2.4億円調達のコワーキング「いいオフィス」のビジネスモデルを弁護士が解説

はじめに
2021年1月5日、コワーキングスペース(シェアオフィス)運営事業を展開する「株式会社いいオフィス」が、合計2.4億円の資金調達を実施したと発表しました。
「働き方を自由にする」をテーマにコワーキングスペース事業を展開する株式会社いいオフィス(本社:東京都台東区、代表取締役:龍﨑 宏、以下「いいオフィス」)は、江口勝義氏(エグチホールディングス代表取締役)(※a)、高原直泰氏(沖縄SV株式会社CEO)(※b)、NKC ASIA株式会社(※c)、ほか個人投資家より合計2.4億円の第三者割当増資を完了したことを報告します。これにより累計増資額が4億円に達したことも併せてご報告いたします。
(中略)
私たちは電車や車を使って遠くにある快適な労働環境へ移動するのではなく、”今いる場所の近く”で、”快適で、人とのつながりを構築できる労働環境”がある【働き方の未来】を目指します。「まるでコンビニのように働く場所」にアクセスできれば、「働き方」はより自由になるでしょう。
今回はこの「いいオフィス」のビジネスモデルついてご紹介をしていきたいと思います。
1 サービス概要と背景
「いいオフィス」のビジネスは、複数人でワーキングスペースをシェアするコワーキングスペース(シェアオフィス)運営事業です。
昨年から続く新型コロナの感染症拡大により、オフィス需要に大きな変化がありました。
コロナ禍以前は、駅近の一等地に広いオフィスを構えて、従業員が働きやすく、魅力的なワークスペースを構築するというのが一般的な発想でした。魅力的なオフィスに人や顧客が集まり、ビジネスをさらに上昇気流に乗せることができるため、そこにお金を使う企業が圧倒的に多く、駅近一等地のオフィスの価値を下支えしていました。
しかし、コロナ禍により、出社や外出はできるだけ控えましょう、という状況が生まれ、リモートワークを推奨する会社が一気に増加しました。
それにより、まず、都心の一等地に広いオフィスを構えている必要性が相対的に少なくなってきました。リモートワークを活用することにより、オフィスをよりコンパクトにしていった方が効率的なのではないか、という発想です。
他方で、自宅でリモートワークを実施する場合、業務効率が落ちてしまうという問題も生まれました。やはり、自宅では仕事に集中できないので、自宅外で仕事ができるスペースが欲しいという需要です。
都心一等地に集中していたオフィス需要が住宅地付近にも分散してきた、と評価することもできます。
2 いいオフィスのビジネスモデル
「いいオフィス」の収益ポイントは以下の2点に整理することができます。
- コワーキングスペースの貸し出し
- フランチャイズにより収益機会を提供
(1)コワーキングスペースの貸し出し
いいオフィスでは、月額2万円のパーソナルカードと、月額3万円のシェアカードを法人向けに提供しています(いずれも税別)。
いいオフィスのウェブサイトでは、家賃30万円のオフィスをパーソナルカード5枚+シェアカード2枚に置き換えることにより、オフィスの初期費用やランニングコストを大幅にカットする例が掲載されています。
(2)フランチャイズにより収益機会を提供
「いいオフィス」は、空きスペースのあるオフィスや店舗に対して、フランチャイズ契約を提案しています。
例えば、喫茶店などの店舗は常に稼働しているわけではなく、時間帯によっては空きスペースが確保できる場合もあるでしょう。また、自社従業員をリモートワークに切り替えたためオフィススペースが空いたが、契約期間の問題ですぐに退去ができない場合も、貸出可能なスペースが確保できるかも知れません。
いいオフィスは、街中に散在するこういった空きスペースの情報を集めて、オフィスとして貸し出すことができるスペースを確保しようとしているようです。
空きスペースを貸し出すことにより収益を上げることができれば、家賃の足しにしたり、場合によっては家賃以上の収益を上げられるかも知れません。
3 ビジネスモデルや法的問題の検討
基本的には空きスペースを確保し、オフィスとして利用可能な状態にするためのシステムとともに顧客に提供するビジネスで、貸会議室のティーケーピー等と似たモデルであると思います。
ちなみに、ティーケーピーの河野社長の著書によると、同社はもともと、六本木等で退去寸前で使い道のないオフィススペースを格安で借り、会議室として貸し出すというビジネスモデルで成功しました。
このようなモデルを構築するに一つにネックになりそうなのが、店舗やオフィスの又貸しが不動産オーナーとの間で契約違反にならないかという問題です。
一般的に、賃借人が賃借物を転貸する場合、貸主の承諾が必要です。又貸しをする場合に貸主の承諾がないと、契約違反になる可能性もあります。
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【民法】
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
(以下略)
もっとも、オフィスや店舗であれば、もともと不特定の人が立ち入ることは当然予定されているはずです。オフィススペースを数時間だけ自社の社員以外に使わせても、それが転貸(又貸し)に必ず該当するとも言えません。
うまく法的に整理すれば、この辺りは大きな問題にはならないかも知れませんね。
4 全国にコワーキングスペースのネットワークを構築

同社は今回の増資により、「店舗開拓とブランディング、さらに新プランに向けたシステム開発を強化」するとしています。
テレワーク・リモートワークという働き方の潮流は、おそらく新型コロナが終息した後も変わらずに続くものと予想されます。
従来硬直的であったワークスペースの概念を変え、働く場所の流動性を高めるという同社の取り組みは、今後も評価されるのではないかと思います。
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IT・EC・金融(暗号資産・資金決済・投資業)分野を中心に、スタートアップから中小企業、上場企業までの「社長の懐刀」として、契約・規約整備、事業スキーム設計、当局対応まで一気通貫でサポートしています。 法律とビジネス、データサイエンスの視点を掛け合わせ、現場の意思決定を実務的に支えることを重視しています。 【経歴】 2006年 弁護士登録。複数の法律事務所で、訴訟・紛争案件を中心に企業法務を担当。 2015年~2016年 知的財産権法を専門とする米国ジョージ・ワシントン大学ロースクールに留学し、Intellectual Property Law LL.M. を取得。コンピューター・ソフトウェア産業における知的財産保護・契約法を研究。 2016年~2017年 証券会社の社内弁護士として、当時法制化が始まった仮想通貨交換業(現・暗号資産交換業)の法令遵守等責任者として登録申請業務に従事。 その後、独立し、海外大手企業を含む複数の暗号資産交換業者、金融商品取引業(投資顧問業)、資金決済関連事業者の顧問業務を担当。 2020年8月 トップコート国際法律事務所に参画し、スタートアップから上場企業まで幅広い事業の法律顧問として、IT・EC・フィンテック分野の契約・スキーム設計を手掛ける。 2023年5月 コネクテッドコマース株式会社 取締役CLO就任。EC・小売の現場とマーケティングに関わりながら、生成AIの活用も含めたコンサルティング業務に取り組む。 2025年2月 中小企業診断士試験合格。同年5月、中小企業診断士登録。 2025年9月 一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期課程)合格。















