はじめに

SES事業をするIT企業の中には、雇用リスクを回避するため、SEとの間で、雇用契約ではなく、業務委託契約という形でフリーランスとして契約し、SEをクライアント企業へ派遣している(SES契約)企業も多いのではないでしょうか?

しかし、実体を見ると、SEに仕事の裁量はなく、サラリーマンに等しい働き方としていることが往々にしてあります。

この場合、SEとの契約は、業務委託(個人事業主)なのか、雇用契約(サラリーマン)なのかという問題が生じます。

この点、フリーランスとの契約の場合、フリーランスにかかる税金は、事業所得であって、会社に源泉徴収義務はありません。

他方で、サラリーマンとの契約の場合、給与所得で、会社には源泉徴収義務があります。 

このようにSEの契約形態によって、納めるべき税金も変わってきます

仮に、税務調査が入った場合に、契約書の体裁にかかわらず、会社で働いているSEは、サラリーマンにすぎないとの認定をされた場合、SES事業をする会社は、
源泉徴収義務違反(=違法)という烙印を押され、追加で高額の税金を納めなくてはならない
はめになります。

そこで、以下では、会社とSEとの契約の法的性質を解説するとともに、仮に、税務調査が入ってしまった場合でも、雇用契約の認定を回避し、税務上のペナルティを回避する方法を解説していきます。

1 SES契約とは

SES契約とは

SES契約」とは、「System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)」の略で、言い換えると、SE(システムエンジニア)をかかえる会社が、システム・アプリなどの開発現場に、自社と契約したSEを派遣し、クライアント企業に常駐して働く契約形態です。

(SES契約と労働者派遣の問題については、「SES契約は労働者派遣(偽装請負)?違法にならないための5つのポイント」をお読みください。)

慢性的なSE不足のIT業界の中で頻繁に利用されているビジネスモデルです。

この契約の特徴としては、SEの報酬が、「作業時間あたり○○円」といったように、SEの能力や工数、時間などによって決定される点です。

2 会社とSEとの契約の法的性質~委任・雇用・請負の違い~

 会社とSEとの契約の法的性質~委任・雇用・請負の違い~  

(1)「業務委託契約」が好まれる理由

会社からみて、受託の見込みが不透明な中で、SESのために大量のSEを「正社員」(=雇用契約)として抱えるのは、大きなリスクが伴います。

例えば、SEと雇用契約をした場合、社会保険有給休暇福利厚生を負担する必要がありますし、正社員ですと、仮にSES契約を交わして派遣したSEがワークしなかった場合でも簡単には解雇できません。

(解雇のルールについては、「【IT企業】問題従業員を解雇する方法とは?5分でわかる解雇のコツ」をお読みください。)。

そのため、IT企業では、SES事業をするにあたり、SEを正社員として抱えずに、フリーランスとして、業務委託契約という形で済ませていることが多いです。

しかしながら、契約書上は「業務委託契約」(委任契約)となっているものの、SEの労働実態は、委任契約と評価できない場合が多々あります。

例えば、実態としては、勤怠管理をガチガチにされており、普通のサラリーマンと同じ働き方をしている場合(雇用契約)や、SEに裁量が与えられているとしても、実際には一定の成果物(アプリやシステム。)の納品しない限り報酬が支払われない形になっている(請負契約)場合があります。

(2)SEとの契約の法的性質とは?

では、会社とSEとの契約は、「委任」・「雇用」・「請負」契約のいずれなのでしょうか?

