
はじめに
「ICO(イニシャルコイン・オファリング)」という仮想通貨を使った資金調達方法に興味はあるものの、
- ICOって何?
- 他の資金調達とは何が違うの?
- メリットとデメリットは?
- どんな法律規制があるの?
といった疑問や不安を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
そこで、今回はまずICOの全体についてさっと解説したうえで、ICOと他の資金調達方法との違いやICOのメリット・デメリット、その他ICOをめぐる法律規制について弁護士が詳しく解説していきます。
目次
1 ICOとは?
(1)ICOって何?
「ICO(アイシーオー/Initial Coin Offering)」とは、事業者が独自に発行する暗号通貨である「トークン」を、投資家に仮想通貨(ビットコインやイーサリアムなど)により購入してもらうことで資金調達する方法をいいます。銀行やベンチャーキャピタルから融資や出資をうけるより自由度が高く、審査なども必要ないため、主にスタートアップ企業が取り入れている資金調達方法です。
ICOは、これまでの資金調達方法とは異なる手順を踏みます。以下で、ICOの仕組みについて、詳しく見ていきましょう。
(2)ICOの仕組み
ICOの仕組みは、以下のようになっています。
ICOの特徴は、事業者が「トークン」と呼ばれるデジタル資産を発行し、それに対して、投資家が「仮想通貨」でそのトークンを購入する点にあります。事業者は、トークンと引き換えに手に入れた仮想通貨を取引所などで現金に換金することで、資金調達をすることができるのです。
(3)トークンの性質に応じた分類
事業者のビジネスに合った形で設計される「トークン」は、その性質に応じて大きく5つに分けられます。以下の図をご覧ください。
ICOは、このようなトークンを発行・販売することで、資金調達をすることになりますが、そもそも既存の資金調達方法との間にどのような違いがあるのでしょうか。
ICOと他の資金調達方法の違いについて、以下で具体的に見ていきましょう。
2 ICOと既存の資金調達方法との違い
事業者が選びうる既存の資金調達方法として、以下のようなものがあります。
- IPO
- 銀行などの金融機関を利用(借入)する
- クラウドファンディング
ICOとの違いについて、それぞれ詳しく見ていきましょう。
(1)IPO(株式上場)との違い
「IPO(イニシャル・パブリック・オファリング/アイピーオー)」とは、①上場していない事業者が自社株式を証券取引所に上場する→②投資家は自由に株式を取得することができる、という仕組みにより資金調達することをいいます。このような仕組みをもつIPOですが、ICOとは、
- 資金調達を目的として、出資者を募集する
- 市場、取引所に上場することで、PRやバックアップにつながる
- 出資者が増えれば増えるほど、株やトークンの価値も上がる
といった点で共通しています。他方で、違いもあります。まずは以下の図をご覧ください。
IPOとICOの最も大きな違いは、「IPOに比べてICOの方が手軽にスタートを切りやすい」という点です。というのも、ICOは、IPOには見られない以下のようなメリットがあるからです。
- 第三者を通した監査を必要としない
- 出資者による経営の参画がない
- 短期間(半年ほど)での資金調達が可能である
1との関係において、IPOは、第三者による厳しい監査をクリアしており、その意味で上場の確実性が担保されているというメリットを持っています。
ICOはその性質上、高い投機性を有するため、
- 資金集めが難航することも視野に入れなければならない
というデメリットはあるものの、そのことを差し引いても新規事業者にとってはすぐに実施しやすい資金調達方法であるということがいえます。また、ICOにおける「トークン」はIPOにおける「株」とは違い、さまざまな付加価値をつけることにより、貨幣としての役割を超えたものにもなります。
(2)銀行などの金融機関を利用(借入)する場合との違い
資金を調達するための方法として真っ先に思い付くのは、銀行などの金融機関から融資を受けることではないでしょうか。たとえば、起業資金として1500万円が必要だとしましょう。働いてコツコツとお金を貯めていては途方もなく時間がかかります。銀行などから融資を受けることができれば、その時間を大幅に短縮し、新規事業をスピーディにスタートさせることができます。
ですが、銀行などの金融機関から融資を受けることは、簡単なことではありません。銀行などの金融機関を利用する場合、
- 当然、エクイッティとは違い返済義務がある
