SES契約とは?契約の性質や派遣法との違いについて弁護士が解説!

2021.04.05

はじめに

SES契約は、クライアント企業にシステムエンジニアを、常駐による技術提供という形態で供給する契約のことです。

SES契約を締結する際には、契約の性質や双方に発生する権利義務などをきちんと理解しておく必要があります。
SES契約のほか請負契約や派遣契約といった類型もあるため、これらの違いを押さえておくことも必要です。

今回は、「SES契約」について、その概要と他の契約類型との違いなどをわかりやすく解説します。

偽装請負の問題については、関連する「偽装請負とは?4つの判断基準と罰則を弁護士がわかりやすく解説!」も参考にしてください。

1 SES契約とは

SES契約(System Engineering Service)」とは、業務委託契約の一種で、システムエンジニアの技術力を提供するために締結される契約です。

SES契約は、主に以下の事項を内容としています。

  • クライアント企業に技術者を配置・常駐すること
  • クライアント企業に常駐すること
  • 技術者の技術を業務として提供すること

このように、事業者によって派遣されたシステムエンジニアがIT技術を提供し、クライアント企業がその対価として報酬を支払うことを約する契約が「SES契約」です。

SES契約における利害関係者は、発注元であるクライアント企業、受注側の事業者、そして、システムエンジニアの三者ということになります。

2 SES契約の性質|準委任

SES契約は業務委託契約の一種とされていますが、業務委託契約は法律上、「準委任契約」もしくは「請負契約」のいずれかの性質を有する契約となります。

結論から先に言うと、SES契約は法的には準委任契約にあたります。
準委任契約」とは、特定の業務を行うことを内容とする契約のことをいい、ここでいう「特定の業務」が法律行為であれば委任契約、法律行為でなければ「準委任契約」となります。

準委任契約の目的は、特定の業務を行うことにあるため、その対価の支払いについても業務の遂行に対して支払われます。
そのため、請負人において仕事の完成義務を負うこととなる請負契約とは異なり、準委任契約において受任者が仕事の完成義務を負うことはありません。

もっとも、2020年4月から施行された改正民法では、以下のように、準委任契約にも「成果完成型」があることが明文化されました。

          • 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。(

        民法648条の2第1項)

SES契約の性質が成果完成型の準委任契約である場合、受任者は契約で定めた成果を達成しないかぎり、報酬を請求することはできないということになります。

また、準委任契約では「契約不適合責任」を負わないという特徴もあります。
契約不適合責任」とは、商品や成果物に欠陥や品質不良などの不備があった場合に、受任者が負う責任のことをいいます。
従来は、瑕疵担保責任と呼ばれていた責任です。

請負契約では、請負人に契約不適合責任が発生しますが、準委任契約では受任者にこのような責任は発生しません(準委任の場合は、受任者の注意義務違反等による債務不履行責任が発生することはあり得ます)。

3 SES契約と派遣契約の違い

SES契約は、クライアント企業へのシステムエンジニア常駐を前提とする契約であるため、派遣契約にも似ているといえます。

もっとも、両者には以下のとおり、大きな違いがあります。

SES契約は、雇用契約ではなく業務委託契約の一種とされているため、クライアント企業が派遣されてきたシステムエンジニアの労務を管理したり、業務について指揮命令を行うことはできません。
エンジニアの労務管理やエンジニアに対する指揮命令は、すべて受任者側である事業者が行うことになります。
これに対し、派遣契約では、クライアント企業の下で労務管理や指揮命令が行われます。
この点が両者の大きな違いといえます。

たとえば、契約上はSES契約という形をとっているものの、実際は、クライアント企業において業務を指示したり残業をさせたりしている場合には、派遣業務を偽装するものとして「偽装請負」にあたる可能性があります。
偽装請負にあたる場合、労働者派遣法や職業安定法などに違反し、是正勧告や罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。

4 ペナルティ

SES契約が偽装請負と判断された場合、発注元であるクライアント企業と受注側である事業者は、それぞれに以下のような罰則・損失を受ける可能性があります。

(1)労働者派遣法による罰則

労働者派遣事業を無許可で行ったとして、事業者(請負会社)は、

  • 最大1年の懲役
  • 最大100万円の罰金

のいずれかを科される可能性があります。1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(労働者派遣法第59条1号、2号)。

(2)職業安定法による罰則

禁止される労働者供給事業を行ったとして、事業者(請負会社)と注文者の双方に以下のいずれかが科される可能性があります(職業安定法63条以下)。

罰則 違反内容の例
1年以上10年以下の拘禁刑または20万円以上300万円以下の罰金 ・暴行、脅迫、監禁などにより職業紹介などを行う
・有害業務(公衆衛生・道徳に反する業務)への就業目的で職業紹介などを行う
1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金 ・無許可で有料職業紹介事業を営む
・虚偽の申請で許可を得る
6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金 ・虚偽の広告や条件を提示して求職者を募る

(3)労働基準法による罰則

偽装請負が行われるケースでは、請負会社による中間搾取が問題となることがあります。

労働基準法は、中間搾取を禁止しており(労働基準法6条)、これに違反した場合、

  • 最大1年の拘禁刑
  • 最大50万円の罰金

のいずれを科される可能性があります(118条)。

(4)民事的損失の発生

また、打ち出しているプロジェクトが没になることで、「投下資本が回収不能となる」「逸失利益が発生する」などの損害が発生するおそれがあります。

(5)【改正】フリーランス法に注意

2024年11月からフリーランス取引について「フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)」が制定されました。SESに近接する個人委託形態ではフリーランス法の適用対象となり、取引条件の明示義務や支払いの60日ルールなどの適用可能性もありますので、注意が必要です。

フリーランス法についてもチェックしたい方は「弁護士が解説する2024年フリーランス新法の改正点まとめ|今後の働き方への影響と注意点」も参考にしてください。

5 まとめ

SES契約を締結する際には、準委任契約の性質を理解するとともに、請負契約や派遣契約との異同を念頭に置いておくことも大切です。 この点をしっかりと理解していないと、後になって偽装請負の疑いを持たれたり、最悪の場合ペナルティの対象にもなるおそれがあります。

また、2020年4月に施行された改正民法では、準委任契約に成果完成型があることが明記されています。準委任契約を成果完成型とする場合には、双方に発生する権利義務にも違いが出てくるため、注意が必要です。

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勝部 泰之(弁護士|東京弁護士会・登録番号35487/中小企業診断士) 注力:知的財産権・著作権/ライセンス、ブロックチェーン、データ・AI法務 GWU Law LL.M.(知的財産法) 事業の成長とリスクを両立する実務寄りの助言に注力しています。

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