資金移動業者の供託義務の基本とは?

2022.02.16

はじめに

弁護士の勝部です。
今回は資金移動業についての記事です。

資金移動業者は、為替取引(資金移動取引)の完了までの間、利用者の資金を預かることとなります。
資金移動業者の破綻にこの資金が散逸しないよう、資金決済法は、事業者に供託所(法務局)への供託を要求しています(資金決済法43条1項)。

このような資金移動業者の義務を資産保全義務といいます。


今回は、資金移動業者の供託義務、資産保全義務について、弁護士がわかりやすく解説します。

1 資金移動業者の供託義務

資金移動業は、利用者から資金を預かり、他の利用者に移転させることを内容としますが、例えば顧客Aから顧客Bに100万円を移転させる場合、Aから100万円を受け取った時から、これをBに渡し終わる時までの間、資金を預かっている状態になります(ここでいう100万円を未達債務(資金決済法43条2項)といいます)。

資金移動業者は、この預かり資金を法務局に供託しなければならないことになります。

これによって資金移動業者が万が一経営破綻した場合にも、利用者財産の保護がなされることになります。

(1)供託をしなければいけない額はいくらか

資金移動業者が供託しなければいけないのは、未達債務の合計額です。
これに加えて、内閣府令で定められている権利の実行の適用する費用の供託も必要となります。

かかる費用について、内閣府令は「未達債務の額が1億円以下であれば当該未達債務の額の5%相当額、1億円を超える場合には1億円を超える部分の1%相当額に500万円を加えた額」(府令第11条第5項)を供託額として要求しています。

細かい計算を端折って説明すると、未達債務の総額が1000万円であれば、1050万円以上の額を供託しなければいけないということになります。

(2)最低供託額の存在

筆者が資金移動業登録をしたいという相談を受ける場合によく見受けられる誤解として、「供託しなければいけないと言っても、基本的に未達債務というのはお客さんから預かったお金だから、その額を供託すればいいっていうことですよね。だったら、事業を始めたばかりであれば未達債務は少ないはずなので、供託義務はそれほど重たい義務ではない。」というものがあります。

つまり、10万円を送金したいといって預かった後、供託義務が発生する前の段階で送金が終了してしまえば供託は不要だし、送金が完了していない分については必要な時期に供託所に預けておけばよいのでは、という誤解です。

上記の説明には様々な誤解がありますが、まず、資金移動業者には、業種ごとに最低供託額が定められています(資金決済法施行令14条)。

一 次号に掲げる資金移動業の種別以外の資金移動業の種別
 千万円をその資金移動業者が営む資金移動業の種別(同号に掲げる資金移動業の種別を除く。)の数で除して得た額(その額に一万円未満の端数があるときは、これを切り捨てるものとする。)
二 第三種資金移動業 (その資金移動業者が営む第三種資金移動業の預貯金等管理割合 が百分の百である場合に限る。) 零円

まず、第3種資金移動業(5万円までの資金移動業)については、預貯金管理という資金管理が認められたため、この方法による場合は供託をしなくてよいことが定められています。

これに対し、第1種又は第2種の場合は、1000万円(1種、2種の2業種双方で登録する場合は、1業種につき500万円(1000万円÷2))となります。

第二種資金移動業者であれば、未達債務が全くない状態でも1000万円は最初に供託しておかなければなりません。

また、この供託額は資金移動のために使うことができません。
送金の必要が生じるたびに供託金から送金するというようなオペレーションは想定されていませんし、不可能であると思います。

一般的な業務の流れとしては、まず最低供託額を供託し、その後それ以上の供託が必要になった場合には、適時に供託をしていく、ということになります。
供託する額は万が一のときの担保という位置づけですから、顧客から預かる送金資金とは別に供託額相当額の自己資金がないと送金業の登録は無理ということになってくると思います。

(3)供託額の判定方法

資金移動業の種類によって異なります。

【第一種資金移動業の場合】
各営業日における第一種資金移動業に係る要履行保証額以上の額に相当する額の履行保証金を、当該各営業日から一週間以内で内閣府令で定める期間内において資金移動業者が定める期間内に供託すること。

【第二種資金移動業又は第三種資金移動業】
一定期間ごとに、当該期間における第二種資金移動業又は第三種資金移動業に係る要履行保証額の最高額以上の額に相当する額の履行保証金を、一定期間内において資金移動業の種別ごとに資金移動業者が定める期間内

例)第二種資金移動業者で、一定期間を1週間と定めている場合

  1. 1週間の各営業日の要履行保証額を算出する
  2. 上記のうち最も高い額と、現在の供託額を比較する
  3. 前者の方が高い場合は、一定期間内に供託する

(4)供託までのリミット

この点について内閣府令は以下のとおり定めています。

第11条
1 法第四十三条第一項第一号に規定する内閣府令で定める期間は、二営業日(日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日、一月二日、同月三日及び十二月二十九日から同月三十一日までの日数は算入しないものとし、一週間を超える場合にあっては、一週間)とする。
2 法第四十三条第一項第二号に規定する内閣府令で定める期間は、三営業日(日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、一月二日、同月三日及び十二月二十九日から同月三十一日までの日数は算入しないものとし、一週間を超える場合にあっては、一週間)とする。

つまり、第1種の場合は2営業日以内、第2種、第3種の場合は3営業日以内ということになります。
資金移動業者は登録申請時に基準日等を定めて提出しますが、基準日から一定期間内の各営業日の基準時(例えば毎営業日の午後6時)の未達債務を確認して、必要に応じて期限内に供託をしなければなりません。

この要供託額を正確に把握するためには帳簿書類の完備が不可欠です。
近年ではシステムによって管理し、各営業日ごとに未達債務の額が瞬時に分かるようにしている例が多いかと思います。
手作業で集計して、集計ミスや計算ミスがあったりすると、法令上の義務を遵守できなくなってしまうので、注意が必要です。

2 未達債務の消滅時期

供託額を正確に把握するためには、未達債務がいつ消滅するのかが重要なポイントになってきますが、事務ガイドラインは、「資金移動業者は、受取人が以下のイからニまでのいずれかの方法により、現実に資金を受け取るまでは、送金人に対して債務を負っていることに留意する必要がある。」としています(事務ガイドラインのⅡ-2-2-2-1④(注3))。

イ.受取人に現金を交付する。
ロ.受取人が口座を有する銀行等(外国においてこれらに相当する者を含む。)の当該預金口座に着金する。
ハ.受取人が資金移動業者から物品を購入・役務の提供を受ける場合の代金支払いに充当する。
ニ.受取人から、当該資金の第三者への送金指図を受ける(なお、この場合には、当該受取人を送金依頼人とする未達債務が発生することに留意する必要がある。)。

したがって、送金のために資金を受け取った時点から、これらのいずれかの事実が発生した時点までの間、未達債務は存続するということになります。

また、利用者に反対債務を有している場合は相殺ができるほか、未達債務の認識については国内にある利用者と国外にある利用者について未達債務の額を分けて規定している場合には、国内利用者への債務のみを未達債務としてよい、等のルールもあります。
自社が過大な義務を負うことのないよう、こういった例外については正確に認識した上でオペレーションを構築する必要があります。

4 まとめ

今回は資金移動業者の未達債務と供託義務について説明いたしました。

供託に関するオペレーションは資金移動業の業務の基本ですし、法令違反とならないよう万全の注意を払う必要のあるものであるといえます。

弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
弊所サービスの詳細や見積もり等についてご不明点がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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