はじめに

ECサイトとしては、ランサーズクラウドワークスなどが提供する「クラウドソーシングサービス」やメルカリアマゾンなどが提供する「ECプラットフォームサービス」が有名です。

こういったCtoCのECサイトビジネスを開始するIT企業としては、当然、これら企業に負けないくらい、事業をスケールさせたいですよね。

その場合にまず気を付けたいのは、ストレスなくスムーズに「決済」がされる仕組みを設けることです。

ユーザーは、CtoCのECサイトを利用した商品・サービスの売却・購入にあたっては、お互いに顔を見ないで取引をします。

そのため、売主からすれば「買主から本当に代金が支払われるのか不安だ」、買主からすれば「売主が本当に商品・サービスを提供してくれるのか不安だ」といったように、

ユーザーの双方が「決済」に関する不安を抱えているのです。

そこで、ECサイトビジネスにおいては、こういったユーザーの不安を解消する「決済の仕組み」を設けることがまずは必要になりますが、この際によく利用されるのが「エスクローサービス」です。

ところが、エスクローサービスは、運用を間違えると

最大3年の懲役or最大300万円の罰金

というペナルティ(罰則)を受けてしまうリスクがあります。

そこで、以下では、エスクローサービスの仕組み、法的な問題点やその法的問題点をクリアする方法を解説していきます。

1 エスクローサービスとは

エスクローとは

エスクローサービス」とは、①エスクロー事業者が、一旦買主から代金を預かり、②その後、買主の方で、不備なく商品の受取やサービスの受領を確認できた時点で、③エスクロー事業者から売主に対し、預かっていた代金を引き渡す決済サービスのことです。

売主からみると、買主が本当に代金を支払ってくれるのか不安です。

しかし、中立な第三者であるエスクロー事業者が買主から代金を預かり、キチンと代金を払ってもらえることが確認できた時点で、商品(サービス)の引渡しをすることになるため、「商品(サービス)を引き渡したが、代金を支払ってもらえなかった」という事態は回避できます

他方で、買主から見ると、売主が本当に商品(サービス)を引き渡してくれるのか?という不安を抱えています。

しかし、一旦、中立な第三者であるエスクロー事業者に代金を「預け」、その後、売主から商品(サービス)受け取った段階で初めて、(エスクロー事業者を通じて)代金が売主に交付される仕組みになっているため、「代金を支払っても商品(サービス)を引渡してもらえないのではないか?」という事態は回避できます

このように、エスクローサービスは、売主・買主の間での「同時履行」を確保する事を通じて、両者の決済に対する不安を解消する仕組みといえます。

厳密な商品(サービス)とお金の流れ・仕組みとしては、
①売買が成立→②買主→(支払い)→③ECサイト事業者→(支払通知)→④売主→(商品・サービスの引渡)→⓹買主→(受領通知)→⓺ECサイト事業者→(支払い)→売主
という形になっています。

2「資金移動業者」の登録が必要

資金移動業の登録

ただし、ECサイト事業者が、エスクローサービスを開始するためには、「資金決済法」という法律に書かれた「資金移動業者の登録」が必要です。

資金移動事業者の登録をしてはじめて、ECサイト事業者は、エスクローサービスを導入できます。

この場合、「1回の送金額の上限は100万円まで」という制限があることには留意してください。

実際に、資金移動業の登録申請をする際の必要書類の書式については、こちらのサイトをご参照ください。

資金移動業者の登録申請書の書式

※なお、こういった送金サービスについては、従来、銀行等が行う「為替取引」と呼ばれる取引に該当するため、本来なら、銀行などの金融機関以外は、行うことができないとされていました。

為替取引」とは「顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行すること」(最判平成13年3月12日)をいうところ、エスクローサービスは、この定義にあてはまってしまうからです。

しかし、それではあまりに不便なので、近時、資金決済法という法律が改正され、「1回の送金額の上限は100万円まで」という制限付きではあるものの、ECサイト事業者でも、エスクローサービスが導入できることになったのです。

3 登録することで発生する負担

移動事業者登録で発生する負担

もっとも、登録手続きを経て、「資金移動業者」になると、ECサイト事業者には、以下のような負担が発生してしまいます。

  1. 資金移動業者としての登録
  2. 最低1000万円の供託義務
  3. 資金移動業者への監視・監督(立入検査・業務改善命令・業務停止命令等)
  4. 情報の安全管理措置
  5. 本人確認義務等

しかし、ベンチャー企業にとって、このような負担、特に1000万円の供託金を積むのは、正直かなり厳しいですよね。

4 ペナルティ(罰則)

ペナルティ(罰則)とは

とはいえ、資金移動業の登録を行わずに、エスクローサービスを導入してしまった場合には、
最大3年の懲役or最大300万円の罰金
というペナルティ(罰則)を受ける可能性があります。

そのため、エスクローサービスを導入する際には、原則として、資金移動業の登録をするのがベターとなります。

※実際に資金移動業の登録をしている企業の一覧はこちら資金移動業者一覧

5 登録なしでエスクローを実現する方法~決済代行スキーム~

登録なしでエスクローを実現する方法~決済代行スキーム~

では、「資金移動業者」の登録を受けずに、エスクローサービスを導入する方法はないのでしょうか?

