はじめに

特に、これから起業しようとしているスタートアップ企業などは、一定の場合に、労働者との間で協定を結ぶ必要があることは知っているものの、具体的にどのような内容を定めなければならないのか、よく分からないという事業者が、意外にも多いのではないでしょうか。

労働基準法では、労働者に法定の労働時間を超えて働かせる場合には、「三六協定」を届け出なければならないとされています。

そのため、時間外労働や休日労働を予定している事業者は、「三六協定」の内容をよく理解しておく必要があります。

もっとも、この労働基準法ですが、近時の働き方改革も相まって、2019年に改正されており、「三六協定」に関する内容も大幅に変更されています。

そこで今回は、スタートアップ企業が自社の労働条件を診断できるようにと厚労省から出された「スタートアップ労働条件」を参考に、「三六協定」の改正点を中心に弁護士がわかりやすく解説していきます。

目次

1 「スタートアップ労働条件」とは?

労働条件

スタートアップ労働条件」とは、厚生労働省が提供しているポータルサイトで、その会社の労働条件や就労環境が適切かどうかを診断してくれます。

具体的には、以下の6つの項目に関する質問に対して、WEB上で回答することによって、自社の労務管理・安全衛生管理などに改善すべき点がないかを診断できます。

  1. 募集、採用、労働契約の締結
  2. 就業規則、賃金、労働条件(★)、年次有給休暇
  3. 母性保護、育児、介護
  4. 解雇、退職
  5. 安全衛生管理
  6. 労働保険、社会保険、その他

今回の記事では、これらの項目のうち、「労働条件」を考えるうえで欠かすことのできない、「三六協定」について解説していきます。

2 「三六協定」とは?

三六協定

三六協定」とは、労働者に法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて残業や休日労働をさせる場合に、労働組合(労働組合がない場合は、労働者の過半数を代表する者)と使用者の間で締結される協定のことをいいます。

この点、業種などに応じて、8時間以上の労働が日常的に発生する企業も少なくありません。また、繁忙期などには、休日も出勤しないと仕事が回らないという企業もあるかもしれません。

そこで、労働基準法では、以下の2つの場合については、あらかじめ三六協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出なければならないこととされています。

  1. 法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合
  2. 法定休日に労働を課す場合

(1)法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合

法定労働時間」とは、労働基準法で定められている労働時間のことをいい、先にも見たように、「1日8時間」「週40時間」が上限とされています。この上限を超えて労働をさせる場合には、「時間外労働」となり、三六協定の届出が必要となります。

たとえば、「始業=10時・終業=18時・休憩=1時間」という労働条件を設けている企業があるとします。

労働時間」は、就業時間(始業時刻から終業時刻まで)から休憩時間を除いた時間をいいますので、この企業における1日の労働時間は、7時間ということになります。

この場合は、仮に1時間以内の残業を行ったとしても、「1日8時間」の法定労働時間を超えることはありません。このように、法定労働時間内で残業することを「法定内残業」といい、この場合には、三六協定の届出は不要です。

一方、「始業=10時・終業=19時・休憩=1時間」という労働条件の場合は、1日の労働時間が8時間となりますので、少しでも残業を行えば「法定外残業」になります。

このように、法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合、使用者は、三六協定を届け出なければなりません。

また、労働者に残業を課していない会社でも、1日7時間、週6日勤務の場合は、「週40時間」という法定労働時間を超えてしまいますので、三六協定の届出が必要となります。

(2)法定休日に労働を課す場合

法定休日」とは、法律上、労働者に対して必ず与えなければならないとされている休日のことを言います。労働基準法では、「毎週少なくとも1回の休日、もしくは4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない」と定められています。仮に、これらの法定休日に労働を課す場合には、「休日労働」となり、三六協定の届出が必要です。

たとえば、ある会社が完全週休二日制(土日)をとっていて、法定休日を日曜日と定めていたとします。このとき、法定休日についてだけみると、仮に土曜日に休日出勤があったとしても、労働者には少なくとも1回の休日(日曜日)が与えられているため休日労働とはならず、三六協定を締結していなくとも労働基準法違反とはなりません。

一方で、土曜日に休日出勤をしたかどうかに関わらず、法定休日である日曜日に出勤をさせた場合には、法定休日に労働を課すこととなるので、三六協定の届出が必要となります。

このように、以上の2つに該当する場合には、労働組合などとの間で三六協定を締結し、これを所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

