
はじめに
「ICO」について、大まかな意味は知っているが、詳細はわからない、という方は多いのではないでしょうか。ICOを検討している企業、また、今後ICOを検討することになるかもしれないと考えている企業は、ICOについてきちんと理解をしたうえで、ICOを行うかどうかを決めることが大事です。
そこで今回は、ICOとはそもそも何なのか、また、日本だけでなく、海外の各国のICOへの法律規制がどのようになっているのか、について解説します。
1 ICOって何?
まず始めに「ICO」が何なのか、みなさんご存知でしょうか。
(1)ICOの意味
「ICO(アイシーオー・Initial Coin Offering)」とは、企業が独自の暗号通貨である「トークン」を発行し、投資家から仮想通貨で購入してもらうことにより資金を調達する資金調達方法のことをいいます。投資家群から資金を集める点でクラウドファンディングにも似ていることから「クラウドセール」「トークンセール」と呼ばれることもあります。
(2)ICOの仕組み
ICOにより資金を調達するまでの流れを見てみましょう。
下の図をご覧ください。
ICOによる資金調達の特徴は、企業が発行する「トークン」を現金ではなく仮想通貨で購入してもらうということにあります。企業は、投資家から受け取った仮想通貨を仮想通貨交換所で現金に換金することにより、運営資金を調達することになります。
たとえば、企業が発行したトークンを投資家がビットコインやイーサ(仮想通貨)で購入し、企業は、受け取ったビットコインなどを仮想通貨交換所で現金に変えることにより資金を調達します。
2 日本での法律規制の現状
以上のような仕組みで資金調達を可能にするICOですが、昨今、「日本では金融庁の規制が厳しいからICOは難しい」といった話をよく耳にされると思います。
ですが、日本でのICOがどのような点で法律上問題視されているのか?を正確にご存知の方は少ないのが実情です。
そこで、この項目では、管轄庁である金融庁のICOへのスタンス、日本国内でICOをする場合の法律上の問題点を確認します。
(1)金融庁のスタンス
まず、日本には、現在、ICOを直接規制した法律はありません。
ですが、ICOなど仮想通貨周りを管轄する「金融庁」という機関が、2017年10月27日付「ICO(Initial Coin Offering)について」と題したガイドラインを公表し、事業者と投資家向けにICOのリスクについて、以下のように注意を促しています。
- 投資家
- 事業者
価値下落の可能性
詐欺の可能性
関係法令の規制
以下、解説します。
①投資家
ⅰ 価格下落の可能性
仮想通貨は、価格変動が大きいことが特徴の一つとして挙げられます。物価や証券市場の動向などあらゆる要素の影響を受けやすいといえます。規制の強化や他の仮想通貨の普及により、その価格が急に下落したり、時には無価値になる可能性すらあります。
このようなリスクをきちんと認識しておくことが必要です。
ⅱ 詐欺の可能性
ICOによる資金調達において、投資家がトークンを購入するかどうかを判断する重要な資料に、企業が作成する「ホワイトペーパー」というものがあります。
「ホワイトペーパー」とは、ICOによって調達した資金の使い道や企業が予定している事業内容などがまとめられたものです。
ですが、ホワイトペーパーに記載されている事業内容のとおりに、実際は行われなかったり、ホワイトペーパーに書かれている約束事を反故にされたりする可能性があります。現に、ICOを謳った詐欺事件も報道されています。
この他にも、以下の点に注意が必要であるということがいえます。
もっとも、以下のⅳないしⅴについては、事業者にも関係する事項であり、事業者において、そのような事態にならないような体制をきちんと整備することが必要です。
ⅲ 流動性
仮想通貨やその取引は、まだ歴史が浅く資産としての評価も固まっていないため、些細なことで影響を受ける可能性があります。今後の法的規制の強化や他の仮想通貨の普及など、影響を受ける可能性のある要因が数多く存在します。そのため、仮想通貨を使った取引の需要が減り、流動性が激減する可能性を孕んでいます。その結果、自分が保有する仮想通貨を売却することができなくなるといった事態に陥ることもあり得ます。
ⅳ 企業破綻
仮想通貨に関する特有の問題ではありませんが、財務状況の悪化などにより、企業経営が破綻する可能性があります。そうすると、企業に預けている仮想通貨や預託金の返還を受けることができなくなる可能性が出てきます。
ⅴ システムリスク
仮想通貨取引は、インターネットやコンピュータシステムを使って行われます。
ですので、通信障害やシステム障害が生じると、取引に支障を来し、最悪の場合、取引自体が不成立になるといった事態になる可能性があります。
ⅵ 法令などの変更
仮想通貨やその取引は、まだ歴史が浅いので、今後法規制の変更がなされる可能性があります。その結果、仮想通貨取引自体の禁止・制限がなされるなどして、現状より不利な取り扱いを受ける可能性があります。
②事業者
ⅰ 関係法令の規制
ICOのスキーム(仕組み)によっては、「資金決済法」や「金融商品取引法」の規制が関係してきます。そのスキームが、資金決済法などの関係法令により規制の対象になっているにもかかわらず、その規制を無視して進めたりすると、場合によっては、刑事罰の対象にもなりますので、注意が必要です。
(2)ICOの際に検討すべき法律規制の概要
日本には、ICOを直接規制した法律はありませんが、以上のように、関係法令により規制の対象になる場合もありますので、注意が必要です。
ここで、ICOを行う際に、検討すべき法律規制について、見ていきましょう。
- 独自トークンが改正資金決済法の「仮想通貨」にあたるか?
