はじめに

AI開発にあたって、開発を依頼したユーザも、開発を依頼されたベンダも、契約書の締結が必要であることはわかっていても、何の契約を、どのタイミングで締結すべきなのか、正確にわかっていない事業者が多いのではないでしょうか。

AI開発において、最も重要な契約は「ソフトウェア開発契約」と呼ばれる契約です。

このソフトウェア開発契約書の内容次第で、プログラム・データやノウハウといった貴重な財産が、ベンダ・ユーザのいずれに帰属するのか?といった重要な問題が決まります。

そこで今回は、ベンダ・ユーザ両者の視点から、ソフトウェア開発契約を作るプロセスでどういった点を検討すべきで、実際にどんな内容を契約書に盛り込むべきなのかといった問題に関して、経済産業省ガイドラインに掲載された「モデル契約書」を参考に、ITに詳しい弁護士が解説していきます。

目次

1 ソフトウェア開発契約とは

AIソフトウェア開発契約

AI開発における「ソフトウェア開発契約」とは、機械学習を用いて、ユーザが望んだ機能をもつソフトウェア(学習済みモデル)の生成・開発を行う契約のことをいい、ユーザとベンダの間で締結されます。

文字どおり、ソフトウェアの開発を行う契約なわけですが、この「ソフトウェア開発契約」がAI開発で重要となるのは、AI開発過程で生じた成果物や最終的に完成したソフトウェア(学習済みモデル)が誰のものになるのか?どのような利用条件をつけるのか?何かあった場合誰が責任を負うのか?といった重要な事項について定めているからです。

この点注意しなければいけないのは、AI開発は、その性質や注意点すべきポイントが、従来のソフトウェア開発と大きく異なることです。そのため、従来締結していたソフトウェア開発契約書を使いまわしてもトラブルになるだけであり、AI開発専用のソフトウェア開発契約書を用意すべきと考えられます。

次の項目では、基本的なAI開発の流れやAI開発と従来のソフトウェア開発の違いと、ソフトウェア開発契約書の締結タイミングについて確認していきましょう。

2 AI開発の中でどのような場合にソフトウェア開発契約書が必要なのか?

AI開発

(1)AI開発とは

AI開発」とは、機械学習を利用して、ユーザが望んだ機能をもつソフトウェア(学習済みモデル)の生成・開発を行うことをいいます。ここでいう「機械学習」とは、人が学習して賢くなっていくのと同じように、コンピュータを学習させ、機能や性能を高めていく開発手法のことをいいます。この機械学習には、大量の学習用のデータが使われます。

具体的なAI開発の流れは以下のとおりとなっています。

  1. ユーザ:ベンダに大量の学習用のデータ(生データ)を提供する
  2. ベンダ:提供された生データから学習に適さない異常値や外れ値を削除したり、学習しやすいよう注釈などをつける(アノテーション)などの加工を行い学習用データセットを作成する
  3. ベンダ:学習用データセットと学習用プログラムを用いてコンピュータに機械学習をさせる
  4. ベンダ:機械学習を繰り返してユーザが求める機能を有する「学習済みモデル」を生成・開発する

AI開発は、ベンダが単独で開発を行っていた従来のソフトウェア開発と異なり、ユーザの用意した生データの質や量も生成される学習済みモデルに影響を与えることから、ユーザとベンダの「共同開発」的な性質をもつことになります。

また、従来のソフトウェア開発は、仕様を固めて、その仕様通りに機能するソフトウェアを作成していくという流れで行われることが多いため、どういったソフトウェアができあがるのか予測が可能でした。一方で、学習済みモデルは、ユーザが用意する生データ、ベンダによるアノテーション、学習用プログラムなど様々な要素を組み合わせて生成されるため、開発を始めてみなければどんなものができあがるかわかりません。ユーザの求めるAIを作ることができないことがいつ判明してもおかしくなく、常に開発中止のリスクを秘めているといえます。

このように、AI開発は、従来のソフトウェア開発と異なる性質とリスクを負っていることから、経済産業省のガイドラインでは、AI開発をいきなりスタートするのではなく、いくつかの段階に分けて、次の段階に進めるか否かをユーザとベンダで「探索的段階型」の開発方式を推奨しています。

(2)「探索的段階型」の開発方式とは

経済産業省のガイドラインでは、以下のように段階を分けています。

探索的段階型開発方式

①アセスメント

アセスメント」の段階は、AIの開発可能性を検証する段階です。AIの開発可能性に関する事項、たとえば、ユーザが欲しがっているAIが現状のAI技術では難しいものであったり、AIを学習させるために必要なデータを集めることができないといった事項は、後から判明した場合取返しのつかない影響を与えることから、できる限り早い段階でユーザとベンダで検証しておくべきだといえます。

そのため、この段階では、ユーザはAIを用いて事業上のどのような課題を解決したいのか?ベンダは技術的にユーザの課題を解決できるAIを作成可能なのか?ユーザは学習用のデータを用意することができるのか?といった事項についてユーザとベンダで入念に確認することになります。

②PoC

PoC(Proof of Concept)」の段階とは、学習用データセットを用いて、AIの学習を開始し、AI(学習済みモデル)の開発可能性を検証する段階のことをいいます。あくまでも本格的な開発の前の検証であり、生成される学習済みモデルは不完全な試作版となります。このようにアセスメントの段階後にPoCの段階を設けるのは、アセスメントの段階で行う理論上の検証では、どうやらAIは開発できそうだという検証結果がでても、実際に学習用データセットを用いて機械学習を開始したところ、ユーザの求めるAIは開発できないことが後から判明することがあるからです。

③開発

開発」の段階とは、学習用データセットを用いて、本格的に学習を繰り返し、ユーザから依頼された学習済みモデルを実際に生成する段階のことをいいます。

④追加学習

追加学習」の段階は、ベンダが納品した学習済みモデルに対して、さらに追加の学習用データセットを使って学習をする段階のことをいいます。追加学習を行うのは、さらに学習済みモデルの精度を高めたり、納品した学習済みモデルをベースに別の学習済みモデルを作成したりすることを目的としています。追加学習後の学習済みモデルを、経済産業省のガイドラインでは「再利用モデル」と呼んでいます。

このように、経済産業省はAI開発を4つの段階にわけており、それぞれの段階で契約書を締結することになります。

以下では、この経済産業省が提唱する段階の分け方を前提として、ソフトウェア開発契約書の適切な締結タイミングを確認していきましょう。

(3)ソフトウェア開発契約書の締結タイミング(ポイント①)(★)

①アセスメント、②PoC、③開発、④追加学習という4つの段階にわけた場合、それぞれの段階で締結する契約は異なります。各段階に適した契約書は以下のとおりです。

探索的段階型開発方式の各段階で締結すべき契約について

この表からもわかるとおり、ソフトウェア開発契約書を締結するタイミングとして適切なのは、「開発」の段階となります。「アセスメント」や「PoC」といった検証の段階を終えて、本格的なAIの開発を開始する際にソフトウェア開発契約を締結することになります。

適切な契約締結タイミングがわかったところで、以下では、実際にどのような内容のソフトウェア開発契約を締結すればいいのか、という点を、経済産業省のガイドラインに掲載されているモデル契約をもとに、注意点や、チェックすべきポイントにも触れながら見ていきたいと思います。

※「アセスメント」の段階で締結する秘密保持契約書(NDA)について詳しく知りたい方は、「【ひな形】AI開発における秘密保持契約(NDA)の5つのポイント」をご覧ください。

