広告を規制する法律とは?代表的な3つの法律を中心に弁護士が解説!

はじめに
広告を作成するにあたっては、様々な法律上の規制を知っておかなければなりません。
広告全体に関わる法律のほか、医療や美容などといった分野のように業種別で関わってくる法律もあります。
広告では、表示する内容などにいくつものルールがあるため、これらのルールをきちんと理解していないと、罰則を受ける場合もあります。
この記事では
- 広告全体にまつわる法律
- 業種別で気を付けたい主な法律
について、弁護士が解説していきます。
1 広告の規制とは
広告は自社の製品やサービスを広く世の中に知ってもらうための一つの手段ですが、広告にも守るべき一定のルールが存在します。
広告を規制する理由は、大きく分けて下記の3つです。
- 消費者の保護
- 事業者の公正な競争
- 著作物の権利保護
広告は、消費者の購買欲を掻き立てるために、自社製品やサービスをアピールするものですが、程度を超えた広告になると、消費者に誤認を与える可能性もあり、適切な判断を阻害してしまう要因ともなります。
そのため、消費者が安心して取引を行えるよう、広告に一定の規制を設けて消費者を保護することが必要です。
また、広告を規制することにより、事業者間での公平な競争を保護することができます。
ライバル企業の商品やサービスなどに係る名称を不正に利用するなど、自社商品をアピールするための手段として、ライバル企業の価値を貶めるような広告を打ち出すことは許されません。
さらに、著作権などの権利が広告に認められれば、他社に勝手に使われないようにその権利を保護する必要があります。
広告の規制は、このような観点からも、一定のルールを設けているのです。
広告において押さえておくべき法律は、主に、以下の3つの法律です。
- 景品表示法
- 不正競争防止法
- 著作権法
このほか、業種によっては、上記の法律とは別の法律によって規制されているものがあります。
具体的には、以下の3つです。
- 宅建業法
- 薬機法
- 健康増進法
次の項目から、それぞれについて具体的に解説していきます。
2 景品表示法(景表法)
「景品表示法(景表法)」は、広告・パッケージに関する表示や商品に付随するおまけ(景品類)について規制する法律で、広告との関係では必ず押さえておかなければならない法律です。以下では、広告との関係で特に重要となる「表示規制」について解説をしていきます。
景表法は、消費者が合理的な判断に基づき商品やサービスを選ぶことができるよう、事業者が打ち出す広告の表示について一定の規制を設けています。
この規制に違反した広告表示は、「不当表示」として景表法違反となり、罰則が科される可能性があります。ここでいう「不当表示」は、さらに表示の態様により以下の2つに分かれます。
- 優良誤認表示
- 有利誤認表示
(1)優良誤認表示
「実際のもの・他社のものよりも著しく良いもの(サービス)のように消費者に誤認させるおそれのある」表示を「優良誤認表示」といいます。
たとえば、実際にはそのような効果を実証できないにもかかわらず、「このマスクは花粉を水に変える効果がある」などと謳う広告が、「優良誤認表示」にあたります。
もっとも、このような場合であっても、効果の裏付けとなる合理的な根拠を示すことができれば、優良誤認表示とはなりません。
なお、上で挙げた例は実例ですが、事業者は効果の裏付け資料となるデータを提出したものの、消費者庁は「そのような効果は認められない」として、優良誤認表示と判断しました。
(2)有利誤認表示
価格や内容量などの取引条件について、実際のものや他社のものよりもお得であるように見せて、消費者による合理的な選択を阻害するおそれのある表示を「有利誤認表示」といいます。
たとえば、商品やサービスの価格や販売条件などを、実際よりもお得に見せるために、虚偽の表示をしたり、競合の同業他社よりも価格を著しく安く見せるような広告は「有利誤認表示」にあたります。
有利誤認表示として知っておかなければならないのが「二重価格表示」です。
「二重価格表示」とは、販売価格だけでなく、別の価格(比較対照価格)を同時に表示することをいいます。