- 審査に時間がかかり、事業のスタートが遅れる
- 金利の負担が必要
- 新規事業者で光る実績や安定した収益予測をアピールできないと、希望する額の資金調達が中々難しい
といったデメリットがあり、スタートアップの事業者はなかなか取っつきにくい資金調達方法であるということがいえます。
他方でICOは、
- 自己資金を用意する必要がない(※もっとも、システムの開発費などはかかる)
- 第三者による審査がない
- 金利の負担がない
- 投資家からどれだけ資金を集められたかで資金調達の成功・失敗が判断される
といったメリットがあり、銀行などの金融機関を利用する場合におけるデメリットをクリアしています。スピードと参入のしやすさを重視するのであれば、ICOを行う意義は大きいということがいえます。
(3)クラウドファンディングとの違い
「クラウドファンディング」とは、プラットフォームと呼ばれる専用のサイトから「こんなこと(商品開発やサービス提供など)をやるので資金を提供してください!」と呼びかけ、共感を得た人から資金を支援してもらうことにより資金を調達することをいいます。「クラウドファンディング」は、CAMPFIREやMakuakeなどで活発に行われています。
クラウドファンディングとICOは、インターネット上で不特定多数の人を相手に少額から支援(ICOでは投資)を受けることができるという点において共通しています。
また、投資家は、開発された商品やサービス、特典(ICOではトークン)など、何らかの対価を受け取るという点においても共通しています。
他方で、両者において異なる点は、支援(投資)を行った際に何を提供するのか、という点です。ざっくりいうと以下のような違いがあります。
- クラウドファンディング:商品やサービス、特典を提供する
- ICO:トークンを提供する
そのほかにもICOは、
- トークン自体にさまざまな付加価値をつけることができる
- トークンを通貨として使えるため、第三者への権利移転などが簡単である
などといったように、クラウドファンディングでは見られない特徴をもっています。
より本質的な違いは、makuakeなどの購入型クラウドファンディングでは、リターンが単なる「物」であるのに対して、トークンの場合には、それが上場している場合には、現金との交換可能性があり、かつ「値上がり」が観念できる点で「投機性」があることです。
こういった点からも、投資家が得られるメリットが数多くあるため、ICOの方が資金を集めやすいということがいえます。
以上のように、ICOはIPO・クラウドファンディングに比べて事業者からみたメリットがたくさんあります。以下で、ICOのメリットをさらに具体的にみていきましょう。
3 ICOをするメリット
(1)事業者側のメリット
事業者がICOを行うメリットとして以下の点が挙げられます。
- 第三者を通すことを必要とせずに、プラットフォームなどを通して直接投資家とやり取りができるため、手数料などを抑えることができる
- インターネット上で取引をするため、国を問わず、多くの投資家から短期間で投資してもらえ、時間短縮にも繋がる
- 通常の資金調達方法とは異なり、事業を始めたいと考える人であれば、誰でもICOをすることができる
- 投資家からの共感を得られれば、資金が集まるため、先鋭的なビジネスに注目が集まる
- 事業者の考えでICOの規模を決定できるため、低額からの資金調達が可能である
- 投資を受けた金銭を返済する必要がない
- 資金調達のプロセスが同時にプロダクトのPRになること
以上のことをまとめると、ICOは事業者にとって、自社のビジネスに賛同した投資家から低コストで直接スピーディーに資金調達をすることを可能にする方法であるということがいえます。
「スタートアップでお金がないけど早くこのサービスをローンチしたい。」と考えている事業者にとってはうってつけの資金調達方法であるということがいえます。
(2)投資家側のメリット
では反対に投資家側の視点に立ったメリットはどのようなものがあるのでしょうか。
投資家側のメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 少額で世界中のICOに参加できる
- 投資した事業が成功した場合、大きな利益を生むことを期待できる(ハイリスクハイリターン)
- 個人でも投資できる
- ネット上だけで参加できる
- 事業者の仮想通貨によっては特典等がついている場合がある(投資した事業の範囲内で使用できるなど)
以上のことをまとめると、ICOは投資家にとって、いつでも気軽に少額で参加でき、場合によっては、大きな利益を得ることができる投資方法であるということがいえます。
