はじめに

ICOを検討している企業にとって、「どのような法律規制があるのか」という点は最大の関心事ではないでしょうか。とはいえ、現在の日本において、ICOに対する法律規制はまだまだ固まっていないため、身動きが取りづらくなっているというのも事実です。

このような状況の中、企業としては、現在の金融庁のスタンスを知ることがとても重要となります。

そこで今回は、仮想通貨周りを管轄する金融庁の動向を中心に弁護士が詳しく解説していきます。

目次

1 ICOとは

ICO

ICO(イニシャル・コイン・オファリング)」とは、企業が「トークン」と呼ばれる独自の暗号通貨を発行し、これを投資家に仮想通貨で買ってもらうことで資金調達をする方法のことをいいます。ICO企業は、トークンと引き換えに手に入れた仮想通貨を取引所で円などに換金することで資金調達をすることになります。

ICOなら、銀行などの金融機関からは融資を受けられなかったスタートアップ企業でも、多額の資金を集めることが可能です。

ICOの仕組みを簡単に図で表すと、以下のようになります。

ICOの仕組み(最新版)

ICOが仮想通貨を用いた資金調達方法である以上、ICOをする際には、仮想通貨に関する法律規制をクリアしなければなりません。では、ICOそのものに対する法律規制は存在するのでしょうか。次の項目で詳しく見ていきましょう。

2 ICOへの規制はあるの?

ICOへの規制

ICOをする際に発行するトークンの設計次第では、金融商品取引法や犯収法などの規制対象になる可能性はあります。ですが、ICOそのものを直接規制している法律は未だ存在しません

もっとも、仮想通貨周りを管轄する金融庁は、仮想通貨に関する規制を強化する動きを見せているため、今後ICOそのものが直接規制される可能性は十分にあります。

このような状況下で、2017年4月に「資金決済法」が改正されました。資金決済法の改正にはどのような背景があったのか、また、改正された具体的な内容について、次の項目で詳しく見ていきましょう。

3 資金決済法の改正

改正資金決済法

資金決済法」は、商品券や電子マネーなどの決済サービスを規制するために作られた法律です。ですが、時代の進化に伴い、仮想通貨に関するいくつかのルールを追加した改正資金決済法(通称:仮想通貨法)が施行されることとなりました(2017年4月)。

以下では、改正された資金決済法について、そのポイントについて見ていきたいと思います。

(1)改正資金決済法(通称:仮想通貨法)のポイント

改正資金決済法(通称:仮想通貨法)のポイントは、大きく分けて以下の3点です。

  1. 仮想通貨の定義(仮想通貨とは何か)
  2. 仮想通貨交換業の定義
  3. 仮想通貨交換業の規制

それぞれのポイントについて、以下で詳しく見ていきましょう。

①仮想通貨の定義(仮想通貨とは何か)

仮想通貨」とは、円やドルなどの法定通貨とは違い、インターネット上で取引を行う通貨のことをいい、銀行などの発行主体や管理者は存在しません。改正資金決済法は、「仮想通貨」をさらに以下の2種類に分けて定義しています。

    Ⅰ.1号仮想通貨
    Ⅱ.2号仮想通貨

順番に見ていきましょう。

Ⅰ.1号仮想通貨

1号仮想通貨」は、以下のように定義されています。

  1. 物品の購入or仮受けor役務(サービス)の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること(要件その1:不特定性)
  2. 不特定の者を相手方として売り買いできる財産的価値であること(要件その2:財産的価値)
  3. 電子機器その他の物に電子的方法によって記録され、電子情報処理組織を用いて移転することができるものであること(要件その3:電子的記録)
  4. 日本通貨・外国通貨、通貨建資産でないこと(要件その4:非法定通貨)

これらの要件をまとめると、「法定通貨ではなく、インターネット上で不特定の人と取引を行うことができる財産的価値」となります。

以上からすると、イーサリアムやビットコインは1号仮想通貨ということになります。

Ⅱ.2号仮想通貨

2号仮想通貨」は、以下のように定義されています。

  1. 不特定の人との間で、1号仮想通貨と交換することが可能な財産的価値(要件①:交換可能性)
  2. 電子情報処理組織を使用して移転することが可能なもの(要件②:電子的記録)

たとえば、イーサリアムやビットコインと交換を行う通貨(アルトコイン)は2号仮想通貨ということになります。

もっとも、ICOにおいて、自社の発行するトークンが仮想通貨にあたってしまうと「仮想通貨交換業」の登録を受けなければなりません。

ですが、特にスタートアップ企業にとって、仮想通貨交換業の登録を受けることは非常に高いハードルになっており、事実上不可能です。ですから、ICO企業としては、発行トークンを「仮想通貨」にあたらないように設計することが必要になってくるわけです。

それでは、登録を受けることを必要とされる「仮想通貨交換業」とは一体どのような事業を指すのでしょうか。以下で、詳しく見ていきましょう。

②仮想通貨交換業とは?

