
はじめに
近時、スタートアップが資金調達をする際には、普通株式ではなく、種類株式が発行されるとよく聞きますが、そもそも種類株式が何か分からない事業者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、種類株式を発行するには、定款に書かなければいけないと聞くけど、事業者からしてみれば、定款にどのように書いていいかという点も分かりにくいですよね。
そこで、今回は、種類株式とは何かということや、種類株式を発行する場合の定款への記載例を弁護士がわかりやすく解説していきます。
目次
1 種類株式とは
「種類株式」とは、特殊な権利が一切設定されていない株式(=普通株式)とは異なる権利内容が設定された株式のことをいいます。
たとえば、普通株式では認められている権利を制限したり、普通株式に優先した権利をつけたりした株式は、種類株式となります。
法律上、発行が認められている種類株式は、以下のように9つのタイプにわかれています。
- 剰余金の配当
- 残余財産の分配
- 議決権制限株式
- 譲渡制限株式
- 取得請求権付株式
- 取得条項付株式
- 全部取得条項付株式
- 拒否権付株式
- 役員選任付株式
種類株式は、剰余金の配当については普通株式をもつ株主に優先させるけど、議決権については無しにする、といったように、これらのタイプを組み合わせて、発行されます。
株式会社がこれらの種類株式を発行する場合には、「定款」に、取り扱う株式の権利内容やどれだけの数の株式を発行するかといったことをあらかじめ書かなければいけないことになっています。
「定款」とは、個々の会社が自ら定めた自社の基本的なルールのことで、会社の目的や株式、株主総会、決算などといった事項について定めています。
もっとも、種類株式を発行する際に、定款にあらかじめ書かなければいけないといっても、具体的な内容が決められないこともありますよね。
このような場合、具体的な内容については、その種類株式をはじめて発行するときまでに、株主総会の決議などで決めるといった具合に、定款には、大まかな内容(内容の要綱)のみを定めることが認められている事項もあります。
それでは、これら9つのタイプの種類株式について、それぞれどういった内容の株式なのか、発行する場合には定款にどのような内容を記載すべきなのか、その記載例を以降の項目では説明していきます。
2 剰余金の配当
(1)剰余金の配当とは
「剰余金の配当」とは、会社が生み出した利益(=剰余金)を、株主に分けることをいいます。株式会社は、株主が出資したお金で成り立っています。そのため、株式会社は、株主に対して、株式会社が生み出した利益を配当という形でリターンするのです。
剰余金の配当において種類株式を発行する場合、
- 普通株式よりも有利な配当(優先配当)を受けられるパターン
- 普通株式よりも少ない配当しか得られないパターン
- 配当が一切ないパターン
といった種類株式の発行が想定されますが、一般的に発行されることが多いのは、優先配当のパターンです。
なぜなら、優先配当を受けられる株式は普通株式よりも有利な内容のため、その価値(=株価)が高くなり、普通株式の発行に比べて、少ない株式発行で、多くの出資が見込めるようになるからです。
では、優先配当とは、普通株主に対してどのような点で有利にすればいいのでしょうか。
これには、以下のとおり2つのタイプがあります。
- 参加型・非参加型
- 累積型・非累積型
①参加型・非参加型
優先配当を受けられる株主(=優先株主)が普通株式をもつ株主(=普通株主)よりも先に配当を受けたあと、さらに配当するお金が残っていれば、普通株式しか持たない普通株主への残額の配当が行われます。「参加型」とは、この普通株主への残額の配当の際に、優先株主に追加で配当を受けることができる権利を持たせることをいい、「非参加型」とは、追加で配当を受ける権利を持たせないことをいいます。
参加型・非参加型は、簡単に説明すると以下の図のようになります。
②累積型・非累積型
「累積型」とは、ある年に優先配当すべきお金が足りない場合には、翌年に不足分を繰り越させて、配当を増やすことをいい、「非累積型」は、繰り越しを行わないことをいいます。
累積型・非累積型を簡単に説明すると以下の図のようになります。
このように、優先配当といっても様々なタイプがあります。
(2)定款で書くべきこと
剰余金の配当に関する種類株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければならない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 配当財産の種類
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 配当財産の価額の決定方法