結論からいいますと、無登録でエスクローサービスと同様の決済を実現する方法はあります

その方法としては、エスクローを「決済代行サービス」として行うことです。

(1)決済代行サービスとは

決済代行サービス」とは、①買主が商品(サービス)の代金を決済代行業者に対して支払い(この時点で支払いは完了。)、②決済代行業者が受け取ったお金を売主に引き渡すことで、決済がされない不安を解消するサービスです。

通常のエスクローサービス(=資金移動業)との大きな違いは、買主が決済代行業者(エスクローでいうところのエスクロー事業者。)にお金を預けた(支払った)段階で、売主・買主間の決済(支払い)が完了しているです。

厳密な決済の流れとしては、

  1. 売主→ECサイト事業者へ代金の「代理受領の委託」(=売主に代わって、代金を受領する権限を預けること。)をし、
  2. 買主→ECサイト事業者へ代金を支払った時点で、買主の支払いは完了し、売主に対する債務は消滅する、
  3. その後、ECサイト事業者が買主から受領した代金を売主に引き渡す(=「決済代行スキーム」)

という作り付けにするのです。

他方で、通常のエスクローサービスの場合、買主がエスクロー事業者(ECサイト事業者)にお金を預けただけでは、支払いは完了しません。

エスクロー事業者(ECサイト事業者)から売主に対し、預かっていた代金を現実に引き渡して初めて、買主の支払いが完了する形になっています

そのため、資金移動業の登録をすることなく、エスクローサービスと同様の決済を実現するためには、通常のエスクローとの違いを出すために、ECサイト事業者が買主から代金を受け取った時点で、売主・買主間の決済が完了するというスキームにする必要があるのです。

(2)具体的な対応策~決済代行スキームの導入~

では、ECサイト事業者が、実際に、資金移動業の登録をすることなく、エスクローサービスと同様の決済を実現するためにはどうすればよいのでしょうか?

以下の2つのポイントを押さえる必要があります。

① ポイント1:利用規約に明示すること

ECサイト事業者としては、まず、決済代行スキームを採用していること、特に、「ECサイト事業者が買主から代金を受け取った時点で、売主・買主間の決済が完了する」ことをサービスの「利用規約」の中に明示することが必要です。

実際、エスクローサービスを導入しているメルカリは、利用規約の中に以下のような一文を入れています。

メルカリ利用規約

出品者は、弊社に対して、購入者から支払われる商品代金(決済事業者または収納代行業者から支払われる商品代金に相当する金員を含みます。)を代理受領する権限を付与するものとします。出品者は、弊社が決済事業者および収納代行業者を指定した場合には、当該決済事業者および収納代行業者に対して、商品代金を代理受領する権限を付与するものとします。また、弊社は、地域を限定して決済事業者および収納代行業者を指定することができるものとします。さらに、出品者は、弊社が決済事業者又は収納代行業者との間で締結する決済サービスに関する加盟店契約により必要となる場合には、商品代金債権を弊社に譲渡することに同意します。

この規定のうち、「代理受領する権限を付与するものとします」という点がポイントです。

これは、先ほど説明した

  1. 売主→ECサイト事業者へ代金の「代理受領の委託」(=売主に代わって、代金を受領する権限を預けること。)をし、
  2. 買主→ECサイト事業者へ代金を支払った時点で、買主の支払いは完了し、売主に対する債務は消滅する、
  3. その後、ECサイト事業者が買主から受領した代金を売主に引き渡す(=「決済代行スキーム」)

のうち、1の「代理受領の委託」を記載したものです。

これによって、ECサイト事業者は、買主から代金の支払いを受ける権利を取得し、その結果、ECサイト事業者が買主から代金の支払いを受けた点で、決済が完了する仕組み(=登録なしでエスクローができる仕組み)を実現しているのです。

もっとも、近時ニュース( http://president.jp/articles/-/21015?page=2)にも取り上げられましたが、メルカリは、(次の項目で説明する)運用面に問題があるという理由で、無登録での決済代行スキームに突っ込みが入っていることには留意が必要です。

② ポイント2:資金移動業とみなされない運用をすること

運用面においては、資金移動業とみなされない形で預り金の運用をすることが必要です。言い換えると、

  1. 各種「送金」については、あくまでも取引に付随して行うこと
  2. 預り金については、短期間で決済が行われるような期間設定をすること
  3. 買主からの預り金をプラットフォームに長く滞留させないこと
  4. エスクローサービス専用の銀行口座を設けること

などの措置が必要です。

6 小括

小括

このように、ECサイトの運営するエスクローサービスが、登録の必要な「資金移動業」なのか、それとも、登録が不要な「決済代行」になるのかは、利用規約の記載と運営実態によって判定されます

そのため、エスクローを導入する際には、ポイント①・②の点を遵守する形で運用しましょう。

7 まとめ

これまでの解説をまとめると以下のようになります。

  • 「エスクローサービス」とは、エスクロー事業者(ECサイト事業者)が、①一旦買主から代金を預かり、②その後、買主の方で、不備なく商品の引渡しやサービス提供が完了したことを確認した時点で、③売主に対し、代金を引き渡すサービス
  • ECサイト事業者が、エスクローサービスを開始するためには、原則として、「資金決済法」という法律に書かれた「資金移動業者の登録」が必要
  • 登録なしでエスクローサービスをすると、最大3年の懲役or最大300万円の罰金を受けるリスクがある
  • 決済代行の形でエスクローサービスをする場合には、資金移動業の登録は不要(=「決済代行スキーム」)
  • 決済代行スキームを導入する際には、①利用規約にその旨明示すること、②資金移動業とみなされないような運用が必要