仮想通貨交換業」とは、イーサリアムやビットコインなどの仮想通貨の売買や、仮想通貨同士を交換するサービスを提供する事業のことをいいます。仮想通貨交換業をおこなう事業者を「仮想通貨交換業者」と呼び、日本国内ではbitFlyerZaifなどに代表されます。

この点、改正資金決済法は、仮想通貨交換業を以下のように定義しています。

  1. 仮想通貨の売買or仮想通貨同士の交換を行うこと
  2. 1の行為の仲立ち、取次ぎ、代理などの行為を行うこと
  3. 1・2の行為に関して、ユーザーの金銭or仮想通貨の管理を行うこと

  1. 1~3を「事業」として行うこと

これらをすべてみたす事業は、「仮想通貨交換業」にあたり、仮想通貨交換業者として登録を受ける必要があります。

仮に、登録を受けずに仮想通貨交換業を行った場合、

  • 最大3年の懲役
  • 最大300万円の罰金

のいずれか、または両方を科される可能性があります。

このように、仮想通貨交換業を無登録で行うと、重いペナルティを科される可能性があります。事業者としては、仮想通貨交換業にあたらないように工夫をして事業を展開していくか、もしくは、仮想通貨交換業の登録を受けるか、のいずれかを選択することになります。

もっとも、仮想通貨交換業の登録を受けられたとしても、仮想通貨交換業者はさまざまな規制を受けることになります。以下で、詳しく見ていきましょう。

③仮想通貨交換業に対する規制内容は?

仮想通貨交換業の登録を受けた場合、仮想通貨交換業者は金融庁の厳しい管理下に置かれて事業を行っていくことになります。具体的に、仮想通貨交換業者は以下の各規制を受けることになります。

  • 仮想通貨交換業の登録に関する財務規制(登録拒否事由)
  • 情報の提供義務
  • 分別管理義務
  • セキュリティに関する対策義務
  • 監督規制
  • マネロン規制

以上の義務を怠った場合には、ペナルティを科される可能性があります。

以上に挙げた改正資金決済法のポイントはどれも大変重要ですので、きちんと理解しておく必要があります。この点をきちんと理解していないと、ICOをする際にも、スムーズに事を進めることができなくなります。

次の項目では、ICOを行う上で改正資金決済法上気をつけるべき点について、見ていきたいと思います。

※仮想通貨交換業に対する規制について詳しく知りたい方は、「仮想通貨の法律規制とは?仮想通貨法6つのポイントを弁護士が解説!」、「仮想通貨交換業の法律規制とは?改正資金決済法を弁護士が5分で解説」をご覧ください。

(2)ICOを行う上で改正資金決済法上気をつけるべき点は?

ICOをするにあたり、一番安全な方法は、仮想通貨交換業の登録を受けてICOをすることです。

ですが、仮想通貨交換業の登録には財務要件などがあり、非常にハードルが高くなっていて、特にスタートアップ企業にとっては事実上不可能といえます。

そこで、ICO企業としては、

  • 発行するトークンに技術的な工夫をこらすなどして、改正資金決済法上の「仮想通貨」にあたらないように設計する
  • 既に登録を受けている仮想通貨交換業者に対して、仮想通貨の売買などを委託する
  • 売買の対象は「仮想通貨」でなく、トークンと引換えができる「予約権」とすることで、仮想通貨交換業にあたらないとする

といったようなスキームを構築することが必要になってきます。

もっとも、改正資金決済法による規制さえ気をつけていればいいというわけではありません。ガイドラインなどのように金融庁が公表している媒体や金融庁の動向そのものには、注意が必要です。具体的には以下のとおりです。

