はじめに

AIベンダの中には、時間と労力をかけて開発したAIをパクられないようにするため、特許を取得したいと考えている方が多いのではないでしょうか?

AIの主にプログラム部分について特許を取得できれば、他社は権利者の承諾なくしてそのプログラムを利用できなくなります。

もっとも、特許を取得するためには特許法が定めた多くの条件をみたす必要があります。また、条件をみたすかどうかはAIの構成要素ごとに分けて考えなければならないなど非常に複雑です。

そこで今回は、AIが特許で保護されるための条件を中心にITに詳しい弁護士が解説していきます。

1 AIとは

AIとは

AI(Artificial Intelligence)」とは、人間と同じような知的な活動を行うことができる人工知能のことをいいます。

将来、多くの職業がAIにとって代わられると言われていますが、これは人間と同じように考えて行動することができる「強いAI(汎用型AI)」が開発されることを前提としています。長い間AIの研究が進められていますが、まだ「強いAI(汎用型AI)」の開発には至っていません。

自動車の自動運転やお掃除ロボットなど、さまざまな分野でAIが活用されていますが、現時点で開発されているAIはすべて「弱いAI(特化型AI)」です。

「弱いAI」であっても、AIを使って絵画などのコンテンツを生み出せるようになるまでには、多くの時間と労力がかかります。

このように、多くの時間と労力をかけて開発されるAIですが、勝手に他社に利用されてしまっては、すべてが水の泡です。

そこで、AIを強力な権利で保護できないか、ということが問題となります。

ここでは、強力な権利の一つでもある「特許」でAIを保護できないか、という点にフォーカスして見ていきたいと思います。

AIが特許で保護されるか?を検討する際には、必ずAIを構成する要素のどの部分について議論しているのか?を意識しておく必要があります。

AIの構成要素は大別すると、

  1. データ(生データ、学習用データセット)
  2. プログラム(学習済みモデル)

に分けることができます。

本記事では、まず始めにAI全体について特許で保護できないか?を解説し、その後、AIのデータ・プログラムそれぞれについて、特許での保護の可能性・戦略を解説していきます。

2 特許とは

特許とは

特許」とは、発明をした人にその発明の独占権を与えて発明を保護する制度です。

ここでいう「発明」とは、次の4つの条件をすべてみたすものをいいます。

  1. 自然法則を利用
  2. 技術的な思想
  3. 創作性
  4. 高度なもの

(1)自然法則を利用

自然法則」とは、自然界における現象の間に成り立っている必然的・一般的な関係を示した法則のことで、万有引力の法則などがこれにあたります。

(2)技術的な思想

技術」とは、目的を達成するための具体的な手段で、誰が行っても同じ結果が得られるもののことです。「思想」とは、アイディアのことです。

単なる情報の提示は、提示方法などに技術的な特徴がないかぎり「技術的な思想」とはいえません。

(3)創作性

創作」とは、新しいものを作り出したり、考え出したりすることをいいます。すでに存在しているものを見つけ出すことは、「創作」ではなく発見です。

(4)高度なもの

高度なもの」は、実用新案法に定められている「考案」と区別するために設けられたものです。特許を出願する際に行われる国の審査では、この条件を考慮しないことになっているため、実質的な意味はありません。

 

以上の4つ(実質的には①~③の3つ)の条件をみたすものは「発明」にあたりますが、特許で保護されるためにはこれだけでは足りません。

3 特許要件

特許要件

「発明」にあたるだけでなく、それが「特許要件」という条件をみたしていないと特許権では保護されません。

「特許要件」として、代表的なものは次の3つです。

  1. 産業上の利用可能性
  2. 新規性
  3. 進歩性

(1)産業上の利用可能性

産業上の利用可能性」とは、文字どおり産業上利用することができるということです。特許法は産業の発達を促すことを目的とした法律であり、産業上利用することができなければ特許で保護する必要はないため、この条件が設けられています。

(2)新規性

新規性」とは、「新しい」ということを意味します。公然と知られている発明や書籍・インターネットなどに掲載された発明は、世間に知れ渡っているため「新規性」がありません。

