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「給与のデジタル払い」が今春解禁予定!今後の展望などを弁護士が解説

はじめに

キャッシュレス化を推進する政府の規制緩和により、給与のデジタル払いが今春に解禁される予定となっています。


https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/toushi/20200310/200310toushi04.pdf より抜粋

政府は今春に給与のデジタル払いを解禁する。企業は銀行口座を介さずに従業員のスマートフォンの決済アプリなどに振り込めるようになる。利用者は銀行からお金を引き出す手間がなくなる。デジタル払いが広がると、給与振り込みの口座を起点に預金を集める従来の銀行のビジネスモデルに影響をもたらす可能性もある。
日本経済新聞より

これまでは、給与といえば、主に各従業員の預貯金口座などに振り込む方法によって支払われてきましたが、デジタル払いが解禁されることにより、銀行のビジネスモデルにも大きく影響する可能性があります。

給与のデジタル払いが解禁されれば、事業者は従業員のスマートフォンの決済アプリなど(資金移動業者)に直接給与を振り込めるようになり、従業員はわざわざ銀行に出向いてお金を引き出す手間がなくなります。

今回は、今春に解禁予定の「給与のデジタル払い」について見ていきたいと思います。

1 「給与のデジタル払い」解禁の背景


給与の支払については、労働基準法において「通貨払いの原則」「直接払いの原則」「全額払いの原則」というルールが定められています(労働基準法第24条)。
現在、給与の支払方法として主流となっている銀行振込みについても、あくまで例外的に認められた方法でした(労働基準法施行規則第7条の2第1項)。
そのため、免許制の銀行に比べて安全性が劣る資金移動業者は対象から除かれていました。

もっとも、海外では「ペイロールカード(プリペイドカード)」によって給与を支払う企業が飛躍的に増えていることもあり、日本でもかねてからデジタル払いの解禁について検討が重ねられてきました。ですが、資金移動業者の安全性に対する懸念もあり、先送りが続いていたのです。

このようななかで、キャッシュレス化を推進する政府は、規制緩和の一環として「給与のデジタル払い」の解禁に踏み切りました。
デジタル払いを扱える事業者について、一定の安全基準を満たしている事業者に限ることで理解を得る方針としています。
2021年3月末には、労働基準法に基づく省令が改正され、資金移動業者がその対象に加えられる予定です。
また、個人情報保護や資金保全などの観点からも、安全性を担保できる事業者に限って解禁されることになりそうです。

2 資金移動業とは


資金移動業」とは、銀行などを除く事業者が「為替取引(現金以外による決済方法)」を業として行うことをいいます。
たとえば、銀行振込みは現金を直接相手に渡さずに決済することになるため、為替取引にあたります。
2020年3月に国会に提出された資金決済法の改正案では、資金移動業は事業者が扱う金額に応じて3つの類型に分類されています。

(1)第一種資金移動業

第一種資金移動業」は、100万円を超える為替取引を行うことができます。
第一種資金移動業を行う場合には、内閣総理大臣の認可が必要となります。

(2)第二種資金移動業

第二種資金移動業」は、現行の類型であり、数万円を超える金額から100万円までの為替取引を行うことができます。
第二種資金移動業を行う場合には、「内閣総理大臣の登録」を受けることが必要です。

(3)第三種資金移動業

第三種資金移動業」は、少額(数万円程度)の為替取引を行うことができます。
第三種資金移動業を行う場合も、「内閣総理大臣の登録」を受けることが必要です。

    金融サービスの利用者の利便の向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律(令和2年3月6日提出、令和2年6月5日成立)
    国会提出法案(第201回国会)

3 資金移動業に関する法規制


資金移動業に関する法規制は、登録に関するものと登録後に課されるものに分けることができます。

(1)登録に関する規制

資金移動業者として登録を受けるためには、主に以下の3つを満たしていることが必要です。

①株式会社または国内に営業所のある外国資金移動業者であること

株式会社であること、または、日本の資金決済法に相当する外国の法令により資金移動業の登録に相当する登録を受けている外国資金移動業者であって日本国内に支店のある事業者であることが必要です。

②財産的基盤があること

履行保証金(送金途中にある資金の100%以上の金額を履行保証金として保全すること)の供託等の義務を履行できるか、ユーザーに対する資金の授受を円滑に行えるか、などといった観点から判断したときに、資金移動業を遂行するために必要な財産的基盤があることが認められなければなりません。

③体制が整備されていること

送金業務を行うのに十分な運営・管理が可能な体制が整備されていなければなりません。

(2)登録後に課される規制

資金移動業者が登録後に課される規制は、主に以下の4つです。

①履行保証金の保全

資金移動業者は、倒産など万が一の事態に備えて、ユーザーへの返金措置を講じておく必要があります。
具体的には、送金途中にある資金の100%以上の金額(最低でも1000万円)を「履行保証金」として保全しなければなりません。

②利用者保護の措置

資金移動業者は、利用者が銀行等が行う為替取引と誤認しないような措置、資金を受領した際の受領証書の交付など、利用者を保護するための措置を講じておく必要があります。

③金融ADR制度への対応

「金融ADR」とは、裁判によらずに話し合いにより紛争を解決する制度です。
資金移動業は「金融ADR」の適用対象となっているため、資金移動業者は、苦情処理や紛争解決のための措置を講じる必要があります。

④報告書の作成など

資金移動業者は、事業に関する帳簿書類を作成して、保存しなければなりません。
また、事業概況書や貸借対照表・損益計算書などを金融庁に提出する必要があります。

4 今後の展望


給与のデジタル払いが解禁され、給与の支払業務を資金移動業者が担うようになれば、銀行の独占的な優位性を揺るがす可能性もあります。
他方で、デジタル払いを選ぶ人が増えれば増えるほど、資金移動業者にとっては、ビジネス拡大のチャンスが広がる可能性があります。

とはいえ、デジタル払いの解禁に反対する声も上がっており、解禁後にさまざまな問題が生じる可能性も否定できません。
安全性をはじめ本人確認の体制など、資金移動業者が給与のデジタル払いに携わるためには、上記で解説した規制をクリアしていることはもちろんのこと、それとは別に厳しいルールを課される可能性があります。

弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
弊所サービスの詳細や見積もり等についてご不明点がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

勝部 泰之 (Yasuyuki Katsube)

   

トップコート国際法律事務所CEO。弁護士として稼働する傍ら、プログラマ・PMとして稼働した経験を活かし、システム開発に関連する業務を多く手掛ける。
法律相談チャットボットサービス「スマート法律相談」開発者。

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