労働者派遣契約とは?定めるべき事項と3つの注意点を弁護士が解説!

2022.06.10

はじめに

ベンチャー企業や中小企業では、自社で雇用する従業員を他社に派遣するなどして、その対価を得ることがあります。

この場合、その実態が労働者派遣事業に該当するかどうかをきちんと確認し、労働者派遣に該当するのであれば、派遣先との間で「労働者派遣契約」を締結する必要があります。

この点を適当に管理していると、いわゆる「偽装請負」等の問題が発生する可能性もあるため、注意が必要です。

今回は、「労働者派遣の該当性」と「労働者派遣契約を作成する際の注意点」などを弁護士がわかりやすく解説します。

1 労働者派遣契約とは

労働者派遣契約」とは、言葉のとおり、労働者派遣を内容とする契約のことをいいますが、ここでいう「労働者派遣」について、労働者派遣法は以下のように定義しています。

    【労働者派遣法2条1号】

    第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

    一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする


これを言い換えれば、以下の3つの要件をいずれも満たす場合は、「労働者派遣」に該当するということになります。

  1. 派遣元と派遣労働者の間に雇用関係があること
  2. 派遣先が派遣労働者を指揮命令すること
  3. 派遣元と派遣先の労働者派遣契約に基づき、労働者を派遣先に派遣すること


これらの要件のうち、特に重要となるのが「指揮命令関係の有無(上記要件2)」です。

派遣先と派遣労働者の間に指揮命令関係がない場合は、労働者派遣にあたらないため、労働者派遣法の規制対象とはなりません。

これに対し、派遣先と派遣労働者の間に指揮命令関係があり、その他の要件も満たす場合には、「労働者派遣」として取り扱われることになります。
これは「請負契約」という名目で契約を締結している場合であっても、契約の名称等には左右されません。
実態において上記要件を満たす場合には、労働者派遣として取り扱われるということです。

労働者派遣事業は、厚労省による許可が必要とされているため、無許可で行うと「偽装請負」として罰則を受ける可能性もあるため、注意が必要です。

2 労働者派遣契約に定めるべき事項

労働者派遣契約に定めるべき事項は、約20項目にも上ります。

たとえば、以下のような事項が挙げられます。

  • 派遣労働者の人数
  • 派遣労働者が従事する業務の内容
  • 派遣労働者が労働に従事する事業所の名称・所在地など
  • 派遣労働者を指揮命令する者に関する事項
  • 労働者派遣の期間と派遣就業をする日
  • 派遣就業の開始と終了の時刻、休憩時間


このほかにも、安全・衛生に関する事項や派遣労働者による苦情の処理に関する事項など、定めるべき事項は多岐にわたります。

労働者派遣契約を締結する際には、これらの事項がすべて契約に盛り込まれているかどうかをきちんと確認する必要があります。


※労働者派遣契約に定めるべき事項について詳しく知りたい方は、厚労省が公表している「労働者派遣事業関係業務取扱要領(令和3年1月1日以降) 第5 労働者派遣契約」をご覧ください。

3 労働者派遣契約を締結する際の注意点

労働者派遣法は、2020年4月に改正法が施行されています。

そのため、労働者派遣契約を締結する際には、改正点も踏まえたうえで、以下の点に注意する必要があります。

  1. 派遣労働者が負う責任の程度
  2. 労使協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否か
  3. 情報提供に関する事項

(1)派遣労働者が負う責任の程度

労働者派遣契約では、「派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度」を定めなければなりません。

ここでいう「業務に伴う責任の程度」とは、派遣労働者が従事する業務について、派遣労働者に付与されている権限の範囲・程度を意味します。

厚労省の業務取扱要領によれば、派遣元と派遣先において、派遣労働者が従事する業務に伴う責任の程度について共通の認識を持つことができるよう、具体的に定めることが望ましいとされています。

たとえば、派遣労働者に一定の権限が付与されているかどうかで、責任の程度に係る定め方も以下のように異なります。

    【権限を付与する場合】

    派遣労働者の責任の程度は次のとおりとする。

  • リーダー(部下5名に対する指示及び助言)
  • 週1回のトラブル緊急対応処置

    【権限を付与しない場合】

    派遣労働者の責任の程度は次のとおりとする。

  • 役職なし
  • 所定外労働なし

(2)労使協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否か

労働者派遣契約では、「労使協定方式の対象となる派遣労働者に限るか否か」を定めなければなりません。これは、いわゆる同一労働同一賃金の考え方の下に、正規社員と非正規労働者の待遇格差を発生させないようにするための定めです。

これに伴い、派遣元は、派遣労働者の待遇(賃金など)について、以下のいずれかを選択する必要があります。

  • 労使協定方式:派遣労働者と同じエリアで同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金と同等以上になる賃金を定める方式
  • 派遣先均等・均衡法式:派遣される企業の労働者の待遇に合わせる方式


たとえば、以下のような定め方が考えられます。

    【派遣労働者を協定対象労働者に限るか否かの別】

      協定対象派遣労働者に限る

(3)情報提供に関する事項

労働者派遣法上、派遣先は、派遣元の求めがあったときは、 ①派遣先が提供するよう配慮しなければならない情報や②派遣先の労働者に関する情報を提供するなどして必要な協力をするよう配慮しなければなりません。

もっとも、これはあくまで派遣先において配慮義務が課されているというレベルに留まるため、強制力までは認められません。

派遣元においては、情報提供の必要性・重要性などとの関係で、場合によっては「配慮義務」ではなく、「情報の提供義務」として派遣先に義務付けることを検討する必要があります。

たとえば、以下のような定め方が考えられます。

    【派遣先の労働者に関する情報提供】

    派遣先は、派遣元が労働者派遣法第〇〇条、第〇〇条などで定められる措置を適切に講じることができるよう、派遣元の請求に応じて、派遣先の労働者に関する情報及び派遣労働者の業務の遂行状況その他の必要な情報を派遣元に提供しなければならない

4 まとめ

自社の従業員を他社に派遣する場合には、労働者派遣の該当性をきちんと確認しておく必要があります。

労働者派遣契約を締結する必要がある場合には、改正労働者派遣法を踏まえ、定めるべき事項を漏れなく契約に盛り込むようにしましょう。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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