はじめに

2017年に民法改正がされて、「約款(利用規約)」に関し「定型約款」というルールが定められました。

web・アプリサービス事業者等にとっては身近な約款(利用規約)ですが、今回の民法改正により、様々な規制を受けることになります。

ですが、具体的に何がどう変わり、実際にどう対応すればいいのかよくわからないですよね。

そこで今回は、2017年民法改正によって、約款(利用規約)の何がどのように変わったのか、定型約款の意味や、変更点についてどのように対応すればよいかなど、3つのポイントにしぼりかりやすく解説していきます。

1 約款(利用規約)とは

約款(利用規約)とは

(1)約款(利用規約)の意味

約款利用規約)」とは、事業者と大量のユーザーとの間で一律に適用される取決めが書かれたルールブックのことをいいます。

webサービスやアプリを初めて使う際に、画面上にあるバーをスクロールしながら長々と書かれた文書を見て(あるいは、ほとんど読まないで)、「同意」ボタンをポチっとクリックしたこと、みなさん1度はありますよね。

その文書こそが「約款(利用規約)」になります。他にも約款(利用規約)は、web上のものに限らず、保険約款、運送約款や銀行取引約款など、大量のユーザーが想定されるものについては、たくさん種類があります。

こういった約款(利用規約)を作る理由は、電車の運送約款などを想像すればわかりやすいですが、ユーザーがサービス(電車)を利用するたびにいちいち契約書を交わしていたのでは、サービスが回らなくなりますし、ユーザーも面倒だからです。

(2)改正された経緯

このように、約款(利用規約)は本来なら「契約書」をかわすべきところを、便利さを優先して、そのプロセスを省いて簡略化したものにすぎませんから、効力としては、契約書とほぼ同じ拘束力があると考えられています。

ですが、約款(利用規約)のほとんどは、辞書のように分厚く、また難解な言葉で書かれているため、多くのユーザーはほとんど読まずに、ノールック状態でサービスを利用しているのが実情です。

それなのに、契約書にサインしたのと同じように約款(利用規約)に拘束されてしまうのは、拘束の前提を欠き、やり過ぎともいえます。ユーザーにとって不利益な部分についてはなおさらです。

ところが、約款(利用規約)にこういった拘束力があることなどについては、これまで特に法律に書かれていなかったため、無益な争いが生じていました。

そこで、2017年民法改正ではじめて、約款(利用規約)について導入されたルールが「定型約款」に関するものです。

以下でその内容を詳しくみていきましょう。

(利用規約の内容や書き方などを知りたい方は、「【ひな形付】web・アプリ利用規約の書き方と9つのポイントを解説」をご覧ください。)

2 定型約款とは

定型約款とは

定型約款」とは、いわゆる約款・利用規約と呼ばれるもののうち、以下の3つの要件をすべてみたすものをいいます。

  1. ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引についてのものであること(要件①:不特定多数)
  2. 取引きの内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであること(要件②:定型取引)
  3. 約款が、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体であること(要件③:一方性)

この3要件をみたす約款(利用規約)に限り、「定型約款」として、これまでは当然と考えられていたユーザーを拘束する力が与えられ、ユーザーは、約款(利用規約)に書かれた内容に拘束されることになります。反対に、「定型約款」にあたらない約款(利用規約)については、事業者側で「このルールに従ってくださいね」と一方的に定めても、ユーザーを拘束することができません。

そのため、2017年民法改正後は、約款(利用規約)を用意するサービス事業者としては、まず、自社の約款(利用規約)がこの「定型約款」の3要件にあてはまるのかどうかをチェックする必要があります。

3要件をみたさないものについては、みたすように約款(利用規約)を作り変える必要があるのです。

それでは、「定型約款」の3要件について詳しくみていきましょう。

(1)要件①:不特定多数~ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引についてのものであること~

特定の者」とは、事業やサービスを提供する事業者などのことを指します。

不特定多数の者を相手方として行う取引」とは、相手方の個性に着目せずに行う取引のことをいいます。

例えば、アプリの場合、事業者は一定の取引相手だけに向けてサービスを提供しているわけではなく、たいていはそのアプリを利用したいと考えたユーザーなら誰でも自由にダウンロードすることができますよね。

