
はじめに
ICOによる資金調達を検討しているが、周りから難しいという声をよく聞き、踏み切れずにいる企業もあるのではないでしょうか。また、その中にも、今後の金融庁の動向次第では、ICOを実施したいという企業もあると思います。
そこで、今回は、まず始めにICOに対する金融庁等による現状の規制について見ていき、その後で規制が今後どのようになっていくのかについて、先日金融庁で開かれた<「仮想通貨交換業等に関する研究会」での議論を参照しながら見ていきたいと思います。
目次
1 金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」
金融庁において、2018年4月10日に「仮想通貨交換業等に関する研究会」が開かれました。この研究会は、コインチェック社による預かり資産の流出事件など、仮想通貨交換業に関するさまざまな問題が浮き彫りになったことで、その問題に対応するための制度改正が必要かどうかについて議論をするために開かれました。
この研究会は、ICOに関する法規制が今後どのようになっていくのかを決める重要な場でもありました。
以下で、今回の研究会の議論内容について詳しくみていきましょう。
2 今後のICO・仮想通貨交換業規制のポイント
研究会では、今後のICO・仮想通貨交換業への規制について、以下の3点が議論されました。
- 仮想通貨交換業登録についての審査基準の見直し
- ICOなどの仮想通貨による資金調達の規制
- 証拠金を用いた仮想通貨の取引(レバレッジ取引)規制
それぞれについて詳細を見る前に、まずは、現状におけるICOや仮想通貨交換業への法律規制について見ていきましょう。
3 現状のICO・仮想通貨交換業への法律規制
(1)「仮想通貨」とは?
始めに、ICOの前提ともなる「仮想通貨」の意味について見ていきます。
「仮想通貨」とは、インターネットを通じて、ユーザー同士が直接やり取りする通貨のことをいい、銀行など公的な発行主体はなく、取引所を介入させて円などの通貨と交換することができるものをいいます。通貨とはいえ、管理はすべてデータでされているため、我々が日常的に使用している紙幣や硬貨のような実物は存在しません。
ICOにおいては、資金調達を目的として企業が発行したトークンをユーザーが法定通貨や仮想通貨で購入することになります。
「仮想通貨」は、改正資金決済法において、以下の2種類に分けて定義されています。
- 1号仮想通貨
- 2号仮想通貨
それぞれについて、簡単に見ていきましょう。
①1号仮想通貨
- 物品の購入やサービスの提供を受ける場合に、不特定の者に対して、これらの代価の弁済に使うことができること
- 不特定の者との間で売り買いができる財産的価値であること
- 電子的に記録され、移転できること
- 法定通貨または法定通貨建ての資産ではないこと
②2号仮想通貨
- 不特定の者との間で、1号仮想通貨と交換できる財産的価値であること
- 電子情報組織を使って移転できるもの
以上をまとめると次のようになります。
- 1号仮想通貨
- 2号仮想通貨
物を売り買いするときに不特定の者との間で使うことができる価値を持っているもの
1号仮想通貨と交換できるもの
仮想通貨の例としては、イーサリアムやビットコインなどがあります。
この「仮想通貨」の概念は、ICOの文脈においては、発行するトークンが「仮想通貨」に該当するかどうかによって、次の項目で説明する「仮想通貨交換業」のライセンスが必要かどうかがかかわってくるため、とても大事な概念になります。
後述しますが、多くのスタートアップ企業では、マンパワー的にこのライセンスを取るのは難しいため、ICOをする際には、トークンが「仮想通貨」に該当しない形での設計が求められます。
(2)「仮想通貨交換業」の規制
発行するトークンが「仮想通貨」に該当し、仮想通貨を使った取引を行う場合、改正資金決済法上、仮想通貨交換業のライセンスが必要です。
仮想通貨は、簡易かつ迅速な資金の移転を可能にするため、マネーロンダリングなどの犯罪に使われるおそれがあります。
また、無条件に登録を許してしまうと、ユーザーが預けた仮想通貨などを使い込まれるおそれがあるなど、色々な意味でユーザーの保護に欠けることにもなります。
このような背景から、「仮想通貨」を取り扱う場合に「仮想通貨交換業」の登録を求めたわけです。
では、「仮想通貨交換業」にあたるとされるのは、どのような場合なのでしょうか。
「仮想通貨交換業」とは、以下のいずれかを事業として行う者をいいます。
- 仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換