まずは、それぞれの契約の意味を確認しましょう。

①委任契約とは

委任契約」とは、当事者の一方(委任者)が一定の行為・事務をすることを相手方(受任者)に委託する契約のことをいいます。

例えば、法律事件の処理を弁護士に依頼する場合や、病気の診断を医者に依頼する場合の各契約が委任契約となります。また、SES契約における派遣先会社との間の契約も(準)委任契約です。

委任では、受任者は、委任者の「あれしろ、これしろ」といった指揮命令には服さず、受任者の裁量・判断で事務を処理できる点が特徴の一つです。また、依頼された事務を処理することそのものが目的であり、必ずしも結果を出すことは求められていない点も特徴といえます。

そのため、依頼された結果が出せなかったとしても、報酬を受けとることができます。

なお、SES契約では、「準委任」という言葉が使用されていますが、これは通常の「委任」とほぼ同じ意味ですので、あまり気にしなくてよいです。

※厳密にいうと、「委任」は、権利を得たり、義務が発生したりするような行為(「法律行為」)を委託する場合をいうのに対して、「準委任」は、法律行為でない事務の委託(「事実行為」)する場合を意味します。

②雇用契約とは

雇用契約」とは、会社の指揮命令のもとに、一方(=労働者)が仕事をすることを約束し、他方(=会社)がその労働力に対して報酬(給与)を支払うことを約束した契約のことをいいます。

要するに、会社とサラリーマンとの契約形態です。

③請負契約とは

請負契約」とは、注文者の指揮命令を受けることなく、請負人が自らの裁量で仕事を遂行し、成果物を完成させる義務を負う契約をいいます。大工さんに家の建築を頼む場合の契約などは、請負契約の典型例です。

3 委任・雇用・請負契約を区別する基準とは

委任・雇用・請負契約を区別する基準とは

区別の視点は、3つあります。

  • 【視点①】会社とSEとの間に、指揮命令関係があるのかどうか
  • 【視点②】SEに、仕事の完成義務があるのかどうか
  • 【視点③】①・②は、労働実態を見て判断される

です。

(1)視点①:指揮命令関係の有無

雇用契約と委任・請負契約の決定的な違いは、会社とSEの間に指揮命令関係があるかどうかです。

サラリーマン(雇用系契約)の働き方を見ればわかりますが、出社・退社時間などが基本的にはカチッと決められており、仕事の内容・やり方についての裁量(自分で決められること。)も原則としてありません。

他方、弁護士・医師(委任契約)や大工さん(請負契約)などは、クライアントから「こうしてほしい、あぁしてほしい」という希望・お願いは聞きますが、「〇〇時に出社して、〇〇時には帰るように。仕事は、××のやり方でやれ。」といった指揮命令を受ける関係にはありません。

このように会社とSEの間の指揮命令関係の有無によって

  • 指揮命令 あり⇒雇用契約
  • 指揮命令 なし⇒委任・請負契約

という住み分けになります。

(2)視点②:仕事完成義務の有無

次に、委任契約と請負契約の違いは、仕事を完成する義務を負うかどうかにあります。

弁護士・医師(委任契約)などを例にとると、クライアントのために全力を尽くして仕事を遂行する義務はありますが、実際にクライアントの希望を実現する義務、つまり、仕事を完成する義務までは負いません

極端な話、結果を出していなくても、労働力を提供してさえいれば(プロセスでの価値提供を評価してもらことで)お金をもらうことができます。

※弁護士については、「クライアントに対して結果をコミットしてはいけない」というルールさえあるぐらいです。

このように、委任契約においては、仕事の完成をしなくて報酬がもらえる点で、仕事完成義務がないのです。

これをSES契約におけるSEに引き直してこれをみると、会社とSEの間で、いわゆるフリーランスとして業務委託契約を締結した場合には、(準)委任契約と評価されます。

言い換えると、フリーランスのSEの報酬は「作業時間あたり○○円」といったように、SEの能力や工数、時間などによって決定される、つまり、仕事を完成することの対価ではなく、提供した労働力への対価として報酬をもらう点で、請負契約ではなく、委任契約と評価されるのです。

他方で、大工さん(請負契約)を例にみると、彼らは、クライアントからの指揮命令を受けない点では、弁護士(委任契約)などと同じなのですが、違う点としては、大工さんは、依頼者の希望した家を建てる(仕事の完成)義務を負担する点です。

