
はじめに
ICO(Initial Coin Offering)により、日本国内で資金調達をしたいけれども、「ICOは違法」「ICO詐欺」といったネガティブワードばかり聞くため、日本国内でのICOをあきらめている方が多いのではないでしょうか?
ですが、近時、有識者による合法的な資金調達手段としてのICO確立のための提言が行われるなど、日本国内でのICOも実現可能なものとして考えられるようになっています。
そこで、以下では、一旦、ICOの仕組み、やり方や法律規制の全体像をかんたんに説明します。その上で、ICOが違法とされず、企業が合法的に資金調達をするために知っておくべき「7つの原則と2つのガイドライン」を解説していきます。
1 ICOって何?
「ICO(Initial Coin Offering)」とは、企業が「トークン」と呼ばれる独自の暗号通貨を発行し、それを投資家に買ってもらうことで資金調達をする仕組みのことで、主にスタートアップ企業に取り入れられています。銀行やベンチャーキャピタルから出資を受けられなかった場合でも、審査がなく自分たちだけで行えるICOであればお金を集められる可能性があるのです。
ICOの仕組みはIPO(アイピーオー/新規株式公開)とよく似ていますが、ICOでは、トークンの購入に現金ではなく「仮想通貨」(イーサリアムやビットコインなど)を用いる点で大きく異なります。
ICOの仕組みを簡単に表すと、以下の図のようになります。
図にあるように、①ICO企業は独自トークンを発行し、投資家はそれを仮想通貨で購入します。そして、②ICO企業は、トークンと引き換えに手に入れた仮想通貨を仮想通貨交換所で現金に交換します。こうして、企業はプロジェクトのための資金を手に入れることができるのです。
さて、ICOとは厳密に言えば、企業がトークンを発行・販売する行為のうち、1回目のもの(ほとんどの場合は仮想通貨交換所への上場時)のことをいいます(=狭義のICO)。もっとも、一般的に「ICO」と呼ばれるものは、いわゆるプレセール(後ほど詳しく解説します)から上場後までを含めた、「仮想通貨を使った資金調達行為全体」を指すことがほとんどです(=広義のICO)。そのため、この記事内においても、一連の資金調達行為全体についてを「ICO」と表現していきます。
※なお、ICOとは何かについてより具体的に知りたい方は、「ICOの8つの法律規制と合法的資金調達のやり方とは?弁護士が解説」をご覧ください。
2 ICOに関して知っておくべきキーワード
ICOとは何かが分かったところで、次に、ICOに関して知っておくべきキーワードをみていきましょう。
(1)仮想通貨
「仮想通貨」とは、インターネット上でやり取りされる通貨のことをいいます。私たちが普段使っている紙幣や硬貨のような実体を持たず、すべてデータとして取引が行われます。日本においては、2017年の改正資金決済法で新たに仮想通貨の定義が設けられ、仮想通貨は「法定通貨」ではなく「財産的価値を持つ決済手段」として位置づけられました。
代表的な仮想通貨として、ビットコインやイーサリアム、先日流出事件で連日話題になったネムコインなどがあります。ヨドバシカメラなどの一部店舗では仮想通貨による決済が可能になるなど、私たちの生活の中にもだいぶ浸透してきましたね。
ICOでは、トークンと引き換えにこの「仮想通貨」を払い込んでもらいます。つまり、「ICOにおいて仮想通貨は必要不可欠」ということです。
※仮想通貨についてさらに詳しく知りたい方は、「仮想通貨の法律規制とは?仮想通貨法6つのポイントを弁護士が解説!」をご覧ください。
(2)トークン
ICOにおいて仮想通貨と同じく必要不可欠なのが「トークン」です。「トークン」とは、企業がICOを行う際に発行する独自の暗号通貨のことです。すでに解説したとおり、企業が発行するトークンを出資者に仮想通貨で購入してもらうことで、企業は資金調達をすることができます。言い換えれば、トークンとは「仮想通貨を手に入れるための引換券」です。
また、トークンを、企業が発行する「独自の仮想通貨」と説明しているものもありますが、厳密に言うとこれは間違いです。「仮想通貨」としてトークンを発行する場合もありますが、ほとんどの場合は「仮想通貨」にあたらないようにトークンの設計を行います。