このように、ICOは従来の資金調達方法にないメリットを多く持っています。他方で、デメリットも少なからず存在します。ICOを検討するにあたっては、以上で解説したメリットと以下で解説するデメリットを天秤にかけて、慎重に判断することが必要です。
4 ICOのデメリット・リスク
ICOのデメリット・リスクについても、まずは事業者側から具体的に見ていきましょう。
(1)事業者側のデメリット・リスク
事業者側から見た場合、ICOのデメリットとして挙げられるのは以下のような点です。
- プロジェクトに賛同してもらえなければ、資金を集めることは難しいため、実現可能性の高いビジネスプランを作る必要がある
- ICOに失敗すると大きな損失を投資家に与える可能性があり、企業の信用の失墜にもつながる可能性がある
- 今後の法律規制によっては、非常に困難な資金調達方法になる可能性がある
- 現在の法律規制について、その解釈が簡単ではないため、法律規制に引っかかってしまう可能性がある
- 自社のホワイトペーパーに記載のあるプロジェクトメンバーの経歴などは、投資家にとって投資をするかどうかの重要な判断材料になるため、優秀な人材を揃えることができない場合は投資家から信用を得にくい
- 行き過ぎたPRや投資家のメリットばかりを売り文句にすると、かえって怪しまれてしまうため戦略的なPR方法でないと失敗に終わる可能性が高い
このように、ICOをしたい事業者は、投資家の判断材料となるプロジェクトやそのプロジェクトメンバーなどについて、投資家を納得させられるだけの高い精度が求められるのと同時に、現在や今後のICOへの法律規制について、きちんとした理解があることを求められます。
(2)投資家側のデメリット・リスク
他方で、ICOにおける投資家側のデメリットとしては以下のような点が挙げられます。
- 投資した事業が失敗すると資産を失う可能性がある
- いわゆる「ICO詐欺」といった詐欺目的の事業者が存在する
- 事業が成功しても、仮想通貨に価値がつかなければ利益を得ることができない
- その事業が成功する保障がないため投資の判断が難しい
投資家にとって、投資をするかどうかの判断材料は、その大半が不確定要素であるため、ある程度のリスクが伴うのはやむをえません。また、詐欺まがいな案件も多く、事業者が打ち立てているプロジェクトが確実に進む保障もありません。投資家にとって最大のデメリットは、投資により自分の資産を失う可能性があるということです。ですので、投資家は投資をするかどうかについて、より慎重に判断することが求められます。
ICOは他の資金調達に比べてメリットも多い反面、デメリットもあります。事業者・投資家共に、これらをきちんと踏まえた上でICOの実施・参加を検討する必要があります。
次の項目では、ICOをするうえで気になる「他社事例」について、成功事例と失敗事例のそれぞれに分けて、ポイントを示しながら解説します。
5 国内ICOの成功事例と失敗事例
まず始めに、ICOに成功した事例について、資金調達額の順にそのランキングを見てみましょう。以下の表をご覧ください。
以上からもわかるように、ICO成功事例の多くは海外で行われたものですが、今回は日本国内でのICO事例に絞って、その一部をご紹介したいと思います。
(1)ICOの成功例
①COMSA
「COMSA」は、仮想通貨交換取引所であるZaifの運営母体であるテックビューロ社が開発・運用しているブロックチェーンの総合的なプラットフォームです。
日本の企業では、初となるICOプラットフォームであり、プラットフォーム内で扱われるトークンはCOMSAトークンと呼ばれ、CMSと略されています。
CMSは、
- 現行の経済とクリプト経済(ブロックチェーン技術を取り入れた経済)との懸け橋となるプロジェクトを掲げている
- ブロックチェーンを用いたビジネスとICOのスタートアップのサポートを行う
- COMSAプラットフォーム内のICO案件はZaifへ自動的に上場する
などの特徴を持っており、トークンセール開始から約1ヶ月で、世界のICO案件で歴代6位となる約109億円の資金調達に成功しました。
②ALIS
仮想通貨「ALIS」は日本企業の日本人開発メンバーによる初のICO案件であるため、一躍有名になりました。
ALISには、
- 悪質な広告などを排除し、より良い記事を作成、発見することができる
- 次世代のCtoCコミュニケーションを掲げた分散型のソーシャルプラットフォーム
- すでに海外の取引所では上場を果たしている
などの特徴があります。ICO開始後、日本円にして1億円の資金調達まで4分で到達し、最終的に4381人に及ぶ参加者によって約4.3億円(13,182ETH)の資金調達に成功しました。
