はじめに

オンラインサービスは、ネットワークを通して、迅速に取引ができますので、大変便利なサービスです。そのため、さまざまなサービスがオンラインで提供される時代になってきています。

昨今、話題になった「CASH」というサービスもそのうちの一つです。

もっとも、「CASH」が提供するサービスは一見質屋のサービスにも似ており、法的な問題があるとも指摘されていました。

特に、これからオンラインで質屋営業を始めようと検討している事業者にとっては、適切なサービスを設計するためにも、「CASH」のサービスについて理解しておくことは大変有益です。

そこで今回は、「CASH」のビジネスモデルを分解し、そこにどのような法的問題が存在するのかということを中心に、ITに詳しい弁護士が解説します。

1 「CASH」とは?

CASH」とは、2017年6月28日にローンチされたスマートフォンのアプリで、手元にある物品に関し、カテゴリー、ブランド、コンディションを選択し、写真を撮ることでその物品が査定され、換金することができるサービスです。

以下は、CASHが提供するサービスのフローを図にしたものです。

CASHは、具体的に、

  1. ユーザが、物品のブランド・状態を選択して撮影する
  2. 物品が査定される
  3. ユーザの口座に査定額が入金される
  4. ユーザが、物品を発送する
  5. or

  6. ユーザが、物品を発送せず返金する

というフローでサービスが提供されます。

(1)ユーザが物品のブランド・状態を選択して撮影する

ユーザが物品のブランドやメーカー、物品の状態を一覧から選択したうえで、物品の写真を撮ります。

(2)物品が査定される

物品を撮影すると、アプリが査定額を算出し、物品の買取価格が決定します。ひとつの物品に対する買取上限額は2万円とされています。

(3)ユーザの口座に査定額が入金される

査定後、ユーザが登録した指定口座に査定額が入金されます。

(4)ユーザが、物品を発送する

ユーザは、査定額入金後2か月以内に物品を発送します。5個以上の物品を送る場合や8000円以上の物品を送る場合には送料がかかりません。

それ以外では、160サイズ以下ならば、300円が送料として査定額から引かれます。

(5)ユーザが、物品を発送せず返金する

ユーザが、物品を手放したくなくなった場合は、2か月以内にかぎりキャンセルをすることができます。その際には、査定額に15%上乗せされた金額がキャンセル料として発生します。たとえば、1,000円と査定された物品の発送をキャンセルする場合は、1,000円の物品代金と150円のキャンセル料を支払わなければなりません。

 

このような仕組みをもつ「CASH」ですが、どの部分にどのような法的問題が存在するのでしょうか。この点を理解しやすくするためには、CASHにも似ている「オンライン質屋」のサービスと比較しながら見ていくことが有益です。

2 「オンライン質屋」とは?

(1)「質屋」とは何か

質屋」とは、物品を質に取って、お金を貸し、貸し付けたお金が期限内に返済されない場合に、質に取った物品を換金するなどして返済に充てることを内容とする事業です。

たとえば、ルビーの指輪を質屋に預けてお金を借り、決められた期限内に、返済ができなかった場合、指輪の所有権がユーザから質屋営業者に移転します(=質流れ)。質屋営業者は、所有権を取得した指輪を換金し、そのお金を返済に充てることになります。

以下は、質屋が提供するサービスのフローを図にしたものです。

質屋営業は、具体的に、

  1. 物品の引渡
  2. 査定
  3. 貸付
  4. 質流れ
  5. or

  6. 返済

というフローでサービスが提供されます。

ユーザは、まず始めに質屋に物品を引き渡し、質屋はその物品を査定します。査定に基づき、貸付が行われ、ユーザが返済期限までに借入金を返済しなければ、引き渡した物品の所有権はユーザから質屋営業者に移転することになります(質流れ)。

物品の所有権を取得した質屋営業者は、その物品を換金するなどして、返済に充てることになります。

このように、質屋営業は、対面で取引がなされることを前提としていますが、このような取引をオンラインで行うことはできるのでしょうか。

(2)「オンライン質屋」とは何か

オンライン質屋」とは、インターネットを通して、物品の査定と借り入れの申込みを受け付け、配送サービスによって物品を受け取り、それを担保に貸し付けを実行することをいいます。

オンライン質屋は、具体的に、

  1. 査定申込
  2. 質物送付
  3. 査定(結果通知)
  4. 各種選択
  5. 貸付金送付
  6. 返済
  7. 質流れ

というフローでサービスが提供されます。

このフローからもわかるように、オンライン質屋は、基本的に通常の質屋と同じフローでサービスが提供されます。

ユーザは、お店に行くことなくオンラインで査定を申し込み、質物を質屋営業者に郵便などで送ります。ユーザは、査定後貸付金の受領方法を選択することで、借入金を受け取ります。

