取締役の善管注意義務とは?義務に違反した場合の2つの責任を解説!

はじめに

取締役になると、株主や取引先、会社などに対する責任が従業員よりも重くなります。
そのなかでも特に重要なものが「善管注意義務」です。

言葉自体知っている方は多いかもしれませんが、具体的にどのような義務なのかわからないという方もいらっしゃると思います。
善管注意義務に違反すると、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があるなど、重大な結果を招くおそれもあるため、役員などはその意味を必ず押さえておく必要があります。

そこで今回は、取締役が負う「善管注意義務」について、その概要を弁護士がわかりやすく解説します。

1 善管注意義務とは

善管注意義務」とは、業務の委任を受けた人がその分野の専門家として一般に期待される注意義務のことをいいます。

会社と従業員は雇用関係にありますが、会社と取締役は雇用関係にはなく委任関係にあります。
そのため、取締役は従業員のように会社から指揮命令されることはなく、自分の裁量で取締役としての職務を遂行しなければなりません。

このように、取締役は、会社との委任関係に基づき受任者としての責任を負い、それが「善管注意義務」と呼ばれるものです。

2 善管注意義務が問題となるケース

善管注意義務が問題となるケースは、大きく以下の3つに分けることができます。

  1. 法令等に違反した場合
  2. 会社による違法行為を見つけられなかった場合
  3. 経営判断を誤って会社に損害を与えた場合

(1)法令等に違反した場合

取締役が職務を遂行するにあたり、法令等に違反した場合は善管注意義務違反となります。

また、会社が行う意思決定には取締役が関与するため、取締役が直接法令等に違反しなくとも会社をして法令等に違反させた場合には善管注意義務に反すると考えられます。

(2)会社による違法行為を見つけられなかった場合

取締役に課される義務の一つに「監視義務」があります。

監視義務」とは、他の取締役などがきちんと職務を遂行しているかを監視しなければならないというものです。

たとえば、他の取締役が法令等に違反しようとしている場合、そのことに気付いた別の取締役はその違反行為をやめさせるために必要な措置をとらなければなりません。

監視義務は、会社全体の業務にその範囲が及ぶため取締役は自身が担当している業務に限らず、広く業務全般を監視する必要があります。
担当外の業務について法令違反があった場合でも、監視義務違反に問われる可能性があるため注意が必要です。

(3)経営判断を誤って会社に損害を与えた場合

取締役などが行う経営上の判断には「経営判断の原則」というものがあります。

経営判断の原則」とは、取締役が行う経営上の判断について、決定の過程や内容に不合理な点がない場合は、たとえその判断によって会社に損害が生じたとしても、取締役としての善管注意義務違反にはあたらないとする考え方です。

取締役は、自社の経営についてさまざまな意思決定を行いますが、その決定がすべて正しいとは限りません。場合によっては、会社に損害を与えることもあります。

すべての意思決定に関して取締役に責任を負わせることは酷であり、経営判断を萎縮することにも繋がります。
経営判断の原則は、以上のような場面で取締役に善管注意義務違反があったかどうかを判断するための基準として機能する原則です。

経営判断の原則の下では、主に以下の2点から取締役に善管注意義務があったかどうかが判断されます。

  1. 判断の前提となった事実について十分な調査が行われたか
  2. 事実に基づいた意思決定の過程が不合理なものではないか


このように、経営判断に誤りがあっても、それだけで直ちに善管注意義務違反となるわけではなく、その判断過程において十分な注意が尽くされていなかった場合にはじめて善管注意義務違反となります。

3 善管注意義務に違反した場合の責任

善管注意義務に違反した取締役は、以下の責任を負う可能性があります。

(1)任務懈怠による損害賠償責任

任務懈怠」とは、取締役としての任務を怠ることをいい、善管注意義務に違反することも任務懈怠にあたります。

    【会社法423条1項】

    取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う


このように、善管注意義務に違反する形で任務を怠った取締役は、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。

(2)第三者に対する損害賠償責任

取締役の任務懈怠が原因となって第三者に損害を与えた場合、取締役は第三者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

    【会社法429条1項】

    役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う


このように、第三者に対する損害賠償責任が認められるためには、取締役による任務懈怠に「悪意または重過失」が認められることが必要です。

4 まとめ

通常の従業員とは異なり、取締役には広い裁量が認められていますがそれだけ責任も重くなります。

取締役に課される善管注意義務は抽象的な概念でもあるため、イメージを掴みにくいかもしれません。
重要なポイントは、業務全般に対し十分な注意力をもって取り組んでいくことにあるといえます。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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