前払式支払手段発行者に必要なライセンスは?2つのタイプごとに解説

2023.02.28

はじめに

キャッシュレスが推進されるなか、ここ数年の間に、電子マネーやQRコード決済に代表される「前払式支払手段」を発行する事業者が増えました。

資金決済法は、前払式支払手段についてさまざまな規制を設けているため、これからの発行を検討している事業者は必ず確認しておくことが必要になります。

今回は、前払式支払手段発行者が求められるライセンスなどを中心に弁護士がわかりやすく解説します。

1 前払式支払手段の仕組みと種類

(1)前払式支払手段の仕組み

前払式支払手段は、以下のような仕組みになっています。

  1. 利用者が対価を支払い、前払式支払手段の発行を受ける
  2.      ↓

  3. 商品・サービスの対価の支払いに使用する
  4.      ↓

  5. 加盟店は前払式支払手段発行者から代金を受領する(第三者型の場合)


このように、前払式支払手段発行者は、チャージ金額に相当する金銭を事前に徴収したうえで、前払式支払手段を発行することになります(上記1)。

(2)前払式支払手段の種類

前払式支払手段は、主に以下の4つのタイプに分類することができます。

  1. プリペイドカードによるもの
  2. ICカードによるもの
  3. スマートフォンで使うもの
  4. インターネットで利用するもの

①プリペイドカードによるもの

プリペイドカードによるものは、昔から存在しています。
たとえば、商品券や図書券、テレフォンカードなどが挙げられます。

最近でこそ見かけることが少なくなりましたが、これらも法的には「前払式支払手段」にあたるのです。

②ICカードによるもの

ICカードによるものは、コンビニや銀行等の端末、クレジットカードなどを使って、事前に一定額をチャージして利用します。

たとえば、SuicaやPASMOなどの交通系電子マネー、nanacoやWAONなどの流通系電子マネーが挙げられます。

③スマートフォンで使うもの

近年、QRコードを利用した決済方法が主流になりつつあります。
たとえば、PayPayやLINE Payなどが挙げられます。

利用者が店側のQRコードをスマートフォンで読み込むものと、店側が利用者のスマートフォンに表示されるQRコードを機械で読み込むものがありますが、両者は法的性格において違いはありません。

④インターネットで利用するもの

サーバで払込の記録を管理し、利用者には英数字の符号がその都度発行されます。
たとえば、Amazonギフト券やiTunesギフトカードなどが挙げられます。

これらは主に、インターネット上での買い物やゲームの課金などに利用されています。

2 前払式支払手段発行者に求められるライセンス

前払式支払手段は、それを利用できる商品・サービスの範囲によって、以下の2つの種類に分かれます。

(1)自家型前払式支払手段

発行者が提供する商品・サービスにのみ利用できる前払式支払手段を「自家型前払式支払手段」といいます。

たとえば、ゲーム内でのみ利用できるコインは、自家型前払式支払手段にあたります。

自家型前払式支払手段を発行する場合、登録を受ける必要はありませんが、一定の場合に、必要事項を記載した届出書を内閣総理大臣に提出しなければなりません。


※自家型前払式支払手段発行者の届出義務について詳しく知りたい方は、「資金決済法が規制する「前払式支払手段」とは?2つの規制などを解説」をご覧ください。

(2)第三者型前払式支払手段

 
発行者以外の加盟店でも利用できる前払式支払手段を「第三者型前払式支払手段」といいます。たとえば、SuicaやPASMOなどの交通系電子マネーは、第三者型前払式支払手段にあたります。

第三者型前払式支払手段を発行しようとする場合、事業者はあらかじめ内閣総理大臣の登録を受けておく必要があります。


以上のように、自家型前払式支払手段については、その利用範囲が発行者の提供する商品・サービスに限られているため、登録制ではなく、届出制が採用されています。

登録制と届出制とでは、ライセンスを取得する際の難易度に違いが出てきます。

そのため、前払式支払手段発行サービスへの参入を検討する際には、自社が開始しようとするサービスについて、その利用範囲を当初から検討しておく必要があります。

3 資金決済法の適用が除外されるケース

以下のような前払式支払手段については、資金決済法の適用が除外されます。

  • 乗車券、入場券等
  • 発行日から6ヶ月に限り使用できる前払式支払手段
  • 従業員に対して発行される自家型前払式支払手段


発行する前払式支払手段について、発行日から6ヶ月という使用期間を設けることにより、事業者は資金決済法上の各種規制を回避することが可能になります。

そのため、比較的負担が重いとされる供託義務についても、前払式支払手段の設計を工夫することにより、回避することができます。


※有効期限を設けて供託義務を回避する方法について、詳しく知りたい方は、「資金決済法にいう「6ヶ月」とは?前払式支払手段の有効期限を解説!」をご覧ください。

4 まとめ

前払式支払手段は、その利用範囲をどう定めるかによって、事業者に求められるライセンスが異なります。その後の手続きや準備にも大きく影響するため、まずは、利用範囲を確定することが必要です。

また並行して、各種規制を回避するための方法を検討することも忘れないようにしましょう。

弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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