと理解している事業者の方は少ないと思います。

資本政策をうまく方策できなければ、ゆくゆくのM&AやIPOが頓挫するということにもなりかねません。

そこで今回は、スタートアップ企業にとっての「資本政策」の重要性や方策にあたってのポイントなどについて、弁護士がわかりやすく解説します。

1 「資本政策」とは?

資本政策」とは、イグジット(IPO、M&Aなど)までに必要な資金や、株式を公開する際の持株比率をどのようにするか、などといった事項を綿密に検討する戦略計画のことをいいます。

まず始めに、資本政策が立てられるまでのフローを以下の図で確認しておきましょう。

このように、資本政策が立てられるまでには、段階を踏まなければならず、資本政策だけを作ることはできません。

  1. 事業計画
  2. フリーキャッシュフロー
  3. 企業価値
  4. 資本政策

(1)事業計画

事業計画(ビジネスプラン)」とは、ある事業に対して、経営方針(5年後にIPOするなど)や数値的な目標(3か月で売上3000万円を立てるなど)を、現実的に計算しまとめた行動計画のことをいいます。事業計画を立てると、以下で見る当面のフリーキャッシュフローを作成することができます。

(2)フリーキャッシュフロー

フリーキャッシュフロー(FCF)」とは、事業や財務活動によって生じる収入の部から、外部へ支払う支出を差し引いたあとに手元に残る資金のことをいいます。フリーキャッシュフローを計算しておくことで、キャッシュの増減を元に経営状態を明らかにすることができるうえ、企業価値を算定できるようになります。

(3)企業価値

企業価値」とは、会社全体の経済的な価値のことをいいます。言い換えれば、事業がもつ価値を金額に落とし込むことにより表現されたものです。企業価値を算定できれば、株式を発行するタイミングや発行数、そして、どの程度の資金を調達できるかを推定することが可能になります。なぜなら、株価は、企業価値を株式数で除することにより算出されることから、一株あたりの価値が分かるようになり、ひいては、どの株主に、どのような株式を、どのくらい保有させるかという資本政策を作成することが可能になります。

(4)資本政策

事業計画、FCF、企業価値といったものを考慮して、資本政策を最終的に練っていくことになります。

 

以上のように、資本政策を立てるためには、その前提として、事業計画や、事業における収支、さらに、そこから導かれる企業価値などを十分に検討する必要があります。

これらが緻密に検討されていればいるほど、完成度の高い資本政策を立てることが可能になり、その結果、投資家から信頼を得られやすくなります。

では、具体的にどのような点にポイントを置いて資本政策を立てていくべきなのでしょうか。

2 資本政策のポイント

資本政策を立てる上でのポイントは、以下の5点です。

  1. 必要となる資金を調達すること
  2. 株主構成
  3. 上場基準を満たしていること
  4. ストックオプションの発行
  5. キャピタルゲインのバランス

3 ポイント①:必要となる資金を調達すること

資金政策を立てる際には、その前提となる事業計画に基づいて、ある時点でどの程度の資金が必要なのかを数値化した上で、その資金をどのようにして調達するかを検討する必要があります。

具体的に考えられる資金調達方法は、

  1. 自己資金
  2. 融資
  3. 株式発行

の3つです。

(1)自己資金

自己資金」とは、自らの貯金や家族・親族の援助を受けて、資金を調達することをいいます。他の方法と異なり、信頼関係がベースとなっているため、融通が効きやすいことが大きな利点です。

もっとも、一般的には調達できる金額が高額ではないため、必要とされる資金をすべて自己資金により賄うことは困難です。

また、あくまで信頼関係がベースとなっていることから、場合によっては、信頼関係が崩壊するリスクもあります。

このように、自己資金だけで必要となる事業資金を調達することは、ほとんど不可能に近いため、他の資金調達方法も併せて検討する必要があります。

(2)融資

融資」とは、銀行や信用金庫、その他の法人などから資金を借り入れることを意味します。融資を受けられる金額については、一定の幅がありますが、通常は融資額に見合う担保(たとえば、保証人や不動産)を求められることがほとんどです。

この点、スタートアップ企業などは、差し入れることが可能な担保が一般には乏しいと考えられるため、その意味で、受けられる融資には限界があります。

また、多くの場合は、2%程度の金利をつけて返済することが求められ、返済が遅れるようなことがあると、最悪の場合、担保として差し入れていた不動産などが競売にかけられるリスクがあるうえ、自社ないし経営者の信用が低下するリスクもあります。

さらに、仮に事業に失敗し、会社が倒産したとしても、負債が会社とともに消滅することはなく残ります。そのため、融資により資金調達をする際には、十分な返済計画を立てておくことが重要になります。

このように、融資を受けるということは、同時に返済する義務を負うことにもなるため、キャッシュフローなどを考慮したうえで、慎重に決定する必要があります。

(3)株式発行

株式発行」とは、資金調達をしようとするスタートアップ企業などが、自社の株式を投資家などに割り当てることで資金を調達する方法です。

株式発行による資金調達は、主に、エンジェル投資家やVC、CVCといった投資家が対象となります。

また、株式を割り当てられた投資家には、議決権が与えられるため、株主構成についても確認する必要があります。この点は、次の項目で詳しく解説します。

 