このようにして借り入れたお金が、返済期間内に返済されなければ、ユーザに質物が返還されることはありません。このような場合には、「質流れ」といって、質物の所有権がユーザから質屋営業者に移転することになります。

このように、通常の質屋とオンライン質屋とでは、インターネットを通すかどうかという違いだけで、基本的な仕組みは同じです。

もっとも、先で見た「CASH」についても、その仕組みが、質屋の仕組みに似ていますが、「CASH」が指摘された法的問題点は、質屋の仕組みとどのような関係にあるのでしょうか。

3 「CASH」における法的問題点とは?

「CASH」が提供するサービスで問題となるのは、主に、

  1. 質屋営業法
  2. 貸金業法

という2つの法律です。

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4 法的問題点①:質屋営業法

質屋営業法」は、質屋営業を行うにあたり、守らなければならないルールを定めた法律です。

質屋営業」とは、以下の3つの条件をみたす事業をいいます。

  1. 事業者が利用者にお金を貸し付けること
  2. 事業者が「①」の担保として質物を取っていること
  3. お金の返済がないときは、預かった質物を返済にあてることになっていること

これらの条件にあてはまる事業は「質屋営業」にあたります。質屋営業を行うためには都道府県の公安委員会から許可を受けなければなりません。

仮に、質屋営業法上の許可を受けずに質屋営業を行った場合、

  • 最大3年の懲役
  • 最大10万円の罰金

のいずれか、または両方を科される可能性があります。

また、無許可営業などにより、ペナルティを科された場合には、それから3年間にわたり、質屋営業の許可を受けられなくなります。

この点、CASHは、「質屋アプリ」とも言われていましたが、実際にCASHのサービスは質屋営業にあたるのでしょうか。

質屋営業といえるためには、上で見たように、事業者が貸付の担保として質物を取っていることが必要です(条件②)。ですが、CASHのサービスにおいて、物品はユーザが物品を事業者に発送するその時まで、ユーザの手元にあります。

また、CASH側は、ユーザの口座に査定額が入金された時点で質物の所有権がユーザから事業者に移る形(=売買契約)であると説明しています。2か月以内にかぎり、ユーザが物品を取り戻せるようになっている点については、解約権が留保された売買契約であるとしています。

このように、CASHは、ユーザとの現金・物品のやり取りはあくまで「売買契約」であること、さらに、一般的な売買契約ではなく、解約できる権利(2か月以内)が留保されている売買契約である、と説明しました。

このことを前提にすると、CASHが提供するサービスは質屋営業にはあたらないと考えられます。

5 法的問題点②:貸金業法

貸金業法」とは、貸金業者に一定のルールを課すことにより、お金を借りる人を保護するための法律です。

貸金業」とは、金銭の貸付や貸借を取り次ぐことを事業として行うことをいい、ここには、単に金銭を貸付けたりすることだけでなく、手形の割引や売渡担保などによる金銭の授受も含まれるとされています。

ここでいう「売渡担保」とは、自分が所有する物品を売り渡し、その代金を融資という形で借り入れ、一定期間内にその代金に利息を付加して返金すると物品を取り戻すことができるというものです。

貸金業を行う場合には、国または都道府県から登録を受ける必要があります。仮に、貸金業法上の登録を受けずに貸金業を行った場合、

  • 最大10年の懲役
  • 最大3000万円の罰金

のいずれか、または両方が科される可能性があります。

この点、CASHのサービスは、一定期間内にかぎり物品の代金にキャンセル料を付加して返金すれば、物品を取り戻すことができる仕組みを採っているため、売渡担保にあたるのではないか、が問題となります。

仮に、売渡担保にあたれば、CASHが展開しているサービスは「貸金業」にあたることになります。

この問題に関し、CASH側は、キャンセル料は利息にあたらないとしています。具体的には、CASHが採用しているキャンセル料は、物品の引き渡しがなかったために生じた機会損失の補填のための費用であるとしています。

つまり、CASHは、2か月の間にユーザから買い取った物品を転売していれば得られるはずであった利益分をキャンセル料として徴収しているだけであるとしているのです。

このように、CASHの言い分の通り、キャンセル料が利息にあたらないとすれば、CASHのサービスは、売渡担保にはあたらず、貸金業には当たらないことになります。

以上のように、「CASH」が提供するサービスがただちに「違法」であると判断されたわけではありませんが、少なくとも質屋営業法や貸金業法との関係で問題となりうることをその理由とともに理解しておくことは極めて重要なことです。