このような場合に三六協定の届出を義務づけることにより、使用者による過酷な労働強制を防ぐことを目的としています。

もっとも、これまでの三六協定には、ある条項を付け加えることによって、労働時間を無制限に延長することができるという抜け道が存在しました。それが「特別条項」という条項です。

特別条項」とは、限度時間を超えた時間外労働が発生する可能性がある場合に、三六協定届の余白に延長理由と延長時間を明記すれば、明記された範囲内で、労働時間を延長できるとする条項のことをいいます。

つまり、使用者側としては、三六協定届に延長理由と延長時間を記載さえしておけば、労働者にいくらでも残業をさせることができたのです。

この問題点を解消すべく、2019年4月1日に施行された「働き方改革関連法」により、労働基準法が改正されました。

3 労働基準法の改正のポイント

ポイント

労働基準法の改正のポイントは、以下の2つです。

  1. 時間外労働
  2. 特別条項で定めることが可能な労働時間

これらの改正ポイントについて、次の項目から詳しく解説していきます。

4 時間外労働

時間外労働

労働者に時間外労働をさせる場合に三六協定の届出が必要となるのは、従来どおりですが、今回の改正で変わったのは、この時間外労働について、上限が定められたという点です。

これまでも、時間外労働については、厚生労働大臣による告示によって、上限となる基準が定められていました。

ですが、法律による規制ではなかったため、これに違反しても、使用者が罰則を受けることはありませんでした。

そのため、使用者は、「特別条項」を抜け道として、労働者に青天井の労働を課すことができたわけです。

そこで今回の改正は、時間外労働に対する上限の基準を以下のように定めました。

  • 月45時間以内
  • 年360時間以内

これを図にすると、以下のとおりになります。

時間外労働の変更点

このように、改正前においても同じ上限が定められていましたが、その根拠が告示であったため、これに違反しても罰則が科されるということはありませんでした。つまり、改正前の告示による上限は、使用者に上限時間を遵守させる強制力として、うまく機能していなかったということです。

今回の改正では、この上限が法律で定められることとなったため、これに違反した使用者に罰則を科すことができるようになりました。

具体的には、時間外労働の上限に違反すると、労働基準法違反となり、

  • 最大6か月の懲役
  • 最大30万円の罰金

のいずれかを科されることになります。

この上限を超えて労働を課す場合には、これまでどおり、「特別条項」を設ける必要があります。

もっとも、今回の改正により、特別条項によって労働を課す場合でも、その上限について規制が設けられました。この点については、次の項目で詳しく解説します。

5 特別条項で定めることが可能な労働時間

労働時間

繁忙期などにおいては、時間外労働だけでは間に合わず、さらに時間外労働の上限を超えて就業することが必要となるケースが想定されます。

このように、時間外労働の上限である月45時間、年360時間を超えて労働を課す場合には、特別条項を定めることが必要になります。

もっとも、先にも見たとおり、特別条項は、これまで労働基準法の抜け道として利用され、無制限な労働時間を課す要因となっていました。

そのため、特別条項を設けるにあたっては、以下の4点をクリアすることが新たに条件として設けられました。

  1. 「時間外労働」が、年720時間以内であること
  2. 「時間外労働と休日労働の合計」が、月100時間未満であること
  3. 「時間外労働と休日労働の合計」が、「2か月~6か月の平均」ですべて1月あたり80時間以内であること
  4. 月45時間の上限を超えて時間外労働を課す月が、年6か月以内であること

(1)「時間外労働」が、年720時間以内であること

特別条項で定めることができる時間外労働の年間上限は、休日労働を除き、720時間です。720時間を超える時間を設定した場合には、労働基準法違反となります。

また、当然のことですが、上限の範囲内で設定していたとしても、その設定範囲を超えて労働させた場合にも、労働基準法違反となります。

たとえば、特別条項で1年間の上限を500時間と設定していたのに、これを超えて600時間働かせたというような場合です。

(2)「時間外労働と休日労働の合計」が、月100時間未満であること

特別条項で定める「時間外労働と休日労働の合計」は、単月で100時間に達してはいけません。ここで時間外労働に加えて休日労働の時間も加算して考えるのは、労働者の健康が第一に考えられているためです。

(3)「時間外労働と休日労働の合計」が、「2か月~6か月の平均」ですべて1月あたり80時間以内であること

1年間、1か月間の上限だけでなく、2~6か月あたりの平均についても、1月あたり80時間を超えてはいけません。

たとえば、以下のような労働状況があった場合に、8月の上限時間は何時間となるでしょうか。

複数月平均例①

前月である6月から7月にかけての2か月の平均は「80時間」ですので、「2か月平均80時間以内」という条件をクリアしています。

2か月の平均ということだけを基準にすると、8月の上限時間を「95時間」とすれば、7月と8月の平均も「80時間」となり、「2か月平均80時間以内」という条件をクリアすることができそうです。