資金調達をするための主な方法としては、以上の3つが挙げられます。特に、スタートアップ企業などは、ラウンドや事業内容に応じて必要となる資金も異なり、また、ラウンドが進むにつれて、必要となる資金も増えてくるのが一般的であるため、資金調達もこのような要素に従って、適切な方法を選択することとなります。

そのため、資本政策を立てる際には、具体的な上場時期などを見定めたうえで、事業計画に基づき、必要となる資金を算出し、その資金をきちんと調達できるかどうかを検討することが重要です。

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4 ポイント②:株主構成

資本政策を立てるにあたり、株主をどのように構成するかという点は極めて重要な問題です。株主の持株比率いかんでは、会社経営に対し大きな影響力をもつことにもなります。言い換えれば、「安定株主」の見極めが重要になってきます。

安定株主」とは、企業の業績や株価に関係なく、長期にわたり株式を安定的に保有してくれる株主のことをいいます。このような株主は、基本的に企業に対して敵対的な行動を取る可能性が低いと考えられています。

この問題に関しては、以下の3つの場合を想定する必要があります。

  1. 投資家が3分の1を超える株式を保有する
  2. 投資家が過半数の株式を保有する
  3. 投資家が3分の2を超える株式を保有する

(1)投資家が3分の1を超える株式を保有する

投資家(株主)が3分の1を超える株式を保有する場合、会社法上の「特別決議」との関係で注意する必要があります。

特別決議」とは、定款の変更・組織変更、合併、分社化・事業の譲渡や資本金の減少といった会社の重大な決定について、総議決権の過半数をもつ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる決議方法のことをいいます。

そのため、特別決議が必要となる事項について、3分の1を超える株式を保有する株主が反対した場合、特別決議のための条件を満たさないことになります。

このように、投資家が3分の1を超える株式を保有する場合、その投資家は特別決議が必要となる重要な事項について、「拒否権」をもつことになります。

そのため、経営陣に対して融和的でない投資家が3分の1を超える株式を保有する場合、企業は重要事項を決議できなく可能性があります。

(2)投資家が過半数の株式を保有する

取締役・監査役の選解任や計算書類の承認、剰余金の配当などは普通決議によって決められます。

普通決議」とは、総議決権の過半数をもつ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数が必要となる決議のことをいいます。

そのため、ひとりの投資家が過半数の株式を保有する場合、株主総会において、普通決議により決定できる事項を思い通りにできることになります。このように、ひとりの投資家に過半数の株式を保有させてしまうと、その投資家に会社経営の大部分を握られてしまうことにもなるため、好ましくないと考えられます。

(3)投資家が3分の2を超える株式を保有する

経営陣が3分の1を超える株式を持っている場合、経営陣は特別決議が必要となる重要な事項について、拒否権を持つことになることは先に見たとおりです。

ですが、仮に投資家が3分の2を超える株式を保有する場合、経営陣は特別決議が必要となる重要な事項について拒否権をもつことはできず、投資家の思いのままに会社をコントロールされてしまうことになります。

 

以上からもわかるように、株主をどのように構成するかという問題は資本政策の中心的な事項であり、企業にとっても極めて重要です。事業計画に沿った運営をしていくためにも、安定株主をしっかりと見極め、持株比率が会社運営にどのような影響を与えるかという点をきちんと理解しておくことが重要です。

5 ポイント③:上場基準を満たしていること

スタートアップ企業などは、将来的な上場を念頭に置いていることがほとんどです。

そのため、資本政策を立てる段階で、上場するための基準を確認しておく必要があります。

例えば、東証一部に上場するためには、

  1. 株主数が2200人以上
  2. 事業継続年数が3か年以上
  3. 株式が公開されている
  4. 有価証券報告書に虚偽記載がない

といった基準をクリアする必要があります。

このほか、東証二部やマザーズ、JASDAQなどは、独自の上場基準を設けているため、上場をする際には、目指す市場の上場基準を確認する必要があります。上場基準を確認せず作成された資本政策によって、上場の可能性がないと投資家に判断されれば、投資を得られない可能性は高くなり、資金調達が難しくなると考えられるからです。

※東証一部などの上場審査基準について、詳しく知りたい方は、日本取引所グループ(JPX)が公開している「上場審査基準」をご覧ください。

6 ポイント④:ストックオプションの発行

ストックオプション」とは、株式会社の役職員などが、自社株を一定の行使価額で購入できる権利のことをいいます。資本政策を立てるにあたっては、ストックオプションをどのように発行するかという点も極めて重要です。

具体的には、以下の4つの観点から、検討する必要があります。

  1. 発行量
  2. 保有者
  3. 行使価格
  4. ビジネスモデル

(1)発行量

ストックオプションは、法律上、制限なく発行することができますが、あまりに大量に発行してしまうと、公開後の株価形成においても、その株価で公開することが困難になる可能性があります。

