
目次
はじめに
コンプライアンスの重要性が増す昨今、不祥事などを起こしてしまうと、その後の経営にも多大な影響を及ぼします。
「偽装請負」も、その一つでしょう。
「偽装請負」の問題は、報道でも大きく取り上げられることが多く、事業者が受けるダメージは計り知れません。
そのため、事業者は、偽装請負と判断されないように注意する必要がありますが、どのようにして、偽装請負の該当性を判断したら良いのか、わからないという方もいらっしゃると思います。
そこで今回は、偽装請負の内容とその判断基準を中心に、弁護士がわかりやすく解説します。
1 偽装請負とは
「偽装請負」とは、その実態が労働者派遣であるにもかかわらず、請負契約という形式をとっているものをいいます。
本来、労働者派遣を事業として行う場合には、労働者派遣法上の許可・届出などが必要になります。
ですが、請負契約という形式をとることで、これらの規制を潜脱しているのが「偽装請負」です。
偽装請負は、職業安定法や労働基準法などで禁止されており、これに違反すると、罰則が科される可能性もあります。
このように、偽装請負は、労働者派遣法上の規制を回避するために、請負契約を偽装するというやり方で行われます。
2 偽装請負の判断基準
偽装請負にあたるかどうかは、契約内容や実際の運用状況などを基に判断されます。
以下の4点は、その際の判断基準であり、このうち一つでも満たさない基準があると、偽装請負に該当します。
- 事業主が作業の完成についてすべての責任を負うものであること
- 作業に従事する労働者を指揮監督するものであること
- 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律上の義務を負うものであること
- 単に肉体的な労働力を提供するものでないこと
(1)事業主が作業の完成についてすべての責任を負うものであること
請負契約では「仕事の完成」が目的となるのに対し、偽装請負では「労働者の派遣」が目的となります。
そのため、請負人である事業者が、仕事の完成について一切の責任(財政上および法律上の責任)を負っているかどうかを判断する必要があります。
(2)作業に従事する労働者を指揮監督するものであること
作業に従事する労働者を指揮監督するのが「請負会社」であることが必要です。
たとえば、労働者を指揮監督する請負会社が注文者の指揮命令下に置かれており、注文者の指揮命令を忠実に再現しているに過ぎないような場合は、請負会社が労働者を指揮監督しているとはいえません。
この点は、実態によって判断されるため、注意するようにしましょう。
(3)作業に従事する労働者に対し、使用者として法律上の義務を負うものであること
通常の請負契約では、作業に従事する労働者は請負会社に雇用されていることがほとんどです。
ですが、偽装請負では労働者の雇用主が曖昧であることが少なくなく、また、社会保険の加入など、雇用主が使用者としての義務を果たさないまま労働者を派遣してしまうこともあります。
また、雇用関係があるにもかかわらず、使用者としての義務を回避するために、下請契約や業務委託契約を締結するケースも少なくありません。
作業に従事する労働者との関係で責任の所在が曖昧になっていないか、また、下請契約や業務委託契約を結んでいる場合には指揮監督関係がどうなっているかなどを確認することが必要です。
(4)単に肉体的な労働力を提供するものでないこと
自ら提供する機械や設備、材料などを使用し、または、専門的な技術や経験を必要とする作業であって、単に肉体的な労働力を提供するものでないことが必要です。
たとえば、マイホームの建築に係る契約は、請負契約の典型例ともいえますが、この場合に必要となる機械や原材料などは、請負人である建築会社が提供することが一般的です。
これに対し、派遣労働者が派遣先で使用するパソコンなどは、多くの場合、派遣先会社が提供します。
このように、作業をするにあたって必要となる機械や設備などの提供元は、契約の実態を判断する際の一要素となります。
また、請負契約は、請負人の専門的な技術や経験に着目した契約であるからこそ、請負人は仕事の完成という重い義務を負うことになるのです。
単に肉体的な労働力を提供する者に対して、仕事の完成義務を負わせることはあまりに酷であるため、その意味でも当然の要件だといえます。
以上の4つの要件をすべて満たす場合には、基本的には、合法的な請負ということになります。
もっとも、4つの要件をすべて満たしている場合でも、それが法規制を免れるために偽装された契約である場合には、偽装請負として処罰対象となるため注意が必要です。
3 偽装請負を行った場合の罰則
偽装請負を行った事業者は、以下の罰則を科される可能性があります。
(1)労働者派遣法による罰則
労働者派遣事業を無許可で行ったとして、事業者(請負会社)は、
- 最大1年の懲役
- 最大100万円の罰金
のいずれかを科される可能性があります。
(2)職業安定法による罰則
禁止される労働者供給事業を行ったとして、事業者(請負会社)と注文者の双方に、
- 最大1年の懲役
- 最大100万円の罰金
のいずれかが科される可能性があります。
(3)労働基準法による罰則
偽装請負が行われるケースでは、請負会社による中間搾取が問題となることがあります。
労働基準法は、中間搾取を禁止しており、これに違反した場合、
- 最大1年の懲役
- 最大50万円の罰金
のいずれを科される可能性があります。
4 まとめ
偽装請負にあたるかどうかは、実態に即して判断されることになります。
偽装請負に該当してしまうと、罰則を科されるだけでなく、取引先の信頼・社会的な信頼を失う可能性があります。
そうならないためにも、契約内容や運用状況を基に、今回見てきた4つの基準をきちんと満たしているかどうかを確認することが大切です。
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