※「PoC」の段階で締結する導入検証契約書について詳しく知りたい方は「【ひな形】AI開発で必須の導入検証契約書の作り方と5つのポイント」をご覧ください。

3 モデル契約の対象となるペルソナ

ペルソナ

今回解説するソフトウェア開発契約書のペルソナ(=人物像)は以下のとおりです。

  • 契約当事者:AI開発を依頼したユーザとAI開発を依頼されたベンダ
  • 業務内容:
  • 【ユーザ】学習用のデータ(生データ)を提供すること

    【ベンダ】提供された生データを学習用データセットに加工し、学習済みモデルを生成すること

  • ゴール(契約目的):生成した学習済みモデルの提出(ベンダ⇒ユーザ)
  • やり取りするお金:あり(ユーザ⇒ベンダ)
  • 契約締結タイミング:「開発」の段階

今回のペルソナは、ベンダからユーザに対して「学習済みモデル」を提出することがゴール(契約目的)となっています。ユーザの保有するシステムに学習済みモデルを組み込んだりなど、ペルソナと異なることを実施したい場合には、実態にあわせてモデル契約書を修正する必要があることにご注意ください。モデル契約書のひな形は、次の項目でダウンロードすることができます。

4 ソフトウェア開発契約書の「ひな形」のダウンロード

Download

ソフトウェア開発契約書のひな形は、以下からご自由にダウンロードしてください。

【ひな形】AIモデル契約書:ソフトウェア開発契約書

それでは、ひな形をもとに、「開発」の段階で締結するソフトウェア開発契約書のチェックポイントを具体的に確認していきましょう。

※本ひな形は、下記URL記載の経済産業省作成にかかる「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」内に掲載された「モデル契約」をもとに、枠線の削除、フォントの変更等を加えたものになります。

出典:「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」102項~129項(平成30年6月・経済産業省)

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5  AI開発における導入検証契約書のチェックポイント

チェックポイント

今回は経済産業省のガイドライン掲載の導入検証契約書のうち、特に注意すべき点や、チェックすべきポイントがある条項に絞って解説していきます。

(1)目的

    第1条(目的)

    本契約は、別紙「業務内容の詳細」記載の「開発対象」とされているコンピュータソフトウェアの開発(以下「本開発」という。)のための、ユーザとベンダの権利・義務関係を定めることを目的とする。

第1条は、このソフトウェア開発契約が何のために締結されるのか、その「目的」を定めた条項です。モデル契約書では、別紙「業務内容の詳細」記載の「開発対象」を開発することが目的となっています。

別紙」とは、契約書に添付する補足資料のことをいい、契約書と一体となって、ユーザとベンダの合意内容を示すものです。契約書内に書かずに、別紙に定めているのは、契約書をシンプルにするためです。契約書に長々と何を開発するか?を定めた結果、契約書が読みにくく、流れが悪くなってしまうことを防ぐことができます。

(2)定義

    第2条(定義)

    1.データ

    電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他の方法で作成される記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)をいう。

    2.本データ

    別紙「業務内容の詳細」の「本データの明細」に記載のデータをいう。

    3.学習用データセット

    本データを本開発のために整形または加工したデータをいう。

    4.学習用プログラム

    学習用データセットを利用して、学習済みモデルを生成するためのプログラムをいう。

    5.学習済みモデル

    特定の機能を実現するために学習済みパラメータを組み込んだプログラムをいう。

    6.本学習済みモデル

    本開発の対象となる学習済みモデルをいう。

    7.再利用モデル

    本学習済みモデルを利用して生成された新たな学習済みモデルをいう。

    8.学習済みパラメータ

    学習用プログラムに学習用データセットを入力した結果生成されたパラメータ(係数)をいう。

    9.知的財産

    発明、考案、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見または解明がされた自然の法則または現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)および営業秘密その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報をいう。

    10.知的財産権

    特許権、実用新案権、意匠権、著作権その他の知的財産に関して法令により定められた権利(特許を受ける権利、実用新案登録を受ける権利、意匠登録を受ける権利を含む。)をいう。

    11.本件成果物

    別紙「業務内容の詳細」の「ベンダがユーザの委託に基づき開発支援を行う成果物の明細」に記載された成果物をいう。

ここでは、AIソフトウェア開発契約書の中で使う用語の「意味・定義」を記載します。

契約書上で定義を定める目的は、ユーザとベンダの単語レベルでの認識のズレをなくしトラブルを回避することにあります。たかが単語レベルの認識のズレと侮ってはいけません。大きなトラブルとなる可能性があります。

たとえば、「学習済みモデル」という単語も、機械学習を繰り返して得られた生成物のうちプログラム部分のみだと考える人もいれば、プログラムと学習済みパラメータを組み合わせたものと考える人もいます。人によっては、プログラムと学習済みパラメータに加えて学習に用いた学習用データセットも学習済みモデルだと考える人もいるかもしれません。

モデル契約では、ベンダからユーザに対して「学習済みモデル」を提出することがゴールとなっているため、提出時になって認識のズレが発覚した場合、ユーザ視点では思っていたものが提出されなかった、ベンダ視点では報酬を払ってもらえないといった大きなトラブルとなり得るのです。

もっとも、認識のズレをなくすため、何ページにもわたって契約書上で定義を羅列することは現実的ではありません。多義的な単語や業界特有の専門用語、トラブルになりやすいと考えられる単語について定義を設けるようにしましょう。AI開発においては、モデル契約にあるとおり、各種データやプログラム、知的財産権については、最低限定義を設けて、その単語に何が含まれ、何が含まれないかを明確にするようにしましょう。

(3)基本的な事項

    第3条(業務内容)

    ユーザはベンダに対し、別紙「業務内容の詳細」の「具体的作業内容」に記載された業務(ただし、ユーザの担当業務を除く。以下「本件業務」という。)の提供を依頼し、ベンダはこれを引き受ける。

    第4条(委託料およびその支払時期・方法)

    1.本件業務の対価は別紙「業務内容の詳細」の「委託料」で定めた金額とする。

    2.ユーザはベンダに対し、本件業務の対価を、別紙「業務内容の詳細」の「委託料の支払時期・方法」で定めた時期および方法により支払う。

    第5条(作業期間)

    本開発の作業期間は、別紙「業務内容の詳細」の「作業期間」に定めたとおりとする。

    第6条(協力と各自の作業分担)

    1.ユーザおよびベンダは、本契約の履行においてはお互いに協力しなければならない。

    2.ユーザとベンダの作業分担は、別紙「業務内容の詳細」の「作業体制」および「具体的作業内容」においてその詳細を定める。

ここでは、

  • 第3条:実際にユーザがベンダに依頼するAI開発の具体的な内容
  • 第4条:開発をしてもらう際の対価
  • 第5条:実際に開発にかかる期間
  • 第6条:ベンダ・ユーザ間の役割分担

が定められています。

ここでのポイントは、次の2点です。

  1. 具体的な業務内容の特定
  2. 委託料の金額と支払い条件

①具体的な業務内容の特定

次の項目(ベンダの義務)で詳細を解説しますが、ベンダが行うのは、「学習済みモデル」を完成させることではなく、「学習済みモデル」の生成業務を行うことです。完成させさえすればその過程は問わないわけではなく、生成業務の過程が重要となります。

そのため、生成する過程における具体的な業務内容を別紙にて特定することが必要です。

また、AI開発は従来のソフトウェア開発のようにベンダが単独で行うものではなく、ユーザが学習用データを用意することからユーザとベンダによる「共同開発」だといえます。そのため、具体的な業務内容にい加えてその役割分担を明確にしておくことも必要となります。

②委託料の金額と支払い条件

ベンダが開発前から保有していた特許をAI開発に用いたり、生成された学習済みモデルはベンダのものとなりユーザがそれを利用したりする場合、AI開発の委託料とは別に、ライセンス料・利用料が発生することがあります。このように、ライセンス料・利用料などが発生する場合、委託料とは別であることを契約書上でも明確にしましょう。

また、支払い条件については、一定の成果に対して支払ったり、ベンダに発生した工数単位で支払うなど、様々なパターンがあります。ユーザとベンダ間で、どのような条件にするかきちんとすり合わせることが大事です。