これをSES契約におけるSEに引き直してこれをみると、会社とSEの間で、アプリ・システムなどの成果物をきちんと完成させ、バグのないものを納品する義務をSE側が負担するような契約を結んだ場合には、「請負契約」となるのです。

(3)視点③:労働実体で判断される

最後に注意しなければならないのは、雇用・(準)委任・請負契約か否かは、SEの労働実体を見て判断される、という点です。

契約書の体裁が「雇用契約書」・「業務委託契約書」・「請負契約書」となっているかどうかは、契約の性質決定における判断要素の一つにすぎず、全てではありません。

そのため、SEが会社から指揮命令を受けることなく、裁量で仕事を遂行し、勤怠管理・作業報告義務等も一切行なわない場合には、たとえ「雇用契約書」という名目で交わした契約書があっても、(準)委任ないし請負契約と評価されます

しかし他方で、SEに仕事の裁量がなく、会社から指揮命令を受けて、会社の設定する勤怠規律に従い、作業報告義務までもある場合には、たとえ契約書の体裁が「業務委託契約書」・「請負契約書」となっていても、雇用契約と評価されてしまうのです。

4 ペナルティ

ペナルティ

では、仮に会社とSEとの契約が、雇用契約にすぎないとの認定を受けた場合どうなってしまうのでしょうか?

税金の関係でいえば、この場合のSEは、サラリーマンになりますから、受け取る賃金は給与所得として、会社は源泉徴収義務を負担することになります。

そして、本来なら会社はSEの給与から源泉徴収すべき関係性であったにもかかわらず、源泉徴収義務を怠っていたこととなり、以下のようなペナルティを受けてしまいます。

①不納付加算税

源泉徴収制度にのみ用意された制度で、納付期限に遅れた場合に課せられる税務上のペナルティです。納付が遅延した日数に関係なく、納付額の5〜10%が加重されます。

②延滞税

通常の納付期限である3月15日までに支払われるべき税金が納められなかった場合に発動する税務上のペナルティです納期。納付期限の翌日から実際に納付した日までの日数に応じて「利子」が課されます。
SES業界では、契約書のタイトルだけ「雇用契約書」ではなく「業務委託契約書」・「請負契約書」として体裁を取り繕ってさえいえれば、税務署も同じように理解してくれると考えるている方が多いです。

しかし、それは完全に誤解ですので、この機会に認識を改めましょう。

5 雇用認定を回避するための方法

雇用契約の認定を回避する方法とは

では、SES契約における、会社とSEとの間の契約が「雇用契約にすぎない」との認定(「雇用認定」)を回避する方法はあるのでしょうか?

対応策としては、3つの方法が考えられます。

(1)法人間契約の形にする

1つ目の対応策としては、SEに法人(会社)を設立させ、そのうえで、会社と法人化したSEとの間で、「法人間契約」の形をとることです。

そもそも、雇用認定をされる最大の理由は、会社とSEとの間に指揮命令関係がある場合です。

そのため、客観的に指揮命令の関係が希薄だといえる環境を作り出せれば、それだけ、雇用認定をされるリスクを減らすことができます。

SEを法人化してしまえば、法人間の契約で、一方が他方に指揮命令をするという事態は、通常想定されえなたいめ、この方法を検討するのも一案です。

この方法のメリット・デメリットとしては、以下のとおりです。

  • メリット:指揮命令関係が希薄化し、雇用認定が比較的されにくい
  • デメリット:法人設立の手続き負担が重いため、導入は非現実的なこと

(2)屋号登記+開業届の提出

 2つ目の対応策としては、SEに、「屋号登記」(商法11条)をさせ、かつ、税務署にに対して、個人事業主としての「開業届」を提出させる方法が考えられます。

【商法第11条】

1 商人(会社及び外国会社を除く。以下この編において同じ。)は、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とすることができる。