- 上記①の媒介、取次または代理
- 上記①・②に関して、ユーザーのお金または仮想通貨の管理を行うこと
現在の日本では、bitFlyer(ビットフライヤー)やZaif(ザイフ)などが仮想通貨交換業者にあたります。
仮想通貨交換業にあたる場合、現状では、以下の規制が適用されることになります。
- 財務規制
- 情報提供義務
- 財産の分別管理義務
- 情報セキュリティ対策
- 監督規制
- マネロン規制
そのため、多くのICO事業者は、「仮想通貨交換業者」として登録をうけなくても済むように(=発行するトークンが「仮想通貨」にあたらないように)ICOスキームを構築することになります。
仮想通貨交換業への規制について詳しく知りたい方は、「仮想通貨の法律規制とは?仮想通貨法6つのポイントを弁護士が解説!」をご覧ください。
また、ICOについては、以下の規制が適用されます。
- 改正資金決済法(通称:仮想通貨法)上の規制
- ファンド規制
- その他の法律規制
それぞれの規制について、簡単に見ていきましょう。
①改正資金決済法上の規制
企業がトークンとして「仮想通貨」を発行する場合は、資金決済法上、「仮想通貨交換業者」としての登録を受ける必要があります。登録を受けた仮想通貨交換業者は、以下の規制を受けることになります。
- 情報提供義務
- 分別管理義務
- セキュリティ対策
- 監督規制
- マネロン規制
②ファンド規制
企業がトークンとして「ファンド型(配当型)トークン」を発行する場合は、金融商品取引上の「ファンド規制」の対象になる可能性があります。
「ファンド型(配当型)トークン」とは、出資者から集めたお金や有価証券を元手に事業を行い、その事業から利益が出た場合に、企業がその利益を分配する仕組みを持ったトークンのことをいいます。ファンド規制の対象になると「第2種金融商品取引業」としての登録が必要になるうえに、さまざまな義務を課せられます。
課せられる義務の一例としては、企業の資本金が1000万円以上であること、投資家を保護するための体制が整っていること、などです。このほかにも以下のような規制を受けることになります。
- ユーザーに対する誠実公正義務
- 名義貸しの禁止
- 広告規制
- 契約締結前および契約締結時の書面交付
③その他の法律規制
この他にもICOを行う際に注意しなければならない法律規制があります。具体的には、以下のとおりです。
- 特定商取引法の「通信販売」の規制
- 消費者契約法の規制
- 民事上および刑事上の「詐欺」の規制
- 景品規制
ICOへの規制について詳しく知りたい方は、「ICOの8つの法律規制と合法的資金調達のやり方とは?弁護士が解説」「仮想通貨交換業者が守るべきマネロン規制4つの義務を弁護士が解説!」をご覧ください。
4 ポイント①:今後の仮想通貨交換業登録の審査基準の見直し
それでは、今後のICO・仮想通貨交換業規制のポイントについて、詳しく見ていきましょう。
研究会では、コインチェック社の事件を契機に、仮想通貨交換業の登録について、審査基準をもっと高くした方がよいのではないか、との意見が出されました。
これを受けて金融庁は、審査基準を見直す方向で動き出しており、今年の6月ないし7月を目途に新たな審査基準を設けるようです。具体的には、システムリスクに対する審査基準の引き上げがなされるものと推測されます。
もっとも、新たな審査基準が設けられたからといって、既存の登録申請がすべて失効するわけではありません。それまでの申請は有効に扱われたうえで、新たな審査基準を適用する形になるようです。
現在登録申請中の企業や今後登録申請を検討している企業は、金融庁の動向を適宜チェックし、新たに設けるとされている審査基準の内容を把握することが必要です。
5 ポイント②:ICOなどの仮想通貨による資金調達の規制
日本においては、現在のところ、ICOを直接規制する法律はありませんが、他の関連法令により規制されるケースもあります。そのような中で、研究会では、ICOへの法規制として、以下のような論点について議論がなされました。
- ICOを実施する際に発行されるトークンについて、「仮想通貨」に当たる場合をもっと明確化する必要があるのではないか
- ホワイトペーパーによる情報開示の義務化
- 管理当局によるモニタリングの要否
現在のICOの仕組みは、トークンを発行する企業に有利で、トークンの購入者に不利であると考えられています。