もっとも、ユーザとベンダで合意したとおりの支払い条件にできない場合があります。

ユーザとベンダの資本金次第では、下請法の適用があり、ユーザは学習済みモデル受領後60日以内の支払いをしなければいけません。ユーザもベンダも下請法の適用があることに気付かず、60日を過ぎての支払いとしていることが多々あります。特にベンダの規模が小さい場合は下請法の適用がないか注意するようにしましょう。

(4)ベンダの義務(ポイント②)(★)

    第7条(ベンダの義務)

    1.ベンダは、情報処理技術に関する業界の一般的な専門知識に基づき、善良な管理者の注意をもって、本件業務を行う義務を負う。

    2.ベンダは、本件成果物について完成義務を負わず、本件成果物等がユーザの業務課題の解決、業績の改善・向上その他の成果や特定の結果等を保証しない。

第7条は、ベンダが義務を負うべき事項と、逆に義務を負わない事項について定めた条項です。

ここでのポイントは、次の3点です。

  1. 完成義務
  2. 善管注意義務
  3. 非保証

①完成義務

繰り返しとなりますが、ベンダが行うのは、「学習済みモデル」を完成させることではなく、「学習済みモデル」の生成業務を行うことです。なぜなら、AI開発は、ユーザが求めている学習済みモデルを作れるとは限らず、常に開発中止のリスクを秘めており、完成を約束できないからです。

そのため、モデル契約書においても、ベンダは学習済みモデルの「完成義務」を負わないこととしています(第7条2項)。

もっとも、「完成義務」を負わない=ベンダは一切の責任を負わないということを意味しているわけではありません。

第7条1項にもあるとおり、「善管注意義務」と呼ばれる義務を負います。

②善管注意義務

善管注意義務」とは、業務を任された者に通常期待される注意義務のことをいい、その者の能力、社会的地位などをもとに判断します。

開発のプロであるベンダがどのような義務を負うかについては、別紙で特定した業務詳細も判断材料になります。そのため、可能な限り具体的に業務詳細を定めるようにしましょう。

③非保証

第7条2項は、善管注意義務とともに、ベンダが保証できない事項についても定めています。生成された学習済みモデルによるユーザの課題解決や業績の改善は、ベンダのコントロール下から離れたところで行われるため、このように非保証となっています。

(5)責任者の選任および連絡協議会

    第8条(責任者の選任および連絡協議会)

    1.ユーザおよびベンダは、本開発を円滑に遂行するため、本契約締結後速やかに、本開発に関する責任者を選任し、それぞれ相手方に書面(電磁的方法を含む。以下同じ)で通知するものとする。また、責任者を変更した場合、速やかに相手方に書面で通知するものとする。

    2.ユーザおよびベンダ間における本開発の遂行にかかる、要請、指示等の受理および相手方への依頼等は、責任者を通じて行うものとする。

    3.責任者は、本開発の円滑な遂行のため、進捗状況の把握、問題点の協議および解決等必要事項を協議する連絡協議会を定期的に開催する。なお、開催頻度等の詳細については、別紙「業務内容の詳細」の「連絡協議会」に定めるとおりとする。ただし、ユーザおよびベンダは、必要がある場合、理由を明らかにした上で、随時、連絡協議会の開催を相手方に求めることができるものとする。

第8条は、ユーザとベンダそれぞれが責任者を選任することと連絡協議会の実施について定めています。

AI開発に限らず、他社と共同で何かを成し遂げるためには、密な情報連携と、想定外の事態やトラブルへの適切な対処が必須です。そのため、ユーザとベンダでスムーズにやり取りを行うために、このような定めを設けています。

(6)再委託

    第9条(再委託)

    1.ベンダは、ユーザが書面によって事前に承認した場合、本件業務の一部を第三者(以下「委託先」という。)に再委託することができるものとする。なお、ユーザが上記の承諾を拒否するには、合理的な理由を要するものとする。

    2.前項の定めに従い委託先に本検証の遂行を委託する場合、ベンダは、本契約における自己の義務と同等の義務を、委託先に課すものとする。

    3.ベンダは、委託先による業務の遂行について、ユーザに帰責事由がある場合を除き、自ら業務を遂行した場合と同様の責任を負うものとする。ただし、ユーザの指定した委託先による業務の遂行については、ベンダに故意または重過失がある場合を除き、責任を負わない。

第9条は、ベンダが外部の事業者に業務を再委託する場合のルールについて定めている条項です。

AI開発においては、ベンダが、生データから機械学習に適さない異常値や外れ値を除外したり、データに注釈をつける(アノテーション)といった様々な加工を行い、学習用データセットを作っています。これらのデータの除外やアノテーションは、多くの人手がいる作業です。生データの量によっては、ベンダの社内で処理しきれず、第三者に作業をお願い(再委託)することもあり得ます。

もっとも、情報セキュリティの観点から、ユーザが再委託を禁止していたり、再委託にあたって条件を設けていたりする場合があります。そのため、モデル契約書では、ユーザの都合を無視して勝手にベンダが再委託をしないよう、「ユーザが書面によって事前に承認した場合」に限って再委託できるように定めています。

(7)本契約の変更

    第10条(本契約の変更)

    1.本契約の変更は、当該変更内容につき事前にユーザおよびベンダが協議の上、別途、書面により変更契約を締結することによってのみこれを行うことができる。

    2.ユーザおよびベンダは、本開発においては、両当事者が一旦合意した事項(開発対象、開発期間、開発費用等を含むが、これらに限られない。)が、事後的に変更される場合があることに鑑み、一方当事者より本契約の内容について、変更の協議の要請があったときは、速やかに協議に応じなければならない。

    3.変更協議においては、変更の対象、変更の可否、変更による代金・納期に対する影響等を検討し、変更を行うかについて両当事者とも誠実に協議する。

第10条は、契約書の変更手続に関して定めている条項です。

AI開発は、実際に開発を始めてみないとどのようなものが生成されるのか分からないという特徴を持っています。そのため、検証段階や、開発を始める前に想定していなかった事態が発生し、契約書の変更を余儀なくされることが多々あります。そういった際にどのように契約書を変更するか定めている条項だといえます。

モデル契約では、変更内容を書面にしなければ、変更できないことになっています(10条1項)。

(8)本件成果物の提供および業務終了の確認

    第11条(本件成果物の提供および業務終了の確認)

    1.ベンダは、別紙「業務内容の詳細」の「業務の完了」に記載した成果物提供期限までに、ユーザに本件成果物を提供する。

    2.ユーザは、別紙「業務内容の詳細」の「業務の完了」に記載した確認期間(以下「確認期間」という。)内に、本件成果物の提供を受けたことを確認し、ベンダ所定の確認書に記名押印または署名の上、ベンダに交付するものとする。

    3.前項の定めに従い、ユーザがベンダに確認書を交付した時に、ユーザの確認が完了したものとする。ただし、確認期間内に、ユーザから書面で具体的な理由を明示して異議を述べないときは、確認書の交付がなくとも、当該期間の満了時に確認が完了したものとする。

第11条は、ベンダが何をすれば業務終了となるか定めた条項です。

第7条(ベンダの義務)でも確認したとおり、ベンダは完成義務を負わないことから、ユーザから依頼された物を完成させること=業務終了と捉えることはできません。そのため、何をすれば業務終了となるのか、明確に定めておくことが必要になります。

モデル契約では、別紙記載の提供期限までに、ベンダは成果物である学習済みモデルを提供(11条1項)し、ユーザによる確認を受けることで業務終了(11条3項)となります。

なお、ユーザが確認書を送付することを失念し、確認期間内に確認書が交付されないことは多々あります。このような場合に備えて、第11条3項のように、確認書が交付されない場合も自動的に業務が終了することを定めるようにしましょう。

(9)ユーザがベンダに提供するデータ・資料等(ポイント③)(★)

    第12条(ユーザがベンダに提供するデータ・資料等)

