AIにより他人に損害を与えた場合の責任を弁護士がわかりやすく解説

はじめに
AIを活用した事業を展開する事業者が増えてきており、精度や正確度も向上しています。
とはいえ、AIが人や他の事業者に損害を与える可能性を完全に否定することはできません。
それでは、AIが人や他の事業者に損害を与えてしまった場合、責任の所在はどこにあるのでしょうか。また、その責任はどのような責任なのでしょうか。
今回は、AIにより損害が発生した場合の責任について、わかりやすく解説します。
1 AIの責任|法律上の責任は?

「AI(Artificial Intelligence)」とは、「人工知能」のことを意味します。
事業においてAIを活用する場合、そのAIが原因となって人や他の事業者に損害を与えてしまう場面が想定されます。
AIはあくまで人工知能に過ぎないため、現在の法律では、AI自体に責任を負わせることはできません。
このような場合に、責任を負う可能性があるのは、以下の2者ということになります。
- AIの所有者
- AIの製造者
2 AIの所有者|不法行為責任

AIの所有者が責任を負う可能性があるのが「不法行為責任」です。
(なお、ここでいう「所有者」とは、AIが組み込まれたドローン、自動車、ロボットなどの所有者のことを想定しています。AI自体はアルゴリズムやパラメーター値であり、所有権の対象ではありません。)
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【民法709条】
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法709条は不法行為責任を定めた規定ですが、同責任が発生するためには、以下の要件を満たしていることが必要です。
- 侵害行為に故意または過失があること
- 損害が発生していること
- 侵害行為と損害との間に因果関係があること
(1)侵害行為に故意または過失があること
「故意」は、わざとそのような行為に出たことを意味し、「過失」は、不注意によりそのような行為に出てしまったことを意味します。
このように、故意や過失は人間の主観に関わる要素であるため、AIについて観念することはできません。
AIの所有者に故意が認められる場合とは、どのような場合をいうのでしょうか。
たとえば、AIの所有者が人に危害を与える意図をもって、AIにそのような命令を下している場合にはAIの所有者に「故意」があったと認められる可能性が高いです。
とはいえ、実際において、このような事態になることはあまり想像できません。
この要件で特に問題となるのは、AIの所有者に「過失」が認められるかどうかです。
「過失」とは、注意をすれば結果を予測できたにもかかわらず、その注意を怠り、その結果を回避しなかったことを意味します。
事業でAIを活用する場合、通常は事業目的の範囲で活用されます。
ですが、可能性は限りなく低いものの、日々の学習により成長したAIが事業目的とは何ら関係のない突拍子のない行為に出てしまう可能性もあります。
このような場合に、そのような行為に出てしまうということをあらかじめAIの所有者が予測できていたならば、AIの所有者には「過失」があったと認められる可能性があるのです。
「過失」の有無は主観的要素でもあるため、判断が難しいケースも多々ありますが、いずれにしても、AI所有者に不法行為責任が生じるためには、「故意または過失」があると認められなければなりません。
(2)損害が発生していること
不法行為責任が発生するためには、相手方に「損害」が発生していることが必要です。
AIが突拍子のない行為に出た場合であっても、相手方において何ら損害が発生しなかった場合には、不法行為責任は発生しません。
(3)侵害行為と損害との間に因果関係があること
AIによる行為と相手方に発生した損害との間に因果関係があることが必要です。
相手方に発生した損害が、AIとは関係のない別の理由によるものである場合には、当然ながらAIの所有者は不法行為責任を負いません。
3 AIの製造者|製造物責任

AIによって人や他の事業者に損害が生じた場合、責任を負う可能性があるのはAIの所有者だけではありません。
AIを製造した事業者も製造者として「製造物責任」を負う可能性があります。
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【製造物責任法3条】
製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第三項第二号若しくは第三号の氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。
ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。
以上からもわかるように、製造物責任法では、製造物の欠陥により他人の損害を与えた場合に、製造業者等に責任を負わせると定められています。
製造物責任が発生するためには、以下の要件を満たしていることが必要です。
- 製造物に欠陥があること
- 他人に損害が発生したこと
- 製造物の欠陥と損害との間に因果関係があること
(1)製造物に欠陥があること
ここでいう「欠陥」とは、通常有すべき安全性を欠いている状態のことをいいます。
それでは、AIについて欠陥が認められるケースはどのような場合なのでしょうか。
基本的な考えは、AIによる想定外の行為などが原因となって損害が発生していれば、AIには欠陥が認められる可能性があるということです。
とはいえ、AIは製造者の手から離れた後も学習等を通じて成長していきますので、このようなケースにおいて否応なしに製造者に責任を負わせることが酷であるという側面もあり、非常に難しい判断を強いられるケースが少なくありません。
(2)他人に損害が発生したこと
この点は、不法行為責任の項目で触れた内容と同じです。
たとえ、AIが想定外の行為に出たとしても、他人に損害が発生していない場合は、事業者が製造物責任を負うことはありません。
(3)製造物の欠陥と損害との間に因果関係があること
AIによる行為と他人に発生した損害との間に因果関係があることが必要です。
他人に発生した損害が、AIとは関係のない別の理由によるものである場合には、当然ながら事業者は製造物責任を負いません。
この点も、不法行為責任の項目で触れた内容と同じです。
4 まとめ
AIを活用したサービスは、今後も増加していくものと予測されます。
AIの精度や正確度も徐々に向上しており、業務の効率化や人件費の削減などにも資するものです。
もっとも、AIにより他人に損害を与えてしまうと、場合によっては、多額の損害賠償責任を負う可能性もあり、サービスへの信用問題にも繋がります。
そのため、AIによる事故等でどのような責任が生じうるのかを十分に理解したうえで、可能なかぎりリスクヘッジしておくことも大切です。
弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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