
はじめに
IT企業の中にも、必ず「仕事ができない従業員」っていますよね。
お世辞にも能力が高いとはいえず、勤務成績についても人事評価上、常に下位。
しかも、仕事へのやる気やチームワークもない。
このような問題従業員について、経営者の中には、「そんなやつはとっととクビ(解雇)にすればいいんだ」と軽く考えている方が結構な数います。
しかし、裁判実務上、解雇が認められることは、ほとんどありません。
かえって、解雇は無効(=なかったことになる。)となり、解雇にした従業員に対して、謝罪金まで支払う羽目になります。
では、会社にとって害のある従業員を解雇することは一切できないのでしょうか?
以下では、解雇にまつわる基本的な知識を解説するとともに、合法的に問題従業員をやめさせる方法を説明いたします。
目次
1 解雇とは
「解雇」とは、会社側の一方的な都合で、従業員を会社から辞めさせる行為を意味します。
反対に、従業員の都合で会社を辞める行為を「自己都合退職」といいます。
自己都合退職とは違い、解雇は、会社側の都合で、従業員の生活の糧を奪う行為ですから、(次の項目で詳細は解説いたしますが)解雇が裁判所から認められることはほとんどありません。
2 解雇するのは、離婚と同じくらい大変
解雇は「離婚」の構造に非常に似ています。
恋人同士が結婚するのは自由なのですが、日本の法律では、夫婦の一方が離婚に同意しない場合は、泥沼離婚裁判に突入してしまい、中々離婚できません。
最近の例でいえば、高橋ジョージ氏と三船美佳氏の離婚裁判や高嶋政伸氏と美音氏の裁判をイメージしていただければわかりやすいかと思います。
解雇は、この離婚のプロセスと非常に似ています。
従業員を「採用」(=結婚)することは自由なのですが、従業員が解雇(=離婚)に同意しない場合は、泥沼労働裁判に突入してしまい、中々解雇できません。
このように、「使えない従業員は、とっとと解雇してしまえばいいんだ」などと安易に考えるのは、完全に誤解ですので注意しましょう。
3 解雇を規制するルール
解雇を規制するルールのことを、法律の世界では、「解雇権濫用法理」(カイコケン ランヨウ ホウリ)といいます。
このルールは、労働者と会社の関係を取り締まる「労働契約法」という法律に書かれています。
【労働契約法16条】
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
このルールを簡単に説明しますと、以下の内容になります。
解雇が認められるためには、
①どんな人が見ても、その解雇は「やむをえない」といえること
②何度も注意・改善の指導をしたにもかかわらず、全く改善の余地がないこと
③解雇する以外の方法がないこと
という厳しいハードルを越える必要がある、ということです。
実際問題としては、このハードルを越えるのはとても難しく、会社の金を横領したなど、よっぽどの理由がない限り、解雇はできないと考えておくの無難です。
そのため、「仕事ができない」というだけでは、解雇はまず不可能でしょう。
なお、「解雇の違法性が著しい場合」、要するに、誰が見ても解雇をするのは不当!という場合には、解雇された従業員による、会社への慰謝料請求が認められてしまうことすらあるので、注意が必要です(東京地判平成18年11月29日、東京地判平成17年1月25日等)。
4 合法的に辞めてもらう方法
では、問題のある従業員を抱えた経営者としては、どうすればよいのでしょうか?
対応策としては、従業員に「自己都合退職」してもらう方法があります。
自己都合退職の場合は、会社の一方的な都合ではなく、従業員が自らの意思で会社を辞める形をとるため、解雇のための厳しいハードルは課されません。
そこで、問題従業員を辞めさせたい場合、すぐに解雇するのではなく、以下のステップを踏んでください。
(1)ステップ①:肩たたき(=退職勧奨)をする
第1のステップは、問題従業員に対して、「肩たたき」(法律の専門用語でいうと、「退職勧奨」【タイショク カンショウ】)をすることです。
退職勧奨を行なう際の注意点として、問題従業員から、後になって「退職を強制された!」などといちゃもんをつけられないような工夫をすることです。
具体的には、退職勧奨を行う際には、
①代表以外の人(できれば、女性従業員。)を同席させる、
②開けた場所(ラウンジなどが望ましい。)でやる
③面接形式
で実施しましょう。
大声を出して威嚇したり、「言うことを聞かないと解雇をしちゃうよ?」などと解雇をチラつかせて退職を迫る行為は、やってはいけません。
なお、退職勧奨それ自体は、会社の方から従業員に対して、退職を「お願いする」行為にとどまり、解雇ではありません。
しかし、退職勧奨の際に、「強制の要素」「圧迫」がある場合には、「退職勧奨に名を借りた、解雇にすぎない」と認定され、解雇の厳しいハードルをクリアしない限り、結局、やめさせることはできなくなります。
しかも、強制の要素などがある場合には、退職勧奨そのものが違法と認定され、問題従業員から会社に対する損害賠償請求が認められてしまうこともあるので、留意してください(最判昭和55年7月10日、東京高判平成24年11月29日)。
(2)ステップ②:自己都合退職の「合意書」を交わすこと
第2のステップは、「自己都合退職」であって、解雇でないことを証拠化するために、会社と問題従業員との間で、
「自己都合退職」しますという内容の合意(「退職合意」)を交わすこと
が必要です。
この際にも、問題従業員の方から、後になって「実は、社長から脅されて、サインしたくないのに、サインさせられた。。。」などと言われないようにするために、
①従業員食堂やラウンジなどの開放された場所で、
②事務員(女性が望ましい。)など代表以外の者を同席させた上、
③リラックスした雰囲気の下で、
合意書にサインしてもらうべきです。
なお、合意書を交わしても、後になって揉める可能性の高そうな従業員に対しては、
①「手切れ金」を渡す
②「再就職支援」を約束するなどしたうえで
③「お金をもらいましたor再就職を支援してもらいました。」ということを明記した契約書にサインしてもらう
方法も有効です。
5まとめ
最後に、これまでの解説をまとめますと、以下のとおりになります。
- 解雇は、離婚と同じくらい大変。よっぽどの理由がない限り、解雇はできないと考えること
- 問題授業員については、解雇ではなく、「自己都合退職」の形をとること。
- 自己都合対象までのステップは、退職勧奨をすること・自己都合退職の合意を交わすこと
- ただし、後になって、「脅された。強制された」などと言われないような状況下で行うこと