- 資金決済法の「前払式支払手段」への該当性
- 金商法の「ファンド規制」への該当性
- 「詐欺」その他の法律規制
- 税金の問題(タックスストラクチャリング)
大まかに分けると以上の5つの規制がありますが、特に「日本のICOは厳しい」と言われているのは、「1」にある改正資金決済法(通称:仮想通貨法)の規制が多くの場合問題になるからです。
詳細は、後で説明しますが、ICOを行いたい企業にとっては、自社が発行する独自トークンが「仮想通貨」にあたるのかについて検討することが、日本国内でICOをできるか否かの重要なターニングポイントになってきます。
それぞれの法律規制について、詳しく見ていきましょう。
(3)法律規制①:「仮想通貨」にあたるか?
まずは、自社が発行する独自トークンが「仮想通貨」にあたるかどうかについて検討しなければなりません。ここで「仮想通貨」にあたる場合、改正資金決済法は、「仮想通貨交換業者」としての登録を求めています。ですので、企業は、登録を受けなければ、ICOによる資金調達をすることはできません。
「仮想通貨」については、仮想通貨法が以下のように定義しています。
- 物品の購入・仮受け、または役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用できること(不特定性)
- 不特定の者を相手方として購入・売却を行うことができる財産的価値であること(財産的価値)
- 電子機器その他の物に電子的方法によって記録され、電子情報処理組織を用いて移転することができるものであること(電子的記録)
- 日本通貨・外国通貨、通貨建資産でないこと(非法定通貨)
これらのことをまとめると、「仮想通貨」は、以下のように定義することができます。
- 不特定の人を相手として、物やサービスを売ったり買ったり、または、提供したりするときに、対価(日本通貨や外国通貨などでない)として使用できるもの
この定義にあてはまる独自トークンは「仮想通貨」にあたることになります。
もう少しかみ砕くと、以下のようになります。
- 不特定の人を相手にしていること
- 一般に決済手段として通用すること
- 日本の通貨などに換金できる価値を持っていること
以上の3点をすべて満たすようであれば、その独自トークンは「仮想通貨」にあたる可能性が高いです。
もっとも、いずれかの要件を満たさない場合は、「仮想通貨」にあたらないことになります。
例えば、特定の人を相手にする取引や、独自トークンが一部の店舗でしか決済できない場合やその他限られたコミュニティでしか利用できない場合、また、受け取った仮想通貨を換金する市場がなかったり、そもそも換金できない場合などがそうです。
このように、独自トークンを発行する際には、「仮想通貨」の定義に照らし合わせて、定義にあてはまらないように設計をする必要があります。
発行した独自トークンが「仮想通貨」に当たらない場合は、次の項目で解説する「前払式支払手段」にあたるかどうかを検討することになります。
もっとも、「仮想通貨」に当てはまることを前提に、仮想通貨交換業の登録手続きを進める方法もありますが、ICOを急ぐ企業にとっては、時間などの関係で得策ではありません。
なお、仮想通貨の定義について詳しく知りたい方は、「仮想通貨の法律規制とは?仮想通貨法6つのポイントを弁護士が解説!」と金融庁が出している「仮想通貨ガイドライン」を、登録申請の手続きを知りたい方は「仮想通貨交換業の登録方法は?申請の要件や4つの手順を弁護士が解説」ご覧ください。
(4)法律規制②:「前払式支払手段」にあたるか?
「前払式支払手段(まえばらいしき・しはらいしゅだん)」とは、どのような意味なのでしょうか。
「前払式支払手段」にあたるための要件について、見ていきましょう。
- 金額または物などの数量(個数など)が記載・記録されていること
- 記載・記録された金額または数量に応ずる対価が支払われていること
- 記載・記録がなされた証票など、これらの財産的価値と結びついた番号などが発行されること
- 支払いなどに使用できること
以上の要件をすべて満たしている独自トークンは、「前払式支払手段」にあたります。
これらのことをまとめると、「前払式支払手段」は、以下のように定義することができます。
- ユーザーが事前にお金を支払って購入(チャージ)し、支払いに使用するもの
例えば、スイカやパスモ、商品券やアプリゲーム内でのみ通用するコインなどがこれに当たります。
「前払式支払手段」にあたる場合、資金決済法上、企業は最低でも500万円以上を国に供託する(預ける)義務が発生することになりますので、ICOを検討している企業は、その点も十分に考えてトークンを設計する必要があります。
「前払式支払手段」にあたらないようにするためには、以下のような設計をすることにより、要件にあてはまらないようにトークンを設計することが必要です。
- 独自トークンの購入者が受けることのできるサービスの量や質と発行した独自トークンの価値を対応させない
- 独自トークンの購入者がサービスを受ける都度に、独自トークンの数が費消されないようにする
これをICOの文脈についてみれば、例えば、サービス内で費消しても、トークンが減らず、定期で無制限にサービスを利用できる、という建付けにすれば、「前払式支払手段」には当たらないものと考えます
(5)法律規制③:「ファンド規制」にあたるか?
