はじめに

税制適格ストックオプションの付与対象の範囲が、中小企業等経営強化法の改正により、拡大されました。このことにより、スタートアップ企業などは、社外の人材に対して、インセンティブを付与することが可能になりました。

とはいえ、企業であれば、税制適格ストックオプションを社外の人材に無制限に付与できるのでしょうか?

そのために、何らかの手続きを取らなければならないのか、また、クリアしなければならない条件があるのか、などといった疑問をお持ちの事業者も少なくないと思います。

そこで今回は、社外高度人材に税制適格ストックオプションを付与するための手続きを中心に、弁護士がわかりやすく解説します。

 

1 税制適格ストックオプションとは

Stockoption

税制適格ストックオプション」とは、企業が役員などに対し、労働対価として税制適格をみたす新株予約権を無償で付与するものをいいます。

権利行使時に課税がなされる通常のストックオプションとは異なり、税制適格ストックオプションでは、売却時点まで課税が繰り延べられることになります。

具体的には、株式の売却時における譲渡所得として、20.315%の税率で課税されることになります。

そのため、、税制適格ストックオプションを付与される役職員などは、通常のストックオプションに比べ、税制面で大きなメリットを受けられます。

もっとも、これまでの税制適格ストックオプションは、付与できる対象が以下の二者に限られていました。

  1. 自社やその子会社の役職員
  2. 株主

特に、この付与対象者の範囲などについては、従前から規制緩和を求める声が上がっていたこともあり、この点について、改正が行われ、税制適格ストックオプションを付与できる対象の範囲が拡大されたのです。

 

2 税制適格ストックオプションの付与対象の拡大

humanresources

これまでは、税制適格ストックオプションを付与できる対象が、自社とその子会社の役職員、株主に限られていましたが、改正により、「社外の高度人材」が付与対象者として追加されました。

このことにより、発行企業は、社外にいる優秀な人材を確保できることが可能になります。

もっとも、社外人材に対して、税制適格ストックオプションを付与するためには、主務大臣による認定を受ける必要があり、その認定を受けるためには、以下の3つの条件を満たしている必要があります。

  1. 発行企業が認定対象企業であること
  2. 付与対象者が社外高度人材であること
  3. 専門性と貢献内容の間に関連性があること

そして、主務大臣から認定を受けるためには、企業は「社外高度人材活用新事業分野開拓計画」を作成して、計画の認定申請をする必要があります。

社外高度人材活用新事業分野開拓計画」とは、一定の条件をみたす企業が、社外の高度な人材を使って、新事業の分野を開拓することを計画したものをいいます。

※税制適格ストックオプションを社外高度人材に付与するための条件について、詳しく知りたい方は、「「税制適格ストックオプション」とは?設計時に注意すべき4点を解説」をご覧ください。

 

3 制度を利用するためのフロー

flow

税制適格ストックオプションを社外高度人材に付与するには、以下の図のような手続きを踏む必要があります。

このように、主務大臣から認定を受けるには、

  1. 利用検討
  2. 計画策定
  3. 申請・認定
  4. 開始・実行

という手順を踏まなければなりません。

 

(1)利用検討

まずは、主務大臣から認定を受けるための条件をきちんと満たしているかを確認する必要があります。

具体的には、

  1. 認定対象企業の条件
  2. 社外高度人材の条件

以上2点を確認する必要があります。

 

(2)計画策定

社外高度人材活用新事業分野開拓計画を策定する必要があります。この計画は、契約する社外高度人材1名につき1つの計画を策定する必要があります。そのため、3名の社外高度人材と契約するには3つの計画を策定する必要があります。

具体的には、

  1. 会社の概要
  2. 社外高度人材を活用する新事業分野開拓の内容と目標
  3. 社外高度人材の有する知識・技能の内容と活用の態様
  4. 報酬として新株予約権を付与する場合は、そ内容
  5. 計画を実施するために必要な資金と調達方法

といった事項を申請書にまとめる必要があります。

 

(3)申請・認定

計画の認定申請時には、以下の書類を提出する必要があります。

  1. 申請書の原本とその写し
  2. 社外高度人材に対する業務委託契約書(写し)
  3. 社外高度人材が条件をみたすことを証する書類
  4. 社外高度人材が計画内容に異議がない旨の誓約書
  5. 社外高度人材に係る以下のいずれかの書類
    (ⅰ)住民票(写し)、住民票記載事項証明書
    (ⅱ)ⅰの書類に記載された氏名、生年月日及び住所が記載された以下のいずれかの書類(運転免許証、運転経歴証明書、旅券、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、在留カード、個人番号カード等)
  6. チェックシート
  7. 返信用封筒

認定を受けることができれば、計画認定書と計画申請書の写しが申請者に交付されます。

 