なぜかというと、トークンを初めから「仮想通貨」として設計すると、ICO企業は、ICOプラットフォームを利用しない限り「仮想通貨交換業」の登録を受けなければなりません(詳細は後ほど解説します)。ですが、実際のところ仮想通貨交換業の登録をうけるのはかなりハードルが高いため、ほとんどの企業はこれを避けてICOを行えるスキームを組むのです。
こういった事情から、「トークン」は仮想通貨を含む「暗号通貨」と理解するべきなのです。
※トークンを初めから「仮想通貨」として設計したい場合は、「仮想通貨交換業の登録方法は?申請の要件や4つの手順を弁護士が解説」をご参照ください。
(3)上場
ICOにおける「上場」とは、企業が発行した独自トークンを仮想通貨取引所で売ったり買ったり、交換できるようにすることをいいます。仕組みとしては株式と同じです。
先ほども解説したとおり、トークンの設計の仕方としては、
- 初めから「仮想通貨」として設計するパターン
- 初めは「仮想通貨にあたらないように」設計するパターン
の2パターンがあります。もっとも、「2.」のパターンを選んだとしても、上場までには「仮想通貨」としてトークンを設計し直さなければなりません。
トークンを上場すると、取引所を通じて売買・交換が可能になるため、「トークンの価値の上昇」が期待できます。この点、投資家たちは、トークン上場のタイミング=価値が大幅に上がったタイミングで売り抜けて利益を出すことを期待しています。そのため、最初から「うちはICOしても上場しません!」と表明してしまうと、投資家にとっては旨味がなく、そっぽ向かれてしまうことになります。
このような事情から、ほとんどのICO企業は、資金調達の後に「独自トークン(仮想通貨)の上場」も目指すことになります。
※トークンの具体的な設計方法を知りたい方は、「ICOの8つの法律規制と合法的資金調達のやり方とは?弁護士が解説」をご覧ください。
(4)プレセール
「プレセール」とは、正式にICOを行う前(=トークンセール前)にトークンの販売を行うことをいいます。たいていの場合、プレセールではディスカウント価格でトークンを買うことができたり、何かしらの特典が付いています。ただし、プレセールには「最低投資金額」が設定されていたり、特定の投資家以外には非公開とされている場合も多く、個人投資家などの一般人が参加できる案件は限られています。そのため、参加したかったICO案件でも、プレセール段階で目標調達額に到達してしまい結局参加できなかったというケースも出てきます。
たとえば、2017年10月に行われたCOMSA(コムサ)のプレセールでは、トークン購入額が10万ドル相当以上の場合、20%のボーナスが付くという特典がありました。もっとも、プレセールに参加するには「10万ドル相当以上の購入が必要」という条件が付いていて、これに満たない場合には本番のトークンセールまで待たなければなりませんでした(次の項目で触れますが、COMSAの場合はトークンセールも予定通り行われています)。
(5)トークンセール(クラウドセール)
「トークンセール(クラウドセール)」とは、ずばりICOそのもののことをいい、その名の通り、トークンを売り出すことをいいます。不特定多数の投資家から資金調達をするという点がクラウドファンディングと似ていることから、「クラウドセール」とも呼ばれます。
プレセールを終えたら、いよいよ本番のトークンセールを行います。企業によってはトークンセールをいくつかの段階に分け、早い段階で参加するほどより多くの特典を受けられる設計をしている場合もあります。
たとえば、さきほども例に出したCOMSAのトークンセールでは、終了日までの期間を4つのラウンドに分け、
- 第1ラウンド:購入CMS数に14%のボーナス付与
- 第2ラウンド:購入CMS数に10%のボーナス付与
- 第3ラウンド:購入CMS数に5%のボーナス付与
- 第4ラウンド:ボーナス付与なし
という特典を設けました。もっとも、どのICO案件においてもトークンセールよりもプレセールの段階で参加した方が特典が多くつくのは間違いありません。
3 ICOのユースケース
ICOは、ICOを行う企業(「発行体」)の性質、規模や目的に応じて、以下のよう分類できます(この分類は、多摩大学 ルール形成戦略研究所による「提言レポート」に依拠しています。)。
