金融庁が集中検査!マネーロンダリングへの4つの規制を弁護士が解説

はじめに

いわゆる「マネーロンダリング」の対策を強化するため、金融庁が関係事業者を対象にした検査に近く乗り出します。

マネーロンダリングは、国内の組織だけでなくテロ組織の資金源にもつながるとされており、れっきとした犯罪行為です。
手口がより巧妙化していることからも、対策の強化が急務になっています。

ところで、マネーロンダリングに対してどのような規制がなされているかご存知でしょうか。
関係事業者においては、規制内容をしっかりと理解して、業務に落とし込む必要があります。

そこで今回は、マネーロンダリング規制の概要について、弁護士がわかりやすく解説します。

1 マネーロンダリングとは

マネーロンダリング(money laundering)」とは、犯罪行為によって得た資金について、出所や所有者をわからなくしてしまう行為をいいます。

マネーロンダリングの手口は一つではありませんが、特に多いのが金融機関を利用した手口です。

たとえば、振り込め詐欺で得た資金をいったん偽名名義の預貯金口座に入金し、その後に送金を繰り返します。
そうすることで出所がわからなくなり、あたかも合法に得た資金であるかのように装うわけです。

日本では「資金洗浄」とも呼ばれていますが、金融機関をはじめクレジットカードや高価商品を利用するなど、手口も巧妙化しています。

2 マネーロンダリングを規制する犯罪収益移転防止法

マネーロンダリングに対しては、「犯罪収益移転防止法(犯収法)」という法律が一定の規制を設けています。

既に見たように、マネーロンダリングは金融機関やクレジットカード、高価商品などを介して行われることが多いです。
そのため、犯収法はこれらの窓口となる金融機関等を「特定事業者」として定めて、さまざまな規制を課しています。

特定事業者」として指定されている事業者は、数にして48に上ります。
たとえば、以下の事業者はすべて特定事業者です。

  • 銀行・信用金庫等の金融機関
  • 保険会社・貸金業者
  • 資金移動業者
  • 暗号資産交換業者
  • クレジットカード事業者
  • 宅地建物取引業者


このほかにも、弁護士や司法書士、公認会計士などの士業についても特定事業者とされています。

3 特定事業者に課されるマネーロンダリング規制

特定事業者が注意しなければならない規制は主に以下の4つです。

  1. 本人確認の実施
  2. 本人確認や取引記録の作成・保存
  3. 疑わしい取引の届出
  4. 取引時確認等を的確に行うための措置

(1)本人確認の実施

特定事業者が本人確認を実施することを義務付けられるのは、顧客との間で「特定取引」を行う場合です。

特定取引に該当する取引は、特定事業者ごとに定められているため、個別に確認することが必要になりますが、たとえば、以下の取引はすべて「特定取引」にあたります。

  • 預貯金の受入れを内容とする契約
  • 200万円を超える現金取引
  • 保険契約の締結
  • 10万円を超える暗号資産の交換
  • クレジットカードに係る契約


顧客との間で特定取引を行う特定事業者は、顧客について以下の事項を確認しなければなりません。

    【個人の場合】

  • 氏名・生年月日・住所
  • 職業
  • 取引を行う目的
  • 【法人の場合】

  • 名称・本店又は主たる事務所の所在地
  • 取引を行う目的
  • 事業内容


取引相手が個人の場合には、運転免許証やパスポートなどの顔写真付き証明書を提示してもらう方法で本人確認を実施することが求められます。

取引相手が法人の場合には、登記事項証明書と印鑑登録証明書、実際に取引を行う担当者の本人確認書類を提示してもらい本人確認を実施しなければなりません。

(2)本人確認や取引記録の作成・保存

顧客との間で特定取引を行う事業者は、本人確認時の記録や取引記録(取引日や取引内容に関する記録)を作成することが義務付けられます。

また、本人確認時の記録は特定取引に係る契約が終了した日から7年間、取引記録は特定取引が行われた日から7年間それぞれ保存しておく必要があります。

(3)疑わしい取引の届出

特定取引を行う事業者は、その取引において収受した財産が犯罪による収益であると疑われる場合には、速やかに行政庁に届け出なければなりません。

疑わしい取引にあたるか否かは、顧客の属性や取引時の状況、その他保有している情報などを総合的に考慮して判断するものとされています。

たとえば、以下のような事実は「疑わしい取引」にあたると考えられます。

  • 架空名義口座・借名口座であるとの疑いが生じた口座を使用した入出金
  • 顧客の収入・資産などに見合わない高額な取引
  • 多額の入出金が頻繁に行われている口座に係る取引


このように、一般的に行う取引と比較した場合に、著しく不自然だと考えられるような態様の取引は「疑わしい取引」として行政庁に届け出をする必要があります。

(4)取引時確認等を的確に行うための措置

特定事業者は、取引時における本人確認や取引記録等の保存、疑わしい取引の届出などを的確に行うため、取引時確認をした事項に係る情報を最新の内容に保つための措置を講じなければなりません。

また、努力義務ではありますが、以下の措置を講ずることが求められます。

  • 従業員などに対する教育訓練の実施
  • 取引時確認などの実施に関する規程の作成
  • 取引時確認などを的確に実施するために必要な監査
  • 業務を統括管理する者の選任

4 まとめ

犯収法上の特定事業者は、マネーロンダリング規制を遵守するために必要とされる仕組みを構築することが求められます。

仕組みに不備等が見つかった場合、金融庁から報告や改善を求める命令を受ける可能性もあるため注意が必要です。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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