(2)ICOの失敗と評価されている事例
①Metamo
「Metamo」とは、メタモ株式会社が発行するトークンです。
メタモ社は「Metamo card」と呼ばれるカードに、労働者自身がスマートフォンのGPS(全地球測位システム)位置情報を用いて勤務状況を記録する仕組みを作り上げました。以下が「Metamo card」です。
http://www.meta-mo.co.jp/metamo-card/
Metamoには、主な特徴として、
- 労働者ひとりひとりが持つスキルを一見して分かるようにし、これまでの就労実績に対して客観的な評価を下すことができるビジネスモデル
- メタモカードを使用することにより職歴の確かな証拠として提示することができ、迅速に就職活動を始めることができる
- サービス開始の段階から世界中での事業展開を掲げる
などがあります。このように非常に先鋭的なビジネスモデルを打ち出したことで、海外の投資家からは一定の人気を博しており、日本国内企業としては初となるICO案件に注目が集まりました。ですが蓋を開けると、約3万ドル(日本円で約300万円)ほどしか資金が集まらず、数億円を集めるという当初の目論見は外れてしまう結果になりました。
その原因として、
- ホワイトペーパーにトークンの価値の上昇に関する内容が不足していた
- 事前告知が2週間、一般のPRに関してはプレスリリース配信の代行サービスのみといったようにPRが不足していた
といった点が挙げられます。
②160倍確定コイン(瀬尾恵子)
ゴールドマンサックスに勤務していたという経歴を謳い、「400兆円市場のプラットフォームを対象とした最低でも160倍の値上がり確定のICO」と大々的に広告を打ち出したICOです。
160倍確定コインの特徴は、
- 160倍の値上がり確定を謳う
- 至るところで「三日間限定」などの表記を用いて、射幸心を煽るような宣伝広告
- 信頼できる情報という点をプッシュする
などといった点にありました。一瞬にして目を引く広告でもあるため、当然、投資家からは注目の的となり一時話題となりました。ですが、蓋を開けてみると、
- 瀬尾氏が過去に在籍していたということをゴールドマンサックス社が否定(元ゴールドマンサックス勤務という肩書きは虚偽表示)
- 瀬尾恵子という氏名自体についても虚偽の可能性が指摘される
など、160倍確定コインは、詐欺的な要素が大きく話題になりました。その結果ICOは中止となり、動画やHPも削除されました。
このように見てくると、事業者が打ち出すプロジェクトや上場の実現可能性などがICO成功に与える影響は小さくなく、また、ホワイトペーパーの精度やPRについても重要な要素であり、この点に不備などがあると、ICOの失敗にもつながりかねないということがいえそうです。
以上は、ICOに関する実際の事例の成功例と失敗例について見てきました。それでは、実際にICOはどのように進んでいくのでしょうか。以下で、資金調達にいたるまでのICOの具体的なやり方・手順について見ていきたいと思います。
6 ICOのやり方・手順
事業者が行うICOについて、まずは全体の流れを確認しましょう。下の図をご覧ください。
以下で、順番に見ていきましょう。
(1)ICOスキームの構築
ICOをするにあたり、まず始めに行うことはスキームの構築です。後で詳しく解説しますが、日本国内でICOをする場合には、法律規制を回避する形でトークンを設計していく必要があります。
具体的には、以下の2点のうち、どちらかを選択することから出発することになります。
- 改正資金決済法上で定義されている「仮想通貨」にあたらないようにトークンを設計してICOを進める
- 「仮想通貨」にあたることを前提に「仮想通貨交換業」の登録を受けてICOを進める
なぜ「仮想通貨」にあたらないようにトークンを設計する必要があるのかというと、トークンが改正資金決済法上の「仮想通貨」にあたり、その仮想通貨を使って一定のサービスを提供するためには、「仮想通貨交換業」の登録を国から受けなければならないためです(例外として、仮想通貨交換業の登録を受けているプラットフォームを利用してトークンの販売などを行う場合には登録を受ける必要はありません)。
仮想通貨交換業の登録を受けるためには、財産的な基盤があり、また、一定の社内体制を整備していることなどが必要であるため、非常にハードルが高いものになっています。そのため、とくにベンチャー企業などにとっては登録を受けることはかなり難しいといえます。ですので、日本国内でICOを行うのであれば、①のスキームによりICOを進めていくことが現実的であるといえます。