ですが、以下の図のように、6月から8月の3か月平均で見た場合、8月の上限時間を95時間としてしまうと、3か月平均が「85時間」となってしまい、「3か月平均80時間以内」という条件に抵触してしまいます。

複数月平均例②

この点、6月から8月の3か月平均を80時間以内にするためには、以下の図のように、8月の上限時間を80時間としなければなりません。

複数月平均例③

このように、2か月平均では問題がなくとも、3か月平均・4か月平均・・・と長い期間で平均をとってみると、条件に抵触してしまうおそれがあるため、注意する必要があります。

(4)月45時間の上限を超えて時間外労働を課す月が、年6か月以内であること

「1月45時間」という上限を超えて時間外労働を課してもよい月は、年間6か月以内と定められています。年間6か月を超えて時間外労働を課してしまうと、労働基準法違反となります。

以上のことをまとめると、以下の図のようになります。

特別条項

なお、上記の②と③の条件については、特別条項があってもなくても、1年を通して、常に守らなければならない条件となるため、注意が必要です。

たとえば、時間外労働が45時間以内に収まっているために、特別条項が必要とされない場合でも、時間外労働が43時間、休日労働が58時間である場合には、合計が101時間となるため、②の条件に違反し労働基準法違反となります。

以上のように、今回の改正では、時間外労働の上限時間や、特別条項を定める際の上限規制が新たに定められました。

このことを受けて、厚労省は時間外労働や休日労働について、留意すべき事項に関する指針を公表しています。

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6 時間外労働・休日労働についての指針

指針

今回の法改正にあわせて、三六協定を定める際に留意すべき事項について、厚労省は以下の8つの指針を策定しています。

  1. 時間外労働・休日労働は最小限にとどめること
  2. 三六協定の範囲内でも、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負うこと
  3. 時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にすること
  4. 限度時間を超えて労働させる必要がある場合を、できる限り具体的に定めること
  5. 1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間を超えないこと
  6. 休日労働の日数・時間数をできる限り少なくすること
  7. 限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保すること
  8. 限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保すること

(1)時間外労働・休日労働は最小限にとどめること

時間外労働・休日労働は、必要最小限にとどめられるべきものです。三六協定は、このことを労使間で十分確認し合ったうえで締結されるべきものといえます。

(2)三六協定の範囲内でも、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負うこと

使用者は、三六協定の範囲内で労働をさせる場合でも、労働者に対し安全配慮義務を負うことに留意しなければなりません。

安全配慮義務」とは、使用者が労働者に対して負う義務のことで、労働者が安全で健康に働けるように配慮する義務のことです。

また、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が強まることにも留意する必要があります。過労死については、たとえば、1週間当たり40時間を超える労働時間が月45時間を超えて長くなると、相関的に、脳・心臓疾患の発症リスクが徐々に強まるとされていることを、使用者は知っておく必要があります。

(3)時間外労働・休日労働を行う業務の区分を細分化し、業務の範囲を明確にすること

業務の区分を細分化し、時間外労働・休日労働をさせる業務の範囲を明確にしなければなりません。業務区分の細分化が不十分であることによって、対象業務が安易に拡大されてしまうことを防ぐためです。たとえば、それぞれの製造工程で独立して労働時間を管理しているにもかかわらず、それらを全て「製造業務」でまとめてしまうと、細分化が不十分であると判断されてしまいます。

(4)限度時間を超えて労働させる必要がある場合を、できる限り具体的に定めること

臨時的な事情がなければ、限度時間(月45時間・年360時間)を超える労働をさせることはできません。想定外の業務量の大幅な増加に対処するため、臨時的に限度時間を超えて労働をさせる必要がある場合などには、その内容をできる限り具体的に定めなければなりません。

もっとも、その内容として、「業務の都合上必要な場合」や「業務上やむを得ない場合」などといった抽象的な文言を定めることは、恒常的な長時間労働を招く恐れがあるため、認められません。

また、あくまで時間外労働の限度時間を超えないことを基本とし、限度時間を超える場合であっても、できる限り限度時間に近づけることや、限度時間を超える時間外労働については25%を超える割増賃金率とすることに努めなければなりません。

