アプリケーションプラットフォームと独禁法の問題点を弁護士が解説

はじめに
かつて、ソフトウェア(アプリケーション)というと、DVD-ROMなどのパッケージを購入して利用するのが当たり前でしたが、現在、パソコンやスマートフォンでソフトウェアを使う場合、アプリケーション・マーケット(プラットフォーム事業者)を通じてダウンロードすることが多くなっています。
むしろ、アプリ提供事業者から直接ソフトウェアを買う機会などほとんどないというくらいの状況になっています。
近年は、プラットフォーム事業者の力が強くなりすぎて、独占禁止法上の問題(拘束条件付取引や取引妨害など)が生じることもあります。
今回は、アプリケーションを提供するプラットフォーム事業者にフォーカスして、法的問題点などを中心に解説していきたいと思います。
1 アプリケーション・マーケットの当事者関係

「アプリケーション・マーケット」に関係してくる当事者は、①アプリ提供事業者、②マーケット利用者(ユーザー)、③プラットフォーム事業者(アプリケーション・マーケット運営事業者)の三者です。
プラットフォーム事業者が運営するプラットフォーム上で、アプリ提供事業者がモバイル端末などを対象としてアプリを提供し、ユーザーがアプリを無償もしくは有償でダウンロードして利用するという構図になります。
三者間では、以下のようにそれぞれに規約などを使って契約が締結されていることが一般的です。
(1)プラットフォーム事業者とアプリ提供事業者
アプリ提供事業者がプラットフォーム事業者が運営するプラットフォームを利用するためには、プラットフォーム事業者による規約(プラットフォームの利用料や禁止事項などが定められているもの)に同意することが求められます。
両者の関係で見ると、プラットフォーム事業者は、アプリ提供事業者からアカウントの登録手数料やアプリの売上に応じた手数料を支払ってもらうことにより収益を上げていることが多いです。
(2)プラットフォーム事業者とマーケット利用者
ユーザーがプラットフォームを利用する場合も、アプリ提供事業者と同様に、プラットフォーム事業者による規約(コンテンツの提供や返金、規約に違反した場合の措置などが定められているもの)に同意する必要があります。
ユーザー向けの規約では、アプリに不具合が見つかったとしても、プラットフォーム事業者は責任を負わないと定められていることがほとんどです。
2 アプリに不具合があった場合の責任の所在

アプリに不具合があったからといって、プラットフォーム事業者にその責任を負わせることは酷でしょう。
なぜなら、プラットフォーム事業者は、アプリを販売する場を提供しているに過ぎないからです。
また、既に見たように、プラットフォーム事業者による規約においても、アプリに不具合があった場合について、プラットフォーム事業者が責任を負わないとする旨の定めが置かれていることが多いです。
そのため、アプリに不具合があった場合には、アプリ提供事業者がその責任を負い、プラットフォーム事業者は責任を負わないのが原則となります。
もっとも、ユーザーを保護する必要もあることから、プラットフォーム事業者が任意で返金に応じる可能性はあります。
また、現在の市場においては、アプリケーション・マーケットを通さずに、アプリ提供事業者がアプリを提供することは事実上困難です。
そのため、プラットフォーム事業者がアプリ提供事業者に対して返金の責任を負わせることは、それがプラットフォーム事業者の優位的立場を利用したものである場合には、独占禁止法との関係で問題となる可能性もあります。
3 手数料の徴収について

プラットフォーム事業者による規約のなかには、アプリを提供するにあたり、プラットフォーム事業者が提供するアプリ開発ツールや決済システムを使用することが義務付けられている場合があります。
このような場合、アプリ提供事業者はこれらのシステムを使用する対価としてシステム使用料を支払わなければならない可能性があります。
また、既に見たように、アプリ提供事業者において、アカウントの登録手数料やアプリの売上額に応じた手数料を支払うことが条件となっていることが多いです。
もっとも、現在ではアプリケーション・マーケットなくしてアプリ提供事業者がユーザーにアプリを配信することは事実上難しくなっています。
にもかかわらず、プラットフォーム事業者がシステム手数料などの負担を強制することについて、アプリ提供事業者からは反対の声が上がっています。
最近の例ですと、人気オンラインゲーム「FORTNITE」を提供するEpic Gamesが、App Storeでの手数料が高額すぎるとして、アップル社に対し訴訟を起こしています(係争中)。
この点につき、公正取引委員会は以下のような指摘をしています。
(1)拘束条件付取引にあたる可能性
「拘束条件付取引」とは、相手方の事業活動を不当に拘束し、その自由な事業活動を制約することとなる取引のことをいい、独占禁止法で禁止されています。
プラットフォーム事業者が、アプリ外決済を全面的に禁止しアプリ内課金を不当に強制したり、アプリ外決済の価格に条件を付けたりすることは「拘束条件付取引」にあたる可能性があります。
(2)競争者に対する取引妨害にあたる可能性
プラットフォーム事業者が、競合事業者とユーザーの取引を妨害する目的で、プラットフォームの利用料を不公正に取り扱うなどした場合には「競争者に対する取引妨害」にあたる可能性があり、独占禁止法との関係で問題になってきます。
このように、プラットフォーム事業者は手数料の徴収については慎重になる必要があり、関係当事者間では公平に取り扱うことを前提にしながらも、異なる取扱いをする場合には、その理由などを明示することなどが求められます。
4 まとめ
アプリケーション・マーケットを運営する事業者は、アプリに不具合があった場合の対処法や手数料の徴収などについて注意する必要があります。
また、日本でも昨年からプラットフォーマー規制の議論が盛んになってきています。プラットフォーム事業者は、アプリを販売する場を提供しているに過ぎませんが、場を提供している以上、その場における秩序などの適正さ・公正さを保たなければならないという義務を負っています。
この点を甘く見ていると、場合によっては、不法行為責任や独禁法違反などに問われる可能性もあるため、注意が必要です。
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IT・EC・金融(暗号資産・資金決済・投資業)分野を中心に、スタートアップから中小企業、上場企業までの「社長の懐刀」として、契約・規約整備、事業スキーム設計、当局対応まで一気通貫でサポートしています。 法律とビジネス、データサイエンスの視点を掛け合わせ、現場の意思決定を実務的に支えることを重視しています。 【経歴】 2006年 弁護士登録。複数の法律事務所で、訴訟・紛争案件を中心に企業法務を担当。 2015年~2016年 知的財産権法を専門とする米国ジョージ・ワシントン大学ロースクールに留学し、Intellectual Property Law LL.M. を取得。コンピューター・ソフトウェア産業における知的財産保護・契約法を研究。 2016年~2017年 証券会社の社内弁護士として、当時法制化が始まった仮想通貨交換業(現・暗号資産交換業)の法令遵守等責任者として登録申請業務に従事。 その後、独立し、海外大手企業を含む複数の暗号資産交換業者、金融商品取引業(投資顧問業)、資金決済関連事業者の顧問業務を担当。 2020年8月 トップコート国際法律事務所に参画し、スタートアップから上場企業まで幅広い事業の法律顧問として、IT・EC・フィンテック分野の契約・スキーム設計を手掛ける。 2023年5月 コネクテッドコマース株式会社 取締役CLO就任。EC・小売の現場とマーケティングに関わりながら、生成AIの活用も含めたコンサルティング業務に取り組む。 2025年2月 中小企業診断士試験合格。同年5月、中小企業診断士登録。 2025年9月 一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期課程)合格。