(2)ICOの事前準備
ICOのスキームを構築したら、実際にICOを行うための事前準備をします。
具体的には、以下のとおりです。
- 独自トークンを発行
- ICOのためのWebサイトを作成
- ホワイトペーパーの作成
それぞれについて、簡単に見ていきましょう。
①独自トークンを発行
独自トークンの発行方法は下記のとおり、いくつか存在します。
- カウンターパーティにて発行
- イーサリアムにて発行
- wavesにて発行
- ビットコインなどの公開オープンソースを参考にしながら自社で発行
- スマホアプリを使って発行
自社の意向に沿った方法を選択して、独自トークンを発行します。
②ICOのためのWebサイトを作成
ICOのためのWebサイトを作成する必要があります。なぜなら、投資家はこのICO専用のサイトから情報を収集することにより、ICOに参加するかどうかを判断します。ですので、下記のように、投資家が適切な判断ができるだけの情報を掲載する必要があるのです。
- ICOの日程
- ホワイトペーパー
- トークンの価格
- トークンを購入するための手順と送金アドレス
実際にICOを行っている事業者が公開しているICO専用のサイトを参考にするのも一つの方法です。
③ホワイトペーパーの作成
「ホワイトペーパー」とは、ICOの全容を記載したもので、いわゆる事業計画書のことです。ホワイトペーパーは、投資家にとって、投資するかどうかを判断するための大変重要な資料です。事業者は、できるだけ多くの投資家から資金を集めるために、ホワイトペーパーにおいて、自社のプロジェクトをアピールすることになります。
(3)ICOアナウンス
次に、ICOを周知するためのPRを行います。たとえば、自社ホームページやSNSを使ってPRすることが考えられます。また、メディアを利用するのも一つの方法でしょう。ここでは、いかに多くの投資家に自社のICOを知ってもらえるかということがポイントになります。
(4)オファーの設定
「オファー」とは、実施するICOに関し、事業者と投資家との間で具体的に定めた契約内容のことをいいます。ホワイトペーパーと重複する項目もありますが、たとえば、ICOの開始日・締切日や、発行されるトークンの性質などを契約内容にします。オファーを設定したあとは、その内容を自社ホームページなどに掲載することで投資家がすぐに確認できるようにします。その後は、オファーの内容にしたがって取引が行われることになります。
(5)Presale(プレセール)
「プレセール」とは、ICOをする直前に通常価格より安く売りだしたり、特典の付与などをおこなうことをいいます。プレセールは、一部の投資家のみを対象にしている場合や、高額な最低投資額が設定されている場合もあり、一般の投資家が参加できないケースも少なくありません。
(6)トークンセール
ここまできたら、いよいよ本番ともいうべきトークンセールの実施です。プレセールとは異なり、不特定多数の投資家から資金を集める点において「クラウドファンディング」にも似ていることから、別名「クラウドセール」ともいいます。事業者によっては、トークンセールにいくつかの段階を設け、それぞれの段階で特典を付与したりしています。
(7)ICO実施後の管理・運用
トークンセールを終え、資金調達に成功したあとは、投資家と円滑なコミュニケーションを図り、IR活動を行うことになります。並行して、集めた資金によってプロジェクトを進めていくことになります。
以上が、ICOの全体的な流れになります。この中でも特に重要なのが、ICOスキームの構築です。なぜなら、自社が発行するトークンが仮想通貨にあたるかどうかで、その後事業者がとるべき対応が変わってくるからです。つまり、自社トークンが仮想通貨にあたる場合、事業者は、さまざまな法律上のハードルをクリアしなければなりません。
以下で、法律上のハードルについて、詳しく見ていきたいと思います。
※ICOの手順・流れについて、詳しく知りたい方は「ICOのやり方とは?仮想通貨での資金調達3つの方法を弁護士が解説」をご覧ください。
7 ICOを行う上での法律上のハードル(デメリット)
日本国内でのICOについて、成功事例が少ない大きな要因の一つとして、ICOを行う上でさまざまな法律規制が関係してくる点が挙げられます。
そこで最後に、ICOへの法律規制がどうなっているのか、その法律規制を乗り越える方法があるのかなどについて解説していきます。
(1)法律規制の全体像
事業者がICOをする際には、発行するトークンやICOスキームなどについて以下の点を検討することから始まります。
- 改正資金決済法上の「仮想通貨交換業」にあたらないか?