  • 事務ガイドライン
  • 仮想通貨取引にかかわる注意喚起
  • 海外ICOに対する警告(2社)
  • 研究会の実施

次の項目から、順番に見ていきましょう。

※なお、改正資金決済法について詳しく知りたい方は「ICOで問題となる法律「資金決済法」を3つの視点から弁護士が解説」をご参照ください。

4 事務ガイドライン

事務ガイドライン

金融庁が公表している「事務ガイドライン」は、簡単にいうと、内部における指針のことをいいます。

「事務ガイドライン」は、改正資金決済法、仮想通貨交換業者に対する内閣府令、犯収法、行政手続法など多くの法令に関する金融庁の指針が記載されています。

具体的には以下の3章から成り立ちます。

  1. 総則
  2. 仮想通貨交換業者の監督上の注意点
  3. 仮想通貨交換業者の監督に係る事務処理上の留意点

それぞれについて、簡単に見ていきましょう。

(1)総則

総則では、「仮想通貨」の該当性について照会があった場合には、発行体企業に対して以下の点を詳細に説明するよう求めるとされています。

  • 仮想通貨を使用できる店舗が限定されていないか
  • 発行者管理のもと仮想通貨が使用可能な店舗を有していないか
  • 発行者による制限がなく円やドルなどと交換できるかどうか
  • 円やドルとの交換市場が存在するかどうか

また、仮想通貨交換業の登録に関し、仮想通貨交換業者として適切ではない場合を想定し、認定資金決済事業者協会が公表する情報を参考にして審査をおこなうとしています。

さらに、総則では先物取引についても記載されています。

具体的には、仮想通貨を使用した先物取引として、以下の2種類が存在するとされています。

  1. 現物取引(仮想通貨の現物のみの取引)
  2. 差金決済取引(仮想通貨の直接的な受渡しを行わずに、売買の価格差等に相当する金銭の授受のみにより決済をする取引)

1の現物取引は「仮想通貨の交換」にあたるために改正資金決済法の規制対象となりますが、2の差金決済取引については「仮想通貨の交換」にあたらないため、改正資金決済法の規制対象とはならないとされています。もっとも、この点については、個別具体的に法適用の判断をしていくとしています。

(2)仮想通貨交換業者の監督上の注意点

仮想通貨交換業者の管理にあたり、金融庁がどのような点に注意しているかが記載されています。ガイドラインでは大まかに分けて以下の3つの観点で整理しています。

  1. 経営管理
  2. 業務の適切性
  3. 監督手法・対応

以下で、順番に見ていきましょう。

①経営管理

仮想通貨交換業者は以下の点に留意して経営管理を行う必要があります。

  • 財産的基礎の確保
  • 法令遵守や適切な業務運営のための内部管理態勢の確立や整備、そのための実践方針を整えること
  • ユーザー対応をする部門の適切な業務運営のための態勢の整備(モニタリング、検証など)
  • 内部監査の態勢の整備と、内部監査の結果に対する改善策の策定・実施
  • 反社会的勢力との関係の遮断、排除
  • 内部管理部門の適切な業務運営(モニタリング、検証など)
  • 内部監査部門が実効性のある監査を実施すること

②業務の適切性

仮想通貨交換業者は、法令・社内規則などをきちんと守って業務を行う必要があります。具体的には以下のポイントに分けて整理されています。

  • 法令などの遵守
  • 利用者保護のための情報提供・相談機能など
  • 事務運営
  • 障害者への対応

③監督手法・対応

仮想通貨交換業者への監督に関する金融庁の指針が記載されています。

(3)仮想通貨交換業者の監督に係る事務処理上の留意点

仮想通貨交換業者を監督するにあたり、以下のように留意すべき点が記載されています。

  1. 一般的な事務処理など
  2. 諸手続
  3. 行政処分を行う際の留意点
  4. 行政手続法との関係など
  5. 意見交換制度
  6. 営業所の所在の確知
  7. 関係当局・海外監督当局などへの連絡
  8. 不利益処分の公表に関する考え方
  9. 行政処分の連絡

それぞれについて、以下で簡単に見ていきましょう。

①一般的な事務処理など

一定の場合に、仮想通貨交換業者に対するヒアリングを実施することや、ユーザーから寄せられた苦情の対応、無登録業者への対応などが記載されています。

②諸手続

仮想通貨交換業の登録申請、変更、登録簿の確認などについてのルールが記載されています。また、登録申請の受理について、一定の事項を守ってない場合には、是正を求めるとしています。