- 配当条件その他配当に関する取扱い
繰り返しとなりますが、内容の要綱のみで足りる事項は、具体的な内容を定めなくとも、その種類株式をはじめて発行する時までに株主総会などの決議によって具体的な内容を定めることを定款に記載することも可能になっています。
(3)記載例
それでは、剰余金配当についての種類株式の定款への記載例をみていきましょう。
なお、本解説では、種類株式を「A種株式」、A種株式とは別の種類株式を「B種株式」、A種株式を持っている株主のことを「A種株主」としています。
①普通株式よりも有利な配当(優先配当)を受けられるパターン
第〇条
1 当会社は、A種株主に対し、普通株主に先立ち、A種株式1株あたり●円を優先配当する。
参加型・非参加型、累積型・非累積型について定款に定める場合は、上記1項に続く、2項、3項として定款に記載してください。
【参加型】
2 当会社は、A種株主に対し、優先配当金のほかに、普通株主に対して交付する配当財産と同額の配当財産を交付する。
【非参加型】
2 当会社は、A種株主に対し、優先配当金を超えて剰余金の配当は行わない。
【累積型】
3 A種株主に対し、当会社が支払う1株あたりの剰余金の配当の額の合計額が、当該事業年度の末日において、A種配当金の額に達しないときは、その不足額は翌事業年度に累積し、その不足額については、普通株主に先立って、A種株主に配当する。
【非累積型】
3 ある事業年度において、A種株主に対して支払う金銭による剰余金の配当金の額がA種配当金の額に達しないときは、その不足額は翌事業年度以降に累積しない。
②普通株式よりも少ない配当しか得られないパターン
第〇条
当会社が剰余金を配当する場合には、金銭を配当するものとし、その配当金の額はA種株式1株に対して普通株式1株に対する配当額の0.5倍とする。
③配当が一切ないパターン
第〇条
当会社は、A種株主に対し、剰余金の配当は行わない。
④内容の要綱のみを定めるパターン
第〇条
当会社は、A種株主に対し、1株当たり●円を上限として優先配当するものとし、具体的な金額および配当条件は発行時に取締役会決議において定める。
3 残余財産の分配
(1)残余財産の分配とは
「残余財産の分配」とは、会社経営が立ち行かなくなり解散・清算する場合に、負債をすべて返し終わった後に会社にのこった財産(=残余財産)を株主にわけることをいいます。なぜこのような内容の株式があるかというと、会社の経営がうまくいかずに倒産したり、合併により会社がなくなってしまう場合に、残余財産を普通株主よりも先に分配してもらうことで、株主が少しでも投資した額を回収できるようにするためです。
なお、負債をすべて返し終わって、会社に財産が残っていなかった場合は、株主にわける財産はないため、残余財産の分配は行われません。
残余財産の分配についても、参加型・非参加型といったタイプがあります。残余財産の分配における「参加型」とは、優先分配を受けた後の普通株主への残額の分配の際に、優先株主に追加で分配を受けることができる権利を持たせることをいい、「非参加型」とは、優先株主には優先分配だけをし、追加で分配を受ける権利を持たせないことをいいます。
残余財産の分配において種類株式を発行する場合、
- 普通株式よりも有利な分配(優先分配)を受けられるパターン
- 普通株式よりも少ない分配しか得られないパターン
- 分配が一切ないパターン
といった3つが考えられます。このうち、一番発行されているのは、優先分配をおこなうパターンの種類株式です。なぜなら、優先配当と同じように、株価が高くなり、少ない株式発行で、多くの出資をしてもらえるためです。
(2)定款で書くべきこと
残余財産の分配に関する種類株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 残余財産の種類
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 残余財産の価額の決め方
- 残余財産の分配に関する取扱いの内容
(3)記載例
それでは、残余財産の分配についての種類株式の定款への記載例を見ていきましょう。
①普通株式よりも有利な分配(優先分配)を受けられるパターン
第〇条
1 当会社は、A種株主に対し、普通株主に先立ち、A種株式1株あたり●円を優先分配する。
参加型・非参加型については、上記1項に続く、2項、3項として定款には記載してください。
【参加型】
2 A種株主に対して前項の優先分配金が分配された後に普通株主へ残余財産を分配するときは、A種株主に対し、A種株式1株あたり、普通株式1株あたりの残余財産分配額と同額の残余財産の分配を行う。
【非参加型】
2 A種株主に対しては、前項のほか、残余財産の分配は行わない。