- 改正資金決済法上の「前払式支払手段」にあたらないか?
- 金商法上の「ファンド規制」にあたるか?
- 税金はどうなっているのか?
順番に見ていきましょう。
(2)ポイント①:「仮想通貨交換業」の法律規制
既に見てきたように、発行トークンが改正資金決済法上の「仮想通貨」にあたる場合において、その仮想通貨を使って一定のサービスを提供するためには、仮想通貨交換業の登録を受けなければなりません。ここでいう「仮想通貨」とはどのような通貨をいうのでしょうか。
この点、改正資金決済法は、仮想通貨を以下のように定義しています。
- 物品の購入や借受け、またはサービスの提供を受ける場合に、これらの代価の支払いのために不特定の人に対して使用できること(要件その1:不特定性)
- 不特定の人との間で購入・売却をすることができる財産的価値であること(要件その2:財産的価値)
- 電子機器その他の物に電子的方法によって記録され、電子情報処理組織を用いて移転できるものであること(要件その3:電子的記録)
- 日本通貨や外国通貨などの法定通貨でないこと(要件その4:非法定通貨)
これらの要件をすべてみたすトークンは「仮想通貨」にあたりますが、その場合に必ず仮想通貨交換業の登録が必要になるといわけではありません。仮想通貨交換業の登録が必要になるのは、あくまで仮想通貨を使って「仮想通貨交換業」を営む場合です。それでは、ここでいう「仮想通貨交換業」とはどのような事業のことをいうのでしょうか。改正資金決済法は、「仮想通貨交換業」を以下のように定義しています。
- 仮想通貨の売買、または仮想通貨同士の交換
- 「①」の媒介・取次・代理
- 「①・②」に関して、利用者の金銭や仮想通貨を管理すること
- 以上の行為を「事業」として行うこと
+
以上の要件のうち、①~③のいずれか(実質的には①~②)をみたし、かつ、④をみたす場合、その事業は仮想通貨交換業にあたることになるため、仮想通貨交換業の登録を受けなければなりません。もっとも、仮想通貨交換業の登録を受けるためには、クリアしなければならないハードルがいくつもあるうえ、実際に登録を受けられるまでに約1年の期間を必要としているのが現状です。このようなことからも、仮想通貨にあたらないようにトークンを設計することが重要なポイントとなるのです。
なお、仮想通貨にあたらないトークン設計の一例として、①譲渡制限付きのトークンが考えられます。また、②自社トークンが仮想通貨にあたることを前提として、仮想通貨交換業の登録を受けることなく、ICOを合法的に行うスキームとして、登録を受けている他の仮想通貨交換業者に諸々を委託する販売委託スキームや、③トークンセールにおける売買の対象をトークンの引換予約権とする引換予約権スキームなどがあります。
以上のことを検討した結果、自社トークンが「仮想通貨」にあたらないとしても、次に検討しなければならないことがあります。それは、自社トークンが「前払式支払手段」にあたるかどうかという点です。以下で「前払式支払手段」の法律規制について、詳しく見ていきましょう。
※仮想通貨交換業について詳しく知りたい方は、「仮想通貨交換業の法律規制とは?改正資金決済法を弁護士が5分で解説」をご覧ください。また、日本国内でのICOにおける合法的スキームについて詳しく知りたい方は、「ICOのやり方とは?仮想通貨での資金調達3つの方法を弁護士が解説」をご覧ください。
(3)ポイント②:「前払式支払手段」の法律規制
「前払式支払手段」とは、あらかじめ現金でポイントなどを購入(チャージ)し、そのポイントなどを使って支払いなどにあてるといった仕組みをもつものをいいます。身近な例でいうと、ギフト券、Suicaやitunesカードなどがこれにあたります。
前払式支払手段は、以下の3つの要件をすべてみたすものをいいます。
- 金額または数量が記載・記録されていること(価値の保存)
- 金額・数量に応ずる対価を得て発行されること(対価性)
- 代金の支払いなどに使用できること(権利行使)
トークンを設計する際には、改正資金決済法上の「仮想通貨」にあたらないように設計する必要があるのと同時に前払式支払手段にもあたらないように設計する必要があります。なぜなら、自社トークンが前払式支払手段にあたってしまうと、その事業者には、