(3)進歩性

進歩性」とは、簡単に発明できないという意味です。その発明の分野に知識を持っている人が、すでにある発明をもとにして簡単に発明することができるようなものに「進歩性」はありません。

 

以上のように、「発明」と「特許要件」の条件をいずれもみたす場合、国に対して特許の出願をしてそれが認められれば特許で保護されることになります。

4 特許の種類

特許の種類

出願の対象となる特許には、以下の3つの種類があります。

  1. 物の発明
  2. 方法の発明
  3. ビジネスモデル特許

(1)物の発明

物の発明」とは、発明が「物」として具体的な形になっているものをいいます。

ソフトウェア関連で具体例を挙げると、「コンピュータの機能を特定するプログラム」や「コンピュータの処理内容を特定するデータやデータ構造」、「プログラムやデータを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」などがあります。

(2)方法の発明

方法の発明」とは、発明の内容を時系列に沿った「手順」で特定することができるものをいいます。分析方法や通信方法などが「方法の発明」にあたります。

(3)ビジネスモデル特許

ビジネスモデル特許」とは、ITを用いてビジネスの方法を実現する装置や方法の発明に対して与えられる特許のことをいいます。

日本においてビジネスモデル特許の元祖とも言われている「マピオン特許」や「逆オークション特許」と呼ばれるものがこれにあたります。

 

このように、特許が3つの種類に分けられているのは、特許の種類によって保護の対象が異なるためです。「物の発明」では、物を生産・使用・譲渡・輸出入する行為など、「方法の発明」では、方法を使用する行為が保護の対象になります。

また、「ビジネスモデル特許」では、ビジネスを支えるITの仕組みそのものが保護の対象となります。

以上のように、3つの種類に分かれる特許ですが、AIに関して特許を取得しようと考えた場合、まず始めに問題となるのは、AI全体について特許を取得することができるかどうかです。

5 「AI全体」は特許で法律上保護されるか?

AIと特許

いまいちど確認すると、特許で保護されるためには、それが「発明」であることと「特許要件」をみたすことが必要でした。

そのため、AI全体が特許で保護されるためには、AI全体が「発明」にあたり、上で見た3つの特許要件をみたすことが必要になります。

(1)「発明」といえるか?

AI全体が「発明」といえるためには、既に見たように、その発明が「自然法則を利用した技術的な思想であり、創作性のある高度なものであること」が必要です。このうち「高度なもの」であるかどうかは考慮する必要がありませんでした。

そのため、AI全体が「自然法則を利用した技術的な思想であり、創作性のあるもの」にあたるかを検討することになります。

この点、AI全体が「発明」にあたるかどうかは、以下の2点について「自然法則を利用した技術的な思想であり、創作性のあるもの」といえるかどうかを判断することにより行うものとされています。

  1. ソフトウェア
  2. ソフトウェアとともに動作する情報処理装置、その動作方法、ソフトウェアを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

①ソフトウェア

ソフトウェアとハードウェア資源とが、使用目的に応じた情報処理装置やその動作方法を協働で構築している場合には、そのソフトウェアは「自然法則を利用した技術的な思想であり、創作性のあるもの」として「発明」にあたるといえます。

②ソフトウェアとともに動作する情報処理装置、その動作方法、ソフトウェアを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体

ソフトウェアが上記①の条件をみたす場合には、「自然法則を利用した技術的な思想であり、創作性のあるもの」として「発明」にあたるといえます。

 

このように、AI全体が「発明」にあたるかどうかを、ソフトウェアそのものから判断することはできないため、情報処理がどのように実現されているかどうかで判断するわけです。

(2)「進歩性」があるといえるか?

