暗号資産カストディ業者が遵守すべき3つの法規制を弁護士が解説!

2022.11.03

はじめに

暗号資産カストディ業務」を行う場合、内閣総理大臣から登録を受ける必要があります。

従来は、登録を不要としていた暗号資産カストディ業務ですが、2020年5月に改正資金決済法が施行されたことにより、暗号資産交換業としての登録が必要となりました。
そのため、暗号資産カストディ業務を行う事業者は、暗号資産交換業の規制を遵守する必要があります。

今回は、「暗号資産カストディ業務」を行う事業者が遵守すべき法規制について、弁護士がわかりやすく解説します。

1 暗号資産カストディ業務とは

カストディ業務」とは、他人の資産を対象として、保管・管理を行う業務のことをいいます。

たとえば、ウォレットサービスを提供する事業者は、暗号資産の売買・交換などは行わずに、利用者の暗号資産を保管・管理することを主な業務内容としています。
そのため、ウォレットサービスは、「カストディ業務」にあたります。

カストディ業務は、暗号資産の売買・交換などを行わないことから、これまでは暗号資産交換業にあたらないとされていました。

ですが、暗号資産について、保管・管理のみを行う場合であっても、その暗号資産が流出してしまうリスクはゼロではなく、また、マネーロンダリングやテロ資金供与といったリスクもゼロではありません。
このようなリスクは、暗号資産交換業と共通するところでもあるため、暗号資産カストディ業務についても、暗号資産交換業と同様の規制が課されることとなったのです。


※「暗号資産交換業取得の概要」について詳しく知りたい方は、「【詳細解説】日本で暗号資産交換業者登録するために必要となる収益・資金は?」をご覧ください。

とはいえ、カストディ業務全般について、暗号資産交換業の登録が必要になるわけではありません。

2 カストディ業務の暗号資産交換業該当性

暗号資産カストディ業務にあたるといえるためには、事業者が他人のために暗号資産を管理していることが必要です。
そこで、「他人のために暗号資産を管理する」ということがどのような意味なのかが問題となります。

この点、金融庁が公表しているガイドラインによれば、「事業者が利用者の暗号資産を主体的に移転し得る状態」にあれば、「他人のために暗号資産を管理する」にあたるとされています。
たとえば、利用者が関与することなく、事業者が単独または関係事業者と共同して、利用者の暗号資産を秘密鍵などにより移転できる状態にあれば、他人のために暗号資産を管理しているといえます。

このように、暗号資産カストディ業務につき暗号資産交換業の登録が必要となるのは、少なくとも、事業者において、利用者が関与しなくとも、利用者の暗号資産を移転できる状態にあることが必要なのです。

そのため、事業者が利用者の暗号資産を移転するために必要となる秘密鍵を保有しておらず、利用者の協力なくして暗号資産を移転することができないような場合は、カストディ業務にあたらないということになります。

3 カストディ業務を行う事業者が遵守すべき法規制

これまでにも、暗号資産が流出するという事件が実際に起きていますが、このようなリスクがあることはカストディ業務であっても同じです。

そのため、暗号資産カストディ業者に対しては、「暗号資産の管理」に関する規制が課されています。

具体的には、以下のような規制が挙げられます。

  1. 情報提供義務
  2. 分別管理義務
  3. 犯収法による規制

(1)情報提供義務

利用者を保護するために、事業者は、一定の情報を利用者に提供しなければなりません。

具体的には、以下のような情報が挙げられます。

  • 事業者の商号と住所、登録番号
  • 取引内容
  • 暗号資産の管理方法


利用者と取引をする事業者の素性が明らかにされていなかったり、暗号資産の管理方法が利用者に知れていなかったりすると、利用者は安心して取引を行うことができません。

そのため、利用者がこれらの事項をきちんと把握できるように、事業者は必要に応じて、書面などで情報提供することが必要です。

(2)分別管理義務

分別管理」とは、利用者の資産と自社の資産を明確に分けて管理することをいいます。

分別せずに管理してしまうと、両者の資産を特定することができなくなり、利用者が不利益を受けることになってしまいます。

具体的には、事業者は、以下の3点について分別管理を行う必要があります。

  • 事業者の資産と利用者の資産
  • コールドウォレットとホットウォレット
  • 履行保証暗号資産と事業者の資産

これらを分別管理することにより、暗号資産の流出リスクを低減でき、ひいては、利用者を保護することができるのです。


※暗号資産カストディ業者に課される「分別管理義務」について、詳しく知りたい方は、「暗号資産(仮想通貨)カストディ業務とは?3つの規制を弁護士が解説」をご覧ください。

(3)犯収法による規制

犯収法」とは、マネーロンダリングやテロ資金供与を規制する法律です。

先に見たように、暗号資産カストディ業務の一環として行われる取引が、マネーロンダリングやテロ資金供与に利用されるリスクはゼロではありません。
そのため、暗号資産カストディ業者にも犯収法による規制が及ぶことになります。

具体的には、以下のような事項が事業者に義務付けられています。

  • 取引時確認
  • 取引記録等の保存
  • 疑わしい取引の届出

4 まとめ

暗号資産カストディ業務を行うためには、内閣総理大臣の登録を受ける必要があります。
とはいえ、登録を受けるための要件は厳しくなっているため、事業者の規模や体制などによっては、諦めざるを得ないケースも出てきます。

このような場合は、暗号資産交換業にあたらないように事業を設計するなどして、登録等の規制を回避することを検討する必要があります。

弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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