次に検討すべきは、融商品取引法との関係です。企業が発行する独自トークンが「ファンド型トークン(配当型トークン)」にあたる場合は、金融商品取引法が規制する「ファンド規制」の対象になる可能性があります。
「ファンド」とは、多くの投資家から集めた資金を元に、自分の事業などに投資を行い、そこから得た利益を投資家に分配することです。
- 投資家から資金(お金や有価証券)を集める
- 投資家から集めた資金を元に事業を行う
- 事業により得た利益を出資者に分配(配当)する
以上のモデルは、ファンド規制の対象になります。
ファンド規制の対象になると、「第2種金融商品取引業者」として登録をすることが必要になり、かつ、さまざまな義務が課せられることになります。
これを配当型トークンを使ったICOに置き換えて見てみましょう。
- 投資家から独自トークンを購入してもらうことで資金を集める
- 投資家から集めた資金を元に事業を行う
- 事業により得た利益をトークンの持分比率に応じて分配(配当)する
ICOにおいて、以上のようなモデルを採る場合は、ファンド規制の対象になる可能性があります。
もっとも、金商法のファンド規制の対象になるのは、「投資家がお金や有価証券によって出資した場合」に限られています。そうすると、配当型トークンの対価となる仮想通貨」はお金や有価証券ではありませんので、ファンド規制の対象にならないようにも思えます。
ですが、金融庁が出しているICOガイドラインによると、
- 仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます。
とされています。
イーサリアムやビットコインに代表される「仮想通貨」は、仮想通貨取引所で簡単に「現金」に換金することができ、企業側も、現金への換金を当然に予定しています。そうすると、仮想通貨による購入であっても、実質的には現金での購入(出資)と考えるのが自然です。
そのため、ICOに関し「ファンド型(配当型)トークン」の設計を使った独自トークンは、現状のガイドラインなどからすると、金商法のファンド規制の対象になる可能性があります。
このように、投資家にとっては魅力のある(反面、企業から見れば、資金調達しやすい)「ファンド型トークン」は、現状のガイドラインなどからすると設計が難しいため、違ったベネフィットを持ったトークン設計にする必要があります。
(6)法律規制④:「詐欺」その他の法律規制にあたるか?
近年、ICOに便乗した詐欺事件が相次いでおり、ニュースなどでも取り上げられていることから、ご存知の方も多いと思います。
現に、この点について、金融庁からも注意喚起をする文書が公表されています。
-
一般に、ICOでは、ホワイトペーパーが作成されます。しかし、ホワイトペーパーに掲げたプロジェクトが実施されなかったり、約束されていた商品やサービスが実際には提供されないリスクがあります。また、ICOに便乗した詐欺の事例も報道されています。
このように、ホワイトペーパーにおいて、実際には予定していないことを予定しているように見せかけたり、重要な事実をあえて伏せておくなどして、投資家に誤った判断をさせて出資をさせることは、刑法上の詐欺罪にあたる可能性があります。
以上からすると、ICOを予定している企業は、ホワイトペーパーについて、投資家に誤解を与えるような記載がないか、重要な事実が漏れていないか、などについて細心の注意を払う必要があります。
また、このほかにも、以下の法律規制を受ける可能性があります。
- 特定商取引上の「通信販売」の法律規制
- 消費者契約法の規制
- 景品規制
それぞれについて、簡単に見ていきましょう。
①特定商取引上の「通信販売」の法律規制
特定商取引上の「通信販売」にあたる場合、クーリングオフが適用されたり、広告の規制を受けるなど、新たに注意しなければならないことが出てきます。
「通信販売」は、みなさんもご存知だと思いますが、Amazonや楽天のように、インターネットなどを通じて、商品を取引することをいいます。
ICOにおける「トークンの購入者に対する自社の商品やサービスの提供」が、特定商取引上の「通信販売」にあたる可能性がありますので、その点を検討する必要があります。
②消費者契約法の規制
消費者契約法は、情報面などで企業より弱い立場にある消費者を保護する法律です。
ICOを行う企業が作成するホワイトペーパーが、投資家にとって大変重要な判断資料になるということは既に説明しました。ホワイトペーパーに記載する内容を、非現実的なものにするなどして、投資家への説明が不十分なケースが見られます。
このような場合に、消費者契約法の適用を受ける可能性があり、場合によっては、取引行為自体が取消しの対象になりますので、適正なホワイトペーパーの作成、投資家への十分な説明が必要です。
③景品規制
「景品表示法」という法律があることをご存知でしょうか。
景品表示法は、「巧みな広告」や「過大なおまけ」などによりユーザーを誘引する手法を取り締まるための法律です。
ICOを行う企業が、トークンの購入者に対して商品やサービスを提供する場合に、この商品やサービスが景品表示法上の「景品」にあたり、規制を受ける可能性があります。
もっとも、景品表示法上の「景品」といえるためには、本体取引に付随して商品やサービスが提供されることが必要です。現時点においては、トークンの購入者に対する商品やサービスの提供は、景表法が定める「本体取引に付随する提供」にはあたらないと考えられているため、景品規制の対象になる可能性は低いと考えられます。
(7)法律規制⑤:「税金」の問題(タックスストラクチャリング)