- 表示義務
- 供託義務
- 行政への継続的報告義務
- 払い戻し義務
といった義務が課せられることになるからです。
この中でも供託義務は、少なくとも500万円以上の大金を国に預けなければならないとするものであり、特にスタートアップ企業にとっては大変厳しいものになっています。
そのためにも、繰り返しになりますが、事業者は、「前払式支払手段」にあたらないようにトークンを設計する必要があるのです。
仮に、自社トークンが「前払式支払手段」にあたるにもかかわらず上に挙げた義務に違反した場合、
- 最大3年の懲役
- 最大300万円の罰金
のいずれか、もしくは両方が科される可能性があります。
※「前払式支払手段」について詳しく知りたい方は、「アプリ内課金を導入する際に知りたい!資金決済法4つのポイントとは」をご覧ください。
(4)ポイント③:「ファンド規制」
「ファンド」とは、投資家から集めた資金を事業や有価証券に投資し、そこから得た利益を投資家に分配する仕組みのことをいいます。集団投資スキームと呼ばれることもあります。
金融商品取引法は【①投資家から資金を出資してもらう→②出資を受けた資金で事業を展開→事業により得た利益を投資家に分配する】というモデルを「ファンド規制」の対象としてています。
ICOにおいても、その際に発行するトークンが上記と同じモデルであれば、ファンド規制の対象になる可能性があります。つまりは、発行トークンが【①投資家から仮想通貨により出資してもらう(トークンを仮想通貨で購入する)→②投資家が保有するトークンの持ち分に応じて利益を分配する】というモデルであれば、ファンド規制の対象になる可能性があります。
もっとも、ファンド規制の対象となるのは「出資者が金銭や有価証券によって出資した場合」とされています。ICOは、仮想通貨による投資が前提となっていますので、「金銭や有価証券による出資」にはあたらず、ファンド規制の対象には含まれないと思われるかもしれません。
ですが、この点について、金融庁はICOガイドラインで以下のように述べています。
「ICOが投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます」
仮想通貨は取引所で簡単に日本円などの法定通貨に換金できますので、ICOのスキームによっては、仮想通貨により出資を受けたとしても、実質的には金銭で出資を受けたことと同じだと見られる可能性があるということを意味しています。
仮に、ファンド型トークンがファンド規制の対象になる場合、事業者が出資を受ける行為は「第2種金融商品取引業」にあたるため、第2種金融商品取引業として国から登録を受けなければなりません。
もっとも「第2種金融商品取引業」の登録を受けるためには、
- 資本金が1000万円以上であること
- 人的・物的な管理体制の完備
といった高いハードルを乗り越えなければなりません。
また、これらのハードルを乗り越え「第2種金融商品取引業」の登録を受けることができたとしても、金融庁の管理の下、第2種金融商品取引業者として、以下のような義務を課せられます。
- 顧客に対しての誠実公正義務
- 名板貸の禁止
- 広告規制
- 契約締結前の書面交付
- 契約締結時の書面交付
- 禁止行為など
以上のように、ファンド規制の対象になってしまうと、ICOの障害にもなりかねません。そのため、ICOをする際にはファンド規制の対象にならないようにスキームを設計する必要があります。
仮に、国から登録を受けることなく、第2種金融商品取引業を行うと
- 最大5年の懲役
が科される可能性がありますので注意が必要です。
(5)ポイント④:「税金」の法律規制
これまでに見てきた法律規制を乗り越え、資金調達に成功したとしても、調達した資金に税金はかかってくるのか?という問題を考えなければなりません。たとえ資金調達に成功したとしても、多額の税金をもっていかれては、プロジェクトの遂行に支障が出るおそれがあります。そのようなことにならないためにも、税務についてきちんと理解しておくことは重要なことです。
そこで最後に、ICOにより調達した資金と税金の関係について、見ていきたいと思います。
