
目次
はじめに
フリーランス向けの報酬即日払いサービス「先払い」を提供する「yup株式会社」が、2021年1月21日より、マネーフォワード クラウド請求書とのAPI連携を開始しました。
「先払い」は、2019年9月26日にリリースされて以降、日本最大級のフリーランス向けオンライン型ファクタリングサービスとして、多くのフリーランスや中小企業に利用されています。
今回は、この「先払い」のビジネスモデルを中心に見ていきます。
1 サービスの概要
「先払い」は、フリーランスなどが取引先に送った請求書の中で、まだ入金されていない請求書を買い取り、最短60分で報酬を支払うサービスです。
アメリカでは、これに先立ち、利息ゼロの給与先払いサービス「アーニン(earnin)」がリリースされており、急成長を遂げています。
「先払い」を利用するにあたっては、面談や書面のやり取りは必要なく、手続きはすべてオンラインで完結します。
審査は最短60分で完了し、取引先に利用状況を知られることもありません。
支払いのサイクルが長いと、生活が不安定になったり、仕入れのための資金繰りに窮したり、といったことになりがちです。
このような悩みを解消してくれるのが、「先払い」というサービスなのです。
2 サービスの流れ
サービスの流れは、以下のとおり、かなりシンプルになっています。
(1)請求書をアップロードする
取引先に発行した請求書で、まだ入金されていない請求書をPDFもしくは画像データにしてアップロードします。
ユーザーが対応しなければならないのはこれだけで、面談や書類の提出を求められることはありません。
なお、サービスの利用対象となる請求書は、請求額が1万円(税別)以上であることが必要です。
(2)審査→支払い
ユーザーから送られてきた請求書を基に、審査を行います。
審査と聞くと、数日~数週間かかるイメージが強いですが、「先払い」では最短60分で審査結果が出るようになっています。
また、支払いについても、審査完了とともに実行されるため、ユーザーは最短60分で報酬を受けることが可能です。
なお、審査は営業時間内(平日10時~18時)にかぎり実施されるため、営業時間外に請求書をアップロードした場合には、翌営業日まで審査結果を待つことになります。
(3)取引先から入金された報酬をyupに振込む
取引先から入金された報酬をyupに振込みます。
具体的な振込額や振込先、支払期日については、メールやSMSで届きますので、その内容に従って報酬を振込むことで、取引は終了です。
3 サービスの特徴
「先払い」には、以下のような特徴があります。
- シンプルな手続
- スピード感
- 明朗な料金体系
(1)シンプルな手続
一般的に、銀行等の金融機関から融資を受けるように、金融系のサービスを利用する場合には、提出を求められる書類(たとえば、事業計画書など)が多岐にわたることも多く、面談が必要となる場合もあります。
そのため、審査に入るまでに、多くの書類を揃えなければならないなど、煩わしいと感じることもあると思います。
その点、「先払い」では、特に提出すべき書類もなく面談も求められないため、ユーザーは煩わしさを感じることなく、手続を行うことができます。
(2)スピード感
「先払い」は、会員登録をすれば、即日利用することができます。
また、審査もAIによって行われるため、最短60分で審査結果を知ることができ、審査完了とともに報酬が振り込まれるようになっています。
通常、このようなサービスでは、少なくとも入金までに数日~数週間かかることが多いため、ユーザーによっては、資金繰りなどの関係から待ちきれないということもあるでしょう。
その点、「先払い」はスピード感があるため、待ち時間に悩まされることなく、すぐにお金を手に取ることが可能です。
(3)明朗な料金体系
金融系サービスにかぎらず、多くのサービスでは、初期費用や月額費用が必要になることが多く、料金体系が複雑な場合も少なくありません。
ですが、「先払い」では、サービス利用料として、先払いの依頼額の10%がかかるのみで、初期費用や月額費用は一切かかりません。
ユーザーにとっては、実にわかりやすい料金体系であるため、安心して取引をすることができます。
また、yup社が手掛ける「先払い」というサービスは、サービス利用料を支払ってもらうことで収益を上げているサービスであるということがいえます。
4 法的検討
(1)貸金業法との関係
事業者が保有する売掛債権などを、支払期日前に一定の手数料を徴収して買い取るサービスのことを「ファクタリング」といいます。
ファクタリングは、他人が保有している債権を買い取るサービスで、法的には債権譲渡契約であるということになります。
近時、生活費に困った給与所得者から給与債権を買い取る「給与ファクタリング」が社会問題となっていますが、金融庁の見解によれば、「給与ファクタリング」や、「先払い」のような「事業者向けファクタリング」のいずれも、貸金業の登録を受ける必要がある事業に該当する可能性があるとされています。
貸金業法上、貸金業とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものとされています(貸金業法第2条)。
法律は、貸金業を典型的な金銭消費貸借契約に限っていませんから、ファクタリングについても貸金業に該当する可能性があります。
たとえば、事業者から売主に対し、先払いをした債権の回収が委託されており、売主が回収できなかった場合に、
- 売主が債権を買い戻すことになっている
- 売主の負担により事業者に支払わなければならないことになっている
などといったような場合は、貸金業にあたる可能性があります。
実際に、裁判例においても、以下のような事情を考慮して、貸金業にあたると判断したものがあります。
- 債権回収のリスクを事業者がほとんど負っていない
- 債権の額面と無関係に金銭の授受がなされていた
- 売主は買戻しをせざるを得ない立場にあった
この点、「先払い」では、仮に、先払いした債権がユーザーに支払われずに回収不能となっても、一部の例外を除き、ユーザーに対し同債権の返還を求めないこととされており、債権回収のリスクはすべて事業者が負っています。
その意味でも、通常の貸金業とは、その機能において、違いがあります。
このように、ファクタリングを業として行う場合には、貸金業との関係で問題となりますので、その点をどうクリアしていくかということも重要な課題になってくると考えられます。
(2)弁護士法との関係
また、弁護士法によると、他人の債権を譲り受けてその権利を実行することを業とすることが禁止されています(弁護士法第73条)。
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弁護士法第73条
何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。
例えば、お金を貸したけど返してくれないから、他人に取り立ててもらうために債権を譲渡することは弁護士法違反となります。
ファクタリングは取立目的の譲渡とは異なりますが、結果的に債権譲渡を受けた者が他人の紛争に介入してくるという結果となるのであれば、弁護士法の規定にも違反しないよう、十分注意する必要があると言えます。
弊所は、ビジネスモデルのブラッシュアップから法規制に関するリーガルチェック、利用規約等の作成等にも対応しております。
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