- ベンチャー型
- エコシステム型
- 大企業型
以下では、順番に説明します。
※ICOをしたい企業が発行する独自トークンの性質に応じた分類を知りたい方は、「ICOの8つの法律規制と合法的資金調達のやり方とは?弁護士が解説」をご覧ください。
(1) ベンチャー型
「ベンチャー型」とは、未上場企業のいわゆるスタートアップが、銀行からの借り入れ(デッド)や、VCなどからの出資(エクイッティ)に代えて(あるいは、それらと並行して)ICOを行うケースです。
デッドは利用できるとしても、BSに「負債」として計上されるため、銀行に対していずれ「返済」する義務があります。また、スタートアップの中には、VCからの出資を受けられる企業はそう多くありません。仮にVCを利用した場合であっても、株式のシェアが奪われ、事業をハンズオンでハンドリグされる可能性があります。
こういった事態を嫌って、①デッドとは違い、返還義務がなく(※レギュレーション次第では、返還義務を負いますが。)、②エクイッティとは違い、シェアが奪われることもない「ICO」を利用するスタートアップが増えています。
こういったコンセプトでICOをする企業は、「ベンチャー型」と位置づけられます。
(2) エコシステム型
「エコシステム型」とは、 企業・自治体などが、複数の団体連携して、エコシステムの構築のためにおこなれるケースです。
有識者による提言レポートでは、その例として、「 水素社会イニチアチブ、人権配慮型サプライチェーン構築、排出権取引」といったケースが挙げられています。
(3) 大企業型
「大企業型」とは、企業内リソースを使って行うには、リスクの高い特定のプロジェクトのために資金調達を行う場合です。
想定される事例としては、提言レポートによれば、「①事業性が評価しにくい高リスク事業を行う場合、②企業に埋もれた資産(技術等)の活用を図る場合」が挙げられています。具体的には、「 新製品開発、ゲーム等のコンテンツ制作」のための資金のためにICOを利用するケースです。
ICOを行う企業としては、自社がどのタイプに当てはまるのかを把握しておきましょう。
4 ICOによる資金調達のやり方・流れ
それでは、実際にICOによって資金調達をする場合の具体的な手順・流れを確認しましょう。
(1)ICOのスキームを構築する
ICO企業は、まず初めにどのようなスキームでICOを行うのかを検討しなければなりません。たとえば、以下の点についてはすべてのICO企業がするべき部分です。
- 改正資金決済法上の「仮想通貨」にあたらない形でトークンを設計する
- はじめから、トークンを「仮想通貨」にあたる設計にして、「仮想通貨交換業」の登録をうけてICOをする
トークンが「仮想通貨」にあたらないのであれば、資金決済法上はとくに問題なくICOを進めることができます。他方で、「仮想通貨」にあたるのであれば、ICO企業は、ICOプラットフォームを利用しない限り「仮想通貨交換業」の登録を受けたうえでICOを行う必要があります。
また、プロジェクトをどのような形にするかについても、
- ブロックチェーンの技術を組み込むのか
- トークンをプロジェクトのサービス内にビルトインするのか
などの点を予め決めておくことで、後の運営をスムーズに行うことができます。
(2)ICOの事前準備をする
ICOのための事前準備としては、
- 独自トークンの発行
- ICO用Webサイトの作成
- ホワイトペーパーの作成
などがあります。
「ホワイトペーパー」とは、ICOに関する情報をまとめたもので、「ペーパー」といっても紙媒体のものはほとんどありません。ほぼすべてのICO企業は、専用Webサイトにホワイトペーパーを掲載します。
ICO企業にとってホワイトペーパーは、自社のプロジェクトの魅力やICOそのものをアピールする貴重な媒体です。もっとも、ホワイトペーパーは投資家にとっても貴重な情報源であり、これを読んでICOに参加するか否かを判断します。
ちなみに、ホワイトペーパーに記載する内容としては以下のような項目があります。
- ICOの開始日や終了日
- ICOによって実現しようとしているプロジェクトの具体的な内容
- トークンの性能や機能保有することのメリット
- 今回のICOの最低調達額および最大調達額
- プロジェクトの開発ロードマップ