    1.ユーザは、ベンダに対し、別紙「業務内容の詳細」の「本データの明細」のうち「ユーザが提供するデータの明細」に記載されているデータ(以下「ユーザ提供データ」という。)を同別紙の条件に従い、提供するものとする。

    2.ユーザは、ベンダに対し、本開発に合理的に必要なものとしてベンダが要求し、ユーザが合意した資料、機器、設備等(以下「資料等」という。)の提供、開示、貸与等(以下「提供等」という。)を行うものとする。

    3.ユーザは、ベンダに対し、ユーザ提供データおよび資料等(以下まとめて「ユーザ提供データ等」という。)をベンダに提供等することについて、正当な権限があることおよびかかる提供等が法令に違反するものではないことを保証する。

    4.ユーザは、ユーザ提供データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について保証しない。ただし、本契約に別段の定めがある場合はその限りでない。

    5.ユーザがベンダに対し提供等を行ったユーザ提供データ等の内容に誤りがあった場合、またはかかる提供等を遅延した場合、これらの誤りまたは遅延によって生じた完成時期の遅延、瑕疵(法律上の瑕疵を含む。)等の結果について、ベンダは責任を負わない。

    6.ベンダは、ユーザ提供データ等の正確性、完全性、有効性、有用性、安全性等について、確認、検証の義務その他の責任を負うものではない。

第12条は、ユーザからベンダに提供されたデータ・資料などから生じた責任について定めています。提供されるデータとしては、学習用のデータ(生データ)やその関連資料などが想定されます。

ベンダは、ユーザからどのようなデータの提供を受けるかコントロールできません。

たとえば、提供された大量のデータの中に、本来ベンダに開示してはいけない秘密情報が含まれていても、それに気付くことができない可能性があります。

そのため、開示する権限があること・法令に違反していないことについては、ユーザが保証し、責任を負うことになっています(第12条3項)。

一方で、提供したデータそのものの正確性などについては、ユーザは責任を負わないことになっています(12条4項)。そのため、データが誤っていたり、欠けていたり、不足していたりしても、ユーザは責任を負いません。

なお、ユーザが責任を負わないこととのバランスを取るために、ユーザが責任を負わなかったこと(データの正確性など)が原因で、学習済みモデル生成に遅延が発生したり生成された学習済みモデルに不具合が生じてもベンダは責任を負わないことになっています(12条5項)。また、ベンダは提供されたデータの正確性についても確認する義務を負わないことになっています(12条6項)。

(10)ユーザ提供データの利用・管理(ポイント④)(★)

    第13条(ユーザ提供データの利用・管理)

    1.ベンダは、ユーザ提供データを、善良な管理者の注意をもって管理、保管するものとし、ユーザの事前の書面による承諾を得ずに、第三者(第9条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならないものとする。

    2.ベンダは、事前にユーザから書面による承諾を得ずに、ユーザ提供データについて本開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。ただし、別紙に別段の定めがある場合はこの限りではない。

    3.ベンダは、ユーザ提供データを、本開発遂行のために知る必要のある自己の役員および従業員に限り開示するものとし、この場合、本条に基づきベンダが負担する義務と同等の義務を、開示を受けた当該役員および従業員に退職後も含め課すものとする。

    4.べンダは、ユーザ提供データのうち、法令の定めに基づき開示すべき情報を、可能な限り事前にユーザに通知した上で、当該法令の定めに基づく開示先に対し開示することができるものとする。

    5.本件業務が完了し、もしくは本契約が終了した場合またはユーザの指示があった場合、ベンダは、ユーザの指示に従って、ユーザ提供データ(複製物および改変物を含む。)が記録された媒体を破棄もしくはユーザに返還し、また、ベンダが管理する一切の電磁的記録媒体から削除するものとする。ただし、本条第2項での利用に必要な範囲では、ベンダはユーザ提供データ(複製物および改変物を含む。)を保存することができる。なお、ユーザはベンダに対し、ユーザ提供データの破棄または削除について、証明する文書の提出を求めることができる。

    6.ベンダは、本契約に別段の定めがある場合を除き、ユーザ提供データの提供等により、ユーザの知的財産権を譲渡、移転、利用許諾するものでないことを確認する。

    7.本条の規定は、前項を除き、本契約が終了した日より●年間有効に存続するものとする。

第13条は、ベンダがユーザから提供されたデータの利用・管理に関するルールを定めた条項です。

ここでのポイントは、次の3点です。

  1. 本条の対象
  2. ユーザ提供データの利用目的(13条2項)
  3. 破棄または削除を証明する文書(13条5項)

①本条の対象

第13条の対象は、「ユーザ提供データ」ではなく、「ユーザ提供データ」のみとしています。そのため、ユーザ提供データに含まれない「資料等」については、第14条(秘密情報の取扱い)で、保護されることになります。

また、ユーザ提供データを利用して生成された学習用データセットや、学習済みモデルの利用・管理については、第18条(本件成果物等の利用条件)で定められています。

どの条項で何が定められているかしっかりと区別することが重要です。

②ユーザ提供データの利用目的

ベンダは、原則として、ユーザ提供データを、ユーザが依頼したAI開発にのみ利用できます。(13条2項本文)

もっとも、AI開発では、学習用のデータの量や質が学習済みモデルの性能に大きな影響を与えることから、ベンダにとっては、ユーザ提供データを他のAI開発にも流用(目的外利用)したいと考えることが普通です。

そのため、第13条2項ただし書きにあるように、「別紙」に定めることにより、目的外利用が可能となっています。

ベンダが目的外利用をしたい場合は、ユーザとよく協議し、別紙に定めることが重要です。

③破棄または削除を証明する文書

ベンダから「ユーザ提供データは破棄した」と口頭で言われても実際に破棄したかどうか、ユーザにはわかりません。そのため、ベンダに破棄したことを保証してもらうために、必要に応じて破棄または削除を証明する文書の提出を求めることができるようになっています。

※破棄に関する証明書のひな形は、こちらからダウンロードしてご利用ください。

【ひな形・テンプレート】破棄証明書

(11)秘密情報の取扱い

    第14条(秘密情報の取扱い)

    1.ユーザおよびベンダは、本開発遂行のため、相手方より提供を受けた技術上または営業上その他業務上の情報(ただし、ユーザ提供データを除く。)のうち、次のいずれかに該当する情報(以下「秘密情報」という。)を秘密として保持し、秘密情報の開示者の事前の書面による承諾を得ずに、第三者(本契約第9条に基づく委託先を除く。)に開示、提供または漏えいしてはならないものとする。

    ①開示者が書面により秘密である旨指定して開示した情報

    ②開示者が口頭により秘密である旨を示して開示した情報で開示後●日以内に書面により内容を特定した情報。なお、口頭により秘密である旨を示した開示した日から●日が経過する日または開示者が秘密情報として取り扱わない旨を書面で通知した日のいずれか早い日までは当該情報を秘密情報として取り扱う。

    [③学習用データセット]

    [④本学習済みモデル]

    [⑤再利用モデル]

    2.前項の定めにかかわらず、次の各号のいずれか一つに該当する情報については、秘密情報に該当しない。

    ①開示者から開示された時点で既に公知となっていたもの

    ②開示者から開示された後で、受領者の帰責事由によらずに公知となったもの

    ③正当な権限を有する第三者から秘密保持義務を負わずに適法に開示されたもの

    ④開示者から開示された時点で、既に適法に保有していたもの

    ⑤開示者から開示された情報を使用することなく独自に開発したもの

    3.ユーザおよびベンダは、秘密情報について、本契約に別段の定めがある場合を除き、事前に開示者から書面による承諾を得ずに、本開発遂行の目的以外の目的で使用、複製および改変してはならず、本開発遂行の目的に合理的に必要となる範囲でのみ、使用、複製および改変できるものとする。