②普通株式よりも少ない分配しか得られないパターン
第〇条
当会社は、普通株主に対し、A種株主に先立ち、普通株式1株あたり●円を優先分配する。
③配当が一切ないパターン
第〇条
当会社は、A種株主に対し、残余財産の分配は行わない。
④内容の要綱のみを定めるパターン
第〇条
当会社は、A種株主に対し、普通株主に先立ち、1株あたり●円を上限として優先分配するものとし、具体的な金額は発行時に取締役会決議において定める。
4 議決権制限株式
(1)議決権制限株式とは
「議決権」とは、株主総会において、会社の運営の仕方やお金の使い方などの議題に対し、株主が賛成・反対などの票をいれることができる権利のことをいいます。
そして、「議決権制限株式」とは、ある事項については票を入れられないといったように議決権を限定する内容の株式のことをいいます。
この議決権制限株式は、経営に関与する気がなく、配当や株価の値上がりにしか興味がない株主と、経営に口出しをされたくない会社側の、双方の要望を満たす株式だといえます。そのため、議決権制限株式は、優先配当と組み合わせることが多いです。
議決権制限株式を発行する場合、
- 一部の議決権を制限するパターン
- 議決権を全く与えないパターン
の2つが考えられます。
会社は、どうしてもある議題だけは株主に関わってほしくないといった場合に、一部の議決権を制限することが考えられます。また、株主に一切口出しされずに自由に経営したいという場合には、議決権を全く与えないパターンの株式を発行することが考えられます。
(2)定款で書くべきこと
議決権制限株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 株主総会において議決権を行使することができる事項
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 議決権を行使するときの条件を定めるときは、その条件
(3)記載例
それでは、議決権制限株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①一部の議決権を制限するパターン
第〇条
A種株主は、取締役の選任について議決権を行使できないものとする。
②議決権を全く与えないパターン
第〇条
A種株主は、株主総会において決議すべき全ての議案について議決権を行使できないものとする。
③内容の要綱を定めるパターン
第〇条
A種株主は、次の各号についてのみ議決権を行使することができるものとし、具体的な権利行使条件は取締役会決議において定める。
(1) 取締役の選任
(2) 〇〇
5 譲渡制限株式
(1)譲渡制限株式とは
「譲渡制限株式」とは、譲渡された株式を取得して株主となるために、会社から「いいよ!」と承認をもらわなければいけないない株式のことをいいます。「いいよ!」と社内のどこが承認するについては、原則として取締役会がある会社は取締役会、取締役会がない会社は株主総会、となっています。
もっとも、定款にあらかじめ定めておくことで、どこが承認するかを好きなように設定できます。
(2)定款で書くべきこと
譲渡制限株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 譲渡による株式の取得には会社の承認が必要であること
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 会社の承認があったこととする条件がある場合はその旨など
(3)記載例
それでは、譲渡制限株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①取締役会の承認が必要とするパターン
第〇条
当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する。
②内容の要綱を定めるパターン
第〇条
1 当会社の株式を譲渡により取得するには、取締役会の承認を要する。
2 当会社の株式を譲渡により取得するに際し、取締役会決議で定めた一定の場合に該当する場合には、取締役会の承認があったものとみなす。
6 取得請求権付株式
(1)取得請求権付株式とは
「取得請求権付株式」とは、株主が、会社に対して「持っている株式を買い取ってくれ!」と要求することができる株式のことをいいます。
会社は、株主に対して、株式を買い取る対価として、お金だけでなく、普通株式、社債、新株予約権、他のタイプの種類株式などを対価として支払うことができます。
この取得請求権付株式があることで、会社の経営にふさわしくない者に株式がわたらないよう譲渡制限をかけた場合にも、会社が株式の買い取りを保障することになります。そのため、株式を売りたくても売れないという事態がおきないことから、株主の投資を促す効果があります。