先にも述べたとおり、企業にとって、発行トークンが「仮想通貨」にあたるかどうかという点は非常に重要な意味を持っています。なぜなら、仮想通貨にあたるとされた場合、ハードルの高い仮想通貨交換業の登録を求められるからです。
ですが、改正資金決済法で新たに設けられた「仮想通貨」の定義は、決してわかりやすいものとは言えません。
また、企業側の情報開示が不十分であるため、投資判断など、ユーザーが適正に判断できるだけの情報が開示されていないということも考えられます。
さらに、ICOを使った詐欺案件が多く発生していることなどから、ユーザーの保護が十分であるとはいえません。このような観点から、ICOについて、上記3点の規制が必要かどうかについて議論がなされました。
ICOが生むメリットも十分に考慮に入れながら規制を設けるべきだ、との意見も出されましたが、新たな法規制として以上の3点を盛り込む可能性は十分にあります。
6 ポイント③:証拠金を用いた仮想通貨の取引(レバレッジ取引)規制
研究会では、仮想通貨交換業やICOと並んで証拠金を用いた仮想通貨取引(レバレッジ取引)についても議論がなされました。「レバレッジ」とは、取引会社に預ける証拠金に掛ける「てこ」のようなものです。自分のお金(証拠金)を取引会社に預けることで、証拠金の数倍~数百倍の金額で取引することができ、通常は、レバレッジ〇〇倍という言い方をします。
平成29年度における国内の仮想通貨取引量の8割以上を証拠金・信用・先物取引が占めていますが、その中でも、証拠金取引が9割以上を占めており、仮想通貨FXのような証拠金を用いた仮想通貨取引について、需要が多いという現状を踏まえて、レバレッジ取引についても議論がなされたわけです。
参加者からは「ギャンブルに近いともいえるレバレッジ取引を認めていいのか」という声もあがっており、いずれは、レバレッジ取引についても規制が設けられる可能性が高いということがいえると思います。
なお、仮想通貨交換業登録者で組織されている「一般社団法人仮想通貨交換業協会」より「仮想通貨取引についての現状報告」という資料が研究会において提出されていますので、国内における仮想通貨の取引などについて詳しく知りたい方はご参考ください。
以上のように、ICOや仮想通貨交換業の登録、そして、レバレッジ取引については、今後新たに規制が設けられる可能性が高いです。金融庁の今後の動向に注目です。
7 今後の海外ICOへの規制
これまでは、日本国内に目を向けて、規制の現状や今後の規制について見てきました。それでは、ここで海外に目を向けてみましょう。
日本でICOを実施するにあたり、一番安全な方法はきちんと仮想通貨交換業の登録を受けて実施することです。ですが、コインチェック社の事件を契機に、登録の審査基準が厳しくなっているという現状を踏まえ、日本でのICOを避け、日本より規制の緩い海外に法人を置き、そこを起点として日本人の投資家に向けてICOを実施するスキームが使われてきました。
(1)Tavittと金融庁とのやりとり
ところが、金融庁は、タイのバンコクに本社を置くTavittという会社と話し合いを持ち、その結果、日本居住者はTavitt社が発行するICOを購入することはできず、海外に住む日本人は購入することができる、と伝えられました。
その理由として、金融庁からのメールには、Tavitt社が実施しているICOは日本における仮想通貨交換業に当たるいうことが挙げられています。
メールには併せて以下のことも述べられています。
- ホワイトペーパーに日本居住者を販売対象から除外する旨の記載は必要だが、それに加え、そのための態勢を整備する必要がある
- 日本で登録を受けていない企業が行う海外ICOにおいて、日本居住者が購入できる状態に置いておくことは、資金決済法に違反する状態が継続することになる
以上のように、金融庁は、日本で登録を受けていない企業が行う海外ICOにおいて、日本居住者が購入できる状態に置いておくことは、資金決済法に違反する状態であると判断しています。
このことからいえることは、これまで行われていた海外ICOスキームが今後難しくなる可能性があるということです。
もっとも、海外の取引所を通じて販売する形式の資金調達までもが禁止されているかどうかは、言及されておらず、残された問題です。
(2)仮想通貨交換業等に関する研究会での意見
海外ICOは、日本で登録を受けられない企業が海外でICOを実現するという意味において、脱法的な側面を持っています。もちろん、先に説明したとおり、合法的にできる可能性があるスキームも残されていると考えらえますが、研究会でも、この点に言及しており、海外でICOを行っている日本企業のサイトにアクセスができる以上、海外ICOを完全に禁止することは難しいだろう、という意見が出ています。