先に見たとおり、「特許要件」の代表格として挙げられるのは、「産業上の利用可能性」と「新規性」、そして「進歩性」の3つです。

ここでは、AI全体の特許を考えるにあたって特に問題となる「進歩性」について取り上げます。AI全体に進歩性があるかどうかは、「簡単に発明できない」という本来の条件に加え、以下の点に注意して検討する必要があります。

①技術の組み合わせや適用によって生まれた技術

ある分野で利用されている技術と他の分野で利用されている技術を組み合わせたり、ある分野で利用されている技術を他の分野に適用したりすることで、新しい技術が生まれることがあります。

ですが、このような創作活動は通常想定されるため、組み合わせ方や適用方法が技術的に困難であるなどの事情がないかぎり、この技術の「進歩性」は否定されます。

②コンピュータ技術の一般的な課題や効果を前提とする

「進歩性」があるかどうかの判断は、コンピュータ技術の一般的な課題や効果を前提として行われます。

「コンピュータ技術の一般的な効果」とは、迅速かつ正確に大量のデータを処理できるといった効果などを指します。

もっとも、このような効果は一般的なものであり、通常はシステム化に伴って当然に得られる効果であることが多いといえます。そうすると、「簡単に発明できない」という条件をみたさないと判断されやすく、「進歩性あり」という判断がされにくくなると考えられます。

 

以上のように、AI全体が「発明」にあたり、「特許要件」のうち特に問題となる「進歩性」をみたす場合には、AI全体が特許で保護される可能性が高いです。

もっとも、既に見たように、AI全体はデータ部分とプログラム部分とで構成されています。そのため、これらを対象としてそれぞれが特許で保護されないか、という点も別途検討する必要があります。

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6 AIの「プログラム」は特許で法律上保護されるか?

AIプログラム

プログラムは「物の発明」の「物」に含まれるため、特許で保護される可能性があります。AIのプログラムが「発明」にあたるかどうかの判断は、基本的にAI全体を対象とする場合と同じです。つまり、AIプログラムによる情報処理がハードウェア資源を使って具体的に実現されている場合は、「自然法則を利用した技術的な思想であり、創作性のあるもの」として「発明」にあたります。

そのため、このAIプログラムが3つの特許要件をみたす場合には特許で保護されることになります。

また、ディープラーニング型AIで用いられるニューラルネットワークの構造のように、プログラムそのものだけでなく、「プログラムに準ずるもの」も特許で保護される可能性があります。

「ニューラルネットワークの構造」とは、人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)を真似たネットワーク構造のことをいいます。コンピュータの処理内容を特定するという点がプログラムと似ているため、「プログラムに準ずるもの」とされています。

7 AIの「データ」は特許で法律上保護されるか?

AIデータ

単なる情報の提示は「技術的な思想」とはいえず、「発明」にはあたらないということでした。そのため、AI開発の際に使われるデータのうち、画像データなど単なる情報の提示にすぎないものは、「発明」にはあたらず特許で保護されることはありません。

もっとも、コンピュータの処理内容を特定するデータやデータ構造は別です。これらは、コンピュータに対して直接指令を与えるわけではないため「プログラム」そのものではありませんが、「プログラムに準ずるもの」として特許で保護されることになっています。

また、「学習済みパラメータ」については、単なる数値データの提示であるといえるため、基本的には特許の対象にはなりません。

もっとも、学習済みパラメータが構造を有するデータであるといえるような場合には、特許で保護される可能性があると考えられます。

8 AIの「学習済みモデル」は特許で法律上保護されるか?

AIの学習済みモデル

学習済みモデルは、プログラムと学習済みパラメータから構成されていますが、この総体が「技術的な思想」といえ「発明」にあたる場合は、特許で保護される可能性があります。「発明」にあたるかどうかは、AI全体やAIのプログラムの場合と同じで、ソフトウェアの情報処理がハードウェア資源を使って具体的に実現されているかによって判断されます。

たとえば、飲食店の評判を分析するための学習済みモデルがあるとしましょう。

この学習済みモデルは、飲食店に関するテキストデータをオートエンコーダ(自己符号器)として学習させることによって数値化されたものを入力値として、飲食店における既存の評価を数値化したものを出力値とした学習をさせるという2つのニューラルネットワークを組み合わせたモデルだとします。

この学習済みモデルは、飲食店の評判を分析するという目的に応じた情報処理装置の動作方法を構築するものであるため、ソフトウェアの情報処理がハードウェア資源を使って具体的に実現されているといえます。

そのため、この学習済みモデルは技術的な思想であり、「発明」にあたるため、特許で保護されることになります。

学習済みモデルが特許で保護されることになった場合は、「派生モデル」や「蒸留モデル」に関しても、それが元となった学習済みモデルの技術的な範囲に含まれていれば、特許で保護されることになります。