- トークンの法的性質やリスクについての説明
専用Webサイトやホワイトペーパーについては、各社それぞれ工夫を凝らしているため、色々なサイトをみて参考にしてみるといいかもしれません。
(3)オファーを設定する
「オファー」とは、投資家との間の具体的な契約内容を定めたもののことをいいます。内容的にホワイトペーパーと被る部分もありますが、トークンの売り出し期間や最低発行額(最低調達額)、どの仮想通貨を使って取引を行うかなどのいわゆる「投資条件」を定めて、Webサイトなどに提示します。
以降は、ICO企業と投資家の双方はこのオファーの内容に沿って取引を行うことになります。
(4)ICOのアナウンス・プロモーション活動をする
実際にICOを開始する前に、「うちでICOをしますよー!」ということをあらかじめ多くの人たちに知ってもらうことが重要です。周知方法の一例としては以下のようなものがあります。
- プレスリリースをする
- メディアからの取材を受ける
- ICO専用のサイトに自社のICO情報を掲載する
- SNSを利用してICO情報を発信する
- 自社のICO専用Webサイトで参加者の事前登録を始める
なお、SNSやWebサイトを通じて、自社のICOに興味を持った投資家から問い合わせが寄せられますが、この盛り上がり具合によってICOが成功するか否かが判断できるともいわれています。
(5)プレセールの実施
すでに解説したとおり、「プレセール」とはICO本番(=トークンセール)の前に行うもので、購入者や購入額にしばりを設けつつ本セールよりも好条件の特典を与える、というパターンがほとんどです。
プレセールの段階で目標調達額に達したらこの段階でトークンの販売をやめるのか、それともICO期間内いっぱいトークンの販売を行うのかはICO企業ごとに異なります。
(6)トークンセール(クラウドセール)の実施
プレセール期間が終了したら、その後ICOの本番ともいえる「トークンセール」が始まります。トークンセールには、
- プレセール期間内でのトークン購入が間に合わなかった人
- プレーセールにおいて提示されていた条件をクリアすることができず、トークンセールが始まるまで待っていた人
などが参加します。プレセール段階で思うように調達額が伸びなかった場合、トークンセール期間にいかに投資家の賛同を得るかがポイントとなります。
(7)ICO実施後の管理・運用
ICO企業は、資金調達を終えた後は何もしなくていいというわけではありません。ICOによって得た資金を元手にプロジェクトを進めつつ、ICO参加者とのコミュニケーションやIR活動を行います。
以上の流れで、企業はICOを実施することができます。
ただ、ICOを日本国内でやる際には、次の項目で説明する様々な法律による規制をかいくぐる必要があります。
5 ICOの法律規制
ICOによる資金調達について、これを「直接」に規制したり、制限したりする法律は、現状ありません。
ただ、現状では、以下の法律によって「間接的」に、ICOによる資金調達は規制されています。
- 改正資金決済法の「仮想通貨交換業」
- 資金決済法による「前払式支払手段」
- 金融商品取引法の「ファンド規制」
そのため、ICOによる資金調達をしたい企業は、これらの法律規制の適用を受けるのかを検討する必要があります。順番にみていきましょう。
(1)「仮想通貨交換業」による法律規制
発行する独自トークンが「仮想通貨」にあたる場合、ICO企業は、仮想通貨法(改正資金決済法)上の「仮想通貨交換業」の規制をうけることになります。
「仮想通貨交換業」とは、仮想通貨を売ったり買ったり、交換するサービスのことをいいます。2017年に施行された改正資金決済法によって、事業者が「仮想通貨交換業」にあたるサービスを始めようとする場合、国から登録を受けなければいけなくなりました。具体的には、以下の要件をすべてみたす場合に仮想通貨交換業の登録が必要になります。
- 仮想通貨の
- 売買または仮想通貨同士の交換をすることorこれらの行為の媒介・取次・代理をすること
- 「2」の行為に関してユーザーの金銭or仮想通貨の管理をすること
- 以上の行為を「事業」として行うこと
+
そして、現在国内で仮想通貨交換業者として登録を受けている事業者は16社あります(仮想通貨交換業登録一覧、2018年3月7日時点)。