(5)1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間を超えないこと

1か月未満の期間で労働する労働者の時間外労働は、目安時間を超えないように努めなければなりません。

具体的な目安時間は、

  • 1週間:15時間
  • 2週間:27時間
  • 4週間:43時間

です。

(6)休日労働の日数・時間数をできる限り少なくすること

休日労働の日数・時間数をできる限り少なくするように努めなければなりません。

(7)限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保すること

限度時間を超えて労働させる労働者の健康・福祉を確保するための措置は、以下の9つの中から協定することが望ましいです。

  1. 医師によって面接指導する
  2. 深夜業(22時~5時)に回数制限を設ける
  3. 終業から始業までの休憩時間を確保する(勤務間にインターバルを設ける)
  4. 代休や特別な休日を付与する
  5. 健康診断を受けさせる
  6. 連続休暇を取得させる
  7. 心とからだの相談窓口を設置する
  8. 労働者が希望すれば、配置転換させる
  9. 産業医などによる助言・指導や保健指導を受ける

(8)限度時間が適用除外・猶予されている事業・業務についても、限度時間を勘案し、健康・福祉を確保すること

限度時間が適用除外されている「新技術・新商品の研究開発業務」については、限度時間を勘案することに努めなければなりません。また、月45時間・年360時間を超えて時間外労働を行う場合は、⑦の健康・福祉を確保するための措置を協定するよう努めなければなりません。

限度時間が適用猶予されている事業・業務(「建設事業、自動車運転の業務、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」)については、猶予期間において限度時間を勘案することに努めなければなりません。

三六協定の締結に当たっては、上記8つの指針に十分留意し、時間外労働および休日労働を適正なものとする必要があるとともに、次の項目で見ていく点に注意する必要があります。

7 三六協定を締結する際の注意点

注意点

三六協定を締結する際の注意点は、以下の4つです。

  1. 「1日」「1か月」「1年」について時間外労働の限度を定めること
  2. 協定期間の「起算日」を定めること
  3. 時間外労働と休日労働の合計を、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とするように協定すること
  4. 限度時間を超えて労働をさせるのは、「臨時的な事情がある場合」に限ること

(1)「1日」「1か月」「1年」について時間外労働の限度を定めること

事業者は、「1日」「1か月」「1年」における時間外労働について、「1か月45時間」「1年間360時間」の範囲内で、その上限を定める必要があります。

1日における時間外労働の上限については設けられていませんが、当然のことながら、労働者を終日働かせることができるような上限を定めるべきではありません。

(2)協定期間の「起算日」を定めること

1年間の時間外労働が上限の範囲内にあるかどうかを算定するために、基準となる日を「起算日」として定める必要があります。

(3)時間外労働と休日労働の合計を、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とするように協定すること

すでに見たように、時間外労働と休日労働の合計時間は、月100時間未満で2~6か月平均を80時間以内としなければなりません。この条件は、特別条項の有無にかかわらず守らなければなりません。

そのため、三六協定届の新しい様式では、この点について、使用者と労働者の間で協定を結んだことを確認するためのチェックボックスが設けられています。

(4)限度時間を超えて労働させるのは、「臨時的な事情がある場合」に限ること

時間外労働の限度時間を超えて労働させてもよいのは、想定外の事態に対処する必要がある場合のみです。「業務上の都合により必要な場合」といった抽象的な文言は、長時間労働を慢性化させてしまうため、認められません。

臨時的な特別事情として認められる例は、

  • 予算や決算といった業務に必要な場合
  • ボーナス商戦にともなう業務の繁忙に対処するため必要な場合
  • 納期のひっ迫に対処するため必要な場合
  • 大規模なクレームに対処するため必要な場合
  • 機械の急なトラブルに対処するため必要な場合

といったものが挙げられます。

以上のように、どれも細かい内容ではありますが、三六協定では極めて重要な事項です。軽く考えていると、場合によっては、労働基準法違反となり、罰則を受ける事態にもなりかねませんので、十分に注意するようにしましょう。