このような場合が「不特定多数の者を相手方として行う取引」にあたります。

これに対して、事業者間での取引については、不特定多数の取引相手とはいいにくいため、この要件にあてはまらない可能性が高くなります。

(2)要件②:定型取引~取引きの内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであること~

これは、以下の3つにあてはまるようなもののことをいいます。

  1. たくさんの相手方に対して全員と同じ内容で契約することが通常で、
  2. 相手方が事業者に対して交渉を行わず、事業者が準備した契約条項をそのまま受け入れ、
  3. そのまま契約が成立することが一般的に考えて合理的であること

例えば、アプリをダウンロードしたとき、初めに利用規約が出てきて私たちはそれに同意させられますよね。

この利用規約はユーザーごとに違う内容になっているわけではなく、全員に対して同じものが提示されています(要件②ー1)。

また、通常私たちはアプリ提供者に対して個別の交渉は行わず、提示された利用規約に同意するだけです(要件②ー2)。

そして、普通はそのままアプリの利用に関する契約が成立します(要件②ー3)。

このような場合が要件②の「取引きの内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであること」にあてはまります。

もっとも、「合理性」が要求されているため、例えば大企業と中小企業のような関係性のときに、双方の交渉力に差があることで取引内容が画一的になっている場合などは、この要件にあてはまらないことになります。

(3)要件③:一方性~約款が、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体であること~

これは、「契約約款が事業者によって一方的に用意されたものであること」をいいます。

例えば普通の契約では、契約の当事者双方が話し合って合意に至り、契約が成立します。一方、定型約款は、事業者が一方的にその内容を用意して提示し、相手方(アプリユーザーなど)はそれに同意するだけで契約が成立します。

そのため、事業者が個別に契約内容を検討するような場合は、この要件をみたしません。

以上の3つの要件すべてにあてはまる契約条項(約款)が、改正民法によって規制される「定型約款」となります。要件の内容からいって、消費者と事業者の間での契約に用いられる約款が「定型約款」にあてはまるケースが多いと考えられます。

定型約款にあてはまる場合、その内容はユーザーを拘束し、一方で事業者は様々な規制をうけることになります。

具体的には、以下のようなものが「定型約款」にあてはまります。

  • インターネットやアプリで提供されるサービスについての利用規約
  • 保険会社が定める保険約款
  • 運送会社が定める運送約款
  • 宿泊施設が定める宿泊約款
  • ソフトウェア販売会社が定めるソフトウェアの利用約款

反対に、企業間の取引約款や従業員に対する労働契約は、規制の対象となる「定型約款」にはあてはまらないことになります。

3 定型約款はどのような規制をうけるのか?

定型約款の規制

利用規約(約款)が「定型約款」にあてはまる場合、さまざまな規制をうけることになります。

規制のポイントをまとめると以下の3つとなります。

  1. ユーザーに利用規約(約款)を明確に表示すること
  2. 利用規約(約款)に不利益条項が含まれていないこと
  3. 利用規約(約款)の変更要件・手続き

次の項目から順番に確認していきます。

4 ポイント①:ユーザーに利用規約(約款)を明確に表示すること

利用規約の表示

これまで、「利用規約(約款)は契約書の代わりになり、相手方を拘束する」ということが、裁判例ではありますが認められてきました。もっとも、「なぜ相手方を拘束することができるのか」を示した明確な法律はありませんでした。私たちが読み飛ばして機械的に同意ボタンを押していた利用規約ですが、法的な拘束力を持つ「根拠」がはっきりとしていなかったんです。

そこで、2017年民法改正ではこの「根拠」の部分が明らかにされました。

具体的には、以下のどちらかをみたす場合には、ユーザーが条項を1つ1つ確認したかどうかにかかわらず利用規約(約款)すべてについて合意したものとみなされ(=みなし合意)、これを根拠として、法的な拘束力をもつことになりました。

  1. ユーザーとの間で、利用規約(約款)を契約の内容とする旨の合意がなされたとき
  2. サービス提供事業者が、利用規約(約款)を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示していたとき

「1.」については、例えば、利用規約の中に「利用規約に同意した場合には、それが双方の契約内容となります」という文言を記載しておく、という方法があります。

「2.」の「表示」については、例えば、ユーザーがサービスを利用するときに必ず見るページ上に利用規約(約款)を掲載しておくなどの工夫が必要です。

いずれにせよ、「この利用規約(約款)が契約の内容になりますよ」ということを明確に示しておくことがポイントです。

5 ポイント②:利用規約(約款)に不利益条項が含まれていないこと

不利益条項

今までは、利用規約(約款)について具体的な法規制がありませんでした。そのため、利用規約(約款)の内容について、どの程度事業者に有利なものにしてよいのかがはっきりしていませんでした。

そこで、2017年民法改正では、「相手方(ユーザー)の利益を一方的に害するような内容の条項(=不利益条項)は認めません!」といったルールが定められました。

これにより、事業者が用意した利用規約(約款)が「定型約款」にあてはまり、ユーザーとの間での「みなし合意」に必要な手続き(上で解説した2つ)をとったとしても、条項の内容に不利益条項が含まれている場合には、その不利益条項部分につきユーザーは拘束されないことになります。

以下でルールの内容について具体的にみていきましょう。

(1)不利益条項とは?