たとえば、広告で安さを強調したいとき、同時期に市場で販売されている他社の類似製品の価格を比較対照価格として表示し、「自社の製品がこれだけ安い」ということをアピールすることがあります。
二重に価格を表示することで直ちに違法になることはありませんが、比較対照価格が根拠のないものだったり、不合理なものである場合には、消費者に対し、販売価格が実際のものよりも安くなっているとの誤認を与えるおそれがあるため、有利誤認表示にあたる可能性があります。
このように、景表法は、消費者による合理的な選択を妨げるような広告表示を不当表示として規制しているのです。
仮に、広告における表示が不当表示にあたると、その事業者は罰則を科される可能性があります。
(3)罰則
景表法に違反した場合の罰則には、大きく分けて、
- 課徴金(行政処分)
- 刑事罰
の2つがあります。
課徴金は、違法行為で事業者が不当に得た利益を没収する意味合いがあり、刑事罰における罰金とは別物です。
これに加え、刑事罰として、
- 最大2年の懲役
- 最大300万円の罰金
のどちらか、または両方を科される可能性があります。
さらに、法人である場合には、違反行為者(違反行為者に対しては最大300万円の罰金)とは別に法人に対しても、
- 最大3億円の罰金
が科される可能性があります。
※景表法上の「不当表示」については、「「誇大広告」とは?押さえておくべき4つの法律と罰則を分野別に解説」の記事で、景表法の罰則については、「景表法に違反した事例と罰則とは?3つのポイントをIT弁護士が解説」の記事で解説していますので、参考にしてみてください。
3 不正競争防止法とは
「不正競争防止法」とは、事業者間における不正競争の防止を目的として定められた法律です。
たとえば、他社の商品やサービスを不正に利用したり、無断で使用したりすることは、健全な競争とは言えません。
以下では、不正競争防止法が定めるルールのうち、広告に関するものについて説明します。主に問題となるのは下記の3つです。
- 広く知られた商品やデザインと同一または類似の表示を使う行為
- 他人の商品などの表示として著名なものを自己の商品などの表示とする行為
- 品質や原産地などを誤認させるような表示をする行為
(1)広く知られた商品やデザインと同一または類似の表示を使う行為
すでに広く消費者に知られている他社の商品やサービスのデザインに使われている表示と同じものや、類似したものを使う行為をいいます。
このような行為を許してしまうと、消費者において他社の商品・サービスであると混同してしまいます。「有名メーカーのものと思って購入したのに、全く別のメーカーが作った、似たパッケージの商品だった」といったケースがこれに当たります。
たとえば、飲食店『かに道楽』は、動く大型のカニの看板がトレードマークとなっており、そのことが広く一般消費者に知られているため、これと同一または類似した看板を他の飲食店が使ってしまうと、消費者において『かに道楽』であるという混同が生じてしまいます。
そのため、この看板と同一または類似した看板を他の飲食店が使うことは認められず、実際にそのように判断した裁判例もあります。
(2)他人の商品などの表示として著名なものを自己の商品などの表示とする行為
他社の著名な商品やサービスの表示(ブランドロゴなど)を自社のものとして使う行為を言います。一見すると、先に見た(1)と変わらないようにも思えますが、ここでいう「著名」とは、(1)のように単に「広く知られている」ということでは足りず、全国規模で誰もが知っていることが必要です。
他社の著名なファッションブランド名を、自社のファッション分野以外の商品に使うといったケースがこれに当たります。
この場合、同種の分野で使われるわけではないため、消費者において混同を生じることはありませんが、著名な表示を使うことで不当な顧客吸引力の利用、著名なブランドイメージの汚損・希釈化にも繋がります。
たとえば、某スナックが「スナックシャネル」という営業表示をする場合、そこに認められる事実関係によっては、消費者において著名なファッションブランドである『シャネル』と関係があるという混同が生じてしまいます。
実際に、そのように判断した裁判例もあります。