③行政処分を行う際の留意点

ここでいう「行政処分」とは、一定の場合に命じられる仮想通貨交換業者に対する「不利益処分」のことを指しています。仮想通貨交換業者に対する不利益処分には以下の3種類があります。

  • 業務改善命令
  • 業務停止命令
  • 登録の取り消し

ここでは、こういった不利益処分をどのような観点から判断していくのか、などといった点が記載されています。

なお、不利益処分を命じる場合は、おおむね1か月以内を目途に行われるとしています。

④行政手続法との関係など

不利益処分を命じる場合には、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法が定めるルールに基づいて行わなければならないと明記されています。

⑤意見交換制度

意見交換制度」とは、緊急性が高い場合を除き、不利益処分を命じる場合に、仮想通貨交換業者は監督当局と処分内容に関する様々な意見交換の機会を設けてもらうように申請することができる制度のことをいいます。

⑥営業所の所在の確知

金融庁は、仮想通貨交換業者の営業所の所在報告書、営業に関する権利を証明する書面、営業所の地図などを管轄の財務局に対し提出するよう求めることができます。

⑦関係当局・海外監督当局などへの連絡

不利益処分を命じる場合には、必要に応じて関係当局・海外監督当局に連絡をおこなうものとしています。

⑧不利益処分の公表に関する考え方

不利益処分を命じた場合には、商号、代表者名、本店所在地、登録番号、登録年月日、処分を受けた年月日、処分内容を公表するものとされています。

⑨行政処分の連絡

仮想通貨交換業者への登録申請の拒否、業務改善命令、業務停止命令、登録の取消し処分などの行政処分の形式について明記されています。

以上が金融庁が公表している「事務ガイドライン」の大まかな内容になります。事務ガイドラインは細かく項目が分けられ、難解な部分もありますが、仮想通貨を取り扱う事業者にとっては、決して無視することはできません。

金融庁は、事務ガイドラインに基づいてICO案件の監視を行うのとともに、ユーザー保護の観点から、ユーザーに対して注意喚起をおこなっています。金融庁がICOに対してどのようなことを注意喚起しているかについて、次の項目で具体的に見ていきましょう。

5 ICOに対する注意喚起

ICOに対する注意喚起

ICOについて、金融庁はこれまでに計15回の注意喚起をおこなっています。そのなかでも特に重要なのが、2017年10月27日に公表された「ICO(Initial Coin Offering)について ~利用者及び事業者に対する注意喚起~ 」です。投資家とICO企業それぞれに対して以下のような点を注意喚起しています。

(1)投資家に対する注意喚起

投資家に対しては、以下の2点について注意喚起がなされています。

  1. 価値下落の可能性
  2. 詐欺の可能性

それぞれについて、簡単に見てみましょう。

①価値下落の可能性

投資である以上、購入したトークンの価値が急落したり、最悪の場合、無価値になったりする可能性があるということが明記されています。

②詐欺の可能性

ICOをする際には、一般的にホワイトペーパーが作成されますが、ホワイトペーパーに記載されている内容が必ず実現するという保証はありません実際に、ICOに名を借りた詐欺事例も報道されているため、そのようなリスクがあることを十分に理解したうえで、自己責任で取引をする必要があるということが明記されています。

(2)ICO企業に対する注意喚起

ICO企業に対しては、自社のサービスが資金決済法や金融商品取引法などの規制対象になり得るということが明記されています。これらの規制対象となる場合には、仮想通貨交換業の登録を受けなければならなくなるなど、一定の義務を履行する必要があります。無登録で事業を行うと、刑事罰の対象になります。

また、ICOが投資としての性格をもつ場合には、たとえそれが仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象になり得るということも明記されています。

このように、金融庁は国内におけるICOに対して注意を喚起していますが、海外ICOに対しても警告を発しています。次の項目で、実際の事例を参考に見ていきましょう。

6 海外ICOに対する警告

海外ICO

(1)Tavitt(タビット)社

tavitt

http://tavitt.co.jp/

タイのバンコクに本社を置くTavitt社が自社のwebサイトにおいて、金融庁と協議の結果、日本国内居住者への仮想通貨の販売を中止したと発表しました。

Tavitt社が自社webサイト内で公開した内容によると、金融庁は以下のようなメールを送ったとされています。

  • Tavitt社が日本国内居住者向けに行っているサービス内容は「仮想通貨交換業」にあたる
  • ホワイトペーパーにおいて、日本国内居住者向けに販売しないことを明記し、その態勢を整備する必要がある
  • 日本国内居住者に向けて仮想通貨の販売可能な状態を続けることは資金決済法違反の状態が継続することになる