    4.秘密情報の取扱いについては、前条第3項から第6項の規定を準用する。この場合、同条項中の「ユーザ提供データ」は「秘密情報」と、「ベンダ」は「秘密情報の受領者」と、「ユーザ」は「開示者」と読み替えるものとする。

    5.本条の規定は本契約が終了した日より●年間有効に存続するものとする。

第14条は、ユーザ提供データを除いて相手方より提供を受けた技術上または営業上その他業務上の情報の取り扱いに関するルールについて定めた条項です。

ここでのポイントは、次の2点です。

  1. 秘密情報の対象
  2. 不正競争防止法との関係

①秘密情報の対象

AI開発においては、学習用データセットや学習済みモデル、追加学習後の再利用モデルなど様々なものが生成されるため、何を秘密情報の対象とするのかが問題となります。

秘密情報の対象とすることで、勝手に第三者に情報を提供・開示しないこと、情報が漏えいしないよう適切に管理することを相手方(情報の受領者)に約束してもらうことになります。

第14条1項に定めることで、必要に応じて学習用データセットや学習済みモデル、再利用モデルを秘密情報の対象とすることも可能です。

ユーザとベンダで何を秘密情報の対象とするか、きちんと話し合うことが重要です。

なお、学習用データセットなどを秘密情報とする場合、【③ 学習用データセット】の【】を削除してください。

一方で、秘密情報でなくてもよいということであれば、【③ 学習用データセット】そのものを削除してかまいません。

②不正競争防止法との関係

不正競争防止法」とは、適正な競争を確保し、公正な市場を確保することを目的として、適正な競争を害するような「営業秘密」の持ち出しや漏えいなどを禁止している法律です。

営業秘密」とは一般に知られておらず、「秘密」として管理されており、営業上・技術上価値のある情報のことをいいます。

「営業秘密」=「秘密情報」というわけではありませんが、契約書上に「秘密情報」として定めることによって、万が一トラブルとなった際にも、「秘密」として管理されていたことを証明しやすくなるというメリットがあります。

そのため、学習用データセットや学習済みモデル、再利用モデルを「営業秘密」としたい場合、あらかじめ「秘密情報」と定めることが有効です。

(12)個人情報の取り扱い

    第15条(個人情報の取り扱い)

    1.ユーザは、本開発の遂行に際して、個人情報の保護に関する法律(本条において、以下「法」という。)に定める個人情報または匿名加工情報(以下、総称して「個人情報等」という。)を含んだデータをベンダに提供する場合には、事前にその旨を明示する。

    2.本開発の遂行に際してユーザが個人情報等を含んだデータをベンダに提供する場合には、法に定められている手続を履践していることを保証するものとする。

    3.ベンダは、第1項に従って個人情報等が提供される場合には、法を遵守し、個人情報等の管理に必要な措置を講ずるものとする。

ここでは、個人情報保護法に従って、ユーザとベンダが適切に個人情報を取扱うことを定めています。

個人情報といえば「個人情報保護法」がすぐに思い浮かぶように、個人情報の取扱いについては、法が特別なルールを設けています。たとえば、ユーザがベンダに病歴を含むデータを提供する場合、ユーザは本人から同意を得るという手続きが必要になります。

このように、法が定めた手続きを行ったうえで、ユーザはベンダに個人情報を提供することになります。

ここでのポイントは、「プライバシーマーク」に配慮することです。

プライバシーマーク(Pマーク)制度」とは、個人情報保護法よりも厳しい条件を満たし、個人情報保護の体制や運用が適切な事業者に対して、Pマークと呼ばれるロゴマークを付与する制度です。社会的信用を高めるためにPマークを取得している事業者も多いのではないでしょうか。もし、ユーザやベンダのどちらかがPマークを取得している場合はPマークにも配慮した契約書としなければいけません。

このPマークとの関係で特に注意しなければいけないのは、個人情報の定義です。

個人情報保護法の「個人情報」は「生存」する個人に限る一方で、Pマークの「個人情報」はこのような「生存」する個人に限定していません。Pマークの個人情報の定義のほうが範囲が広くなっているといえます。

そのため、第15条1項のように「個人情報」を個人情報保護法の定義のとおりとすると

Pマークの定義に合致していないことになります。

Pマークの定義どおりとするためには、以下のように4項を追加する修正が考えられます。

    【修正案】

    4.ユーザおよびベンダは、法にJIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム ― 要求事項)と異なる定めがある場合は、JIS Q 15001の定めを優先し、その定めに従うものとする。

(13)知的財産権について(ポイント⑤)(★)

知的財産権」とは、知的な創造活動の成果について、その創作者に一定期間の保護を与える権利のことをいいます。

知的財産権については、ユーザもベンダも権利を欲しがり、対立する傾向にあります。

そのため、契約書では、

  1. 発生した権利を誰のものとするのか(権利帰属
  2. 誰がどのように利用できるのか(利用条件

を明確に定める必要があります。

知的財産権には、著作権、特許権、実用新案権、意匠権、商標権といった様々な権利がありますが、AI開発においては、「著作権」が最も問題となり、その次に「特許権」が問題となります。これは、AI開発において「著作権」が発生する可能性が最も高く、次いで「特許権」の発生可能性が高いからです。

そのため、モデル契約では、

  • 第16条:著作権の権利帰属
  • 第17条:著作権以外の知的財産権の権利帰属
  • 第18条:利用条件

と条項をわけて定めています。

(14)本件成果物等の著作権(ポイント⑥)(★)

    第16条(本件成果物等の著作権)

    【A案】ベンダに著作権を帰属させる場合

    1.本件成果物および本開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、ユーザまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダに帰属する。

    2.ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。

    【B案】ユーザに著作権を帰属させる場合

    1.本件成果物および本開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ユーザに帰属する。なお、かかるベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。

    2.ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。

    【C案】ユーザ・ベンダの共有とする場合

    1.本件成果物および本開発遂行に伴い生じた知的財産(以下「本件成果物等」という。)に関する著作権(著作権法第27条および第28条の権利を含む。)は、ユーザのベンダに対する委託料の支払いが完了した時点で、ユーザ、ベンダまたは第三者が従前から保有していた著作物の著作権を除き、ベンダおよびユーザの共有(持分均等)とする。なお、ベンダからユーザへの著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。

    2.前項の場合、ユーザおよびベンダは、共有にかかる著作権につき、本契約に別に定めるところに従い、前項の共有にかかる著作権の行使についての法律上必要とされる共有者の合意を、あらかじめこの契約により与えられるものとし、相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら利用することができるものとする。

    3.ユーザ及びベンダは、相手方の同意を得なければ、第1項所定の著作権の共有持分を処分することはできないものとする。

    4.ユーザおよびベンダは、本契約に従った本件成果物等の利用について、他の当事者および正当に権利を取得または承継した第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとする。

第16条は、著作権の権利帰属について定めた条項です。

著作権」とは、思想や感情を独創的に表現したコンテンツ(=著作物)を、独占的に利用できる権利のことをいいます。たとえば、著作権は小説、絵画、音楽、プログラムなどに認められます。そして、著作権は、コンテンツ作成者に認められ、著作権を持つ者は著作権者と呼ばれます。

ここでのポイントは、次の4点です。

  1. A案・B案・C案の違いと共通点
  2. AI開発で発生する可能性のある著作権
  3. どの案を選択すべきか
  4. ユーザ・ベンダの共有とした場合の注意点

①A案・B案・C案の違いと共通点

A案・B案・C案の違いはAI開発に際し新たに発生した著作権を誰に帰属させるかという点です。A案は、ベンダに全ての著作権を帰属させる場合、B案は、ユーザに全ての著作権を帰属させる場合、C案は、ユーザ・ベンダで著作権を共有する場合を想定しています。

一方で、A案・B案・C案は、ユーザ・ベンダ・その他第三者のそれぞれがAI開発開始以前から保有していた著作権についてそのまま移転せず、留保される点で共通しています。

②AI開発で発生する可能性のある著作権

AI開発の過程では、主に学習用データセット、学習用プログラムが生成され、成果物としては、学習済みモデルが生成されます。

学習用データセットは、それぞれのデータに独創性がなく、著作権が認められない場合にも、生データの取捨選択を行い体系的な構成で整理した学習用データセットそのものが「データベースの著作物」となる可能性があります。

また、学習用プログラムや学習済みモデルのプログラム部分は、「プログラムの著作物」として著作権法の保護を受けることができる可能性があります。

③どの案を選択すべきか

どの案を選択すべきか判断するにあたっては、

  • ユーザが著作権を得て実現したいことは何か?
  • ベンダが著作権を得て実現したいことは何か?