なお、この当時は、「消費者において混同が生じるおそれがある」ことが必要とされる条件の一つでしたが、その後、法改正により、この条件は削除されました。
(3)品質や原産地などを誤認させる行為
商品やサービスなどの原産地、品質、内容などについて、消費者に誤認を与えるような表示をすることを指します。
たとえば、酒税法上で「みりん」とは認められないものを「本みりんタイプ調味料」と表示し、「本みりん」の部分のみを目立たせるといった表示がこれに当たります。
このような表示を許してしまうと、一般消費者において、合理的な選択を阻害されることにもなり、加えて、競合他社の営業上の利益を侵害することにも繋がります。
このように、不正競争防止法が定める広告におけるルールは、大別して3つありますが、これらに違反すると、事業者はペナルティを科される可能性があります。
(4)罰則
不正の目的をもって、不正競争防止法が禁止する表示を行うと、
- 最大5年の懲役
- 最大500万円の罰金
のいずれか、もしくはその両方が科される可能性があります。
また、法人である場合には、違反行為者とは別に、法人にも
- 最大3億円の罰金
が科される可能性があります。
このほか、営業上の利益やブランド価値を侵害されたとして、競合社から損害賠償請求や信用回復のための措置を取るよう求められる可能性があります。
4 著作権法
広告を考案する際には、自社のクリエーターなどの発想に頼るだけでなく、他社の広告などを参考にすることも少なくありません。
この際に注意しなければならないのは、自社の広告に他人の著作物を無断で使用することはできないということです。
他社がウェブサイトなどで広告として使っている文章や写真などは著作物として著作権法で保護されていることがあり、このような場合に、他社の広告を無断で使用すると、著作権侵害にあたる可能性があります。
また、著作者や権利者の名前をクレジット表記するだけでもNGです。事業者が打ち出す広告には、基本的に自社の商品やサービスを提供して利益を出すという営利目的があります。
そのため、他社の著作物を使って自社の広告を作る場合には、著作者や著作権を持つ権利者との間で譲渡やライセンスについての契約を結ばなければなりません。
このように、他社の著作物を自社の広告に使う場合には、著作権法上のルールをきちんと守る必要があるのです。
※著作物の引用におけるルールについては、「著作権の引用とは?画像や文章を転載する際の5つの条件・ルール」の記事で解説しています。
※著作物としてのイラストや写真などを使う際のルールについては、「5つのケーススタディで考える著作権侵害にならないイラストの使い方」の記事で解説しています。
5 分野ごとに個別に規制されている広告
業種によっては、景表法や不正競争防止法とは別に、個別に広告を規制をしている法律があります。
具体的には、以下の3つの法律です。
- 宅建業法
- 薬機法
- 健康増進法
(1)宅建業法
「宅建業法」は、土地や建物などの不動産取引の公正を確保し購入者の利益を保護するために、宅地建物取引業者が守るべきルールを定めた法律です。
宅地建物取引業者が不動産広告をする場合、以下の方法による広告は禁止されています。
- おとり広告
- 不当表示
①おとり広告
「おとり広告」とは、実際には取引ができない物件であるにもかかわらず、その物件を広告することをいいます。
たとえば、以下のような物件を対象とした広告が「おとり広告」にあたります。
- 架空物件
- 既に売却済みの物件
- 売却の意思がない物件
おとり広告は、それを目当てに集まった消費者に対して別の物件を紹介したり、売りつけたりする手法です。
②不当表示
「不当表示」とは、実際のものよりも著しく優良・有利に見せて、消費者に誤認を与えるおそれのある表示のことをいいます。
たとえば、物件の所在地や規模、交通の利便などについて、実際のものよりも著しく優良・有利に見せる広告は、不当表示にあたる可能性があります。
このほかにも、消費者に著しく安いと見せかける不当な二重価格表示、虚偽広告などは禁止されています。
(2)薬機法