さて、すでに触れたように、ICO企業が発行する独自トークンについては以下の2パターンがあります。
- 「仮想通貨」として設計する場合
- 「仮想通貨」にあたらないような設計をする場合
このうち、「2」に関しては仮想通貨交換業の登録は必要ありません。
他方で、「1」の場合、ICOの一連の流れをすべて自分たちだけで行う場合には、「仮想通貨(トークン)の売買」を行うことになるため、仮想通貨交換業の登録が必要となります。もっとも、COMSAなどの「ICOプラットフォーム(ICOのサポートをしてくれるサービス)」を利用する場合には、ICO企業は仮想通貨(トークン)の「発行」をするのみで、「売買」に関してはすでに仮想通貨交換業の登録を受けているプラットフォーム側がやってくれる形になるため、企業側は仮想通貨交換業の登録をうける必要はありません。
このように、トークンの設計およびICOのやり方によって仮想通貨交換業の登録の要否が変わってくるため、トークンの性質をどのようなものにするのか・自分たちがどのようなスキームでICOを行うのかは慎重に検討するようにしましょう。
なお、現在仮想通貨交換業の登録には1年ほど時間がかかる上に、登録要件のハードルはとても高く、スタートアップ企業が登録をうけられる可能性はかなり低くなっています。そのため、ほとんどのICO企業は、仮想通貨交換業の登録を受けなくても済む形でICOのスキームを組むことになります。
※仮想通貨交換業とは何か、定義の詳細や規制の内容を更に詳しく知りたい方は「仮想通貨の法律規制とは?仮想通貨法6つのポイントを弁護士が解説!」を、仮想通貨交換業の登録方法について具体的に知りたい方は「仮想通貨交換業の登録方法は?申請の要件や4つの手順を弁護士が解説」をご覧ください。
(2)「前払式支払手段」による法律規制
発行する独自トークンの性質が「前払式支払手段」にあたる場合、ICO企業は、資金決済法上の義務を負うことになります。
「前払式支払手段(まえばらいしき・しはらいしゅだん)」とは、次の3つの要件をみたすもののことをいいます。
- 金額または数量が記載・記録されていること(価値の保存)
- 金額・数量に応ずる対価を得て発行されること(対価性)
- 代金の支払いなどに使用すること(権利行使)
これらの要件を簡単にまとめると、前払式支払手段とは、「あらかじめユーザーがお金を払って購入もしくはチャージし、その後商品やサービスの購入に使用するもの」ということができます。身近な例でいうと、商品券やSuicaなどが前払式支払手段にあてはまります。
ICOにおいては、企業が発行する「独自トークン」が「前払式支払手段」にあたるか否かが問題となります。「前払式支払手段」にあたる場合、資金決済法上、以下の4つの義務を負わなければなりません。
- 表示義務
- 供託義務
- 行政への継続的報告義務
- 払い戻し義務
そのため、ICO企業としては、発行する独自トークンが「仮想通貨」にあたらないようにするだけでなく、「前払式支払手段」にもあたらないように設計する必要があります。
この点、トークンが、プロジェクトのサービス内で使える性質のもの(=ユーティリティートークン)の場合には、前払式支払手段にあたるとみなされる可能性が高くなります。具体的には、出資した仮想通貨の額に応じて、トークン保有者が様々なサービスを受けられるような場合、前払式支払手段の要件2(対価性)に該当してしまいます。これを回避するためには、
- トークン保有者が受けられるサービスの量や質について、出資の額と対応させないようにする
- サービスを受ける際にトークンを消費させないようにする
などの工夫をすることが必要になります。
※前払式支払手段の内容や規制についてより具体的に知りたい方は、「アプリ内課金を導入する際に知りたい!資金決済法4つのポイントとは」、「ポイントサービスを始める方は必読!資金決済法3つのポイントを解説」をご覧ください。
また、ICOにおけるトークンと前払式支払手段との関係や規制の回避方法について詳しく知りたい方は、「ICOの8つの法律規制と合法的資金調達のやり方とは?弁護士が解説」をご覧ください。
(3)金商法の「ファンド規制」
独自トークンの性質として、「トークン保有者に対しその持分比率に応じて利益の分配を行う」というタイプの場合、金商法上の「ファンド規制」をうける可能性があります。