Tavitt_ICO_Image1

http://tavitt.co.jp/2018/03/07_347/

以上のメールからすれば、外国に拠点を置くICO企業は、日本における仮想通貨交換業の登録を受けずに、日本国内居住者向けに仮想通貨を販売することはできない、ということになります。

もっとも、これらの見解は金融庁による公式見解ではありません。あくまで、Tavitt社が自社のwebサイト上で公開しただけに過ぎませんので、その点にご留意ください。

(2)Binance(バイナンス)社

バイナンス

https://www.binance.com/

2017年3月23日、金融庁は、香港に拠点を置き仮想通貨取引所を運営しているBinance社に対して警告を発したことを発表しました。

具体的には以下の点に対し、警告が発せられました。

  • 口座開設の際に、本人確認を行っていなかったこと(犯収法)
  • 仮想通貨自体の匿名性が高いことから必要とされるマネーロンダリング対策を怠っていたこと(犯収法)
  • 日本の仮想通貨交換業への登録がなされないまま、日本国内居住者向けに仮想通貨の販売を行っていたこと(改正資金決済法)

これを受けて、Binance社は日本語対応のHPを削除するなどして日本国内居住者向けの販売を取りやめたというスタンスを示しています。

以上2つの事例をご紹介しましたが、いずれにおいても共通しているのは、たとえ海外に拠点を置く法人であっても、「日本国内居住者向けに仮想通貨の販売を行うためには、日本における仮想通貨交換業の登録を受ける必要がある」ということです。

そのほかにも、マネーロンダリング対策など仮想通貨周りは問題点が少なくありません。これを受けて、平成30年3月、仮想通貨に関する制度的対応の検討や意見交換を実施するために「仮想通貨交換業等に関する研究会」が設置されました。研究会はこれまでに計4回開かれており、その場でさまざまな議論がなされています。次の項目で、詳しく見ていきましょう。

7 仮想通貨交換業等に関する研究会

仮想通貨交換業等の研究会

仮想通貨交換業等に関する研究会」の設置には、以下のような背景がありました。

  • マネーロンダリング・テロ資金供与対策に関する国際的要請がなされた
  • 国内で当時世界最大規模の仮想通貨交換業者(MTGOX社)が破綻した
  • コインチェック株式会社による顧客からの預かり資産の外部流出
  • みなし登録業者や登録業者における内部管理態勢等の不備の発覚
  • 投資者保護の不十分さ
  • 証拠金を用いた仮想通貨の取引や仮想通貨を用いた資金調達方法(ICO)の登場

このような状況を受け、仮想通貨交換業等のさまざまな問題について制度的な対応を検討するために研究会が設置されました。

以下で、議論された内容を第1回から簡単に見ていきましょう。

(1)第1回研究会の概要(2018年4月10日)

第1回研究会では、主に以下の点について議論がなされました。

  1. マネロン対策
  2. 投資者保護
  3. ICOについて

それぞれについて、以下で簡単に見ていきましょう。

①マネロン対策

マネロン(マネーロンダリング)」とは、違法に入手した金銭について、複数の架空口座を使って送金を繰り返し、金銭の出所を分からなくすることをいいます。こういったマネロン対策の一つとして犯収法による規制があり、その具体的な内容が確認されました。他方で、問題点も指摘されています。

②投資者保護

仮想通貨交換業者による投資者保護がまだまだ十分ではないとし、対策状況や今後の対応について議論がなされました。特に強く指摘されたのが、「内部管理態勢の不備」であり、コインチェック社のハッキング事件を例示し、その是正の必要があるとされています。