を明確にすることが重要となってきます。

著作権が何かわからないが、とりあえず権利と名の付くものは全て手に入れておきたいという理由であれば、権利を認める必要はないといえます。

ユーザ・ベンダの双方の「実現したいこと」を踏まえると、多くの場合、思っていたとおりの利用さえできればかまわないという結論に達すると考えられます。

そのため、著作権を得られなかった側も著作物を思っていたとおりに利用できるように利用条件を定めることが考えられます。そして、利用条件については、第18条(本件青果物等の利用条件)で定めています。

以上から、第16条でどの案を選択するかは、第18条の利用条件も含めて検討する必要があります。

④ユーザ・ベンダの共有とした場合の注意点

共同著作物とした場合、原則として著作権者であっても他の共有者の合意がなければ、著作権を行使することはできません。そのため、C案2項がなければ、他の共有者の合意が必要であることに注意が必要です。

また、C案3項のように著作権の処分に関しては、合意を必要とするように場合分けも可能となっています。

なお、C案2項にあるとおり、他の共有者の合意と対価の支払が不要なのは、自己実施(自ら利用すること)に限られていることにも注意が必要です。

自ら利用せず、第三者に利用させる場合には、原則どおり、他の共有者からの合意と、場合によっては対価の支払が必要になることにご注意ください。

(15)本件成果物等の特許権等(ポイント⑦)(★)

    第17条(本件成果物等の特許権等)

    1.本件成果物等にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。以下「特許権等」という。)は、本件成果物等を創出した者が属する当事者に帰属するものとする。

    2.ユーザおよびベンダが共同で創出した本件成果物等に関する特許権等については、ユーザおよびベンダの共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、ユーザおよびベンダは、共有にかかる特許権等につき、本契約に定めるところに従い、それぞれ相手方の同意なしに、かつ、相手方に対する対価の支払いの義務を負うことなく、自ら実施することができるものとする。

    3.ユーザおよびベンダは、前項に基づき相手方と共有する特許権等について、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践するものとする。

第17条は、著作権を除いた知的財産権(主に特許)に関して定めた条項です。

特許」とは、自然法則を用いて新たに生み出された高度なアイデア(発明)を保護する制度です。「特許権」を得ることで、発明者は、法が定める一定期間、独占的に、新たに生み出された発明を利用した製品の生産、販売、発明の使用、譲渡および輸出入等の行為を行うことができるようになります。

そして、「特許権」が発明者に帰属することを「発明者主義」といいます。

繰り返しとなりますが、知的財産権には、著作権や特許権以外にも商標権など様々な権利がありますが、AI開発においては、まず著作権が、次いで特許権が発生しやすいといえます。そのため、第16条において著作権について定めている以上、第17条におけるメインテーマは特許権に関してとなります。

ここでのポイントは、次の2点です。

  1. AI開発で発生する可能性のある特許権
  2. 両者協議で決定するという別案

①AI開発で発生する可能性のある特許権

AI開発の過程では、主に学習用データセット、学習用プログラムが生成され、成果物としては、学習済みモデルが生成されます。

学習用データセットは、単なる情報の集合にすぎず、自然法則を用いた新たに生み出された高度なアイデア(発明)とはいえないため、特許権が認めらる可能性は低いといえます。

一方で、学習用プログラムや学習済みモデルのプログラム部分は、「プログラムの発明(物の発明)」として、特許権が認められる可能性があります。

②両者協議で決定するという別案

第17条では、1項にあるとおり、原則「発明者主義」を採用しており、共同で発明した場合に限り、貢献度に応じてユーザ・ベンダの共有としています。

もっとも、共同発明を共有とした場合、利益を得るために他社にライセンスを設定したいケースや、経営悪化に伴い権利を譲渡したいケースにおいて他の共有者の同意が必要となってしまいます。

そのため、共同で発明した場合は、ユーザ・ベンダの両者協議のうえ、権利帰属と利用条件を決めるとする定めに修正することが考えられます。具体的な別案は以下のとおりとなります。

    【共同発明等にかかる特許権等の権利帰属を協議の上定める場合】

    1.本検証遂行の過程で生じた発明その他の知的財産(以下あわせて「発明等」という。)にかかる特許権その他の知的財産権(ただし、著作権は除く。)(以下、特許権その他の知的財産権を総称して「特許権等」という。)は、当該発明等を創出した者が属する当事者に帰属するものとする。

    2.ユーザおよびベンダが共同で行った発明等にかかる特許権等の、権利帰属その他の取扱いについては、両者間で協議の上決定するものとする。

    3.ユーザおよびベンダは、前項に基づき相手方と共有する特許権等について、必要となる職務発明の取得手続(職務発明規定の整備等の職務発明制度の適切な運用、譲渡手続等)を履践するものとする。

出典:「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」96項(平成30年6月・経済産業省)

(16)本件成果物等の利用条件(ポイント⑧)(★)

    第18条(本件成果物等の利用条件)

    【A案】原則型

    ユーザおよびベンダは、本件成果物等について、別紙「利用条件一覧表」記載のとおりの条件で利用できるものとする。同別紙の内容と本契約の内容との間に矛盾がある場合には同別紙の内容が優先するものとする。

    【B案】ベンダ著作権帰属型(16条A案)の場合のシンプルな規定

    ベンダは、本件成果物等を利用でき、ユーザは、本件成果物をユーザ自身の業務のためにのみ利用できる。

    【C案】ユーザ著作権帰属型(16条B案)の場合のシンプルな規定

    ユーザは、本件成果物等を利用でき、ベンダは、本件成果物等を本開発遂行のためにのみ利用できる。

第18条は、本件成果物等についての利用条件に関して定めた条項です。

本件成果物等」には、学習済みモデル、学習用データセット、学習済みパラメータ、ノウハウなど様々なものがあります。

ここでのポイントは次の4点です。

  1. どの案を選択すべきか
  2. A案の特徴
  3. B案の特徴
  4. C案の特徴

①どの案を選択すべきか

第16条(本件成果物等の著作権)でも解説したとおり、第18条の利用条件は、ユーザ・ベンダがそれぞれ実現したいことを踏まえ定める必要があります。

次の項目では、第16条も踏まえてどの案を選択すべきか、第18条の各案の特徴を説明していきます。

②A案の特徴

A案は、利用条件を詳細に定めたり、各成果物ごとに利用条件を定めたりする場合の案です。第16条(本件成果物等の著作権)でC案を選択した場合、著作権については共有することになります。その場合、権利関係が複雑になるため、第18条ではA案を選択することが適切です。

たとえば、別紙に定める場合は、次のように一覧として定める方法があります。

利用条件一覧表

なお、上記一覧よりもさらに細かく利用条件を設定する場合は、別途ライセンス契約と呼ばれる契約を締結することも考えられます。その場合は以下のように定めることが考えられます。

    【別途ライセンス契約を締結する場合の案】

    ユーザおよびベンダは、本件成果物等について、ユーザとベンダの間で別途締結する「ライセンス契約」記載のとおりの条件で利用できるものとする。ライセンス契約の内容と本契約の内容との間に矛盾がある場合にはライセンス契約の内容が優先するものとする。