 

以上のように、AI全体、AIのプログラムやデータなどといった構成要素を対象に特許で保護されるかについて見てきましたが、特許の対象として検討すべきなのはこれらに限られません。

特許の種類には「方法の発明」があるため、AIを使ったビジネスモデルが特許で保護されないかが問題となります。

※「派生モデル」と「蒸留モデル」について詳しく知りたい方は、「AIの「派生・蒸留モデル」の生成は著作権侵害?弁護士が5分で解説」をご覧ください。

9 ビジネスモデル特許(ビジネス関連発明)

ビジネスモデル特許

ビジネスモデルの多くは人間によって考案されます。そのため、ビジネスモデルの多くは自然法則を利用していなかったり、技術的思想ではないため「発明」とはいえず、特許で保護されることはありません。

もっとも、ビジネスモデルがAIのように情報通信技術を使って実現された発明については、ソフトウェアの情報処理がハードウェア資源を使って具体的に実現されているといえ、自然法則を利用していると認められる可能性があります。

このような場合には、ビジネスモデルが特許で保護される可能性があります。

もっとも、このような場合でも、厳密にはビジネスモデルそのものが特許で保護されるわけではありません。ビジネスモデルそのものを特許で保護してしまうと、他社が同じビジネスモデルを無断で利用できなくなり、産業の発達を促すことを目的とする特許法の趣旨に反するからです。

そのため、ビジネスモデルを実施する際のシステムに技術的な工夫があれば、そのシステムが特許で保護されることになります。これを「ビジネスモデル特許(ビジネス関連発明)」と呼びますが、その名称からビジネスモデルそのものが特許で保護されると誤解しないように注意しましょう。

以上のように、AI全体やAIの構成要素について、技術的な思想などが認められ「発明」であるとされた場合には、それらは特許で保護されることになり、発明の実施を独占する権利(=特許権)が与えられます。

それでは、ここにいう特許権はいったい誰に帰属するのでしょうか。

10 誰が権利を持つのか?(特許権者)

特許権者

AIを開発するためには、データを収集して加工し、プログラムを使ってデータをAIに学習させるという手順を踏みます。AIの開発過程では、データを集める人、データを提供する人、データを加工する人、プログラムを作る人、データをAIに学習させる人など、多くの局面で人が関与することが通常であるように、ユーザとベンダの共同開発的色彩が強いです。

そのため、これらの関与者のうちで誰が特許権を持つのかという問題が生じます。

特許法では、「発明をした者」が特許を取得できる(=特許権者)とされています。

発明をした者」とは、その発明について、具体的な技術手段を完成させた人のことを指します。そのため、AIを開発する際にアドバイスをしただけの人は「発明をした者」とはいえず、特許権者となることはできません。

もっとも、特許権者は「一つの発明につき一人」という関係に必ずしもあるわけではありません。複数の人が共同で発明をした場合には、その全員が特許を受けることのできる権利者となります。

そのため、共同で発明をした場合には、共同発明者全員を発明者として特許を出願しなければならず、これに違反すると、その出願は拒絶され、仮に登録がなされたとしても特許無効審判の対象になります。

AI開発は、ユーザとベンダの共同開発的色彩が強いため、特許権者が誰なのか?は特に問題となりやすいといえます。そのため、将来のトラブル防止の観点から、AIの成果物ごとに誰が特許を取得するのかをあらかじめAI開発契約で定めておくことが重要になってきます。

このようにして、正当に特許を受けた特許権者は、その発明の実施について独占する権利を与えられることになりますが、それでもそのような独占的な権利を侵害される可能性はゼロではありません。

そのため、特許権者は特許を受けた発明が侵害された場合の対処法を知っておく必要があります。

11 特許権で保護されたAIが侵害された場合の対処法

対処法

(1)特許権侵害

特許権者は、特許を取得した発明を独占して実施する権利を持っているため、他社が勝手にその発明を実施すると「特許権侵害」になります。

特許権が侵害された場合、まずは侵害行為をやめるように請求すること(=差止請求)が考えられます。また、侵害行為によって損害を受けた場合には、損害賠償を請求することもできます。