不利益条項」とは、その取引の態様・実情や、常識的に考えて、相手方の利益を一方的に害するような内容の条項のことといいます。

不利益条項が利用規約(約款)に含まれていた場合、その部分については「ユーザーが合意をしたものとみなす対象」から外されることになります。ユーザーが自分では気づかないうちに不利益な条項に拘束されてしまわないように、このようなルールが設けられました。

不利益条項は、大きく分けると以下の2つがあります。

  1. 不当条項
  2. 不意打ち条項

「1.」の「不当条項」とは、ユーザーにとって不当に不利益な契約条項のことをいいます。

不当条項の具体例は以下のとおりです。

  • 相手方に高額な違約金やキャンセル料を支払わせる条項
  • 事業者側の不当な免責や不当に低い賠償金額が設定されている条項
  • ユーザーからの解約を一切認めない条項
  • 解約やサービス中止の場合に、事情にかかわらず返金を一切認めない条項
  • 紛争が生じた場合の裁判管轄を、サービス提供事業者の本店所在地のみとする条項

「2.」の「不意打ち条項」とは、ユーザーから見て、その条項が利用規約(約款)に含まれていることが合理的に予測することができないもののことをいいます。

不意打ち条項の具体例は以下のとおりです。

  • 本来の取引きとは全く関係ない商品のセット販売をさせる条項
  • 本来の取引きの商品には予想できない保守管理がついている条項

以上が不利益条項の内容と具体例です。利用規約(約款)は事業者側が一方的に決めることができますが、不利益条項が含まれないようにその内容を調整する必要があります。

(2)対処法

利用規約(約款)には不利益条項が含まれないようにするのがベストです。不利益条項に該当する可能性のある条項が含まれている場合には、以下のように対処することになります。

  1. 不利益条項に該当する可能性のある条項を削除する
  2. 不利益条項に該当する可能性のある条項について、利用規約(約款)から抜き出し、「重要事項」としてユーザーに分かりやすく説明するページを設けて、条項ごとに1つずつ同意を得る

不利益条項を削除しないのであれば1つ1つ個別に同意を得なければならないため、注意が必要です。

6 ポイント③:利用規約(約款)の変更要件・手続き

利用規約の変更

事業者が提供するサービスについて、途中でその内容が変わることがあると思います。事業者としては、すぐに利用規約(約款)を変更したいと考えるでしょう。もっとも、利用規約(約款)には「契約書」と同じ効力がありましたね。

普通の契約であれば、その内容を変更する場合には当事者双方の同意のもと、改めて契約書を書き直すことになります。

一方、ウェブサービスやアプリの利用規約(約款)の場合には、いちいちユーザーにコンタクトをとって変更についての同意を得ることは、途方もない作業であり、現実的ではありません。

そこで、2017年民法改正では、「利用規約(約款)の変更」に関するルールが設けられました。

次の項目で、変更に関する具体的なルールについてみていきましょう。

(1)同意なしに利用規約(約款)を変更する方法

以下の場合には、ユーザーの同意を得ることなく利用規約(約款)の変更が認められます。

  1. 利用規約(約款)の変更が、ユーザーの利益になるとき
  2. もしくは、

  3. 以下の要件をすべてみたすとき
  4. ①変更が契約目的に反しないこと
    ②変更の必要性、変更内容の相当性があること
    ③現在の利用規約(約款)に、「利用規約(約款)を変更することがある」旨の定めがあること

「1.」の具体例としては、反社会勢力によるサービスの利用を禁止する内容の条項や、法律で禁止された行為について、ユーザーに改めて禁止を促す内容の条項などがあります。

「2-①」は、本来の契約内容と整合性のあることをいいます。

例えば、とても安い価格での宿泊サービスの提供を目的とした利用規約(約款)の場合に、もっと安くサービスの提供をするために、宿泊設備の減少を行う旨の条項を設ける場合には、契約目的に整合性のある変更であるといえます。