「ファンド」とは、不特定多数の投資家から集めたお金を使って、事業や有価証券への投資を行い、利益が出たらこれを出資者たちに分配する仕組みのことをいいます(集団投資スキーム)。そして、「ファンド」は金融商品取引法によって規制の対象となっており、国から「第2種金融商品取引業」として登録をうけた上でさまざまなルールを守らなければいけません。
ICOにおいても、①「トークンの購入」という形で投資家からお金を集める→②トークンの持分比率などに応じて利益の分配を行うというスキームの場合、ファンド規制の対象となるかを検討しなければなりません。
この点について、金商法上ファンド規制の対象となるのは「出資する側が現金や有価証券によって出資した場合」と定められています。これをICOについてみてみると、トークンの購入(=出資行為)に使われるイーサリアムやビットコインなどの「仮想通貨」は、「現金や有価証券」にはあたりません。そのため、ICOはファンド規制の対象とならないようにも思えます。
ところが、金融庁が発表している「ICOガイドライン」では、
-
ICOが投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます。
と言われています。
イーサリアムやビットコインなどは「仮想通貨」であることには間違いありませんが、取引所で簡単に現金に換金することができます。そうすると、ICO企業の手元に一時的に集まるのは仮想通貨だとしても、実質的には「金銭」を集めているのと同じ、と考えるのが自然です(むしろ、ICO企業としては初めからお金を集めることを目的としていますよね。)。
そのため、利益分配型のトークンを発行する場合には、金商法上のファンド規制にかかる可能性があることに注意が必要です。
※ファンド規制の内容についてさらいに詳しく知りたい方は、「ICOの8つの法律規制と合法的資金調達のやり方とは?弁護士が解説」をご覧ください。
(4)小括
このように、企業がICOによる資金調達を実現するためには、少なくともこの3つの規制を乗り越えなければなりません。
ただ、これらの法律は、ICOを「直接」規制したルールではなく、また、こういった規制がかかる「可能性がある」にとどまるため、今後は、「ICO」そのものに関する法整備が求められるところです。
そしてこの点について、近時ICOのルール作りについて有識者による「提言レポート」が発表され、ICOの合法化に向けて、「7つの原則と2つのガイドライン」が提示されました。
金融庁の公式見解ではありませんが、ICOその他広く「仮想通貨ビジネス」に関連する企業にっては注目すべき提言ですので、以下では、このレポートをベースに解説していきます(※レポートの解釈は私個人の見解ですので、その点はご了承ください。)。
6 ICOに関するルールの提案
「株式」を使った従来の資金調達の世界では、「発行市場」と「流通市場」の二つのステージがあります。ぞれぞれについて、主に投資家保護のために、先ほども登場した「金商法」や、「会社法」という法律などによって規制がかけられています。
そのため、ICOとは違い、ノリとイキオイだけで資金調達はできるわけではなく、多くのレギュレーションをクリアしないといけません。
他方で、ICOについては、繰り返しになりますが、
- 独自トークンの発行
- 発行市場での独自トークンの売買
時点において、これらの行為を直接規制するルールがありません。
単に、改正資金決済法などがあり、仮想通貨の「流通市場」での規制があるにとどまり、「発行市場」で直接規制するためのルールがなかったのです。
そこで、提言レポートでは、独自トークンを使ったICOの「発行市場」に着目して、それを
- トークンの発行
- トークンの売買
という二つの局面に分解し、それぞれについて次の項目で説明する「原則」と「ガイドライン」を打ち出しています。
-
【トークンの発行】について
- 発行原則 1:サービス提供等の便益提供の条件や、調達資金・利益・残余財産の分配ルールを定義し、トークン投資家、株主、債権者等へ開示すること
- 発行原則2:ホワイトペーパー遵守、トレースの仕組みは透明性をもって開示すること
- ガイドライン 1:既存株主・債権者も受け入れられる設計であること