2 商人は、その商号の登記をすることができる。

この手法は、法人化しないまでも、独立の個人事業主(=フリーランス)としての立場を明確化することで、雇用認定を回避する趣旨のものです。

この方法のメリット・デメリットとしては、以下のとおりです。

  • メリット:法人間契約には及ばないとしても、指揮命令関係が希薄化し、雇用認定が比較的されにくい
  • デメリット:形式面は取り繕えても、運用実態がサラリーマンと同じような働き方をさせていると、結局、雇用認定されてしまうリスクが高い

(3)預り金スキーム

会社が税理士に依頼して、その税理士が管理する金融機関の特別口座を準備します。そのうえで、SEから「申告税」に相当する金を預かり(=預り金)、その後、この金を特別口座にプールして、確実にSEに税金を支払わせるという方法が考えられます。

これは、そもそも、税務調査が入るきっかけは、フリーランスとしてのSEが、サラリーマン的感覚が抜けず、自ら税務署に確定申告などをしないで放置しているため、税務署が「税金を納めてないやつがいるぞ」ということで、調査開始となる場合が多いのです。

そうであれば、税務調査がされてしまうの大本の原因を除去してしまえば、税務調査が入らず、雇用認定のリスクを減らすことができるはずです。

そこで、SEの申告漏れを防止するために、事前に、納めるべき税金相当額を会社の方で、事実上強制的に「預り金」という形で事前に徴収しておくのです。

そうすれば、確定申告が漏れるという事態を回避でき、税務署による税務調査のきっかけを与えずに済みます。

この方法のメリット・デメリットとしては、以下のとおりです。

  • メリット:雇用認定のきっかけとなる税務調査に入られるリスクを比較的減らせる
  • デメリット:指揮命令関係を薄めるものではないため、結局、雇用認定されるリスクが残る

しかし、いずれの方法を採用しても、会社とSE間の勤務管理を含めた働き方の実態によっては、結局、雇用認定を回避できず、源泉徴収義務違反のペナルティを受けるリスクが残ってしまうことには注意が必要ですね。

6 抜本的な対応策とは

抜本的な対応策とは

SES事業を行う会社とSEとの間の契約実態が「雇用契約」にもかかわらず、「雇用認定を避ける」という手法は、税務署からみときは、「小手先のちんけなテクニックにすぎない」として一蹴されるリスクが高いです。

この種の策を弄していると、事業規模が小さいうちはよいとしても、事業がスケールするにつれて、税務も含めた法務リスクが増大してしまい、結局、事業がとん挫してしまうでしょう。

雇用認定を回避する抜本的な対応策としては、「会社とSEとの間の労働実態がサラリーマンにおける指揮命令関係がないような形で運用する」という王道の手法以外にはないのです。

ただ、雇用契約と一口に言っても、パートなどの非正規雇用で、契約期間が限定されている労働形態で雇う手段も考えられます。

そのため、雇用契約だからといって毛嫌いするのではなく、有期契約を活用するなどして、税務上のペナルティを回避することも検討してみましょう。

7 まとめ

これまでの解説をまとめると、以下のとおりです

  • SES事業を行う会社とSEとの間の契約実体が「サラリーマン(=雇用契約)」であるにもかかわらず、税金の源泉徴収をしていないと、税法違反として、ペナルティを受けるリスクがある
  • 源泉徴収義務違反のペナルティは、①不納付加算税+②延滞税
  • 雇用・委任・請負契約の区別は、契約書のタイトルといった形式面ではなく、運用実態を観察して、「指揮命令関係があるか」などの要素で判断される
  • 雇用認定を回避する理論上の対応策としては、①法人間契約とする②屋号登記+開業届の提出③預り金スキームの3つある。
  • 雇用認定を回避する抜本的な対応策は、「会社とSEとの間の労働実態がサラリーマンにおける指揮命令関係がないような形で運用する」という王道の手法以外にはない