③B案の特徴

B案は、ベンダに著作権が帰属することを前提としています。そのため、第18条B案は第16条でA案を選択した場合における定め方の一例です。

B案ではベンダに著作権が帰属しているため、ベンダは特段の条件なく本件成果物等を利用することができます。一方ユーザは、本件成果物をユーザ自身の業務のためだけに利用できます。ベンダが本件成果物」となっていることに対して、ユーザーは本件成果物となっていることからもわかるとおり、ユーザーが利用できるのは学習済みモデルのみとなります。

たとえば、ユーザが社内でベンダに開発してもらったAIを利用する場合に適しています。

④C案の特徴

C案は、ユーザに著作権が帰属することを前提としています。そのため、第18条C案は第16条でB案を選択した場合における定め方の一例です。

C案ではベンダに著作権が帰属しているため、ユーザは、特段の条件なく、本件成果物等を利用でき、ベンダは、ユーザから依頼されたAI開発にのみ本件成果物等を利用できます。ユーザもベンダも本件成果物「等」を利用できることとしているのは、ベンダは本件成果物である学習済みモデルに含まれないノウハウ等をAI開発に利用できなければ、開発業務に支障がでてしまうからです。

C案は、たとえば、ユーザ側として、学習済みモデルなどの本件成果物等をライバル会社からの依頼に応じて流用して欲しくない場合などに適した定めです。

(17)リバースエンジニアリングおよび再利用等の生成の禁止

    第19条(リバースエンジニアリングおよび再利用等の生成の禁止)

    【ユーザ/ベンダ】は、本契約に別段の定めがある場合を除き、本件成果物について、次の各号の行為を行ってはならない。

    ①リバースエンジニアリング、逆コンパイル、逆アセンブルその他の方法でソースコードを抽出する行為

    [②再利用モデルを生成する行為]

    [③学習済みモデルへの入力データと、学習済みモデルから出力されたデータを組み合わせて学習済みモデルを生成する行為]

    [④その他前各号に準じる行為]

第19条は、本件成果物である学習済みモデルに対する禁止事項を定めた条項です。

誰に対する禁止事項なのか、何を禁止事項とするか明確にすることが必要です。

モデル契約書では、リバースエンジニアリングを禁止事項としており、他にも必要に応じて再利用モデルの生成などといった禁止事項を追加することが可能です。

(18)本件成果物等の使用等に関する責任

    第20条(本件成果物等の使用等に関する責任)

    ユーザによる本件成果物等の使用、複製および改変、並びに当該、複製および改変等により生じた生成物の使用(以下「本件成果物等の使用等」という。)は、ユーザの負担と責任により行われるものとする。ベンダはユーザに対して、本契約で別段の定めがある場合またはベンダの責に帰すべき事由がある場合を除いて、ユーザによる本件成果物等の使用等によりユーザに生じた損害を賠償する責任を負わない。

第20条は、本件成果物である学習済みモデルの使用については、原則としてユーザが責任をもつように定めた条項です。

このように、ユーザが責任をもつのは、どのようなデータを学習済みモデルに入力するのか、学習済みモデルが出力したデータをどのように取扱うのかはユーザ次第だからです。

なお、全ての場合でベンダが責任を負わないわけではありません。

本契約で別段の定めがある場合」や「ベンダの責に帰すべき事由がある場合」には、例外的にベンダが責任を負うことになっています。

「本契約で別段の定めがある場合」とは、具体的には、第21条(知的財産権侵害の責任)のような場合をいいます。

(19)知的財産権侵害の責任(ポイント⑨)(★)

    第21条(知的財産権侵害の責任)

    【A-1案】ベンダが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ユーザ主導)

    1.本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の知的財産権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第22条(損害賠償)第2項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、知的財産権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、ベンダは責任を負わないものとする。

    2.ユーザは、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベンダは、ユーザの要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。

    【A-2案】ベンダが知的財産権非侵害の保証を行う場合(ベンダ主導)

    1.ユーザが本件成果物等の使用等に関し第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合、次の各号所定のすべての要件が充たされる場合に限り、第22条(損害賠償)の規定にかかわらずベンダはかかる申立によってユーザが支払うべきとされた損害賠償額及び合理的な弁護士費用を負担するものとする。ただし、第三者からの申立がユーザの帰責事由による場合にはこの限りではなく、ベンダは一切責任を負わないものとする。

    ①ユーザが第三者から申立を受けた日から●日以内に、ベンダに対し申立の事実及び内容を通知すること

    ②ユーザが第三者との交渉又は訴訟の遂行に関し、ベンダに対して実質的な参加の機会およびすべてについての決定権限を与え、ならびに必要な援助をすること

    ③ユーザの敗訴判決が確定すること又はベンダが訴訟遂行以外の決定を行ったときは和解などにより確定的に解決すること

    2.ベンダの責に帰すべき事由による知的財産権の侵害を理由として本件成果物等の将来に向けての使用が不可能となるおそれがある場合、ベンダは、ベンダの判断及び費用負担により、(ⅰ)権利侵害のないものとの交換、(ⅱ)権利侵害している部分の変更、(ⅲ)継続使用のための権利取得のいずれかの措置を講じることができるものとする。

    3.第1項に基づきベンダが負担することとなる損害以外のユーザに生じた損害については、第22条(損害賠償)の規定によるものとする。

    【B案】ベンダが知的財産権非侵害(著作権を除く)の保証を行わない場合

    1.本件成果物等の使用等によって、ユーザが第三者の著作権を侵害したときは、ベンダはユーザに対し、第22条(損害賠償)第2項所定の金額を限度として、かかる侵害によりユーザに生じた損害(侵害回避のための代替プログラムへの移行を行う場合の費用を含む。)を賠償する。ただし、著作権の侵害がユーザの責に帰する場合はこの限りではなく、ベンダは責任を負わないものとする。

    2.ベンダはユーザに対して、本件成果物等の使用等が第三者の知的財産権(ただし、著作権を除く)を侵害しない旨の保証を行わない。

    3.ユーザは、本件成果物等の使用等に関して、第三者から知的財産権の侵害の申立を受けた場合には、直ちにその旨をベンダに通知するものとし、ベンダは、ユーザの要請に応じてユーザの防御のために必要な援助を行うものとする。

第21条は、ユーザが本件成果物である学習済みモデルを使用等したことによって、第三者の知的財産権の侵害をした場合の条項です。

ここでのポイントは、次の2点です。

  1. A-1案・A-2案・B案の違い
  2. B案で著作権のみ保証している理由
  3. どの案を選択すべきか

①A-1案・A-2案・B案の違い

A-1案・A-2案とB案の大きな違いは、A-1案・A-2案はベンダが知的財産権を侵害していないことを保証している一方で、B案は著作権を侵害していないことのみ保証している点です。

そして、A-1案・A-2案の違いは、誰が主導で知的財産権の侵害を解決するかです。

A-1案では、ユーザが主導して解決し、A-2案では、ベンダが主導して解決することになります。

②B案で著作権のみ保証している理由

B案において、著作権のみ保証としているのは、著作権侵害には「依拠性」が必要とされて、ベンダ側で著作権の非侵害を確認しやすいからです。

依拠性」とは、既にある著作物をパクって著作物を生み出すことをいいます。

つまり、たまたま著作物が一致した場合には、著作権侵害とはならないことになります。

そのため、ベンダとしても、何かを基にしてプログラムを作成するなどパクリをしなければ、自ずと著作権を侵害していないことを保証しやすいといえます。

③どの案を選択すべきか

どの案を選択するか判断する際には、

  • ユーザが費用を負担してまでベンダに非侵害の調査を依頼するか
  • ベンダは侵害の有無を調査するキャパシティがあるのか
  • ユーザとベンダのどちらに知的財産関係の問題解決能力があるのか

といった点がポイントです。

もちろん、非侵害の調査もタダではありません。海外も含めて非侵害を確認する場合、多額の費用が必要となると考えられます。ベンダとしては、そういった費用を負担してまで非侵害を保証してもらうのか検討が必要となります。

