はじめに

仮想通貨ウォレット事業」をする場合にも何らかの法律上の規制があるのでしょうか?

昨今、金融庁による仮想通貨ビジネスへの規制がかなり厳しくなっているため、仮想通貨ウォレット事業社も当然に法規制が気になりますよね。

そこで、仮想通貨ウォレット事業を行う場合の法律規制がどうなっているのか?具体的には、仮想通貨取引所を運営する場合のように、仮想通貨交換業のライセンス(登録)が必要になるのか?それ以外にも法規制があるのか?などについて、仮想通貨に強い弁護士が解説していきます。

    【この記事でわかること】

  • 仮想通貨ウォレット事業者は、①仮想通貨交換業の規制、②資金移動業の規制、の対象となるかを検討する必要がある
  • 仮想通貨ウォレットに持たせる「機能」によって規制対象となるかどうかが決まる
  • 2018年11月12日に開かれた金融庁仮想通貨交換業等に関する研究会(第9回)によれば、ウォレット事業者に対して仮想通貨交換業の規制をかけていく方向で議論された(ただし、私見ではこの方向には懐疑的)

1 仮想通貨ウォレットの種類

ウォレットの種類

(1)仮想通貨ウォレットとは?

仮想通貨ウォレット」とは、文字どおり、仮想通貨を管理するための「財布」のことをいいます。仮想通貨ウォレットを持つことにより、仮想通貨を保管したり、他のウォレットに仮想通貨を送金できるようになります。

よりわかりやすくいうと、以下の2つの機能を足したようなイメージです。

  • 私たちが日常的に持ち歩く「財布」
  • 私たちが開設している「銀行口座」

以上のことを前提に、仮想通貨ウォレットの種類について以下で見てみましょう。

(2)仮想通貨ウォレットの種類

仮想通貨ウォレットは、以下のとおり大きく分けて4種類あります。

  1. ウェブウォレット(web型)
  2. ソフトウェアウォレット(アプリ型)
  3. ハードウェアウォレット(クライアント型)
  4. ペーパーウォレット

仮想通貨ウォレットの種類
もっとも、法的にメインで検討すべきは、①ウェブウォレット(web型)、②ソフトウェアウォレット(アプリ型)の二つになります。

そして、ポイントとなるのは、秘密鍵をユーザーと事業者のどちらで保管することになるのか?という点です。これはハッキングのリスクひいては、法規制の必要性に関係するため、この点に留意しながら以下の解説をご覧ください。

①ウェブウォレット(web型)

ウェブウォレット(web型)」とは、ウォレット業者が管理する秘密鍵をユーザーがオンラインで操作することによって、仮想通貨を管理できるウェブサービスのことをいいます。ユーザーがウェブサービスに登録する際に、仮想通貨の保管を事業者に委託し、ユーザーが仮想通貨を管理するために必要な秘密鍵はウォレット業者のサーバー上で管理されます。そのため、ユーザーはウォレット業者のサーバーにアクセスして仮想通貨を管理することになります。

ウェブウォレットを利用するためには、Blockchain.combitFlyerなどの仮想通貨取引所で口座を開設する必要があります。

②ソフトウェアウォレット(アプリ型)

ソフトウェアウォレット(アプリ型)」とは、ウォレットアプリをスマホなどの端末にダウンロードし、その端末上で仮想通貨を管理できるサービスのことをいいます。このタイプのウォレットは、ウェブウォレット(web型)とは異なり、秘密鍵はユーザーの端末で管理されることになります。

アプリ型ウォレットを利用するためには、Wei WalletHB Walletなどを自分の端末にダウンロードする必要があります。

③ハードウェアウォレット(クライアント型)

ハードウェアウォレット(クライアント型)」とは、仮想通貨や秘密鍵を管理できるデバイスのことをいいます。ユーザーは、このデバイスをパソコンなどの端末に接続して仮想通貨の送受信を行います。たとえば、Gincoなどがこれにあたります。

このタイプのウォレットは、秘密鍵をウォレット業者ではなく、ユーザー自身が管理する点で、②アプリ型ウォレットと同じです。

④ペーパーウォレット

ペーパーウォレット」とは、秘密鍵や秘密鍵を復元するために必要なパスワードを、紙などの媒体に記録して保存する方式のことをいいます。ユーザーは、相手方にこれらの情報を伝えることによって、仮想通貨の送受信を行います。

 

以上のように、ウォレットにはそれぞれに違った特徴があります。

では、仮想通貨ウォレット事業は誰でも自由に行えるものなのでしょうか。何かしらの法規制を受けるのでしょうか。次の項目から順番に見ていきましょう。

2 ポイント①:仮想通貨交換業の登録は必要か?