「薬機法(旧薬事法)」とは、医薬品や医療機器の品質・安全を確保し、これらを使用することによる危害の発生などを防止するために、必要となるルールを定めた法律です。
薬機法においても虚偽広告や誇大広告は禁止されています。薬機法が規制する医薬品や医療機器などは、人体に及ぼす影響が大きいため、医療関係者だけでなく、およそすべての人が規制対象となります。
そのため、医薬品や医療機器のメーカーはもちろんのこと、広告業者や販売業者、メディアなどもすべて規制対象に含まれます。
このほか、医薬品や医療機器などの効能・効果、性能について、
- 医師などが保証しているものと誤解される恐れのある表示
をしたり、医薬品や医療機器などに関して、
- 堕胎を暗示したり、わいせつに当たる文書や図画の使用
することも禁止されています。
これらのルールに違反し、薬機法違反となった場合、これまでは刑事罰だけが科されることになっていました。
ですが、薬機法が改正されたことにより、2020年秋頃から課徴金制度が導入される予定になっています。
「課徴金制度」は、刑事罰とは別の行政処分という位置付けです。
薬機法上の広告規制に違反した場合には、最大200万円の罰金刑が科される可能性がありますが、もしもメーカーが違法な広告で医薬品や医療機器を売り上げた場合、200万円以上の利益を上げることが想定されます。
そうなると、200万円程度の罰金では経済的制裁の効果が薄れてしまい、抑止力とならない可能性があります。
課徴金制度が導入されることで、違法な広告で得た売り上げは没収されることになるため、経済的制裁としての効果が強くなり、抑止力の機能を果たすものとして期待されます。
(3)健康増進法
「健康増進法」は、国民の健康に関する基本事項や健康増進のための措置について定めた法律です。
健康増進法においても、「虚偽表示」や「誇大広告」についてのルールが定められています。
健康増進法で主に広告規制の対象となるのは「健康食品」です。これらの中には、必ずしも有効な成分や効能が実証されていないにも関わらず、そのような効果があるかのように謳われるケースが少なくありません。
そのため、健康増進法では、健康食品における「健康の保持増進効果等」の表示について、
- 著しく事実と異なる表示(虚偽表示)
- 著しく人を誤認させるような表示(誇大表示)
をすることが禁止されています。こちらも薬機法と同じように、事業者だけでなく、およそすべての人が規制対象となります。
※健康増進法の広告規制については「「誇大広告」とは?押さえておくべき4つの法律と罰則を分野別に解説」の記事で詳しく解説していますので、そちらを参照ください。
6 小括
「広告の規制」というと、医療広告に関するものが多いというイメージが強いため、医療とは関係のない事業者の中には、自由に広告を打ち出していいものと誤解をしている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、広告全般を対象としたルールや、医療以外の分野で個別に設けられている規制も存在します。
これらのルールに違反した場合の罰則も設けられているため、注意が必要です。
広告において基本となるのは「虚偽や誇大表現をしないこと」。商品やサービスの利点、取引条件などを消費者に誤認させないような表示にしておくことが大事です。
7 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下の通りです。
- 広告を規制する理由としては、①消費者の保護、②事業者の公正な競争、③著作物の権利保護の3点が挙げられる
- 景表法では、主に、①優良誤認表示、②有利誤認表示の2つが不当表示として禁止されている
- 景表法に違反した場合、①課徴金(行政処分)、②刑事罰の2つのペナルティーを科される可能性がある
- 不正競争防止法は、事業者間の不正競争の防止を目的として定められたルールで、他社のサービスを不正に利用したりすることが禁じられている
- 他人の著作物を広告に使用する場合は、著作権者に許可を得たり、著作権の譲渡契約を結ぶことが必要である
- ①宅建業法、②薬機法、③健康増進法は、個別に広告規制を設けている
 
      





 
   
   
   
  