
目次
はじめに
2020年10月、「Cansell株式会社」が長期滞在専用の宿泊予約リクエストアプリ「Ellcano(エルカノ)」の提供を開始しました。
PR TIMESより
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、ワーケーションといった新しい働き方を導入する企業も増えてきています。
今回は、このような新しい需要にマッチするサービス「Ellcano」について、ビジネスモデルなどを中心に見ていきたいと思います。
1 「Ellcano」誕生の背景とサービス概要
(1)誕生の背景
新型コロナウイルス感染症の影響により旅行や出張の機会が激減したことで、宿泊業は大きな痛手を負っています。
現状では事態が収束する時期も不明なため、宿泊業を営んでいる事業者はコロナによって生じた変化に対応していくほかありません。
もっとも、暗いニュースばかりではありません。
コロナの影響により、テレワークなどを導入する企業が増えたことから、オフィスの必要性が見直されるようになりました。
テレワークやワーケーションといった、従来にはあまりなかった新しいニーズも生まれてきています。
このことは、宿泊業界にとっては一つのビジネスチャンスでもあります。
このような状況下で誕生した「Ellcano」は、コロナ収束後に訪れる、宿泊施設のあり方や使われ方をも見据えたサービスです。
(2)サービス概要
「Ellcano」は、ワーケーションをはじめ、長期にわたる旅行や出張などの宿泊先を予約する際に、直接宿泊先に予算をリクエストして予約することができる、宿泊予約リクエストアプリです。
宿泊先に長期滞在するとなると、どうしても宿泊料金が高額になってしまうため、費用面から断念してしまうことが多いでしょう。
一方で、宿泊施設側には、長期滞在を希望するユーザーに対しては、通常より多少価格を下げてでも泊まってもらいたいというニーズがあります。
「Ellcano」は、ユーザーが宿泊施設に対して、直接予算をリクエストできるようにすることで、お互いに納得のできる料金で長期滞在をすることを可能にしました。
2 「Ellcano」の特徴
(1)3泊以上の滞在に特化
宿泊施設の予約サイトは、「Ellcano」以外にも数多く存在します。
また、高級ホテルや当日予約に限定するといったように、特化型の予約サイトも数多く存在します。
「Ellcano」は、今までにはない「3泊以上の長期滞在」に特化した予約サービスです。
長期滞在だからこそ必要となる情報が多く用意されているとともに、そのための機能も数多く備わっています。
また、宿泊業者は長期滞在のお客様を集客できるというメリットもあります。
(2)リクエスト予約形式
一般的な予約サイトを使って予約を取る場合には、そのサイトなどに掲載されている料金でしか予約を取ることができません。
その点、「Ellcano」では、宿泊施設に直接予算をリクエストできるため、その予算で予約を取ることが可能です。
もっとも、リクエストした予算が低すぎるような場合には、予算内で宿泊できない場合もあります。
また、宿泊業者はあらかじめ料金を決めておく必要がなくなるため、レートパリティを気にせずに利用することができます。
(3)一括リクエスト
宿泊希望者は、複数の施設に一括でリクエストをすることが可能です。
そのため、自身の予算にもっとも合った施設を選ぶことができ、また、宿泊施設に迷った場合にもとりあえずはリクエストをした結果を受けて結論を出すことができます。
(4)事前決済
宿泊料金を含め、すべての支払いは予約時にクレジットカードで決済します。
そのため、支払いのために待たされるということもなく、チェックアウトもスムーズにできます。
3 利用料金|マネタイズ
宿泊施設が「Ellcano」を利用して集客する場合、初期費用や月額費用は一切かかりません。
支払いが必要となるのは、通常のOTAと同じように、成果報酬型の手数料のみです。
そのため、宿泊施設は初期費用を気にすることなく、すぐにでも「Ellcano」を利用することが可能です。
4 法的検討
「Ellcano」のようなサービスを展開する場合に注意しなければならない法律は「旅行業法」です。
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【旅行業法】
第三条 旅行業又は旅行業者代理業を営もうとする者は、観光庁長官の行う登録を受けなければならない。
このように、旅行業などを営む場合には、観光庁から登録を受ける必要があります。
旅行業法では、「旅行業」について複数の類型が定められていますが、「Ellcano」のように宿泊サービスの提供を媒介する行為は「旅行業」に該当します。
そのため、旅行業法の規制対象となり、たとえば、以下のような義務を課されることになります。
- 営業保証金の供託
- 取引条件の説明
- サービス内容などを記載した書面の交付
営業保証金を供託したうえで、その旨を観光庁に届け出た後でなければ、旅行業を営むことはできません。
これらの義務に違反した場合には、罰則を科される可能性もあるため、注意する必要があります。
ただし、ホテル検索サイトやポータルサイトが常に旅行業にあたるわけではなく、純粋にシステム提供に特化したサービススキームとして慎重に作り込むことによって、旅行業該当性を回避することも可能です。
旅行業該当性についてはいくつかノーアクションレター(法令適用事前確認手続)による見解も出ておりますが、旅行業法にいくつもの定義が規定されていることからもわかるように、判断が難しい場合もあります。
法的スキームの構築についてご不明点がございましたら、ぜひ弊所にお問い合わせ下さい。
5 まとめ
ポータルサイトビジネスにおいて競争が激化してくると、ニーズを絞り込んで他社との差別化を図るという戦略が取られることがあります。
しかしながら、そのような戦略は一見エッジの効いた良策であるように見えて、実は自ら顧客のパイを小さくしてしまっている場合もあります。
かつて、yoyaQ.com(ヨヤキュードットコム)という直前予約に特化したサイトがありましたが、最終的に閉鎖してしまっています。
このサービスは今日すぐに泊まれる宿を探せるというもので、直前予約であることから格安で泊まれる宿を探すことができるというのが売りでした。
しかし、こういう戦略は、ターゲット顧客に対しては非常に魅力的なオファーができる反面、直前予約の顧客がターゲットから外れてしまう(パイが小さくなる)ことになり、こじんまりとしたサービスになってしまう危険性もあります。
「Ellcano」については、長期宿泊の顧客層と、従来型の(数泊程度の)顧客層がそもそも異なるため、むしろ従来業者が拾いきれていなかった層の取り込みを狙う戦略かと思いますが、法人顧客やリピーターに継続的に利用してもらえるようなサービスになるかどうか、今後に注目したいと思います。
弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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