仮想通貨交換業の登録

(1)問題の所在

ウォレットには、仮想通貨の保管や送受信といった機能しか備えていないものもあれば、他の仮想通貨と交換できる機能を備えているものも存在します。

他の仮想通貨と交換できる機能を備えている場合、「仮想通貨取引所が行う仮想通貨同士の交換などに似ている」ということがいえるため、仮想通貨取引所に求められる仮想通貨交換業のライセンスが必要になるのではないか、という問題が出てきます。

この点について、以下で検討していきたいと思います。

(2)仮想通貨交換業とは

仮想通貨交換業」とは、以下のことを事業として行うことをいいます。

  1. 仮想通貨の「売買・交換」
  2. 「①」に関する仮想通貨の「管理」

ウォレット事業に交換業のライセンスが必要がどうかについては、これら2つの視点から、実質的に仮想通貨交換業にあたるかどうかを検討する必要があります。

既に見てきたように、仮想通貨ウォレットは、

    Ⅰ.管理・送受信しかできないもの
    Ⅱ.他の仮想通貨と交換できるもの

とに分かれます。これら2つのタイプのウォレットについて、交換業該当性を検討すると次のようになります。

  • Ⅰのウォレット→①・②いずれにも該当しない
  • Ⅱのウォレット→①に該当する

以上からすると、Ⅰの機能しかもたないウォレットを提供する事業に交換業のライセンスは必要ありませんが、Ⅱの機能をもつウォレットを提供する事業を行うには交換業のライセンスを求められる可能性があります。

では、ウォレット事業が交換業にあたる場合、ライセンスの取得とは別にどのような規制を課せられるのでしょうか。以下で見ていきましょう。

(3)仮想通貨交換業に該当する場合の規制

ウォレット事業が交換業にあたると、交換業のライセンスを取らなければならないうえに以下の規制を課せられることになります。

  1. 財務規制
  2. 行為規制
  3. 監督規制
  4. マネロン規制

それぞれの規制について、簡単に見ていきましょう。

①財務規制

資本金が1,000万円以上であることや純資産額がマイナスでないことが必要です。

②行為規制

ユーザーに係る情報を安全に管理するための態勢ユーザーへの説明義務を果たすための態勢がきちんと整備されていなければなりません。また、ユーザーから預かった財産を分別管理する義務が課せられます。

③監督規制

帳簿書類の作成・保存義務報告書の提出義務が課せられます。また、一定の場合に、管理当局により立入検査業務改善命令などを受けることがあります。

④マネロン規制

マネロンなどの犯罪を防止するために、取引時における本人確認義務疑わしい取引の届出義務などが課せられます。

以上のように、ウォレット事業が交換業にあたると、色々と面倒な規制をかけられることになります。後に詳しく説明しますが、先日開かれた仮想通貨交換業等に関する研究会(第9回)においても、まさにこの点が討議されています。

3 ポイント②:資金移動業の登録は必要か?

資金移動業

(1)問題の所在

ウォレット業者は、ユーザーから預かった仮想通貨をウォレットで保管します。もっとも、ユーザーの依頼に基づき、預かった仮想通貨を他のウォレットに送金するような場合、その業務態様が「銀行」の業務と似てきます。

銀行業務を行う場合には、業務の重大性から「資金移動業の登録」が求められているため、ウォレット事業についても「資金移動業の登録」が必要なのではないかという問題が出てきます。

この点について、以下で検討していきましょう。

(2)資金移動業とは

資金」とは、金銭や簡単に現金化できる預金などのことを指し、価格のボラティリティ(変動性)があるものや簡単に現金化できないものは資金にあたらないと考えられています。

たとえば、現金や預金通貨、譲渡性預金、外貨などは「資金」にあたります。このような資金の移動を事業として行う場合に「資金移動業の登録」が必要になってきます。

では、ウォレット事業は資金移動業にあたるのでしょうか。言い換えると、仮想通貨は「資金」にあたるのでしょうか。

この点、ビットコインなどの仮想通貨は法定通貨(FIAT)ではないため、基本的に資金にはあたらず、資金移動業の登録を受ける必要はありません。

もっとも、著名な仮想通貨であるビットコインは簡単に現金化できるため、資金にあたるのではないかという疑問が出てきます。この点、ビットコインは価格のボラティリティが高いため、「一定の」固定金額で現金化できるわけではありません。そのような意味で、法定通貨(ボラティリティがない)としての実態があるとまでは言えず、「資金」にあたらないと考えられます。

このように、ウォレット事業は原則として資金移動業にあたらないため、資金移動業の登録は必要ありません。もっとも、以下のような場合には例外的に資金移動業の登録を求められる可能性がありますので注意が必要です。

①ボラティリティがほとんどない仮想通貨(=ステーブルコイン)

ビットコインなどとは違い、ボラティリティがほとんどない仮想通貨は法定通貨としての実態があるといえるため、「資金」とみなされる可能性があります。

たとえば、ステーブルコイン(Stable Coin)はボラティリティがなく、価格が一定であるため、「資金」とみなされる可能性が高いと考えられます。

②実質、現金を移動しているのに等しいケース

交換業者が、ユーザーの依頼に基づき、預かった金銭を仮想通貨に交換したうえで自社もしくは他社のウォレットに送信するような場合には注意が必要です。このような場合、移動させた対象は仮想通貨であるものの、実質的には金銭を移動させたといえるため、「資金」とみなされる可能性があります。