③ICOについて

みずほ証券株式会社が独自にまとめた「ICOについての概要」と「現状認識」がメンバー内で共有され、そのことを踏まえた意見も出されています。

その他にも「仮想通貨交換業登録についての審査基準の見直し」や「レバレッジ取引」などについて議論されました。

※みずほ証券株式会社が独自にまとめた資料をご覧になりたい方は、「ICO(Initial Coin Offering)のご説明」をご確認ください。

※第1回仮想通貨交換業等に関する研究会について詳しく知りたい方は「第1回仮想通貨交換業等に関する研究会 議事次第」「ICO規制の今後とは?金融庁研究会を基に3つの視点で弁護士が解説」をご覧ください。

(2)第2回研究会の概要(2018年4月27日)

第2回研究会では、主に以下の点について議論がなされました。

  1. マネロン対策
  2. ICO
  3. 分別管理
  4. その他規制

それぞれについて、以下で簡単に見ていきましょう。

①マネロン対策

マネーロンダリングが行われているかどうかについて、きちんとした調査や対応を実施すべきだという意見が出されました。また、モニタリング精度の向上やモニタリングに割く人材についての意見も出されています。

マネロン規制は必要であるものの、そのための人材・技術が不足していることが明らかになりました。

②ICO

投資家にかぎって販売を禁止するといったように、ICOについて部分的に禁止すべきだという意見が出されました。また、ICOがもつ機能に応じたリスクという観点から規制のあり方を検討する必要があるという意見が出されました。

③分別管理

ユーザーから預かった金銭を流用していた事実が判明したため、分別管理が徹底されていないのではないかという点が議論されました。この点に関し、適切な管理のあり方について、必要に応じて規定を整備する必要があるとの意見が出されています。

④その他規制

100社を超える企業が、仮想通貨業界に新規参入することを意向として示していることから、仮想通貨交換業の登録などといった法律規制のハードルが低いのではないか、との意見が出されました。

この点に関し、仮想通貨交換業者としての登録を受けるにふさわしくない企業に対しては、参入規制により登録を認めない、といった対応を検討すべきだとの意見が出されました。他方で、新たな規制をつくるのではなく、既存の規制をしっかりと運用していくことが重要である、という意見も出されました。

※第2回仮想通貨交換業等に関する研究会について詳しく知りたい方は「第2回仮想通貨交換業等に関する研究会 議事次第」をご覧ください。

(3)第3回研究会の概要(2018年5月22日)

第3回研究会では、主に以下の点について議論がなされました。

  1. 仮想通貨がもたらすプラスの面やリスク
  2. ブロックチェーン技術の可能性
  3. 仮想通貨交換業に着目したうえでの制度的対応の要否

それぞれについて、以下で簡単に見ていきましょう。

①仮想通貨がもたらすプラスの面やリスク

先進国において、仮想通貨は決済手段として利用されておらず、プラスの面は限定的であるとの指摘がされました。また、ハッキングの発生やマネーロンダリングへの利用などにより、不適切な認識が拡散されるおそれもあるとして、リスクの方が大きいとの指摘がされました。

②ブロックチェーン技術の可能性

ブロックチェーンはデータのバックアップが不要になるなど、コストの削減が見込め、取引処理の迅速化にもつながるとの説明がなされました。また、スマートコントラクトなどを使うことで幅広い分野での活用が見込めるなどとして、ポテンシャルを秘めていると説明されました。

③仮想通貨交換業に着目したうえでの制度的対応の要否

投資家の多くが仮想通貨交換業者を通じて取引を行っているため、仮想通貨交換業者を対象とした規制は必要的だとする意見が多数を占めました。また、マネーロンダリングなどにおいても、最終的に問題になるのは法定通貨に交換する場面であるため、その観点からも仮想通貨交換業者を規制する意義は大きいとの意見も出されました。

※第3回仮想通貨交換業等に関する研究会について詳しく知りたい方は「第3回仮想通貨交換業等に関する研究会 議事次第」をご覧ください。

(4)第4回研究会の概要(2018年6月15日)

第4回研究会では、主に以下の点について議論がなされました。

  1. 仮想通貨市場と規制に関する現状説明
  2. モナコインやビットコインゴーグルなどに対する51%攻撃について

それぞれについて、以下で簡単に見ていきましょう。

①仮想通貨市場と規制に関する現状説明

仮想通貨交換業者がカストディアン(資産の管理を行う機関)を兼ねていることが問題であり、その部分についてはカストディアンに対する規制を適用すべきではないか、との意見が出されました。また、仮想通貨取引に関する税金の問題についても意見が出されています。

