eスポーツ大会の賞金との関係で押さえておくべき2つの法律を解説!

はじめに

近年、メディアなどで「eスポーツ」が取り上げられることが増えました。

2021年4月には、国際オリンピック委員会(IOC)が、eスポーツタイトルを競技種目とするオリンピックライセンスイベント「Olympic Virtual Series (OVS)」を正式に発表しました。
オリンピックの公式競技としてeスポーツが扱われるのはこれが初めてのことです。

これからもeスポーツ大会が数多く開催されることが予想されるため、大会の主催を検討している事業者もいらっしゃるのではないでしょうか。
もっとも、eスポーツ大会を主催する場合には、その前提として押さえておくべき法律があります。

今回は、eスポーツ大会の「賞金」に関係する法規制について、弁護士がわかりやすく解説します。

1 eスポーツとの関係で押さえておくべき2つの法律

eスポーツを主催する事業者は、特に以下の2つの法律を理解しておく必要があります。

  1. 刑法
  2. 景品表示法(景表法)

2 刑法|賭博場開帳図利罪の該当性

理解しやすくするために、まずは、大会参加者との関係における刑法上の問題点から見ていきたいと思います。

(1)大会参加者について

eスポーツ大会の中には、賞金が用意されている大会もあります。
一般的に、このような大会で用意される賞金は、スポンサーなどの第三者が拠出していることが多いです。

また、参加料を徴収する大会もあれば、徴収しない大会もあります。

賞金が用意されている大会では、賞金の獲得を目指して参加者同士が競うことになりますが、これが刑法上の「賭博罪」との関係で問題となります。
正確にいえば、大会参加者から参加料を徴収しているeスポーツ大会では、参加者が賭博罪にあがる可能性があるということです。

刑法は、賭博罪について、以下のように定めています。

    【刑法185条】

    賭と博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。
    ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない


これだけでは、どのような行為が賭博罪にあたるかわからないと思います。

賭博」とは、以下の2つの要件を満たす行為のことをいうとされています。

  1. 勝敗が偶然によるものであること
  2. 財物を賭けて勝敗を争うこと


eスポーツ大会では、参加者のテクニックなどにより勝敗が左右されることはありますが、あらかじめ勝敗が決まっているわけではありません。
運が勝敗を左右することも否定できないため、「勝敗が偶然によるものであること(要件1)」にあたるといえます。

また、eスポーツ大会では、参加者同士がスコアなどにより勝敗を競うことが多いため、「勝敗を争うこと(要件②後段)」にあたるといえます。

問題となるのは「財物を賭けて(要件②前段)」といえるかどうかです。

参加者から徴収した参加料を賞金にあてている場合、参加者が拠出した参加料(財物)の得喪を争っているものとして、「財物を賭けて」といえる可能性が出てくるわけです。

そして、以上の2つの要件をいずれも満たすといえる場合、大会参加者に賭博罪が成立する可能性が出てくるのです。

(2)大会主催者について

以上で見てきたように、大会参加者との関係では賭博罪の該当性が問題となります。

このことを前提に、大会参加者に賭博罪が成立すると仮定すると、大会主催者は賭博を行う場を提供しているということになります。

刑法は、以下のように、賭博場を提供する行為を「賭博場開帳図利罪」として処罰の対象としています。

    【刑法186条2項】

    賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、三月以上五年以下の懲役に処する


事業者に賭博場開帳図利罪が成立するかどうかは、大会参加者に賭博罪が成立するかどうかによって決まります。

そのため、eスポーツ大会において、参加料などを徴収しない場合や、参加料などは徴収するもののその参加料を賞金にあてていない場合は、大会主催者が賭博場開張図利罪にあたる可能性は低いといえます。

参加料を徴収する場合に事業者が注意しなければならないことは、参加料を賞金にあてていないことがはっきりとわかるように、明確に分別管理する必要があるということです。

3 景品表示法(景表法)

大会が用意する「賞金」との関係で、もう一つ注意しなければならないのが「景品表示法(景表法)」です。

景表法は、広告等の表示を規制する法律ですが、それとは別に、「景品類」についても規制を設けています。

(1)「景品類」とは

景品類」とは、以下の3つの要件をすべて満たすものをいいます。

  1. 顧客を誘引するための手段であること
  2. 取引に付随していること
  3. 経済上の利益であること


eスポーツ大会に参加する目的は、参加者によって異なります。
実力を試すために参加する者もいれば、賞金を獲得するために参加する者もいます。

ここで問題となるのが、後者の場合です。
賞金の獲得を目的として参加した者との関係において、「賞金」は「顧客を誘引するための手段(上記要件1)」であるといえます。

また、参加料を徴収する大会において、賞金は「参加料の支払い」や「大会への参加」という取引に付随して提供されるものと考えることができるため、「取引に付随している(上記要件2)」といえる可能性があります。

さらに、賞金としての金銭は、「経済上の利益(上記要件3)」にあたるといえます。

以上のように、eスポーツ大会で支払われる賞金は、景表法上の「景品類」にあたる可能性があるといえるのです。

(2)「景品類」に対する景表法上の規制

景表法は、「景品類」の価額について、一定のルールを設けています。

仮に、景品類の価額に一切規制が及ばないとすると、消費者が過大な景品に惑わされて質の低いものや割高なものを買わされてしまうおそれがあります。

また、過大な景品による競争がエスカレートすると、事業者は商品やサービスそのものに力を入れなくなり、消費者の不利益に繋がります。

このような理由で、景品類の価額には最高額と総額の上限が設けられているのです。

具体的には、以下のとおりです。

    【最高額】

     取引価格の20倍(最大10万円)

    【総額の上限】

     売上予定総額の2%


eスポーツ大会で支払われる賞金が「景品類」にあたる場合、支払うことができる賞金の最高額は1人につき10万円ということになります。

もっとも、賞金が「仕事の報酬」としての性質を有しているものであれば、「景品類」にはあたりません。

たとえば、プロのライセンスを付与した選手のみが参加資格を与えられるような大会では、プロとしての高い技術や実演により、観客や視聴者を魅了し、大会の興行性などを向上させることを目的としていることもあります。
このような場合において、参加者に支払われる賞金は、仕事の報酬としての性質を有しているといえ、「景品類」にあたらないと考えられます。

以上のことからすると、仮に、参加資格が一定の者に限られていない場合であっても、参加者の高度な技術や実演を見せることにより、大会の興行性などを向上させることを目的としている場合には、賞金は「景品類」にあたらないと考えられます。

4 まとめ

eスポーツ大会を主催する場合には、特に、刑法と景表法の2つの法律に注意することが必要ですが、これらの法律以外にも、風営法や興行場法など、注意しなければならない法律はあります。

これらに違反してしまうと、罰則を科される可能性があるため、必要に応じて、専門家や管轄する機関等に相談しながら進めることをおすすめします。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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