ICOによって調達した資金について、「税金」の扱いがどのようになっているのかをご存知ない方は多いのではないでしょうか。この場合の税務について、現在明確なルールはありませんが、調達した資金をどのような費目で計上するかによって、納付すべき税金の種類が変わってきます。
ICOによって資金調達をした企業が納付すべき税金は、
- 法人税
- 消費税
とされています。
それぞれについて、簡単に見ていきましょう。
①法人税
調達した資金の計上の仕方によっては、法人税を納付しなければなりません。
「法人税」とは、簡単にいうと、法人が得た収入を対象に課せられる税金です。
計上方法は、以下の3通りです。
- 収益計上
- 負債計上
- 資本計上
それぞれについて、見ていきましょう。
ⅰ 収益計上
独自トークンを投資家に「販売」したと考え、そうすると、その結果受けた出資金は「売上」ということになります。
この考えによると、売上から経費を差し引いたものが「利益」になり、そこに法人税が課税されることになります。
ⅱ 負債計上
調達した資金を「預託金」と考え、「負債」として計上する方法です。
この考えによると、調達した資金は課税対象にならないと判断される可能性があります。
ⅲ 資本計上
調達した資金を「資本」として計上する方法です。
もっとも、現行の法人税法やその施行令を見るかぎり「資本等取引」にあたると解釈することは困難なため、資本として計上する方法はできないと考えられます。
このように、現状では、確立された考えがありませんが、調達した資金は「売上」とみなされる可能性が高いと考えられます。そうすると、「収益計上」による課税がなされるということになりますが、法人税は「法人住民税」と「法人事業税」も連動して納付しなければなりません。この3つを合わせた法人実効税率は30%を超えることになりますので、その点も念頭に置いたICOの検討が必要になってきます。
このような多額の税金を回避するために、近年は、日本企業であっても、海外にある子会社においてICOを行う企業も増えてきています。
また、非営利社団法人を使ったスキームを介在させ、節税できる場合もあります。
②消費税
発行したトークンが消費税の課税対象になるかどうかは、そのトークンが「仮想通貨にあたるかどうか」によって決まります。
トークンが「仮想通貨」にあたる場合は、非課税となりますが、仮想通貨にあたらない場合は、調達した資金額に対して8%の消費税がかかる可能性があります。
ただし、設立1年目の企業は、消費税が非課税になったり、各種控除を受けられる可能性がありますので、その点についても確認することが必要です。
(8)小括
以上のように、現在の日本には、ICOを直接規制する法律は存在しないものの、資金決済法や金融商品取引法など、関連法令により規制対象となる場合があります。どのような場合に規制対象になるのかをきちんと理解しておかないと、場合によっては、企業が描いていた計画を断念せざるを得ないという事態にもなりかねません。
また、法令のみならず、税務の分野についても、事前にきちんと対策を立てておかないと、想定外の税金がふりかかってくることにもなります。
ICOを予定・検討している企業は、日本における法規制や税務の現状をきちんと理解して、対策を立てたうえで、ICOを実施することが重要です。
また、2018年7月を境に金融庁から新たなガイドラインが出るのでは?と噂されていますので今後の動向にも注目です。
なお、自主規制団体である「一般社団法人日本仮想通貨事業者協会」が平成29(2017)年12月8日付で発表したICOガイドラインについても、金融庁の公式見解ではないものの、目を通しておくと有益です。
3 各国のICOへの規制
これまで見てきたように、現在の日本においては、ICOを直接する規制はないものの、その他の法律によって、規制対象になる可能性があり、企業によっては、その規制が障害となり、ICOを諦めなければならなくなることもあると思います。だったら、日本ではなく海外でICOを実施できないか、ということを考える企業もあると思います。
そこで、世界各国におけるICOへの規制について、解説したいと思います。
まず始めに、世界各国におけるICOへの規制は、大きく分けて、以下の3つに分けることができます。
- 何らかの規制がある国・規制の準備中の国
- 現行法に基づいて調整中の国
- 注意を促しているだけの国
表にすると、以下のようになります。
具体的に見ていきましょう。
(1)何らかの規制がある国・規制の準備中の国
①中国
ご存知の方も多いと思いますが、中国人民銀行は、2017年9月4日に、すべての企業と個人を対象に全ICOの禁止措置と仮想通貨取引所の閉鎖という規制を設けました。
禁止措置は、資金を調達し終えている企業に対して、調達した資金を全額返金することを命じる内容になっており、非常に厳しいものといえます。
これに先立ち、中国人民銀行は、ICOによる資金調達を「経済や金融の秩序を著しく乱すもの」と激しく非難しています。
ICOが全面的に禁止された中国で、仮にICOを行った場合、その取引は凍結されることになり、少なくとも、現在の中国でICOを行うことは不可能であるとの捉え方が大半です。
②韓国
中国に続いて、ICOを含むあらゆる形態のブロックチェーン関連の資金調達を全面的に禁止し、また、「仮想通貨の信用取引」についても禁止するということを表明しています。
他方で、大韓民国金融委員会(FSC)は、このような措置を採った目的を、仮想通貨関連企業における不公平な規約や条件を改正するため、と述べています。
そうすると、仮想通貨関連企業における不公平な規約や条件を改正できれば、禁止措置が解かれる余地があると考えることもできます。
このように、韓国は、ICOに関して見直しの余地を残しており、その点において、中国とは異なります。