(4)開始・実行

認定が受けた計画に沿って、社外高度人材を活用した新事業分野開拓を行うことになります。

以上のように、社外高度人材活用新事業分野開拓計画の認定を受けるためには、その条件となっている事項を満たしているかどうかをきちんと確認したうえで、認定申請する必要があります。

また、申請時に提出することとされている書類についても、細かく多岐にわたって定められているため、不備がないかどうかをあらかじめきちんと確認したうえで、申請することが大切です。

※社外高度人材活用新事業分野開拓計画について詳しく知りたい方は、経産省が公表している「社外高度人材活用新事業分野開拓計画策定の手引き」をご覧ください。
※各書類の書式は、経産省のホームページからダウンロードできます。

 

4 申請方法

procedures

社外高度人材活用新事業分野開拓計画の認定申請書は、申請書を作成した企業の主たる事務所の所在地を管轄する経済産業局長に提出することとされています。

具体的には、

  • 北海道経済産業局
  • 東北経済産業局
  • 関東経済産業局
  • 中部経済産業局
  • 近畿経済産業局
  • 中国経済産業局
  • 四国経済産業局
  • 九州経済産業局
  • 沖縄総合事務局

のいずれかが申請先ということになります。

申請は、申請書類を窓口に持参するか、もしくは郵送によって行うことができます。申請書に不備がなければ、申請書の受理からおおよそ45日以内に認定されます。

最後の項目では、いったん計画の認定を受けた企業がその計画を変更しようとするときの手続きについて、簡単に見ていきたいと思います。

 

5 計画変更の認定申請

approval

いったん認定を受けた企業が、認定に係る計画を変更しようとするときは、その認定をした主務大臣から変更についての認定を受ける必要があります。

もっとも、少額の資金調達額の変更や、法人代表者の交代など、社外高度人材活用新事業分野開拓計画の趣旨を損なわない軽微な変更である場合は、計画変更の認定申請は不要となっています。計画変更の認定申請をする際には、以下の書類を提出する必要があります。

  1. 変更申請書の原本とその写し
  2. 社外高度人材活用新事業分野開拓計画(変更後)の原本とその写し
  3. 「社外高度人材活用新事業分野開拓計画に係る実施状況報告書」
  4. 旧社外高度人材活用新事業分野開拓計画(写し)
  5. 社外高度人材に対する業務委託契約書(写し)
  6. 社外高度人材が条件をみたすことを証する書類
  7. 社外高度人材に係る以下のいずれかの書類
    (ⅰ)住民票(写し)、住民票記載事項証明書
    (ⅱ)ⅰの書類に記載された氏名、生年月日及び住所が記載された以下のいずれかの書類(運転免許証、運転経歴証明書、旅券、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、在留カード、個人番号カード等)
  8. 社外高度人材が計画内容に異議がない旨の誓約書
  9. チェックシート
  10. 返信用封筒

計画変更の認定申請も計画の認定申請と同様、窓口に持参するか、もしくは郵送によって行うことができます。

以上のように、計画を変更する場合には、変更しようとする内容がどの程度の変更になるのかということを、計画の趣旨と照らし合わせて確認する必要があります。

計画変更の認定申請手続きについては、計画の認定申請手続きと基本的には同じ要領であるため、必要書類などに不備がないかどうかをあらかじめきちんと確認したうえで、申請を行うようにしましょう。

 

6 小括

conclusion

高い技術や見識をもつ社外の人材にまで、税制適格ストックオプションの付与対象が拡大されたことによって、スタートアップなどの新規事業を行う事業者は、優秀な人材を確保しやすくなったということがいえます。

もっとも、税制適格ストックオプションを社外高度人材に付与するためには、主務大臣から認定を受ける必要があるなど、一定の条件をクリアする必要があります。

認定を受けるための条件(実質面)と申請手続きに求められること(形式面)をきちんと理解したうえで、適切に申請を行うようにしましょう。

 

7 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下の通りになります。

  • 「税制適格ストックオプション」とは、無償ストックオプションのうち、株式売却時にのみ課税されるものである
  • 従来からの税制適格ストックオプションは、付与対象者が①自社やその子会社の役職員、②株主の二者に限られていた
  • 規制が緩和され、一定の条件を満たす社外高度人材にまで付与対象者の範囲が拡大された
  • 社外高度人材に税制適格ストックオプションを付与するには、①発行企業が認定対象企業であること、②付与対象者が社外高度人材であること、③専門性と貢献内容の間に関連性があること、という3つの条件を満たしていることが必要である
  • 社外高度人材活用新事業分野開拓計画の認定を受けるには、①利用検討、②計画策定、③申請・認定、④開始・実行、という手順を踏む必要がある
  • 計画に係る認定申請と計画変更の認定申請は、それぞれに必要とされる書類を揃えた上で、企業の所在地を所管する経済産業局長に提出する必要がある