8 三六協定の届出様式

中小企業の事業場で三六協定を作成し、届け出る場合は、以下の分類にしたがって、「様式9号の4」または「旧様式第9号」を使い分けてください。

届出様式

まずはじめに、自社の事業が「2024年3月31日まで上限規制の適用が猶予される事業」にあたるかどうかを確認します。

「2024年3月31日まで上限規制の適用が猶予される事業」とは、以下の2種の事業をいいます。

  • 建設業の事業場
  • 鹿児島県、沖縄県における砂糖製造業の事業場

このいずれかに該当する事業者が、三六協定を届け出る場合は、「様式第9号の4」を使用します。

「様式第9号の4」は、上限規制の適用猶予期間中に、時間外労働・休日労働を行わせる場合の書式となっています。

他方で、上の2種の事業に該当しない場合、「2024年3月31日まで上限規制の適用が猶予される業務に従事する労働者」にあたるかどうかを確認します。

「2024年3月31日まで上限規制の適用が猶予される事業に従事する労働者」とは、以下の2者をいいます。

  • 自動車運転の業務の従事する労働者
  • 医業に従事する医師

このいずれかに該当する者が、三六協定を届け出る場合についても、「様式第9号の4」を使用することになります。

さらに、上記の4つの事業場・労働者のいずれにも該当しなかった労働者が、三六協定を届け出る場合は、「旧様式第9号」を使用します。

なお、「旧様式第9号」が使えるのは、2020年3月31日までとなっており、それ以降は大企業と同じ様式を使用します。

最後に、改正法の施行について、確認しておきましょう。

※「様式第9号の4」「旧様式第9号」の書式は、「スタートアップ労働条件」のページからダウンロードすることができます。

9 改正法の施行

改正法は、2019年4月1日から施行されていますが、中小企業に対しては1年間猶予され、「2020年4月1日」から適用されることとなっています。

また、以下の事業については、上限規制の適用が「2024年4月1日」まで猶予されることとされているため、2024年3月31日までは、上限規制の適用を受けません。

  • 建設事業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業

これらの事業について、猶予期間が終了する「2024年4月1日」以降の取り扱いは、以下のとおりとなります。

適用猶予

なお、「新技術・新商品などの研究開発業務」については、上限規制の適用から除外されています。この業務については、時間外労働が月100時間を超えた労働者に対し、医師の面接指導を行うことを独自に義務付けています。事業者は、面接指導を行った医師の意見を聞き、必要があるときには勤務場所の変更や職務内容の変更、有給休暇の付与などの措置をとらなければなりません。

10 小括

小括

労働者に時間外労働・休日労働を課すためには、三六協定の届出が必要になります。使用者としては、会社内の業務を円滑に回すために、労働者にできるだけたくさん働いてもらいたいと考えてしまいがちですが、使用者は、会社の経営者として、労働者の立場にも寄り添った労働条件を定めなければなりません。

会社の事業が順調に進んでいても、それが労働者の過酷な労働の結果であったとしたら、必ずどこかでひずみが生まれてしまいます。そのようなことが起こらないためにも、三六協定の内容をよく理解し、法律で定められた条件を遵守するように心がけましょう。

11 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のとおりになります。

  • 「スタートアップ労働条件」とは、厚生労働省が提供するポータルサイトで、その会社の労働条件や就労環境が適切であるかどうかを、診断してくれるWEB診断サイトである
  • 「三六協定」とは、労働者に残業や休日労働をさせる場合に、労働組合などと使用者の間で締結される協定のことをいう
  • 所轄の労働基準監督署に届出が必要となるのは、①法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合と②法定休日に労働を課す場合である
  • 労働基準法の改正ポイントとなるのは、①時間外労働、②特別条項で定めることが可能な労働時間の2点である
  • 時間外労働の上限は、①月45時間以内、②年360時間以内である
  • 特別条項を定める場合は、①「時間外労働」=年720時間以内、②「時間外労働と休日労働の合計」=月100時間未満、③「時間外労働と休日労働の合計」=「2~6か月平均」ですべて1月あたり80時間以内、④月45時間の上限を超えて時間外労働を課す月が年6か月以内、という4つの条件を守らなければならない
  • 三六協定を定めるにあたっては、①時間外労働・休日労働を最小限にする、②三六協定の範囲内でも、使用者は安全配慮義務を負う、③時間外労働・休日労働を行う業務の範囲を明確にする、④限度時間を超えて労働させる必要がある場合をできる限り具体的に定める、⑤1か月未満の期間で労働させる場合、目安時間を超えない、⑥休日労働の日数・時間数をできる限り少なくする、⑦労働者の健康・福祉を確保する、⑧限度時間が適用除外・猶予されている事業についても、限度時間を考慮する、といった8つの項目に留意しなければならない
  • 三六協定を締結する際の注意点は、①時間外労働の限度を定める、②協定期間の「起算日」を定める、③時間外労働と休日労働の合計を、月100時間未満、2~6か月平均80時間以内とするように協定する、④限度時間を超える労働は「臨時的な特別事情がある場合」に限る、の4つである
  • 中小企業の場合、三六協定の届出様式には「様式第9号の4」と「旧様式第9号」という2つの書式がある