日本の現行法では、日本人が海外ICOを購入することを禁止していませんので、日本人が海外ICOを購入することを規制することも難しいだろう、という意見も併せて出ています。
他方で、ICOが、迅速に資金を調達できる手段であることや、企業が考えているプロジェクトの実現に資することなど、ICOのメリットにも目を向けながら規制を設け、ICOを正しい資金調達の手段として育てていくべきだとの意見もあります。
8 今後日本で取り扱い可能な仮想通貨(ホワイトリスト)
研究会では、今後日本で取り扱うことができる仮想通貨についても議論が持たれました。
仮想通貨は1,000種類以上あると言われていますが、現在の日本において、販売することが許されている仮想通貨は以下の18種類です。
- ビットコイン
- イーサリウム
- ビットコインキャッシュ
- イーサリウムクラシック
- ライトコイン
- リップル
- モナコイン
- フィスココイン
- ネクスコイン
- カイカコイン
- カウンターパーティー
- ザイフ
- ビットクリスタル
- ストレージコインエックス
- ペペキャッシュ
- ゼン
- ゼム(ネム)
- キャッシュ
ここに挙げたもの以外の仮想通貨を販売するためには、金融庁の許可をもらわなければなりません。
研究会においては、高い匿名性を持っており、マネーロンダリングに使われるおそれがある仮想通貨の取り扱いについても議論がなされ、このような仮想通貨については、使用を制限すべきではないかとの意見が出ました。
ここでいう「匿名性の高い仮想通貨」とは、仮想通貨に付されるアドレスと個人情報の紐づけがなされていないため、送金の流れ(日時や金額など)の特定を困難にする仮想通貨のことをいいます。送金の流れの特定を困難にするため、マネーロンダリングなどの犯罪に利用される可能性が高くなります。
このように、日本において、今後高い匿名性を持った仮想通貨の使用が制限される可能性があります。
9 小括
これまで見てきたように、ICOによる資金調達を検討している企業は、まずは現状の規制をきちんと理解することが前提となります。そのうえで、海外を含むICOについて、今後規制がどのようになっていくのかをきちんと理解したうえで、ICOの実施について慎重に判断することが重要です。そのためにも、金融庁の動向に注意しましょう。
10 まとめ
これまでの解説をまとめると以下のとおりです。
- 今後のICO・仮想通貨交換業規制のポイントは、①仮想通貨交換業登録についての審査基準の見直し、②ICOなどの仮想通貨による資金調達の規制、③証拠金を用いたレバレッジ取引規制、の3つである
- 「仮想通貨」とは、①不特定の者に対して、弁済に使うことができ、かつ、不特定の者との間で法定通貨と交換ができる、②電子的に記録され移転できる、③法定通貨または法定通貨建ての資産ではない、のすべてを満たす「財産的価値」、または、不特定の者との間でその「財産的価値」と交換ができるもの(②・③を満たすもの)
- 仮想通貨を取り扱う場合は、仮想通貨交換業の登録を受けなければなならない
- 「仮想通貨交換業」とは、①仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換、②左記①の媒介、取次または代理、③左記①・②に関して、ユーザーのお金または仮想通貨の管理を行うことのいずれかを事業として行う者をいう
- 仮想通貨交換業にあたる場合、①財務規制、②情報提供義務、③財産の分別管理義務、④情報セキュリティ対策、⑤監督規制、⑥マネロン規制の6つの規制が適用される
- ICOについては、①資金決済法上の規制、②ファンド規制、③その他の法律規制の3つの規制が適用される
- 今年の6月ないし7月を目途にシステムリスクに対する審査基準の引き上げがなされるものと推測される
- ①ICOを実施する際に発行されるトークンについて、「仮想通貨」に当たる場合をもっと明確化する、②ホワイトペーパーによる情報開示の義務化、③管理当局によるモニタリングの要否を内容とする新たな法規制が作られる可能性がある
- レバレッジ取引について規制が設けられる可能性が高い
- 日本で登録を受けていない企業が行う海外ICOにおいて、日本居住者が購入できる状態に置いておくことは、資金決済法に違反する状態が継続することになる
- これまで行われていた海外ICOスキームが今後難しくなる可能性がある
- 日本においては、今後高い匿名性を持った仮想通貨の使用が制限される可能性がある