取得請求権付株式を発行する場合は、
- 対価がお金であるパターン
- 対価がお金以外であるパターン
の2つがあります。
対価としてよく使われるものはお金と普通株式です。
対価としてお金が選ばれるのは、たとえば、投資家による会社(スタートアップなど)への投資において、上場前に投資家がイグジットを図る場合です。
会社が株式上場をする目標時期を定め、その時期を過ぎた場合には、取得請求を行使することができるようにすることで、上場前であっても、投資家は、リターンを得ることができる場合があります。
一方、対価として普通株式が選ばれるのは、たとえば、会社が上場準備をスムーズに行いたい場合です。
上場準備として種類株式は普通株式に転換されることが一般的です。この際、取得請求権を株主が行使して普通株式に転換を行えば、会社側から働きかけて株主のもつ種類株式を普通株式へ転換させる場合(後に説明する取得条項付株式や全部取得条項付株式)に比べ、一部処理の手間と時間を省くことができるため、上場準備をスムーズに行うことができるようになります。
(2)定款で書くべきこと
取得請求権付株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 株主が会社に自分の持っている株式を買い取るように要求できること
- 会社が株主から株式を買い取るのと引き換えに株主に渡す対価の種類
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 会社が株主から株式を買い取るのと引き換えに株主に渡す対価の内容や金額、計算方法などの内容
- 株主が株式の買い取りの要求をできる期間
(3)記載例
それでは、取得請求権付株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①対価がお金であるパターン
第〇条
A種株主は、次の各号に定める取得の条件で、当会社がA種株式を取得するのと引換えに金銭の交付を請求することができる。
(1)取得と引換えに株主に交付する金銭の額
A種株式1株あたり●円とする
(2)取得請求が可能な期間
令和△年△月△日から令和▲年▲月▲日までとする
②対価がお金以外であるパターン
第〇条
A種株主は、次の各号に定める取得の条件で、当会社がA種株式を取得するのと引換えに普通株式の交付を請求することができる。
(1)取得と引換えにA種株主に交付する普通株式の数
A種株式1株につき、普通株式●株とする
(2)取得請求が可能な期間
令和△年△月△日から令和▲年▲月▲日までとする
③内容の要綱を定めたパターン
第〇条
A種株主は、当会社がA種株式を取得するのと引換えに金銭の交付を請求することができるものとし、具体的な対価の内容や取得請求が可能な期間については、取締役会決議において定める。
7 取得条項付株式
(1)取得条項付株式とは
「取得条項付株式」とは、一定の事由が発生した場合に、会社が強制的に株式を取得することができる株式のことをいいます。取得請求権付株式と似ていますが、請求できるのが、会社という点で取得条項付株式とは異なります。また、「強制的」とあるように、株主の同意は不要です。
もっとも、同意は不要だとしても、会社は、株主に対価を支払う必要があります。
対価としては金銭や、金銭以外のものを渡さなければなりません。金銭以外のものとして、普通株式、社債、新株予約権、他のタイプの種類株式などが挙げられます。
取得条項付株式を発行することで、会社が意図していない人へ株式が渡ることを防ぐことができます。
たとえば、「株主が死亡したとき」を一定事由とすることが考えられます。
株式は相続される財産のひとつとされていることから、株主が死亡した場合、通常であれば、その株主の相続人になる家族などが株式を相続し、あたらしく株主となるはずです。もっとも、株主の死亡という一定事由にあたるため、会社が強制的に株式を取得し、会社が意図していない相続人が株主になることを防ぐことができます。
取得条項付株式を発行する場合は、
- 対価をお金とするパターン
- 対価をお金以外とするパターン
の2つがあります。
対価をお金以外とする場合には、上場を見越して普通株式を対価とすることが考えられます。
株式上場後に、種類株式を市場で売却するためには、普通株式に転換する必要がありますが、普通株式より有利な種類株式が、株主によって上場後に普通株式に転換されると、普通株式の価値が下がってしまうことがあります。
そのため、このようなことが発生しないよう、種類株式は、上場前に普通株式に転換されることが一般的です。もっとも、普通株式の転換に自発的に応じてくれない株主もいます。このような場合には、取得条項を行使し、普通株式を対価として、会社が強制的に株式を取得するのです。