もっとも、CASHとの間で問題となりうる法律はこれだけではありません。

6 その他の法的問題点

「CASH」が提供するサービスは、質屋営業法や貸金業法とは別に以下の2つの法律との関係で問題となる可能性があります。

  1. 利息制限法
  2. 消費者契約法

(1)利息制限法

利息制限法」とは、あまりにも高い利率で消費者が苦しむことを防ぐために、利息や遅延損害金の利率を一定以下に制限するための法律です。利息制限法では、利息などの利率について、たとえば、「元本の額が10万円未満の場合 年2割」といったように、元本の額に応じて利率の上限が定められています。

利息制限法に定められた利率を超えた利息は、その超過分について無効になりますので、支払う必要はなく、また、既に支払っているのであれば、その部分について返還を求めることができます。

この点、CASHでは、ユーザが物品を引き渡したくなくなった場合には、査定額とは別にキャンセル料として査定額の15%を支払わなければならない仕組みとなっています。

そこで、この「査定額の15%」というキャンセル料が利息制限法との関係で問題となりえます。

仮にこのキャンセル料が利息にあたるとした場合、1年に換算すると利息制限法が定める年20%を大きく上回ることになり、利息制限法に違反することになります。

そのため、その超過分については無効になりますので、ユーザは支払う必要がなく、また、すでに支払っているのであれば、その部分について返還を求めることができるということになります。

(2)消費者契約法

消費者契約法」とは、不当な契約から消費者を守るために整備された法律です。消費者契約法では、契約の解除によって生じる損害賠償や違約金を定める条項について、その金額が同種の消費者契約における平均的な金額を超える場合は、その超過部分を無効としています。そのため、超過部分については、支払う必要はなく、また、既に支払っているのであれば、その部分について返還を求めることができます。

この点、CASHにおけるキャンセル料は、契約の解除によって生じる損害賠償という性質があるともいえるため、問題視されました。

この問題に対し、CASH側は、15%のキャンセル料は、機会損失を補填するためのものであるとしています。つまり、本来であれば、物品の流通(転売など)により得られるはずの買取による機会を損失したことへの補填が目的であるとしているのです。

CASHの言い分からすると、15%のキャンセル料は実質において「契約の解除によって生じる損害賠償」と同じ性質である可能性があります。

そのため、このことを前提にすると、キャンセル料が同種の契約における平均的な金額を超えているといえる場合には、その超過部分について無効となる可能性があります。その場合には、ユーザは、超過部分について、支払う必要はなく、また、既に支払っているのであれば、その部分について返還を求めることができます。

 

このように、「CASH」は質屋営業法や貸金業法以外にも、いくつかの法的問題点を指摘されていましたが、間もなく、CASHは、キャンセル料をなくし、物品の発送期限を「2ヶ月以内」から「2週間以内」に変更しました。

7 「オンライン質屋」における問題点

CASHと同様に、オンライン質屋にも法的問題点が以下のように3つあります。

  1. オンライン質屋の特性上の問題
  2. 古物営業法
  3. その他留意すべき法律

(1)オンライン質屋の特性上の問題

オンライン質屋を営む際には、質屋営業法との関係で以下の点が問題となります。

  1. 営業場所
  2. 身元確認
  3. 質受証の交付
  4. オンライン買取とのすみ分け

①営業場所

質屋営業法において、質屋は定められた住所以外で物品を取り扱ってはいけないと定められています。このルールは、質受けをしていいのは登録を受けた営業場所のみであることを意味していると理解されています。

そこで、オンライン質屋が「定められた住所で物品を取り扱っている」と言えるのかが問題になります。

オンライン質屋では、ユーザが質にいれたい物品を質屋に送付し、査定してもらいます。質屋による査定が終了した後に、オンライン上でお金の貸付けと物品の質入れについて合意がなされると、ユーザに対して入金されます。

このフローからすると、オンライン質屋では、ユーザと質屋との間で質入れについての合意が成立した時点で、質受けがなされたと考えるのが自然です。そのため、この合意が成立した時点で、登録を受けた営業場所に質受けした物品があれば、「定められた住所で物品を取り扱っている」といえると考えられます。

②身元確認

質屋営業法では、ユーザが質入れを行う際には、身分証明書や運転免許証といった、ユーザの住所・氏名・年齢や職業を明らかにできる書類を提示する方法で身元を確認する必要があるとされています。

また、ユーザの近親者など、ユーザの住所・氏名・年齢や職業を保証することができる人に問い合わせをすることで、身元を確認することもできます。

この点、オンライン質屋では、対面での身分証などの提示は困難であるため、郵送などによる方法での提示が考えられます。

また、ユーザの身元を証明できる人に問い合わせる方法でユーザの身元確認をすることが考えられますが、この場合、ユーザが近親者などへの問い合わせを望まない可能性があることには注意が必要です。