また、ユーザが非侵害の調査を希望しても、ベンダ側のキャパシティの問題で非侵害の調査ができない場合があります。無理に調査を含めた結果、開発が遅延しては本末転倒です。

このように費用負担やベンダ側のキャパシティについてもユーザとベンダできちんと協議し非侵害の保証をベンダが行うのか決定することが重要だといえます。

仮にベンダが非侵害を保証する場合、次に、ユーザとベンダのどちらが主導で問題解決をするか(A-1案・A-2案のどちらを選択するか)が問題となります。

この点、ユーザとベンダのどちらに知的財産関係の問題解決能力があるのかがポイントです。

たとえば、ベンダがスタートアップやベンチャーといったようにできたばかりの会社で、顧問弁護士がいない、知的財産を調査する担当者がいない、法務もいない、といった状況では、問題解決を行うのは難しいですよね。そのため、ユーザとベンダのうち問題解決能力があると考えられる者が主導で問題解決にあたるように契約書には定めるべきだと考えられます。

(20)損害賠償

    第22条(損害賠償)

    1.ユーザおよびベンダは、本契約の履行に関し、相手方の責めに帰すべき事由により損害を被った場合、相手方に対して、損害賠償(ただし直接かつ現実に生じた通常の損害に限る。)を請求することができる。ただし、この請求は、業務の終了確認日から●か月が経過した後は行うことができない。

    2.ベンダがユーザに対して負担する損害賠償は、債務不履行、法律上の瑕疵担保責任、知的財産権の侵害、不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、本契約の委託料を限度とする。

    3.前項は、損害が損害賠償義務者の故意または重大な過失に基づくものである場合には適用しないものとする。

第22条は、契約の履行に際し損害が発生した場合の賠償について定める条項です。

契約書で損害賠償について定める場合は、

  1. 賠償の範囲
  2. 賠償額の上限
  3. 請求可能な期間

に関して、ユーザとベンダで調整することがポイントです。

モデル契約書では、損害が発生した場合は相手方に直接かつ現実に発生した通常の損害の範囲で賠償(22条1項)し、原因がなんであろうと賠償額の上限は委託料を限度としています(22条2項)。請求可能な期間については、具体的な期間は定められていません(22条1項ただし書)

①賠償の範囲

賠償の範囲を限定する場合、「直接かつ現実に発生した通常の損害」とするのは一般的で、このまま文言を流用しても問題ありません。

ここでいう「直接」とは、間接的に発生した損害や二次的な損害を含まないということをいいます。

そして、「現実に生じた」とは、実際に金銭的損害が発生したことをいいます。そのため、手に入っていたであろう金銭を得られなかった(逸失利益があった)としても、賠償の範囲に含まないことになります。

通常の損害」とは、誰もがそれが原因で損害が発生することが当然だといえる範囲に限定することをいいます。

損害を賠償する可能性は、ユーザよりも学習済みモデルを開発するベンダのほうが高いといえます。そのため、ユーザ側としてはできる限り賠償の範囲は広げたい、ベンダ側としてはできる限り賠償の範囲は狭めたいと考えるのは当然です。

ベンダ側としては賠償範囲を「直接かつ現実に発生した通常の損害」とできれば理想です。

もっとも、ユーザ側が「直接かつ現実に発生した通常の損害」の範囲への修正を拒み、契約締結できない場合はどうすべきでしょうか。ベンダ側としては、賠償範囲を民法が定める賠償範囲(民法416条)へと修正する案を提案することが有効です。民法が定める賠償範囲は「直接かつ現実に発生した通常の損害」よりも広くなりますが、ユーザ・ベンダにとって、お互いが譲歩しやすい内容で断る理由がないからです。

②賠償額の上限

賠償額に上限を設けるのは、バランスを取るためです。

たとえば、1億の仕事を依頼されたのに、100億の賠償を請求されては困りますよね。そのため、このように賠償額に上限を設けているのです。

上限をモデル契約書のように、「委託額」という抽象的な定め方ではなく、具体的な金額とすることも考えられます。

なお、第22条3項にあるとおり、故意(わざと)・重過失(わざとやったといえるほどのうっかり)が原因で損害が発生した場合は上限が撤廃される点には注意してください。

③請求可能な期間

請求可能な期間はユーザとしてはできる限り長く、ベンダとしてはできる限り短くが理想です。

たとえば、ユーザとしては、学習済みモデルの使用中にベンダが原因の不具合が見つかった場合にも損害賠償の請求できるようにしたい一方で、ベンダとしては、開発から期間が経ち忘れた頃に賠償請求をされても困りますよね。

そのため、学習済みモデルの利用をとおして不具合の有無を確認できる長さとする案が考えられます。

このような期間とすることで、ベンダとしては長すぎず、ユーザとしても短すぎない期間とすることができます。

(21)OSSの利用

    第23条(OSSの利用)

    1.ベンダは、本開発遂行の過程において、本件成果物を構成する一部としてオープン・ソース・ソフトウェア(以下「OSS」という。)を利用しようとするときは、OSSの利用許諾条項、機能、脆弱性等に関して適切な情報を提供し、ユーザにOSSの利用を提案するものとする。

    2.ユーザは、前項所定のベンダの提案を自らの責任で検討・評価し、OSSの採否を決定する。

    3.本契約の他の条項にかかわらず、ベンダは、OSSに関して、著作権その他の権利の侵害がないことおよび瑕疵のないことを保証するものではなく、ベンダは、第1項所定のOSS利用の提案時に権利侵害または瑕疵の存在を知りながら、もしくは重大な過失により知らずに告げなかった場合を除き、何らの責任を負わないものとする。

第23条は、OSSを利用する際のルールについて定めた条項です。

OSSOpen Source Software)」とは、プログラムのソースコードが公に公開されているソフトウェアのことをいいます。「ソースコード」とは、人間の理解できるプログラミング言語で書かれたコンピュータに対する命令(プログラム)のことをいいます。

OSSを利用することで、ベンダは、作業時間を短縮し、開発を効率よく行うことができます。AI開発においても、OSSとして公開されているプログラムを使われることが多いです。たとえば、ChainerやTensorFlowといった機械学習のためのプログラムがOSSとして公開されています。

第23条では、ベンダではなく、ユーザがOSSを利用するか決定することになっています。なぜなら、生成された学習済みモデルを実際に利用するのは、ベンダではなくユーザだからです。そのため、ユーザはベンダからの提案をもとに、OSSの利用許諾条項に違反しないか?社内システムとの関係でOSSのかかえる脆弱性は問題ないか?といった事項を検討することになります。

6  小括

サマリー

ソフトウェア開発契約は、AI開発を依頼したユーザと、開発を依頼されたベンダにとって、最も重要な契約書です。契約書に必要事項を定めることで余計なトラブルを回避することができます。

もっとも、実際の取引内容や実態に合致していない契約を締結しても何の意味もありません。

そのため、以上で見てきた内容は、いずれも取引内容によって変わりうるものであることを理解し、個別のケースに応じて、ユーザとベンダで協議を重ねて、ソフトウェア開発契約書の内容をカスタマイズしていくことが必要であることに留意してください。

7 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のとおりです。

  • 「ソフトウェア開発契約書」とは、機械学習を用いて、ユーザが望んだ機能をもつソフトウェア(学習済みモデル)の生成・開発をベンダが行うための契約のことである
  • AI開発は「探索的段階型」の開発方式が最適である
  • ソフトウェア開発契約書は「開発」の段階で締結するのが最適である
    ※【ひな形の注意事項】

  • 本ひな形は、下記URL記載の経済産業省作成にかかる「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」内に掲載された「モデル契約」をもとに、枠線の削除、フォントの変更等を加えたものになります。
  • 出典:「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)」102項~129項(平成30年6月・経済産業省)
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