映像制作業者必見!フリーランス新法の影響と対応策を徹底解説

はじめに

2024年に施行されるフリーランス新法は、映像制作業者にとって大きな影響を与える法律です。

映像制作業界では、フリーランスのスタッフを数多く活用していますが、委託契約の曖昧さや口頭でのやり取りが一般的です。

このような業務形態において、法改正がどのような影響を与えるのか、また、どのように対応すべきかを詳しく解説していきます。

1. フリーランス新法とは?

(1) フリーランス新法の概要

フリーランス新法は、フリーランスで働く個人の権利を守るために制定された法律です。

これまで、業務委託においては合意内容に曖昧な部分が多く、契約トラブルが発生することもありました。

この新法により、映像制作業者を含む企業側は全ての案件で書面発注の徹底や報酬の明確化等が求められるようになります。

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(2) 映像制作業者への影響

映像制作業界で問題となりそうな質問としては、以下のものがあります。

    (質問1)これまで下請法が適用されなかった委託関係にもフリーランス新法が適用されるの?
    (質問2)全ての発注で書面を作らないといけないの?
    (質問3)メールで発注した場合は「書面」での発注になるの?
    (質問4)報酬を決めずに委託したら全て違法なの?
    (質問5)違反した場合はどんな罰則があるの?

以下、これらについてみていきましょう。

(質問1)これまで下請法が適用されなかった委託関係にもフリーランス新法が適用されるの?

結論から言ってしまうと、フリーランス新法の方が下請法よりも適用範囲が広く、例えば、フリーランスからフリーランスへの発注の場合でも規制が及びます。

下請法の場合、親事業者、下請事業者の要件があり、下請事業者の資本金が1000万円を超えない場合には、個人事業主への発注であっても下請法の適用はありませんでした。

また、下請法はまさに下請関係を規律する法律なので、親事業者が外部から受けた物品納入や請負業務を下請事業者に委託する場合が適用対象でしたが、フリーランス新法の適用対象はこれよりも広く設定されています。

具体的には、フリーランス新法が定める「業務委託」とは、事業者がその事業のために他の事業者に①物品の製造(加工を含む。)、②情報成果物の作成、又は③役務の提供を委託する行為をいう、とされています。

事業者がその事業のために委託する行為はかなり広く解釈が可能なので、例えば、フリーランスに動画の作成を依頼する、タレントさんに出演を依頼する、などの典型的な業務は全てフリーランス新法の適用対象となり得ます。

ただし、受注者となるフリーランスが従業員を使用している場合には、フリーランス新法の適用対象外です。これは、従業員を採用して事業を行っている事業者はフリーランス新法が想定している「フリーランス」とは異なるためです。

なお、「従業員」を使用とは、以下の条件を全て満たす労働者を雇用することをいいます。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上である
  2. 継続して31日以上雇用されることが見込まれる
  3. 労働基準法第9条に規定する労働者に該当する
  4. 同居の親族ではない

したがって、例えば青色申告をしている事業者が同居の妻を従業員として使用している場合は従業員がいるケースに該当しません(=フリーランス新法が適用される)。

委託する相手が従業員を雇っているかどうかで適用関係が変わってくるので、この点はフリーランス新法が施行される2024年11月1日までに確認しておくとよいでしょう。

(質問2)全ての発注で書面を作らないといけないの?

フリーランスに対して書面で発注しなければならない、というのは、「取引条件の明示義務」に基づいたものです。

ここでいう、取引条件の明示というのは、必ずしも「紙」の契約書や発注書を郵送して発注しなければいけないという意味ではありません。

紙の書面以外ですと、以下の方法で明示することが認められています。

  1. ファクシミリ(紙が排出される、又は受信データの記録機能を有するものに送信する場合)
  2. 電子メール
  3. チャットツール
  4. ショートメッセージサービス(SMS)
  5. CD-R、USBメモリ等
  6. ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のDM機能

(質問3)メールで発注した場合は「書面」での発注になるの?

上記の質問2のとおり、メールで発注した場合は取引条件の明示したとして認められます。

ただし、明示した内容が法律の要件を満たしていることが前提となります。

フリーランス新法では以下の取引条件を明示する義務がありますので、発注する際の書面、メール等に以下の内容が全て含まれている必要があります。

  1. 業務の内容
  2. 報酬の額
  3. 支払期日
  4. 発注事業者・フリーランスの名称
  5. 業務委託をした日
  6. 給付を受領/役務提供を受ける日
  7. 給付を受領/役務提供を受ける場所
  8. (検査を行う場合)検査完了日
  9. (現金以外の方法で支払う場合)報酬の支払方法に関する必要事項

(質問4)報酬を決めずに委託したら全て違法なの?

報酬については、事前に具体的な報酬額を明示することが大原則となります。

ただし、例外として、フリーランスに業務を委託する際に「報酬の額」について具体的な金額を明示することが困難なやむを得ない事情がある場合には、算定方法を明示することも認められます。

算定方法は、報酬の額の算定根拠が確定すれば、具体的な額が自動的に確定するものである必要があります。

また、単価表など、算定方法の記載で引用するものがある場合は、単価表の計算方法に従うなどと明示し、さらに、具体的な金額の確定後には、速やかに金額を明示する必要があります。

また報酬以外についても、明示事項のうち、その内容が定められないことに正当な理由があるもの(未定事項)については委託時に明示する必要はありません 。未定事項がある場合、その内容が定められない理由と 、未定事項の内容が決まる予定日を委託時に明示(当初の明示)する必要があります。

(質問5)違反した場合はどんな罰則があるの?

フリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対して、発注事業者に本法違反と思われる行為があった場合には、その旨を申し出ることができます。

そして、行政機関は、その申出の内容に応じて、報告徴収・立入検査といった調査を行い、発注事業者に対して指導・助言のほか、勧告を行い、勧告に従わない場合には命令・公表をすることができます。命令違反には50万円以下の罰金があります。

なお、違反事業者に勧告や命令を出す場合は事業者名や違反内容などを公表するとの運用基準が示されています。

違反事業者名を公表へ、公取委 フリーランス新法で運用方針(東京新聞)

まとめると以下のようになります。

  1. 報告徴収・立入検査の実施により、勧告相当でない場合は指導・助言がなされる
  2. 勧告相当の重大な事案であれば勧告がされ、この時点で事業者名や違反内容などを公表される
  3. 正当な理由がなく勧告に従わない場合は命令が出され、公表される
  4. 命令に違反した場合は、刑事処分の対象となる(50万円以下の罰金)

まとめ

映像制作現場では、急な変更や修正依頼が日常茶飯事です。しかし、フリーランス新法により、作業の範囲や報酬について事前に明示し、書面で合意を得ることが求められるため、口頭での即時対応が難しくなる可能性があります。これにより、プロジェクトの進行が遅れるリスクも考えられます。

このような事態を避けるために、発注事業者側では、予め発注書のひな形を用意し、報酬の算定根拠となる単価表を作成しておく等の対応をしておくとよいでしょう。
また、フリーランス新法では、報酬の明示や支払い条件を明確にし、契約に基づいて遅延なく支払うことが義務付けられています。これまで支払いが遅れがちだったケースが多い業界においては、この点での改善が求められるでしょう。

フリーランス新法の施行は、映像制作業者にとって大きな変革の時期となります。委託契約書の整備や報酬の明確化など、新しい要件に対応するためには準備が必要です。

しかし、これによりフリーランスとの関係が強化され、業界全体の透明性が向上することが期待されます。

映像制作業者は、この法改正を機に業務プロセスの見直しを行い、より信頼性の高いビジネス環境を構築することが重要です。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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