ICOを行った事業者が納付すべき税金は、次の2種類です。
- 法人税等
- 消費税
それぞれの税金について、以下で簡単に見ていきましょう。
①法人税等
「法人税」とは、法人が得た収入を課税対象とする税金のことをいいます。ICOを行った事業者は、調達した資金の計上の仕方によっては、法人税を納付する必要があります。計上の仕方は、以下の3通りです。
- 収益計上
- 負債計上
- 資本計上
もっとも、現状において、確立されている考え方はありませんが、ICOによって調達した資金は「売上」として扱われる可能性が高いと考えられます。その場合、「収益計上」による課税ということになりますが、法人税は「法人住民税」と「法人事業税」も併せて納付する必要があります。これらを合わせた法人実効税率は30%を超えるため、ICOを行う際には、この点も念頭に置いておかなければなりません。
②消費税
発行トークンが消費税の課税対象になるかどうかは、以下のように整理することができます。
- 発行トークンが仮想通貨にあたる→非課税
- 発行トークンが仮想通貨にあたらない→調達した資金額に対して8%の消費税がかかる可能性あり
もっとも、設立して1年目の事業者は、経済的な基盤が弱いため、消費税が非課税になる可能性があります。
※ICOと税金の問題について詳しく知りたい方は「ICOにおける日本・中国・アメリカ各国の法律規制を弁護士が解説!」をご覧ください。
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以上のように、ICOには、数多くのメリットとデメリットが存在します。ICOをする際には、特にデメリットについての理解が必要不可欠になってきます。メリットだけに気をとられてしまうと、ICOをうまく進められなくなったり、場合によっては、途中で諦めなければならないということにもなりかねません。自社の事業とデメリットを照らし合わせることにより、ICOをできるかどうかを見極めることが重要です。
9 まとめ
これまでの解説をまとめると以下のとおりです。
- ICOとは、発行トークンを投資家に仮想通貨で購入してもらい、その仮想通貨を現金に換金することで資金を集める方法である
- 仮想通貨はカレンシータイプとアセットタイプに分かれ、アセットタイプはセキュリティトークンとユーティリティトークンに分かれる
- トークンは、仮想通貨型トークン、優待会員型トークン、プリペイド型トークン、ファンド型トークン、アプリケーション・プラットフォーム型トークンの5つに分類されている
- ICOは、①ユーザーと決済代行会社との間におけるトラブルの懸念がなく、②トークンにさまざまな付加価値をつけることができ、③トークン自体を通貨として利用できることから、第三者への権利の移転などが簡単であるというメリットがある
- ICOは、事業者にとって、①資金調達までのスピードが速く、②ビジネスプラン一つで投資家から賛同を得ることができ、③投資家が事業に口を出すことがなく、④ブロックチェーンによって幅広く流通する、というメリットがある
- ICOは、投資家にとって、①少額から参加でき、②ハイリターンを期待でき、③ネット上で取引が完結し、④場合によってはさまざまな特典を受け取ることができる、というメリットがある
- ICOは、事業者にとって、①プロジェクト内容に賛同を得られない場合にはまったく資金が集まらない、②失敗したときのダメージが大きい、③法律規制が定まっていないため、判断が難しい場面がある、などのデメリットがある
- ICOは、投資家にとって、①事業が破綻した場合、投資金は戻ってこない、②詐欺または詐欺まがいな案件に引っかかる可能性がある、③価値上昇、上場の確実性がない、などのデメリットがある
- ICOは、①ICOのスキームを構築→②ICOの事前準備→③ICOアナウンス→④オファー期間の設定→⑤Presale(プレセール)→⑥トークンセールの実施→⑧ICO完了後の運用・管理など、といった手順を踏む
- ICOの際は、①改正資金決済法上の「仮想通貨交換業」にあたらないか?②改正資金決済法上の「前払式支払手段」にあたらないか?③金商法上の「ファンド規制」にあたるか?④税金はどうなっているのか?という点を検討する