スタートアップ企業が「資本政策」を立案する際の3つの注意点を解説

はじめに

IPO(株式上場)を目指すスタートアップ企業にとって、「資本政策」は極めて重要な意味をもちます。
完成度の高い資本政策を策定することにより、投資家から信頼を得られやすくなり、目標達成の可能性を高めることができます。

もっとも、資本政策の策定に失敗するスタートアップ企業も少なくないため、きちんとポイントを押さえたうえで立案することが必要です。

今回は、資本政策を立案する際の注意点を中心に、失敗例にも触れながら弁護士がわかりやすく解説します。

1 資本政策とは

資本政策」とは、簡単にいうと、事業者が成長をするための資金調達戦略です。

資金調達を実施する際には、新たに株式を発行し、投資家に割り当てることになります。
スタートアップ企業は、成長フェーズに応じて複数回資金調達を実施することが一般的であるため、資金調達を実施するたびに、既存の持株比率は下がっていきます。

持株比率の割合は、経営への介入の度合いに影響するため、事業者は持株比率についてもしっかりと戦略を立てておくことが必要になります。

このように、資本政策は、イグジットまでに必要となる資金や、株式公開時にあるべき持株比率などを策定するものであり、大変重要な意義をもつものなのです。


※資本政策を立案するまでのフローについて詳しく知りたい方は、「スタートアップ企業における「資本政策」とは?5つのポイントを解説」をご覧ください。

2 資本政策を立案する際の注意点

資本政策を立案するうえで、注意すべきは以下の3点です。

  1. 資金調達方法
  2. 上場基準
  3. 持株比率

(1)資金調達方法

スタートアップ企業は、成長フェーズや事業内容によって、必要となる資金も異なります。

また、資金調達方法には、それぞれに独自の特徴があるため、資金調達を実施する場合には、必要な資金を正確に算出したうえで、適切な資金調達方法を選択することが大切です。

資金調達方法としては、たとえば、以下のようなものが挙げられます。

  • 第三者割当増資
  • 種類株式の発行
  • 融資


スタートアップ企業の成長フェーズによっては、適さない方法もあるため、資本政策を立案する際には、必要となる資金を確実に調達できるかどうか、自社にとってデメリットが大きい方法でないかなどを検討することが必要です。

(2)上場基準

多くのスタートアップ企業は、将来的に上場することを目標にしているため、株式市場の上場基準は一つの大きな目標値でもあります。
そのため、資本政策を立案する際には、上場基準をきちんと把握しておくことが必要です。

たとえば、東証一部に上場するための審査基準は、以下のようになっています。

  • 株主数:800人以上
  • 事業継続年数:3年以上
  • 時価総額:250億円以上
  • 最近2年間の有価証券報告書に「虚偽記載」がないこと


このほかにも、東証二部やマザーズ、JASDAQなどにおいて、独自の上場基準が設けられています。

スタートアップ企業が上場をする際には、当然ながら目指している市場の上場基準を満たしていなければなりません。

資本政策についても、この観点から立案されていなければ、投資家に上場の可能性がないと判断され、資金調達が失敗に終わる可能性があります。

(3)持株比率

先に見たように、「持株比率」は資本政策を立案するうえでも、特に重要となる事項の一つです。
株主の持株比率は、経営への介入に大きく影響を及ぼすため、特に慎重に検討する必要があります。

具体的には、株主の保有株式が以下のいずれかにあてはまる場合には、経営への介入に影響が出るため、注意が必要です。

  • 保有株式が3分の1を超える場合
  • 保有株式が過半数の場合
  • 保有株式が3分の2を超える場合


スタートアップ企業にとって、株主の持株比率は極めて重要な事項です。

資本政策を立案する際には、持株比率が会社経営に及ぼす影響をきちんと検討することが必要です。


※株主による経営への介入について、詳しく知りたい方は、「スタートアップ企業における「資本政策」とは?5つのポイントを解説」をご覧ください。

3 スタートアップ企業に見られる資本政策の失敗例

資本政策に失敗する原因はさまざまですが、たとえば、以下ような原因が挙げられます。

  1. 株式を必要以上に与えてしまった
  2. 株価の評価を誤った
  3. 上場基準を満たしていなかった

(1)株式を必要以上に与えてしまった

投資家のなかには、少しでも多くの株式を手に入れようと執拗に交渉してくる投資家もいます。
このような場合に、熱意に負けて必要以上に株式を与えてしまうというケースもあるようです。

繰り返しになりますが、投資家にどの程度の株式を与えるかは、非常に重要な問題です。

そのため、しっかりとした資本政策を策定し、投資家と対等な立場で取引をすることが大切です。

(2)株価の評価を誤った

株価の評価を誤ってしまうと、追加で出資を受けることができなくなり、その後の事業に支障を来す可能性があります。

もっとも、株価を評価することは容易ではないため、場合によっては、専門家に相談しながら進めることも選択肢の一つでしょう。

(3)上場基準を満たしていなかった

資本政策を立案する際には、目標となるゴール(株式上場)をしっかりと見据えることが大切です。

さもなければ、いざ上場というときになって、上場基準が満たされていないということにもなりかねません。

4 まとめ

「資本政策」は、スタートアップ企業の成長を大きく左右する重要なものです。

資本政策を立案する際には、注意点・失敗例を念頭に置きながら、完成度の高い内容に仕上げることが大切です。

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弁護士(東京弁護士会)・中小企業診断士 GWU Law LL.M.〔IP〕/一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(博士前期・2026年~) 金融規制、事業立上げ、KPI×リスク可視化を専門とする実務家×研究者のハイブリッド。

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