この場合、主幹事証券などから、ストックオプションを行使して、株に変えるように指摘を受ける可能性があります。

とはいえ、優秀な人材を確保するために、ある程度の量のストックオプションを発行しておかなければならないという側面もあります。

そのため、ストックオプションの発行量をいかほどにするかという問題は、資本政策を立てる段階で、丁寧に検討しておく必要があります。

(2)保有者

安定株主ではない取引先や従業員などがストックオプションを保有している場合、その割合が30%を超えているような場合には、上場が難しくなる可能性があります。

土壇場になって、上場が難しくなるとの理由で、保有者にストックオプションの返却を求めても、一度付与したストックオプションを返却してもらうことは困難です。

このように、資本政策を立てる際には、その性質上、後戻りができないということを念頭に置いて、ストックオプションを付与する対象者をしっかりと検討する必要があります。

(3)行使価格

ストックオプションを発行するタイミングによっては、その行使価格が多額に上る可能性があり、その場合、行使資金を準備することができず、上場に支障を来す可能性があります。

計画性のある資本政策を立てるためにも、行使価格まで含めた検討が必要になってきます。

(4)ビジネスモデル

ストックオプションを発行する適切な量というのは、ビジネスモデルなどに応じて変わってきます。

事業が従業員などの努力にさほど左右されないものであれば、従業員に付与するストックオプションの量を多くする必要はありません。

反対に、事業が従業員などの努力やがんばりに左右される性質の強いものであれば、従業員に付与するストックオプションの量を多めにする必要があると考えられます。

いずれも、従業員のインセンティブが働くかどうかということが基準になります。

なお、上場する際のストックオプション発行量は、発行済株式数の20%までが上限になるものと考えられ、それ以上の割合で発行していると、上場に支障を来す可能性がありますので、注意が必要です。

 

以上のように、資本政策を立てるにあたり、ストックオプションの発行に関する事項は、多角的な視点で検討する必要があります。

計画性を欠いたずさんな資本政策では、最終的に上場を断念せざるを得ない事態を招くことにもなりうるため、十分に検討された資本政策を立てることが重要です。

7 ポイント⑤:キャピタルゲインのバランス

キャピタルゲイン」とは、株式などの資産の価値が上昇することによって生じる利益のことをいい、購入価格と売却価格の差額を意味します。

例えば、1万円で購入した株式を、IPOにともなって5万円で売ったとすると、4万円が利益として生じます。ここでいう4万円(利益)をキャピタルゲインと言います。

資本政策を立てるにあたっては、このキャピタルゲインをいかに正確に予測できるかが重要となります。なぜなら、キャピタルゲインは、高くなりすぎても、低くなりすぎても相応のデメリットがあるためです。

仮に、キャピタルゲインが低くなりすぎると、優秀な人材を確保する目的で発行されるストックオプションの機能(インセンティブ)が失われるため、優秀な人材を確保できないうえに、会社の成長を阻害することにもなります。

また、VCなどの投資家はキャピタルゲインで利益を得る集団であるため、見込まれるキャピタルゲインが低すぎると、投資をすることに消極的になる可能性が高いです。

反対に、キャピタルゲインが高くなりすぎると、IPOなどによりイグジットした際に、ストックオプションを付与された役職員などが自己の保有する株式を譲渡するなどして、一斉に離職してしまうおそれがあり、事業継続に支障を来す可能性があります。

他にも、創業者がIPOを目指すインセンティブは、大きなキャピタルゲインを得ることにあることが多いです。

このように、資本政策を立てる際には、どのタイミングでどの程度のキャピタルゲインを得たいのかをできるかぎり明確にしておく必要があります。

バランスを欠くキャピタルゲインが設定されていると、優秀な人材を得られなかったり、資金調達が困難になるなどのデメリットを生むことになります。

8 小括

資本政策において、計画性や正確性が欠けていると、資金調達の局面やその後の事業展開において、いろいろな弊害を招くことにもなりかねません。

そのようなことにならないためにも、あらゆる角度から検討を加え、先を見据えたしっかりとした資本政策を立てることが重要です。

9 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下の通りになります。

  • 「資本政策」とは、会社を運営する上で必要となる資金や上場までに目指す持株比率などについての戦略的な計画のことである
  • 資本政策の策定は、①事業計画の策定、②フリーキャッシュフローの作成、③企業価値の算定、④資本政策の策定という工程を経る
  • 資本政策の策定ポイントは、主に①必要となる資金を調達できること、②上場基準を満たしていること、③株主構成が適当であること、④ストックオプションの発行、⑤キャピタルゲインのバランスの5点である
  • 資金調達には、大きく分けて、①自己資金、②融資、③株式発行の3つの方法がある
  • 株主構成を考える際には、安定株主の見極めが重要である
  • 上場基準には、①株主数、②事業の継続年数、③株式が公開されている、④有価証券報告書における虚偽の記載がない、といったものがある
  • 資本政策を立てる際には、ストックオプションをどの程度発行するかという点を十分に検討しておく必要ある
  • 資本政策を立てる際には、キャピタルゲインをできるだけ正確に予測しておく必要がある