ですが、ICOを含むあらゆる形態のブロックチェーン関連の資金調達が全面的に禁止されている現状においては、韓国でICOを行うことは不可能であるとの捉え方がなされています。ただし、見直しの余地を残している以上、今後の動向に注意が必要です。
③スイス
スイスは、早い時期から仮想通貨の普及に積極的だった自治体ツーク(Zug)や、ICOで2.3億ドルの資金を調達したTezosの拠点です。
自治体ツークで設立されたCrypto Valley Association(CVA)は、2017月9月に正式な規制ガイダンスを発表しており、その中で、ICO関連の規制を明確にすることで、企業側により大きな利益を生み出すことができるとの考えを示しました。
続いて、2018年2月、金融市場監査局はICOのガイドラインを発表しました。
ガイドラインは、ICOを決済トークン、ユーティリティートークン、資産トークンの3つに分類し、それぞれについて、どの法律を適用すべきかということを明らかにしました。
一部のトークンは有価証券とみなされ、情報開示のルールなどが適用されることになりました。
以上のように、スイスでは、ICOへの規制に対して厳格な立場を採っていないため、海外で行われるICOの中でもスイスで実施する割合は高いといえます。
スイスは、ICOに関する現行法の枠組みを明確にすることで、投資家の保護、ブロックチェーン技術の活用を促進させる方針です。
もっとも、仮想通貨による資金調達に際して、規制の緩いスイスの財団(非営利法人)を利用した寄付形式に対しては警告を発している法律専門家もいます。寄付形式においては、ICOで調達された資金が返還されない可能性があり、現に、昨年にICOにより資金調達をしたテゾス財団が、騙されたと主張する出資者から集団訴訟を起こされています。
スイスでは、ICOに対する規制が緩いため、比較的ICOを行いやすいというメリットはありますが、規制が緩い(現行法の枠組みが整っていない)だけに、テゾス財団の事例のような落とし穴もあります。スイスでICOを行う場合は、スイスにおける基本的なICOの仕組みをきちんと理解したうえで、スイスの法律が想定していない(カバーできていない)事態について、どのような扱いを受けるのかまでを確認しておくことが重要だといえます。
④ロシア
ロシアでは、仮想通貨に対する規制(登録や課税、証券関連法などによる規制)は存在しますが、ICOへの規制は準備段階にありました。
ですが、このたび、ロシア連邦情報技術・通信省(MinComSvyaz)はブロックチェーン技術やICOについて、全面禁止を避ける形での規制に踏み切る準備を整えたようです。併せて、協議の段階として公表された文書の中には、ICOによる資金調達において、ロシアの通貨であるルーブルの使用を不可欠にすることなどが、条件として挙げられています。
以上のように、ロシアはICOの全面禁止を避けたものの、現時点においては、まだ正式な形で規制内容が発表されていませんので、規制内容の全貌がハッキリした段階で、その規制をきちんと確認して、ICOを行うかどうかについて判断することが重要です。
⑤オーストラリア
オーストラリアは、早い時期に、ICOを行う際の方針(法令を守ること、国民を保護すること)を明確にしています。
2017年9月28日、オーストラリア証券投資委員会(ASIC)は、最初のICOに関する事業を行っている企業に対して、規制ガイドラインを発しました。
ASICは、規制ガイドラインにおいて、規制を受けるICOのモデルケースを公表することは避けており、ICOが規制を受けるかどうかは、以下の要件を検討したうえで、ケースに応じて判断されるとしています。
- ICOの提供方法と種類
- 発行されたトークンに付随する権利
- ICOの構成と運用
また、ASICは、規制ガイドラインにおいて、次の事項を守るようにと結論づけています。
- 投資家の信頼を確保する方法でのICOの実施
- 目論見書を使った十分な情報提供
オーストラリアでは、ICOへの規制がある程度確立されており、ICOを行う企業に対しては、投資家の信頼を確保する方法でのICOの実施や目論見書の作成を求めるなど、日本に似た規制を採っているとも考えられます。そのような意味において、オーストラリアが採っている規制を理解しやすいというメリットがあるとも考えられます。
いずれにしても、オーストラリアにおけるICOへの規制をきちんと理解したうえで、ICOを行うかどうかを検討する必要があります。
⑥アメリカ
ICOの管理については、州によってやり方が異なっています。
2017年7月、証券取引委員会(SEC)は、収益分配型のトークンは証券規制の対象になる可能性があるとの見解を発表しました。証券に当たる場合、取引所に対して登録を義務付けるのと同時に、事業活動を管轄下に置く意向であることを発表しました。この見解は、現在でも基本的に維持されています。
SECは、米国上院における議論の中で、ICOを厳しい規制対象とすることを示唆しており、SECの委員長であるジェイ・クレイトン氏は、これまでにSECが確認してきたICOのトークンについては、すべてが証券とみなされる、と述べています。
先日提出されたアメリカ議会2018年経済報告書では、ICOについて、「ICOは新しい経済システムにおいて2つの要素を提供しています。それは資金調達とネットワークの創造です。」とその役割を分析しています。
また、ICOを行った多くの企業がICOに失敗するが、その中でも生き残った企業は将来のインターネットやテクノロジーに影響を与える、と推測しています。
このように、SECはICOに対して厳しい立場を採り続けていますが、これは投資家を保護するという目的意識が強いためであり、他方で、ICOを実施した企業に対しては期待を持っているようです。