(2)定款で書くべきこと
取得条項付株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
なお、(★)がついている事項は一定の事由として特別なことを定めた場合に、具体的に書かなければならなくなる事項のことを示しています。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 一定の事由が生じたときに会社が株式を株主から取得できること
- 一定の事由として「会社がこの日ときめた日がくること」とする場合にはその旨(★)
- 一定の事由が生じた場合に、一部の株式だけを会社が取得する場合はその旨やもらうことにする一部の株式の決め方(★)
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 一定の事由
- 株主にわたす対価の種類や額など
(3)記載例
それでは、取得条項付株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①対価をお金とするパターン
第〇条
1 当会社は、次の各号に定める取得事由が生じた場合には、当該A種株主の株式を取得し、当会社はこれと引換えに、金銭をA種株主に交付する。
(1)自然人であるA種株主が死亡したとき
(2)A種株主が破産又は民事再生の申立をしたとき
2 前項の取得と引換えに当会社がA種株主に交付する金銭の額はA種株式1株あたり●円とする
②対価をお金以外とするパターン
第〇条
1 当会社は、株式上場する旨を取締役会において決議した場合には、A種株式の取得と引き換えに普通株式を交付する。
2 前項の取得と引換えに当会社がA種株主に交付する普通株式の数はA種株式1株あたり、普通株式●株とする。
③内容の要綱を定めたパターン
第〇条
1 当会社は、A種株主に取締役会決議で定める取得事由が生じた場合には、当該A種株主の株式を取得する。
2 前項の取得の引換えに当会社がA種株主に交付する対価は取締役会で定めるものとする。
8 全部取得条項付株式
(1)全部取得条項付株式とは
「全部取得条項付株式」とは、株主総会の特別決議によって、会社が株主のもっている株式すべてを取得することができる決まりがある株式のことをいいます。会社は、株主からすべての株式を取得する対価として、お金や株式といったお金以外のものを株主に与えます。もっとも、対価をなしと設定することも可能です。
全部取得条項付株式は、株主全員の同意がなくとも、株主総会の特別決議さえあれば、全株式の取得を実行できるため、会社の経営権を取得できていない少数株主を排除するための手段として活用されることが多いです。
全部取得条項付株式を発行する場合、
- 対価をお金とするパターン
- 対価をお金以外とするパターン
- 対価をなしとするパターン
の3つがあります。
対価をお金以外、たとえば普通株式とするのは、取得条項付株式と同様に、上場前に種類株式を普通株式に転換することが目的であることが多いです。なお、取得条項付株式と異なり、取得する一定の事由は定款で定めておく必要はありません。
また、対価をなしとするパターンは、たとえば、経営不振にある会社が、新株主のもとで再生を図る場合などに使われます。
(2)定款で書くべきこと
全部取得条項付株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【必ず書かなければいけない事項】
- 株主に渡す対価の価額の決定方法
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 株主総会の決議をすることができるか否かについて条件を定めるときは、その条件
(3)記載例
それでは、全部取得条項付株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①対価をお金とするパターン
第〇条
1 当会社は、株主総会の特別決議で、会社法第171条第1項各号に規定する事項を定めることにより、A種株式の全部を取得することができる。
2 前項に基づき、当会社がA種株式を取得する場合、当会社は取得の対価として、A種株式の取得と引き換えに、A種株式1株あたり●円を交付する。
②対価をお金以外とするパターン
第〇条
1 当会社は、株主総会の特別決議で、会社法第171条第1項各号に規定する事項を定めることにより、A種株式の全部を取得することができる。
2 当該取得を行う場合には、当会社はA種株式の取得と引き換えに、A種株式1株につきB種類株式を〇分の1の割合をもって交付する。
③対価をなしとするパターン
第〇条
当会社は、株主総会の特別決議で、会社法第171条第1項各号に規定する事項を定めることにより、A種株式の全部を無償で取得することができる。