- ガイドライン 2:株式調達等金融商品による既存の調達手法の抜け道とならないこと
-
【トークンの売買】について
- 売買の原則 1:トークンの販売者は、投資家の KYC(Know Your Customer:本人確認)や適合性について確認すること
- 売買の原則 2:トークン発行を支援する幹事会社は、発行体の KYC について確認すること
- 売買の原則 3:トークンの取引所を営む仮想通貨交換所は、上場基準について各社共通の適切なミニマムスタンダードを制定・採用すること
- 売買の原則 4:上場後はインサイダー取引等不公正取引を制限すること
- 売買の原則 5:発行体、幹事会社、取引所等トークンの売買に関与するものは、セキュリティの確保に努めること
トークンの発行と売買の局面におけるルールを数えると、合計で、原則が7個とガイドラインは2つになります。
いずれも有識者によるルールの「提案」にとどまり、ICOをしたい企業を規制するものではありませんが、ICOをする際の一つの指針になります。
この7つの原則と2つのガイドラインの詳細をみていきます。
(1)【トークンの発行】における規制
①【発行原則 1】サービス提供等の便益提供の条件や、調達資金・利益・残余財産の分配ルールを定義し、トークン投資家、株主、債権者等へ開示すること
ICOをする際には、現状、「ホワイトペーパー」と呼ばれる事業計画案をweb上に掲載する形で、トークンの投資家向けに企業の情報を開示しています。
ですが、ホワイトペーパーの開示は法的に義務付けられているわけではなく、また、記載事項も統一されていません。
その結果、マーケティングだけはウマいが、プロダクトが全くなく、集めたお金をもってトンズラするという「ICO詐欺」事例が多発しています。
こういった現状を踏まえて、特に投資家などのステークホルダーの「権利・義務に影響する事項」については明示することが求められます。
②【発行原則2】ホワイトペーパー遵守、トレースの仕組みは透明性をもって開示すること
発行原則1にも通じますが、「ICO詐欺」の事例は、往々にして資金調達後のロードマップがファンタジーであいまいな説明になっていることが多いです。
ただ、味の分からない投資家は、「激熱案件!」といったアフィリエイトサイトなどの情報に踊らされ、プロジェクトの実現可能性などをよく吟味せずに投資してしまっています。
このことから、詐欺案件に多いのは、資金調達後の「使途」があいまいなケースが多いといえます。
そのため、ホワイトペーパーに記載されたロードマップがどの程度成果を上げているのかをトークン投資家が確認できる手段を明示することが求められます。
その際、記載すべき事項としては
- トークン発行の目的・企業のマンパワーに応じて、必ずしも財務情報でなくともよい
- ホワイトペーパーを変更する際の続きが規定されているor変更履歴を見ることができるなど
ICOプロジェクトの高い透明性を確保する施策が求められます。
以上のICOにおいてトークンを発行する際のの2つ原則を踏まえて、実務上求められる事項をガイドラインとして提案しております。
③【ガイドライン 1】既存株主・債権者も受け入れられる設計であること
これは、ICO による資金調達が、トークン投資家その他、特定のステークホルダーのみに利益or不利益を与えるための便法として利用される事態は回避すべき、という趣旨のガイドラインです。
企業の資金調達手段としては、ICOのほかに、従来から①デッド、②エクイッティの二つがあります。①のデッドでは、銀行その他の金融機関が、②エクイッティでは、既存株主がいるわけです。
そのため、ICOによる資金調達をする際には、こういった既存のステークホルダーの利益も考える必要があります。
④【ガイドライン 2】株式調達等金融商品による既存の調達手法の抜け道とならないこと
ガイドラインとしては抽象的ではあるものの、ICO による資金調達が、デッド・エクイッティによる資金調達の潜脱行為として利用されることは回避すべき、という趣旨のものです。
以上が「トークンの発行」における原則とガイドラインの説明になります。
次に、トークンを発行した後の「トークンの売買」領域におけるルールをみていきましょう。
(2)【トークンの売買】における規制