なお、アメリカ議会2018年経済報告書について、詳しく知りたい方は、URLを貼っておきますので、ご覧ください。
もっとも、2017年12月時点でICOは禁止されていないものの、ICOでの詐欺被害が相次いでいるため、警戒度がかなり高くなっているということにも注意が必要です。
仮想通貨に関する著書の執筆者は「現状の規制状況から考えて、今はICOを行うべきではないと人々にアドバイスしている」とも述べています。
仮想通貨メディアの「Token Report」によれば、今年の3月時点において、合計で12億ドル(約1290億円)もの資金がICOにより調達されていますが、今後ICOの市場は縮小されていくものと見込まれています。
他方で、強化される規制を過剰におそれる必要はないが、今後は法令をきちんと守りつつトークンを発行することが重要だとの意見もあります。
また、ICOによる多額の資金調達は、出資者の出資目的とは違う目的に資金を使われるおそれがあるため、必要性を超える資金額の調達に否定的な意見もあります。
このように、アメリカでは、ICOに関し、さまざまな意見が出されていますが、基本的には厳しい姿勢をとっています。SECが確認してきたICOのトークンすべてが証券とみなされていることからも、トークンが証券とみなされる可能性が高いと考えられます。そうすると、一定の規制を受けることにもなりますので、その点も考慮したうえで、ICOを行うかどうかを決める必要があります。
⑦アブダビ(アラブ首長国連邦)
アブダビでは、2018年2月11日、アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)の金融サービス規制庁(FSRA)が、ICOを対象に規制する準備を進めていると発表しましたが、具体的な時期は明確にしませんでした。
他方で、ADGMは、「仮想通貨は法定通貨ではないものの、商品やサービスの交換手段として世界中から関心を寄せられつつある」として、仮想通貨が世界的にニーズがあるということを肯定しています。
アブダビにおいては、仮想通貨を認めているともとれる見解が述べられていますが、他方でICOを対象に規制する準備を進めていると発表していることからも、今後の動向を確認したうえで、ICOを行うかどうかを決めることが必要なのではないかと考えられます。
⑧フランス
フランスの金融市場庁(AMF)は、ICOを加速していくための規制の枠組みを準備していたようですが、このたび、フランス経済産業省が、ICOを合法的に実施できる規制の枠組みを、AMFが作成したことを認めました。
フランス経済産業省は「ICOに対して、法的な保証を与えたい。ICOを妨げないように柔軟な枠組みを作るつもりだ。」と述べています。
ICOに関する新しい枠組みでは、AMFがICOを行う企業に免許を付与する仕組みを導入するものとされています。もっとも、免許がないとICOが実施できないということにはせずに、免許を付与された企業によるICOに対して、調達資金の使途に関し、投資家に保証をすることを義務付ける仕組みになるようです。
フランスにおいては、ICOを積極的に活用する方向での規制の枠組みがなされていることからも、規制の理解を前提として、ICOを行いやすい国の一つであるということがいえると思います。
(2)現行法に基づいて調整中の国
①カナダ
カナダ株式市場(CSE)は、2018年2月14日に、ICOを安全に実施するためのブロックチェーン技術を使ったプラットフォームである、STO(Security Token Offerings)を作ると発表しました。
CSEは、「ブロックチェーン技術を使った資金調達を行うことで、ブロックチェーンの安全性が高くなり、また、記録を改ざんすることが困難になる、といったメリットを生み出すことができます。STOは従来の資金調達手段にはない可能性を秘めています。」と述べています。
カナダにおいては、ICOを安全に実施するためのSTOが作られることになっており、ICOに肯定的な立場をとっていることからも、規制の理解を前提として、ICOを行いやすい国の一つであるということがいえると思います。
②ドイツ
ドイツでは、ICOを直接規制する動きはありませんが、ドイツ連邦金融監督庁はICOにおけるトークンに関し、「トークンが金融商品や証券などの規制対象にあたるかを厳格に確認し、それに応じた法律を守る必要がある」としています。他方で、ICOの危険性を警告という形で出しています。
ドイツでは、日本と同じように、ICOを直接規制する法律はないものの、関連法令により規制対象になる場合がありますので、その点をきちんと検討したうえで、ICOを行うかどうかを決める必要があります。
③シンガポール
シンガポールでは、昨年に、シンガポール金融管理局(MAS)が、一部のICOを規制するガイドラインを公表しています。このガイドラインは、「証券取引法によりICOを規制すべきである」という過去の意見を反映した内容になっていますが、ICOにはさまざまなケースがあることから、最終的には案件ごとに判断するとしています。
シンガポール政府は、ICOを保護するために、一部のトークンを規制し、多くの投資者が安心して投資できるような体制を目指しているようです。
シンガポールにおける最新のICO関連の発言では、ICOは禁止されず、また、特段のリスクも認められない、とされており、副首相も「仮想通貨による取引を禁止するような主張は今のところ出ていない」と述べています。
シンガポールは、ICOを主に証券取引法により規制すべきとの見解に立っていますが、ICOについて肯定的であることからも、証券取引法などの規制の理解を前提として、ICOを行いやすい国の一つであるということがいえると思います。