「2-②」のうち、「変更内容の相当性」については、ユーザーが予想できないような大幅な変更をしてしまうと、その部分については無効となってしまう可能性があります。

例えば、あるアプリを今まで無料で利用できていたのに、翌月から月額10万円となることを内容とした利用規約の変更が行われた場合などです。

「2-③」の具体的な方法として、「利用規約(約款)の内容は合意なく変更されることがある」旨を定めておく、といったやり方があります。事業者は、現行の利用規約(約款)にこの旨が記載されているかどうかをチェックすることをお勧めします。

以上の要件をみたせば、ユーザーの同意を得なくても利用規約(約款)を変更することができます。反対に、これらの要件をみたさないのであれば、事業者は勝手に利用規約(約款)を変更してはいけません。

(2)周知の手続きをする

利用規約(約款)の変更をする場合には、上の要件をみたしたうえで、次の手続きをする必要があります。

  1. 変更後の利用規約(約款)の効力発生時期を定める
  2. 変更後の利用規約(約款)の内容と効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知する

なお、ユーザーの利益とはならないタイプの利用規約(約款)変更の場合、「1.」の効力発生時期までに「2.」の周知をしなければ、変更の効力が生じないため注意が必要です。

以上が利用規約(約款)の変更方法になります。

変更については、利用規約(約款)にあらかじめ記載しておくことをおススメします。具体例としては以下のようになりますので、参考にしてみてください。

    〇条(利用規約の変更)

    1 当社は以下の場合に、当社の裁量により、利用規約を変更することができます。

    (1)利用規約の変更が、ユーザーの一般の利益に適合するとき。

    (2)利用規約の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更の内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

    2 当社は前項による利用規約の変更にあたり、変更後の利用規約の効力発生日の1か月前までに、利用規約を変更する旨及び変更後の利用規約の内容とその効力発生日を当社ウェブサイト(URL:        )に掲示し、またはユーザーに電子メールで通知します。

    3 変更後の利用規約の効力発生日以降にユーザーが本サービスを利用したときは、ユーザーは、利用規約の変更に同意したものとみなします。

7 民法改正のスケジュール~いつから施行されるの?~

民法改正のスケジュール

最後に、2017年の改正民法がいつ施行されるのか、これからの流れを解説します。

まず、法律が実際に効力を持つためには、法律の①成立→②公布→③施行という段階を経る必要があります。

これを今回の民法改正についてみると、2017年5月26日に法律として「成立」し、その後、2017年6月2日付けで「公布」されています。そして、現段階では、「施行」日は平成32年(2020年)4月1日となる予定です。

改正民法が正式に施行されるまでの間は、今まで通りの民法のルールが適用されます。

参考までに、2017年民法改正についての新旧対照表を載せておくので確認してみてください。⇒「2017年民法改正新旧対照表

8 小括

まとめ

利用規約(約款)については今まで特に法的な規制がありませんでした。そのため、2017年の民法改正で戸惑った事業者の方も少なくないと思います。

改正の内容をしっかりと理解し、自分たちの利用規約(約款)が新しいルールに違反していないかどうか確認することが必要です。

9 まとめ

これまでの解説をまとめると以下のとおりです。

  • 「利用規約」とは、事業者と不特定多数のユーザーとの間で一律に適用されるルールが書かれたルールブックのこと
  • 「定型約款」とは、①ある特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引についてのものであること、②取引きの内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものであること(定型取引)、③約款が、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体であること、の3つの要件をみたすものをいう
  • 利用規約(約款)が「定型約款」にあてはまる場合には、①利用規約(約款)の明確な表示、②不利益条項が含まれていないこと、③利用規約(約款)の変更要件、の3つについて規制をうける
  • 「①利用規約の明確な表示」については、ⅰ.ユーザーとの間で、利用規約(約款)を契約の内容とする旨の合意をすること、ⅱ.サービス提供事業者が、利用規約(約款)を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に表示すること、がポイント
  • 「②不利益条項」には不当条項と不意打ち条項があり、利用規約には不利益条項が含めれないようにその内容を調整する
  • 「③利用規約の変更要件・手続き」には細かい条件が設けられているため、これをきちんと守らないと利用規約の変更はできない
  • 改正民法の施行日は、平成32年(2020年)4月1日の予定