④内容の要綱を定めたパターン
第〇条
1 当会社は、株主総会の特別決議で、会社法第171条第1項各号に規定する事項を定めることにより、A種株式の全部を取得することができるものとし、当該株主総会の決議の条件については、取締役会決議によって定める。
2 当該取得を行う場合には、当会社はA種株式の取得と引き換えに、A種株式1株につき●円を支払う。
9 拒否権付株式
(1)拒否権付株式とは
「拒否権付株式」とは、株主総会または取締役会において決議すべき一定の事項を否決することができる株式のことをいいます。
拒否権付株式を発行した場合、一定の事項に関して株主総会または取締役会における決議に加えて、拒否権付株式をもつ株主による種類株主総会の決議の2つが必要になるため、種類株主総会で反対することで、否決の流れに持っていくことができます。
拒否権付株式は、敵対的な買収を予防することに役立ちます。
たとえば、一部の友好な株主に拒否権付株式を与えることで、敵対的買収があっても種類株主総会の決議で否決することが可能になります。
(2)定款で書くべきこと
拒否権付株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 種類株主総会の決定が必要となる事項
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 種類株主総会の決議について条件をきめるときはその条件
(3)記載例
それでは、拒否権付株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①一般的なパターン
第〇条
当会社は、次の各号を実施する場合には、当会社の株主総会の決議のほか、A種類株主総会の決議を要する
(1) 事業譲渡
(2) ●●
②内容の要綱を定めるパターン
当会社は、次の事項を実施する場合には、当会社の株主総会の決議のほか、A種類株主総会の決議を要するものとし、A種類株主総会の決議を要する場合の具体的な条件は取締役会決議において定める。
10 役員選任付株式
(1)役員選任付株式とは
「役員選任付株式」とは、種類株主総会で取締役または監査役を選ぶことができるという内容の株式のことをいいます。
役員選任付株式を発行すると、特定の株主のみが選任に携わることになります。
たとえば、会社の経営者に1株だけ役員選任株式を発行しておけば、経営者の決定だけで好きな人を役員にすることができます。
(2)定款で書くべきこと
役員選任付株式を発行する場合に、定款に書かなければいけない事項のうち、具体的に書かなければいけない事項と内容の要綱のみで足りる事項を整理すると以下のとおりとなります。
-
【具体的に書かなければいけない事項】
- 種類株主総会で取締役または監査役を選べることや選ぶ場合の人数
- 他の種類株主と共同で選任する場合には、他の種類の株式の種類と共同で選ぶ取締役などの数
-
【内容の要綱のみで足りる事項】
- 変更する条件がある場合にはその条件
- 法務省令で決めていること
(3)記載例
それでは、役員選任付株式の定款への記載例について見ていきましょう。
①一般的なパターン
第〇条
A種株主は、A種類株主総会において、取締役●名および監査役▲名の選任をすることができる
②内容の要綱を定めるパターン
第〇条
1 A種株主は、A種類株主総会において、取締役●名および監査役▲名の選任をすることができる
2 前項の内容を変更する場合は、取締役会の決議において定める。
11 小括
事業者は、種類株式を発行する場合、9つある種類株式のタイプごとに、定款に書かなければならないことが決まっています。またその書くべきことの中でも、内容を詳しく書く必要はなく、大まかな内容だけ書けばいい内容の要綱もあります。そのため、事業者は、定款に種類株式について記載する際、自社の発行する種類株式はどのようなことを書いておかなければならないか、記載の仕方は具体的にすべきなのか、しっかりと把握しておくことが重要です。
12 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下のとおりです。
- 「種類株式」とは、特殊な権利が一切設定されていない株式(=普通株式)とは異なる権利内容が設定された株式のことをいう
- 種類株式のタイプは、①剰余金の配当、②残余財産の分配、③議決権制限株式、④譲渡制限株式、⑤取得請求権付株式、⑥取得条項付株式、⑦全部取得条項付株式、⑧拒否権付株式、⑨役員選任付株式の9つである
- 種類株式を発行するには、それぞれの種類株式ごとに、定款に書かなければいけないことが決まっている
- 定款に書かなければいけないことのうち、具体的に書く必要はなく、大まかな内容だけをかけばいい事項(内容の要綱)もある