④EU
EUでは、現行法制によりICOを規制しようという議論がなされている状況です。この中で主に議論されているのは、マネーロンダリングの防止と口座を開く際のユーザーの身元確認を条件として、EU圏内でのICOを許すというものです。
他方で、欧州証券市場局は、投資家にとってICOは非常に危険であるという声明も出しています。
EUでは、未だ議論の段階であるうえに、ICOが非常に危険なものであるという声明も出ていますので、EU圏内においてICOを行うことを検討している企業は、まずは、現状の法律規制をきちんと確認することが必要です。
⑤香港
香港では、ICOにおいて発行するトークンが、現行の証券取引法でいう「証券」にあてはまる場合に規制の対象となります。具体的には、株券タイプ・社債タイプ・集合投資スキームタイプの3つのトークンが「証券」にあてはまり、免許や登録が必要となります。
香港では、中国が詐欺行為を撲滅するためにICOを全面的に規制したのとは異なり、投資家を保護する観点からの法律規制を調整しているため、ICOを全面的に否定することはしていません。ですが、SFCはICOに関する投資に対して、注意も促しています。
香港で、ICOを行う場合には、「証券」にあてはまらないトークンの設計を検討することが必要になってきます。そのうえで、現状の法律規制をきちんと理解し、ICOに対する危険性も念頭に置いて、ICOを行うかどうかを決める必要があります。
(3)注意を促しているだけの国
①マレーシア
マレーシア証券委員会は、2017年9月にICOを検討する投資家に対し、マレーシア証券委員会が発する警告に注意するように呼びかけました。また、マレーシアの管理当局も、投資家に対し、ICOの潜在的リスクについて注意するよう警告しています。
併せて、マレーシア証券委員会は、投資家に対して、ICOに関し適用される法律規制に関して疑いがある場合は、弁護士などの専門家に相談するように注意喚起をしています。また、ICOがオンラインでやり取りをされることから、規制が整備されていない可能性もあり、詐欺被害を受ける可能性が高くなると警戒心を強めています。
マレーシアでは、ICOに対する危険性を警戒する見解が強く、現に、そのような警告がマレーシア証券委員会から発せられています。現時点で、マレーシアでICOを行うことは得策であるとはいえないと思いますが、ICOを検討する際には、現状のICOに対する法律規制や実務における取扱いをきちんと理解し、慎重な検討が必要です。
②台湾
台湾では、2017年10月、金融監督管理委員会のウエリトン・クー委員長からICOなどについての声明が出ています。この声明において、クー委員長は、台湾政府がICOやブロックチェーン、また、仮想通貨に関し、将来的な発展を応援し、それらを合法的な資金調達方法として扱う準備があるということを述べています。
また、中国や韓国のように、ICOを全面的に禁止する措置はとらない、ということも述べられています。
台湾は、ICOを肯定的に捉える立場に立っており、現状の法律規制の理解を前提として、ICOを行いやすい国の一つであるということがいえると思います。
③イギリス
イギリスでは、ICO自体は許されているものの、緩和的な立場には立っておらず、現行の関連法令を守ることを要望しつつ、併せて厳しい警告も発しています。
金融行為監督機構は、ICOが規制の対象から外れているため、リスクがあり、トークンの発行者が提示する文書が、投資家に対し誤解を与えるおそれがある、と警戒しています。
イギリスでは、ICO自体は許されているものの、警戒も強めており、ICOに対して肯定的であるとまではいえない状況です。ICOを検討する際には、現行の関連法令をきちんと理解し、内容において適正なホワイトペーパーを作成するなどして、きちんとした手続によりICOを行うことが最低限必要になってくるものと思われます。
以上が、ICOに関する世界各国の状況です。現在の日本は「(3)注意を促しているだけの国」にあたり、ICOを直接規制する法律はありませんが、今後は、ICOを直接規制する法律が出てくる可能性は低くありません。
中国や韓国のように、ICOを全面的に禁止しているような国を除き、いずれの国においても共通して言えることは、今後の動きに注意しつつ、現状における法律規制をきちんと理解したうえで、ICOを行うかどうかを決めることが重要であるということです。
4 海外ICOの注意点(日本居住者向けの販売)
海外でICOを行う際に、注意すべき点をもう少し具体的に見てみましょう。
日本でのICOが厳しいと判断をした企業が、海外でICOを自由に行うことができるとすると、日本では法律規制に引っ掛かる(たとえば、日本では仮想通貨交換業の登録が必要な場合)にもかかわらず、海外では特に問題なく(仮想通貨交換業の登録をすることなく)ICOが行うことができるようになり、脱法的なICOを認めることにもなります。
この点、日本人居住者向けにICOの実施を検討していたタイのバンコクにある「タビット」という会社が、金融庁から以下のような指摘を受けた旨公表しています。
- 日本居住者(日本に住んでいる日本人)は、日本で仮想通貨交換業の登録を受けていない海外法人(日本に本社があり、その子会社が海外にあるような場合)が行う
ICOを買ってはいけない - 非日本居住者(海外に住んでいる日本人)は、日本で仮想通貨交換業の登録を受けていない海外法人が行うICOを買うことができる
- 日本で仮想通貨交換業の登録を受けていない海外法人は、日本居住者がICOを購入できる体制をとっている場合は、ICOを行うことはできない
- 日本居住者は、仮想通貨のプラットフォームで販売されている仮想通貨を日本における仮想通貨交換業の登録を受けていない海外法人から買ってはならない