もっとも、AIに関する特許権侵害の局面において、これらの方法は実効性がなく効果的ではありません。

(2)実務での考え方

①そもそも特許権を侵害されてるかを把握しにくい

AIに関する特許権が侵害されているかどうかは、プログラムの内容から判断することになりますが、コンピュータ内部のプログラムがどのような内容なのかを知ることは困難です。プログラムの内容を知ることができなければ、特許が侵害されているかどうかを確認することは簡単ではありません。

そのため、特許を侵害されているとの疑いを持ったとしても、具体的に侵害行為の内容や侵害行為を行っている者を特定することは難しく、差止や損害賠償を請求するためのハードルは非常に高いというのが現状です。

②国外での侵害行為について

日本で付与された特許は、日本国内でのみ効力を持ち、その範囲は請求項によって決まります。請求項に記載されている事項のすべてが日本国内で実施されていることが特許権侵害を肯定する前提となります。

そのため、請求項に記載されている事項の一部が国外で実施されたような場合には、特許権侵害は成立しません。つまり、行為の一部を国外で行うことによって特許権侵害を回避できるのです。

クラウド上で稼働するAIについては、国外にクラウドのサーバがあるというだけで行為の一部が国外で行われたと判断されやすくなり、その結果、特許権侵害が成立しにくくなります。

 

以上のように、AIに関する特許権が侵害された場合には、差止・損害賠償の請求が理論上は可能であるものの、実務上は極めてハードルが高い対処方法となっていることに留意が必要です。

12 小括

まとめ

AIに関して特許を取得しようとする場合、まずは、AIを構成する要素のどの部分について、特許を取得しようとしているのかをきちんと理解しておく必要があります。

そのうえで、特許を取得しようとする発明について、それが本当に「発明」にあたるのか、特許要件をみたしているのか、などを正確に見極めることが重要になってきます。

他方で、特許の出願前には、特許を取得することが本当に必要かどうかを検討する必要もあります。特許を出願して出願内容が公開されるまでは、出願日から1年6か月もの時間を要します。

そのため、出願の際にAI技術の内容を詳しく記載した場合には、他社がその記載を参考にして同じようなAI技術を発明する可能性があります。

このように、特許を出願しなければ誰も思い付かなかったかもしれないAI技術が、出願することによって他社に利用されるおそれもあります。

そのため、あえて特許を出願せずにノウハウとして秘匿する「クローズ戦略」も視野に入れて、特許の出願について検討することが大切です。

13 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のとおりです。

  • 「特許」とは、発明をした人に独占権を与えて発明を保護する制度である
  • 「発明」とは、①自然法則を利用、②技術的な思想、③創作性、④高度なものという4つの要件をみたすものをいう
  • 発明が特許で保護されるためには、①産業利用可能性、②新規性、③進歩性という3つの特許要件をみたす必要がある
  • 特許の出願対象となる発明には、①物の発明、②方法の発明、③物を生産する方法の発明の3種類があり、種類によって保護の対象が異なる
  • AI全体は「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を使って具体的に実現されている場合」に特許で保護される
  • 特許要件のひとつである「進歩性」はコンピュータ技術の一般的な課題や効果を前提として判断されるため、認められにくい
  • AIのプログラムは「ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を使って具体的に実現されている場合」に特許で保護され、ニューラルネットワークの構造も「プログラムに準ずるもの」として特許で保護される可能性がある
  • AIのデータは、「プログラムに準ずるもの」にあたる場合は別として、単なる情報の提示にすぎないものは特許で保護されない
  • 学習済みモデルは、プログラムとして特許で保護される場合があり、保護される場合は学習済みモデルを元に生成された「派生モデル」や「蒸留モデル」も特許で保護されることになる
  • AIを使ったビジネスモデルを実施する際のシステムに技術的な工夫があれば、そのシステムが「ビジネスモデル特許」として保護される
  • 特許法では、「発明をした者」が特許を取得できるとされている
  • AIに関する特許権が侵害された場合には、理論上①差止請求と②損害賠償請求が可能だが、実務上これらの方法には実効性がない