トークン売買の局面において、投資家を保護するための「5つの原則」として以下のようになっています。
①【売買原則1】トークン販売者は、投資家のKYC(本人確認)適合性を確認すること
ICOの場面や仮想通貨の取引所で取引をする際に求められる「KYC(Know Your Customer=本人確認)」ですが、これは法律的にいうとマネーロンダリング防止法(犯収法)に基づく措置です(※正確には、特定事業者としてKYCが求められるのは、法律上は「仮想通貨交換業者」です)。
仮想通貨はマネロンに利用されやすいということから、仮想通貨による資金調達であるICOにおいても、KYCをすることが求められる、ということです。
②【売買原則2】トークン発行を支援する幹事会社は、発行体の KYC について確認すること
発行体とは別に、発行体のICOを支援する幹事会社が想定されるケースでは、発行体がKYCを行うのは、もちろんですが、幹事会社において発行体によるKYC実施の有無などを確認することが求められます。
③【売買原則3】仮想通貨交換所は、上場基準について各社共通のミニマムスタンダードを制定・採用すること
「株式」の上場を意味するIPO(Initial Public Offering)とは違い、仮想通貨の取引所においては、上場基準が公には作られておりません(※現状では、特殊な人間関係において上場する・しないが決まっている感触です。)。
そのため、IPOと同じように、取引所において最低限の上場基準を作成することが求められます。
④【売買原則4】上場後はインサイダー取引など不公正取引を制限すること
現状、株式には適用される「インサイダー取引規制」は、仮想通貨には適用されていません。
ただ、投機の側面があるという意味では、株式と仮想通貨とでは特段違いはありません。
そのため、少なくとも取引所に上場した後は、インサイダー規制その他不公正な取引を制限する措置を設けるべきです。
⑤【売買原則5】発行体、幹事会社、取引所などトークンの売買に関係するものは、セキュリティ確保に努めること
コインチェック仮想通貨流出事件も踏まえ、仮想通貨取引所はもちろん、トークンの発行体となる企業、幹事会社など、トークンの売買関係者は広く、セキュリティ対策に尽力することが求められます。
以上がICOにおける「トークンの売買」において求められる5つの原則になります。
ICOの関係者は、以上の原則とガイドラインを一つの指針として、ICOに取り組むべきですね。
7 小括
ICOについては、まだ法律の整備がきちんとなされておらず、これを直接的に規制する法律はまだありません。
もっとも、今回提言レポートの中でも述べられているように、ICOに関する正式なルール作りは今後急ピッチで行う必要があり、実際に国としてもそのように動いていくものと考えられます。
これからICOを行おうとしている企業は、現状守るべきルールをしっかりと把握しつつ、今後新たに定められるルールにも注目していくことが重要です。
8 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下のとおりです。
- 「ICO(Initial Coin Offering)」とは、企業が「トークン」と呼ばれる独自の暗号通貨を発行し、それを投資家に買ってもらうことで資金調達をする仕組みのことをいう
- ICOには①狭義のICOと②広義のICOがある(一般的に使われている「ICO」は広義の意味)
- ICOをする上で知っておくべきキーワードは、①仮想通貨、②トークン、③上場、④プレセール、⑤トークンセール(クラウドセール)がある
- ICOは、ICOを行う企業(「発行体」)の性質、規模や目的に応じて、①ベンチャー型、②エコシステム型、③大企業型に分類できる
- ICOの手順は、①ICOのスキーム構築、②事前準備、③オファーの設定、④アナウンス・プロモーション活動、⑤プレセール、⑥トークンセール、⑦ICO実施後の管理・運用の7つのステップに分けることができる
- ICOに関する法律規制として、①改正資金決済法の「仮想通貨交換業」の規制、②資金決済法上の「前払式支払手段」の規制、③金融商品取引法上の「ファンド規制」がある
- ICOにおいては、トークンの発行と売買について7つの原則と2つのガイドラインがある