ただ、ここに書かれたことは、金融庁が公式にアナウンスをしたわけでないこと、また、タビット自身へのネガティブな評価も存在したことなどからしますと事例判断との捉え方もありえます。
さらに、海外の取引所を通じてトークンを販売することまでもが直ちに禁止されたと断定されたわけでもないですが、慎重な判断が必要ですね。
以上のように、法律規制のハードルが低い海外においてICOを行った場合でも、その取引実態が「仮想通貨の交換」といえる場合は、日本で必要とされる仮想通貨交換業の登録を回避したICOとして、日本居住者向けにICOトークンを販売できない、との捉え方もあることには注意が必要です。
そのため、日本では規制が厳しいから、という理由で海外法人を通じてICOを行っても、必ずしも目的を達することはできないということになります。
このように、海外でICOを行う際は、単に法律規制のハードルが低いというところに安心するのではなく、法律規制のハードルが低い分、脱法的なICOと判断される可能性も残されています。そのようなことも念頭に置いて、海外ICOについて検討することが重要です。
5 今後の日本でのICOへの規制動向
近年、日本においてICOを使った資金調達が増えてきていますが、海外では調達した資金を持ち逃げするというケースも発生しています。日本では、まだICOを直接規制する法律はありませんが、金融庁は、ICOの手続きなどについて、関係する法令の改正も含め議論を進める考えのようです。
ICOは、ホワイトペーパーを作成してホームページに掲載するなどの方法により簡単に出資を募ることができますので、いわゆるスタートアップ企業にとっては、資金を集めやすい調達方法です。ですが、海外では資金を調達した後に、その事業が破綻するなど詐欺ともとれる案件も増えてきています。
現在の日本においては、改正資金決済法や金商法などの関係法令によって合法かどうかを見極めることしかできません。
今後、ICOによる資金調達がさらに増えていくであろうことも視野に入れて、法改正を要求する声も増えてきており、金融庁は、不適切なICOについて差止めができるようにすることも含め、不十分ともいえる現在のICOに対する法令について、整備の検討を進める方針のようです。
6 小括
以上のように、ICOに関して、日本に直接規制する法律はないものの、きちんと確認しなければならない関連法令が複数あります。
また、海外でのICOについても、各国独自の情勢があるため、実際にICOを検討する際には、その国の現状や今後の動向をきちんと確認することが重要です。このような確認を怠って、ICOに乗り出してしまうと、場合によっては、不測の事態に陥る可能性もありますので、企業におかれては、十分な注意が必要です。
7 まとめ
- 「ICO(アイシーオー・Initial Coin Offering)」とは、企業が独自の暗号通貨である「トークン」を発行し、投資家から仮想通貨で購入してもらうことにより資金を調達する資金調達方法のこと
- 現在の日本には、ICOを直接規制した法律はないが、発行されたトークンの設計によっては、関連法令の規制対象になる可能性がある
- ICOが規制対象になる場合は、①仮想通貨法でいう「仮想通貨」該当性、②資金決済法でいう「前払式支払手段」該当性、③金商法でいう「第2種金融商品取引業者」該当性の3つのケースである
- 独自トークンが「仮想通貨」にあたるのかについて検討することが、日本国内でICOをできるか否かの重要なターニングポイントである
- 発行するトークンが仮想通貨にあたるかどうかは、①不特定の人を相手にしていること、②既に決済手段として使われていること、③日本の通貨などに換金できる価値を持っていること、の3つの要件を満たす場合である
- 発行するトークンが「仮想通貨」にあたる場合は、「仮想通貨交換業者」としての登録を受ける必要がある
- 発行するトークンが「前払式支払手段」にあたる場合とは、①金額または数量(個数など)が記載・記録されていること、②記載・記録された金額または数量に応ずる対価が支払われていること、③記載・記録がなされた証票など、これらの財産的価値と結びついた番号などが発行されること、④支払いなどに使用できることの4つの要件を満たす場合
- 発行するトークンが「前払式支払手段」にあたる場合、企業に供託義務が発生する
- ①投資家から資金(お金や有価証券)を集める→②投資家から集めた資金を元に事業を行う→③事業により得た利益を出資者に分配する、というスキームで設計されたトークンは、金融商法のファンド規制の対象になる可能性がある
- 金融商法のファンド規制の対象になった場合、「第2種金融商品取引業」としての登録を受ける必要がある
- ICOによる資金調達を行った企業は、①法人税等、②消費税を納付しなければならない
- ICOに対する関連法令の規制としては、この他にも①特定商取引上の「通信販売」の法律規制、②消費者契約法の規制、③景品規制がある
- 中国、韓国では、ICOが全面的に禁止されている
- 中国、韓国以外にも何らかの規制がある国・規制の準備中が6国、現行法に基づいて調整中の国が5国、注意を促しているだけの国が日本を含め4国ある
- 海外でICOを行う際には、ICOを行おうとする国の今後の動きに注意しつつ、現状における法律規制をきちんと理解したうえで、ICOを行うかどうかを決めることが重要である
- 日本で必要とされる仮想通貨交換業の登録を回避した脱法的なICOは、日本居住者向けにトークンを販売できない
- 日本では、不適切なICOについて差止めができるようにすることも含め、不十分ともいえる現在のICOに対する法令について、整備の検討を進める方針