②モナコインやビットコインゴーグルなどに対する51%攻撃について

ハッシュパワー(マイニングを行ううえで、必要な処理能力を表す数字)を借りたり、貸し出すことが現状においては可能であり、本人のあずかり知らないところで、犯罪に利用されてしまうような状況が想定されます。そのような場合における罰則をどのようにするのか、といった指摘がなされました。

また、仮想通貨取引所について、取引所としての機能や保管振替機構としての機能など、複数の機能が備わっているため、内部において利益相反を引き起こしてしまっている、といった指摘もありました。

以上のように、仮想通貨交換業等に関する研究会では、さまざまな論点が議論されており、仮想通貨周りが今後どのように規制されていくのかを知るうえで大変参考になります。仮想通貨に関係する事業者や投資家におかれては、定期的にチェックすることをお勧めします。

※第4回仮想通貨交換業等に関する研究会について詳しく知りたい方は「第4回仮想通貨交換業等に関する研究会 議事次第」をご覧ください。

※第1回~第4回研究会について、議事の討議事項などさらに詳しく知りたい方は「仮想通貨交換業等に関する研究会 議事録」をご覧ください。

8 仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ

中間とりまとめ

2018年8月10日、金融庁は「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ」を公表しました。

検査・モニタリング結果を踏まえて、金融庁は以下の点について指摘を行っています。

  1. ビジネス面
  2. リスク管理・コンプライアンス面
  3. その他

以下で、順番に見ていきましょう。

①ビジネス面

自社が発行する暗号資産のリスク評価がされていないこと、また、発行する暗号資産の不適切な販売、ユーザーが急増する一方で内部管理態勢の整備が追いついていないにもかかわらず、積極的に広告活動を続けている点などが指摘されました。

②リスク管理・コンプライアンス面

マネロン対策ができていないことや分別管理が不十分であることに加え、セキュリティー人材の不足、ユーザーの保護が図られていないなどといった点が指摘されました。

③その他

多額のユーザーの財産を少ない役職員で管理している実態が確認されたことや内部監査の不実施に加え、策定された内部監査計画がリスク評価に基づいていない、遵法精神が低いなどといった点が指摘されました。

以上からもわかるように、中間とりまとめでは、現状における問題点・課題が数多く指摘されました。こういった現状を受けて、今後段階的に規制が強化されていく可能性は十分に考えられます。

9 小括

まとめ

仮想通貨に関する事業や投資などは、近時、非常に関心が強くなっている分野のうちの一つですが、ICOなどの分野ではまだまだ法律規制が固まっていないのが現状です。このような状況を受け、金融庁は仮想通貨周りを適切に規制するために、研究会を開催するなどして、問題点や課題を洗い出しています。こういったことからも、今後、具体的に法律規制がなされていくことが十分に予測されますので、金融庁の動向を細めにチェックすることが重要です。

10 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のようになります。

  • 現状において、ICOに対する直接的な法律規制はないが、今後新たに規制される可能性は高い
  • 発行トークンが改正資金決済法上の仮想通貨にあたると、一定の場合に仮想通貨交換業の登録を受ける必要があり、無登録で仮想通貨交換業を行うと、①最大3年の懲役、②最大300万円の罰金、のどちらか、または両方とも科される可能性がある
  • 仮想通貨交換業の登録を受けた後は金融庁の管理下に置かれ、①財務規制、②情報提供義務、③分別管理義務、④セキュリティに関する対策、⑤監督規制、⑥マネロン規制などの義務を負うことになる
  • ICOでは、改正資金決済法上の仮想通貨にあたらないように自社トークンを設計する必要がある
  • 事務ガイドライン内は、①総則、②仮想通貨交換業者の監督上の注意点、③仮想通貨交換業者の監督に係る事務処理上の留意点といった項目に分かれており、金融庁がどのような視点で仮想通貨交換業者を監督するかが細かく記載されている
  • 金融庁は、これまでに政府広報を含み約15回の「仮想通貨に関する注意喚起」を行っている
  • 金融庁は、無登録の海外仮想通貨交換業者(Tavitt社(ただし、金融庁の公式見解ではない)、BINANCE社)に対して警告をおこなっている
  • 金融庁は、制度的な対応の検討、意見交換を行うために「仮想通貨交換業者等に関する研究会」を設置し、これまでに計4回開かれている
  • 2018年8月10日、金融庁は「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ」を公表した