 

以上のように、ウォレット事業は一部例外的なケースを除いて、交換業や資金移動業にあたりません。そのため、ウォレット事業を始めるうえで、交換業や資金移動業のライセンスを取る必要はありません

この点に関し、先日開かれた仮想通貨交換業等に関する研究会(第9回)ではどのような討議がなされたのでしょうか。最後に確認しておきましょう。

4 金融庁 仮想通貨交換業等に関する研究会(第9回)

研究会第9回

(1)現状への認識

ウォレット事業は、仮想通貨の売買などを業務内容としていないため、仮想通貨交換業にはあたらず、ウォレット事業を運営する上で、ライセンスは不要とされています。もっとも、以下の点を踏まえると、現状を維持するのではなく、一定の規制を導入することが期待されるといった意見が出されています。

  • ウォレット事業にも、交換業と同様にサイバー攻撃などによる仮想通貨の流出リスクやマネロン・テロ資金供与のリスクがあること
  • ウォレット事業もマネロン・テロ資金供与規制の対象に入れることを各国に求める旨の勧告がFATF(金融活動作業部会)において採択されたこと

このようなリスクなどを踏まえ、ウォレット事業に対しても、交換業に課せられる規制と同じような規制をかけていくとの認識が示されています。

以下で、もう少し具体的に見てみましょう。

(2)規制の内容

ウォレット事業に対しても、そのリスクなどを踏まえ、交換業に課せられる以下の規制と同じ規制をかけていくとの認識が示されています。

  • 登録制
  • 内部管理体制の整備
  • 業者の仮想通貨と顧客の仮想通貨の分別管理
  • 分別管理監査、財務諸表監査
  • 仮想通貨流出時の対応方針の公表、弁済原資の保持
  • 利用者保護又は業の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる仮想通貨を取り扱わないこと
  • 顧客の本人確認(マネロン)、疑わしい取引の当局への届出など

このように、ウォレット業者に対しても交換業と同様の規制を課すことが必要かという点について討議が持たれたのは、ハッキングなどによって事業者が保管する秘密鍵へのアクセスを許してしまうようなケースがあることへの問題意識があったためです。

ですが、送受信・管理機能だけを備え、交換機能を備えていないのであれば、そのようなウォレットは仮想通貨を「交換・売買」しているということにはなりません。

また、アプリ型ウォレットに至っては、ユーザーが直接自分の端末で秘密鍵を管理することになるため、事業者が秘密鍵を管理することはありません。

そうすると、事業者が保管する秘密鍵への不正アクセスを防止するために課されている交換業規制をそのままアプリ型ウォレットを提供するウォレット事業にまで及ぼすのは、行き過ぎであるとも考えられます。

5 小括

まとめ

仮想通貨ウォレット事業は、基本的に交換業や資金移動業にあたらないため、登録を受ける必要はありません。もっとも、ウォレットに備わる機能であったり、取り扱う仮想通貨の性質などによっては、それぞれの登録を求められる可能性がありますので、注意が必要です。

また、金融庁も現状はウォレット事業は交換業にあたらないという立場に立っていますが、今後ウォレット事業に対しても交換業規制をかけていく方向で議論がされているため、今後予定されている研究会など金融庁の動向にも注意が必要です。

6 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のようになります。

  • 仮想通貨ウォレットは、①ウェブウォレット(web型)、②ソフトウェアウォレット(アプリ型)、③ハードウェアウォレット(クライアント型)、④ペーパーウォレットの4種類に分かれる
  • 管理・送受信機能しかないウォレットを提供する事業に交換業のライセンスは必要ないが、他の仮想通貨と交換できる機能をもつウォレットを提供する事業には交換業のライセンスを求められる可能性がある
  • ウォレット事業が交換業にあたると、①交換業のライセンス取得、②財務規制、③行為規制、④監督規制、⑤マネロン規制が課せられる
  • ウォレット事業に資金移動業の登録は原則として必要ないが、①ボラティリティがほとんどない仮想通貨(=ステーブルコイン)を取り扱っているケース、②実質、現金を移動しているのに等しいケース、といった場合には資金移動業の登録を求められる可能性がある
  • 金融庁は、現状ウォレット事業は交換業にあたらないとしているが、今後ウォレット業者に対しても交換業規制が課される可能性がある
  • ウォレット事業にも交換業規制を課すということになった場合、①登録制、②内部管理体制の整備、③分別管理、④内部監査、⑤仮想通貨流出時の対応方針の公表など、⑥利用者保護など、⑦顧客の本人確認(マネロン)などがウォレット事業者に課されることになる