投げ銭サービスの仕組みと押さえておくべき法律を弁護士が解説

はじめに
現在では、収益を上げる手段としても活用されている「投げ銭サービス」ですが、そもそも投げ銭サービスとはどのような仕組みになっているのでしょうか。
投げ銭サービスの展開を検討している事業者にとっては、法規制も気になるところです。
今回は、「投げ銭サービス」について、その仕組みや知っておくべき法規制をわかりやすく解説します。
1 「投げ銭サービス」とは

「投げ銭サービス」とは、コンテンツの配信者に対して、あらかじめ購入しておいたアイテムやお金などをプレゼントできるサービスのことをいいます。
たとえば、YouTubeが提供するスーパーチャットやSHOWROOM、17LIVEなどが投げ銭サービスの例として挙げられます。
配信者が配信するコンテンツはさまざまですが、アイテムを受け取った配信者はそのアイテムを現金化できるという仕組みになっています。
2 投げ銭サービスを提供する際に知っておくべき法律

投げ銭サービスは、既に見たとおり、ユーザーが事前に購入したアイテムなどを配信者に贈り、そのアイテムを配信者が現金化できる仕組みになっています。
これを全体的に見てみると、事業者を通じて、ユーザーの資金が配信者に移動していることがわかると思います。
つまり、ユーザーがアイテムを購入するために支払ったお金が、アイテムという形で配信者に渡り、配信者がそのアイテムを現金化した時点で、ユーザーの資金が配信者に移動したと見ることができるのです。
ここで、資金決済法の規定を見てみましょう。
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【資金決済法2条2項】
この法律において「資金移動業」とは、銀行等以外の者が為替取引(少額の取引として政令で定めるものに限る。)を業として営むことをいう
資金決済法は、「資金移動業」という事業を規制対象の一つとしており、ここでいう「為替取引」は、判例上次のように解釈されています。
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【最決平成13年3月12日】
「為替取引」を行うこととは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう
つまり、現金以外の方法で資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを「為替取引」といい、この為替取引を業として行うことを「資金移動業」というわけです。
為替取引の典型例として、銀行での「振込み」が挙げられますが、原則として、為替取引を業として行えるのは銀行などの金融機関だけです。
そのため、資金移動業は、内閣総理大臣から登録を受けないかぎり営むことができないようになっています。
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【資金決済法37条】
内閣総理大臣の登録を受けた者は、銀行法第四条第一項及び第四十七条第一項の規定にかかわらず、資金移動業を営むことができる
以上から、投げ銭サービスが資金移動業にあたる場合には、「資金決済法」の規制対象に含まれるということになります。
3 投げ銭サービスの資金移動業該当性

投げ銭サービスが、純粋にユーザーから配信者に資金が移動するような仕組みになっている場合は、資金移動業に該当します。
その場合、内閣総理大臣から登録を受けることが必要になりますが、資金移動業の登録要件は厳しいものになっており、ハードルが高いといえます。
登録要件としては、たとえば、以下のようなものがあります。
- 一定の財産的基礎を有すること
- 業務を適切に遂行できる体制が整備されていること
- 法令遵守のために必要な体制が整備されていること
これらの要件をすべて満たしていることが必要であり、また、登録後においても最低1,000万円の履行保証額が必要となるなど、資金移動業に関する規制は全般に厳しいものといえるでしょう。
4 資金移動業の登録を回避する方法は?

資金移動業の規制が障害となって、投げ銭サービスを諦める事業者の方もいらっしゃると思います。
もっとも、サービスの仕組みを工夫することで、資金移動業の登録を受けずに、投げ銭サービスを行うことができます、
(1)デジタルコンテンツの購入と整理する
例えば、投げ銭サービス「SHOWROOM」では、ユーザーがあらかじめ購入していたShow Gold(ポイント)を使って、配信者に贈るアイテムを購入し、配信者に贈ります。
ここまでは、通常の投げ銭サービスと変わりませんが、SHOWROOMでは、配信者に贈られたアイテムを配信者が現金化できるような仕組みにはなっていません。
SHOWROOMでは、視聴者数や投稿コメントなどを基にSHOWROOMが独自に配信者を評価し、その評価に応じたポイントが配信者に付与され、分配金として支払われるという仕組みになっています。
そのため、ユーザーから受け取ったアイテムがそのまま現金化されているとはいえず、よってまた、ユーザーから配信者に資金が移動したともいえないことになります。
もっとも、評価の基準として、アイテムの購入資金がそのまま受領者に渡ってしまうようなルールとしてしまうと、実質的に為替取引に該当する可能性があるので注意が必要です。
また、ポイントをクレジットカードで販売する場合、クレジットカード会社の加盟店として審査を受ける必要も出てきます。
ポイント、アイテムがどのようなものであるのか、利用規約等のルール提出を求められるケースもあり、設計が甘いと審査NGとなることもあります。
(2)収納代行として回避する
「収納代行」とは、金銭の請求や支払いの受領を代行することをいいます。
収納代行は、利用者から金銭の請求と支払いの受領について権限をあたえられているに過ぎないため、被請求者が収納代行業者に支払いをした時点で被請求者の支払義務は消滅します。
これに対し、資金移動業にあたるといえるためには、現金以外の方法で一方から他方へ資金が移動しているといえることが必要でした。
収納代行においては、被請求者が収納代行業者に支払いを済ませた時点で、請求者に対する支払義務が消滅する(請求者に対して支払ったことと同じである)ため、事業者を通じて資金が移動しているとはいえません。
そのため、為替取引にあたらず、資金移動業にあたらないということになります。
もっとも、割り勘アプリのような仕組みについては、2021年の改正資金決済法によって規制対象となることとなったため、サービス設計については細心の注意が必要です。
5 まとめ
コロナ禍の影響により、ライブイベントなどが相次いで中止になっています。
そのような状況下で、「投げ銭サービス」はミュージシャンやアイドルの収益手段にもなっており、今後も市場は拡大していくものと予測されます。
他方で、投げ銭サービスを始める場合に、注意しなければならないのが「資金決済法」です。
一般的に「投げ銭サービス」は、資金決済法上の資金移動業にあたることが多いといえますが、サービスの仕組み次第では、その該当性を回避することができます。
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