③質受証の交付

質屋営業法では、貸付と質入れが行われた時には、ユーザと質屋との間でそのことを証明する質札や通帳といった「質受証」を発行する必要があるとされています。質受証の交付がない場合、貸付と質入れは無効になります。

この点、オンライン質屋では、質受証を郵送によってユーザに届けることができるため、このルールは問題にならないと考えられます。

④オンライン買取とのすみ分け

質屋営業では、流質期限までに質物の価値が下がることが想定されます。例えば、最新式のiPhoneを質受けした後に、さらに新しいiPhoneが発表されるケースなどがそうです。そのため、質受けは買取の場合よりも、査定額が低めに計算されるのが一般的となっています。

ユーザが質屋を利用する場合は、査定額が低くなるうえ、利息もつくため、ユーザ側に、質入れするよりも買い取ってもらった方が得だというインセンティブが働きます。そのため、事業者は買取業を行ったほうが有利になるケースが多いとされています。

他方で、オンライン買取とオンライン質屋の最大の違いは、「物品を取り戻せるかどうか」です。一次的にお金が必要だが、最終的に物品を返してもらいたいという人をターゲットとしたサービスを展開するのであれば、質屋営業を採ることになります。

このように、オンライン質屋には、質屋営業法上いくつかの問題がありますが、特に、「身元確認」のルールについては、一定の限界があるのが現状です。

この点をどうクリアするかという点が一つの課題であるということがいえます。

(2)古物営業法

一般に質屋は、質屋営業と古物営業の両方を行っていることが多くなっています。

もっとも、質屋営業と古物営業とでは、まったく異なるルールが適用されます。例えば、質物として物品をあずかる場合の査定額と物品を買い取る場合の査定額を両方提示して、ユーザにいずれかを選択してもらうサービスを提供する場合は、質屋営業の許可だけでなく、古物営業の許可も得る必要があります。

仮に、古物営業法上の許可を得ずに古物商を営んだ場合は、

  • 最大3年の懲役
  • 最大100万円の罰金

のいずれかを科される可能性があります。

なお、CASHは、質屋営業法上の許可を受けずに、古物営業法上の許可だけを受けてサービスを提供していました。

(3)その他留意すべき点

オンライン上で、ユーザと契約を締結する際には、「電子契約法」のルールを確認する必要があります。

電子契約法」とは、オンライン上でコンピュータなどを操作して契約を締結する場合に起こりうる、操作ミスをどのように扱うかを定めた法律です。オンラインでの契約では、ちょっとした誤操作で物件の所有権を失ったり、契約が成立してしまう可能性があります。それを防ぐために、「入力の内容でよろしいですか?」などといった確認ページを設置することが義務付けられています。

 

以上のように、オンライン質屋を営む場合には、質屋営業法の許可とは別に、古物営業法の許可も必要となるのかを、自社のサービス内容に照らして確認する必要があります。

さらに、電子契約法に定めのある確認ページを設置することも忘れないようにしましょう。

8 小括

「CASH」は、質屋営業の許可は受けずに、古物営業の許可のみを受けてオンラインでサービスを提供し始めましたが、そのサービスシステムの特性などから実質は質屋営業ではないかという指摘を受けました。

そのほかにも、サービス内容との関係で「貸金業法」が問題になるなど、グレーな部分が少なくなかったため、サービス開始後まもなくサービスの内容を一部変更しました。

オンラインで質屋を始めようという事業者は、「CASH」のサービス内容や問題となった法律をチェックしたうえで、自社のサービス内容に照らし合わせることが必要だと考えられます。

そのうえで、自社のサービスにとって、守るべきルールが何なのかをきちんと把握することが大切です。

9 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のようになります。

  • 「CASH」は、法的な問題があるのではないかと指摘された
  • オンライン質屋をはじめるにあたりまず確認すべき法律は、①質屋営業法、②古物営業法である
  • 質屋を始めるには、質屋営業の許可を受ける必要がある
  • 古物商を始めるには、古物営業法の許可を受ける必要がある
  • 「CASH」との関係で付随的に確認すべき法律は、①貸金業法、②利息制限法、③消費者契約法である
  • オンライン質屋は、サービスの特性上①営業場所、②身元確認、③質受証の交付、④オンライン買取とのすみ分けが問題となる
  • オンライン質屋を行う上で参照すべき法律は、主に①質屋営業法、②古物営業法、③電子契約法である